《【書籍化】オタク同僚と偽裝結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!》雨とガムテープ
「相沢さん、裏庭をお借りしてもいいですか?」
「どうぞ。々散らかってるかも知れませんが……」
「大丈夫です、お借りします」
日曜日の晝過ぎ、殘りのラタトゥイユと冷凍していたパンを食べていたら、滝本さんが巨大な荷を抱えて外に出ていった。
うちは裏庭が広い。広いというか、小さな山の斜面すべてが庭だ。
これがおばさんがこの家から逃げ出していった最大の原因なんだけど、ここの管理も必要なのだ。
まずは雑草。一週間で恐ろしくびるので、刈る必要がある。
面倒なので除草剤をジャバジャバ撒いてるんだけど、それでも生えてくる。
雑草の何が困るかというと、種が飛んで、真面目に除草している方の畑が雑草だらけになること。
あと、びた雑草の隙間に誰か隠れていても分からないから危ないのだ。
滝本さんが何をするのか気になるし、何より雑草最近刈ってないから……と私は長袖長ズボンを履いて裏庭に出ることにした。
7月の裏庭は、雑草がモコモコ生えてて、私は鎌を片手に切りながら歩く。
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その先、し開けている場所に滝本さんが見えたが、私はギョッとしてしまった。
「すごい!!」
「ああ、すいません、こんなに大きなスペースお借りしても大丈夫ですか?」
「それは全然良いんですけど……?」
滝本さんはトーントーンとハンマーで釘のようなものを地面に打ち込み、かなり大きなテントを張っていた。
なぜ庭にテント。そして恐ろしく大きい。たぶん大人が6人くらい眠れる気がする。
私は家で漫畫を描くのが一番好きなので、アウトドアに全く興味なく、テントを張っている人を近くで見たのは初めてだった。
滝本さんはポカンと見ている私の前で、一人ですいすいとテントを立ち上げた。
「おお、立になった!」
「大丈夫そうですね」
「すごーい! っていいですか? っていいですか?」
私は出來上がったテントにりたくて仕方ない。
最後にテントにったのは小學生の時かも知れない。
空間が広くて面白そう!
「どうぞ。俺はタープも張るので」
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「すいません、それが何なのか全然分からないんですけど、お先にお邪魔しますー」
私はテントの周りをクルリと回ってり口を探した。
網戸のような所があったので、その前で靴をごうとしたら
「そこは家で言う所の土間です。もう一歩先までれますよ」
「土間?! テントに土間があるんですか?!」
「最新式のはありますね。その先で靴をいでください」
滝本さんに言われるがまま、網戸の先に行くと、ファスナーのドアのような場所があった。
ここが正式なり口のようだ。いそいそと靴をいで中にると、ものすごく広かった。
私が知っているテントは3人ったら満杯なイメージだ。でもこの広さがあれば大人6.7人は余裕で眠れると思う。
それに天井に小窓とかついていて、外を見ることが出來るし、何より天井が高い。
「すごーい! 楽しいー!」
「大丈夫そうですね。今夜一晩張っておいても良いですか?」
「全然大丈夫ですよ!」
外に戻ると、テントの屋が延長されているように広くびていた。
その長さ5m以上あるように見える。もう一つテントがってしまいそうな広さだ。
テントに繋がる巨大空間……?
「あっ! ここにテーブルとか椅子とか置いてご飯食べるんですね」
と名探偵のように言ったら、紐を引っ張りながら調整していた滝本さんが
「ここに車をれるんですよ。そして後ろを開ける。そうすると車と繋がった空間になるんです。數人は車で寢ます。車はバッテリーもあるので冷蔵庫も置けますから」
「野外なのにキンキンに冷えたビールが飲めるんですか?! 最新のテント凄すぎる。滝本さんキャンプが趣味だったんですか?!」
アイドル好きなのにキャンプグッズに詳しいとか、想像が出來ない。
私は正直蟲(特にハチ)が苦手で、やはり外でわざわざ生活をしようとは思えない。
でもこんなに高機能なら、外というより、家が外にあるようなものだから、わりと楽しいのかも知れない。
滝本さんはたるんだ場所を直しながら
「夏に毎年アイドルのフェスに行くので、そこで使います。有名なアイドルから地下アイドルまで一気に揃うアイドル界の一大イベントなんですよ」
「なるほど!」
「デザロズだけじゃなくて、他のアイドルオタも集まるので、年に一度の同窓會のようなじで、毎年楽しみにしてるんです」
「うちらで言う所の夏コミのようなじですか」
「そうですね、完全野外な事以外は、似てるかも知れませんね」
それでこんな大きなテントを所有してるのか。
曰く、滝本さんはテント擔當。他に車擔當もいるし、冷蔵庫、食事……と別れていて、當日持ち寄るらしい。
アイドルオタ業界、実はめっちゃアクティブなのでは?
腐子同人業界でキャンプしようなんて言っても、秒で斷られそう。
滝本さんは、日干しのために一日張らせてください……と頭を下げて、ライブに向けて家を出て行った。
裏庭はすべて我が家の持ちなので、何が置いてあっても問題はない。
私は雑草を刈り取りながら見送った。
「あれ。雨かも」
雑草を2時間程度刈った後、私は部屋に戻り、原稿をしていた。
夜22時を過ぎたころ、ポタン……と雨の音がした。
そういえば明日は雨予報だった。朝すこし早起きしないと、歩いて行くのが大変だ。
スマホの起床時間を早めつつ、ふと思い出した。
雨が降ったら、テントの中ってどうなんだろ。雨の日にテントの中に居たことがない。
私はスマホを懐中電燈代わりにして、傘をさし、外に出た。
もわりとした度に一瞬でがベタつく。
でも雨の夜は靜かで、全然嫌いじゃない。
「ふおおおお……これは楽しい~~!」
私はテントにって興してしまった。
大きなテントということは、つまり雨が當る範囲も広い。
テントの中はトタタタタ……と雨音が響く大きなトンネルのようになっていた。
「落ち著くわ、これ」
私は外が見える所にチョコンと座って、ずっと外を見ていた。そういえば昔は雨を見るのが好きだった。
子供の頃、私が用していたコンビニ傘にが開いた。
お母さんがは「ピンクの傘を買ってあげる」と言ったけど、私はコンビニで売っている明な大きな傘を、もう一度しがった。
コンビニ傘が好きだったのは、外がよく見えるからだ。
紅葉の葉も、桜の花びらも、明な傘に張り付くと絵柄のようで可くて好きだった。
それに雫がビニールに當たる所も、しいと思っていた。
でもお母さんは「可げがない子だね、せっかくピンクを買ってあげると言ってるのに」と私を睨んだ。
結局、が開いた部分にガムテープを張って一年間くらい使ってたなあ……。
そんなことをぼんやり思い出していたら、遠くからが近づいてくるのが見えた。
「……相沢さん、大丈夫ですか? が見えたので」
「すいません、雨だとどうなるのか気になって」
足音や時間帯から、近づいてくるのは滝本さんだと何となく分かっていた。
滝本さんは傘を閉じて、タープと呼ばれる屋だけがある空間にってきて私に聞いた。
「中は雨りしてませんか?」
「全然大丈夫ですよ。丈夫なんですね。あ、そうじゃないと困りますよね」
みんなで泊るのに、が開いていたら臺無しだ。
滝本さんは
「が開いていたら専用のシールで直せるんですよ。テントのに合わせて數種類のシールがあります」
とほほ笑んだ。
私はふと思って聞いてみた。
「が開いたビニール傘にも、そのシールは使えるんですか?」
「直せますよ。俺は何度か使ったことがあります。をふさぐと水玉模様みたいで、可いですよ」
と言った。
それはまるで、が開いてガムテープをった傘をさして歩く小さな私に、滝本さんがシールを可く張ってくれたような優しい聲で。
水玉いいですねえ……。そう言いながら変に心が丸くなって、私は小さく安堵した。
私と滝本さんは、雨腳が強まる音を聞きながら、テントの中にいた。
「あ、相沢さん、あの……」
家に戻った時、滝本さんが私の顔をみて、口元を抑えた。
なんだろう……? と鏡を覗いたら、おでこの真ん中を蚊に食われていた。
「ぎゃーー!」
裏庭には蚊が出るので、毎年蚊取り線香を忘れないんだけど、7月になったばかりだから油斷していた。
もう居るのかー!
「良い薬ありますよ」
滝本さんは二階に行き、薬を私のおでこに塗ってくれた。
大人なのに、明日會社なのに、おでこの真ん中を蚊に食われるとはけない。
でもなんとか前髪で隠れそうだ。
「……わかりますか?」
私は前髪を整えながら聞くと、滝本さんは苦笑しながら
「そうですね、し、分かるかもしれません」
と言った。
テントは楽しいけど、やっぱアウトドアは油斷大敵!
でも雨の日は、ちょっとだけいいかもしれないと、私は思った。
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8 101久遠
§第1章クライマックスの35話から40話はnote(ノート)というサイトにて掲載しています。 あちらでの作者名は『カンジ』ですのでお間違いなく。表紙イラストが目印です。 ぜひぜひ読んでください。 また第2章は9月1日から更新します。第2章の1話からはまたこちらのサイトに掲載しますので、皆様よろしくお願いいたします。失禮しました~§ 「君を守れるなら世界が滅んだって構いやしない」 この直來(なおらい)町には人ならざるものが潛んでる。 人の生き血を糧とする、人類の天敵吸血鬼。 そしてそれを狩る者も存在した。人知れず刀を振るって鬼を葬る『滅鬼師』 高校生の直江有伍は吸血鬼特捜隊に所屬する滅鬼師見習い。 日夜仲間と共に吸血鬼を追っている。 しかし彼にはもうひとつの顔があった。 吸血鬼の仲間として暗躍する裏切り者としての顔が………
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