《【書籍化】オタク同僚と偽裝結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!》溫と花火

「ついにガールズコレクションにデザロズが……!」

「福岡か……」

デザロズがファッションショーに出る事になった。

若いの子をターゲットにした場所にアイドルが出るのは、ファンを増やす良い機會だ。

だから福岡という遠い場所で開催されるコレクションでも運営は出る事にしたのだろう。

推しののんちゃんはずっとファッションショーに出たいと言っていた。

して5年、やっとその夢が葉う。

俺は完全にお父さんの気持ちでデザロズを見守っているので、わが子が夢を葉えていく姿に無量だ。

これは何とか見屆けたい。

デザロズファンの要、最高司令の片蔵は當然行くようで、高速バスを予約しながら俺の方をみた。

「でも滝本……日曜だぞ、行けるのか」

「それが問題なんだよな……」

俺は乗り換え案を見ながら答えた。

會社員に日曜遅くのイベントは鬼門だ。

調べると19時半くらいに會場を出れば最終の飛行機に間に合うのだが、20時だと厳しいようだ。

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ガールズコレクションのサイトを見ると17時開場、18時開始、20時終了と書いてある。

こういった蕓能人を呼ぶファッションショーの基本なのだが、あまり知られてない子は最初の方に出る。

だから9割以上の確率で19時までにデザロズ全員の出番があると思うのだが、一番最後にみんなで手を繋いで出てきたりするのだ。

それこそ「デザロズが出た」というじがして、みんなの満足げな表をみるのが嬉しい。

「うーん……」

ため息をついて、俺は乗り換えアプリを落とした。

「日曜に帰るのは諦めた。始発の飛行機で帰る」

「さすが會社員はセレブだな。俺は夜行で帰るよ。泊まりと飛行機代金は出せない」

「夜行は腰が死ぬんだよ……」

「俺も腰が死ぬけど、遠征で4萬以上使うと生活的に死ぬんだよ」

片蔵はため息をついた。

彼は會社員として働いていたが、デザロズにハマり、晝間のライブに全通(全部通う)するためにバイトという軽なになった。

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普通の人が行きにくい平日のライブに顔を出せる反面、収的には厳しい。

社會人の俺はお金の心配は、全くないとは言えないが、絶的に無理とは言わない。

問題はのほうだ。

5年前に夜行で仙臺に行ったが、腰を壊してしまい、のち一か月ほど病院とマッサージに通うことになった。

結果、宿泊して新幹線に乗ったほうが安上がりだったことがある。

それ以來俺は學んだ、的なコスパを考えて遠征しないと、のちのオタ活や社會人としての生活に支障がでる、と。

福岡は町がコンパクトなので、市のどこに泊まっても始発の飛行機に間に合う。

空港が近いのは遠征する側からすると本當に助かる。

俺たちは福岡に行くならラーメンを食べよう……と調べながら解散した。

晝のライブを終え夜まで遠征について話し合い、電車に乗ると浴を著た人がたくさん居た。

ああ、今日はどこかで花火大會があるのかもしれない。

俺は歩き慣れてきた坂道を歩きながら思った。

家に著くと、リビングと臺所の電気は落とされていて、奧のパソコン室の電気だけが點いていた。

相沢さんは家には居るようだ。

しかしここ數日會えていなかった。

18時前には帰宅して、パソコン室から一歩も出ずに深夜まで作業をしているように見える。

この前のトラブルで作業出來なかったのが、かなり大きかったようだ。

朝は早めに出ているようで、俺が出る時にはもういない。

社食でも見ないので、きっとデスクで軽く食べて仕事を終わらせているのだろう。

仕事の方は、相沢さんの機転で、得意先はそのままデータを使い展示會を乗り切った。

そして本村の首の皮は何とか繋がった。

本當に助かった。

俺はパソコンの電源をれた。

ここでの生活にも慣れてきたので、音楽制作の活も再開させた。

再生數もわりとびていて、曲を作るのは楽しい。

それに前のようにヘッドフォンをして作業するのではなく、音を出しているのだが、それも気持ちが良い。

確認したら「音は出しても大丈夫ですよ。私もずっと音楽を流したり、アプリで通話しているので。私の方こそうるさくないですか?」と逆に気を遣われてしまった。

相沢さんは本當に気持ちがいい人だと思う。

だからこそ、俺もそれに恥じない人で居たい……と素直に思える。

音楽を流して作業していたら、外からドン……と音が聞こえた。

の人も居たし、きっと花火だろう。

ここは高臺だ。

ひょっとして見えるのかな。

ベランダに出ると、遠くに小さな花火が見えた。おお、やはり。俺は冷蔵庫を開けてビールを取り出してベランダに座った。

川の奧の方、住宅の隙間に小さくが見える。

間違いなく花火だ。

遠くから見ると、小さなとりどりの花が空間に咲いているように見える。

「滝本さーん、二階に上がってもいいですかー?」

「!! 大丈夫ですよ」

下から相沢さんの聲が聞こえた。

大丈夫ですよ、と答えたけれど部屋の汚さに驚いて、敷いたままになっていた布団に落ちていた服を投げ込み丸めて、押しれにれた。

相沢さんは二階にほとんど來ない。というか、ここに來て3か月弱になるが、一度も來ていない気がする。

基本的に今までもずっと一階で生活していたらしく、二階にいく用事がない……と言っていた。

「すいません、お邪魔します」

相沢さんは手に二本のビールを持ち、左手にフライドポテトを持っていた。

俺がもうビールを飲んでいるのに気が付いて「あ、気が付きました? 花火」と言った。

「見えるんですね」と冷靜に返したが、心の中で踴り狂って喜んでいた。

実は電車の中で浴の人を見た時から、相沢さんと花火を見れたら楽しいのに……と思っていた。

でもそんなの無理だと思っていたのに、嬉しい。

相沢さんは、では失禮して……と部屋にってきた。

「実は見えるんですよ、この家。こっちのベランダから花火が見えて、秋になると反対側の花火も見えるんです。お得ですよ」

そう言ってベランダに座ってビールを開けた。

そして「なんだかお久しぶりですね」と口にポテトをれてほほ笑んだ。

部屋著で前髪をちょんまげに縛っていて、後ろの髪のは丸めてある。

ああ、いつもの相沢さんだ。

「そうですね、お疲れ様です」

と、冷靜に答えた。でも心の中では踴り狂って……踴ってばかりだ、俺は。

でも久しぶりに會えた喜びに、自然と口角が持ち上がってしまう。

相沢さんはビールをぷはーと飲み

「ここ數日睡眠時間を削って書いて、なんとか遅れは取り戻せました。稿には間に合いそうで……思わず來てしまいました」

と座っていた場所から立ち上がった。

相沢さんの奧で、花火が小さく上がっているのが見える。

俺は「間に合って良かったです」と靜かに答えた。

相沢さんは俺の橫にストンと座りポテトを食べて口を開いた。

「……うちの実家は旅館だったので、宴會や、お祝いのために、和太鼓が置いてあったんですよ。私、その和太鼓の音というか、振が好きで。疲れても、その太鼓の音を聞いてると、疲れが取れたんです、よく分からないんですけど。花火もそれを思い出すのかもしれません」

俺はそれを聞いてし前に読んだ本の話を思い出した。

「それはきっと倍音というもので、古來から人が癒されるという音です。昔ニューヨークで行われた聲明公演で調を崩す人が沢山いたのですが、それは倍音に馴染みが無かったからでは……と言われているんです。私たち日本人は古來から能などで倍音を耳にしていますが、なれていないと非常に不快にじるそうです。同じように倍音というのは振の一種なので、に與える影響も大きいと言われていて、まだはっきりと分かっていませんが、調をよくするのに倍音が使われる時代も來るのでは……」

俺は基本的にオタクで音楽が大好きなので、話が止まらない。

気分よく話していたら、トン……と相沢さんがもたれかかってきた。

「?!?!」

俺はを固くした。

相沢さんの左肩と、俺の右肩がれ合っている。

そしてその距離は……かなり近い。

狀況から察するに、俺が語り続けていたら相沢さんは眠ってしまったのか……?

どれだけ長く語っていたんだ、俺は。

そして……どうしよう。

このまま寢かせてあげたいけれど、ここは外だし、風邪をひかせてしまう。

だったらかしてあげたいけど、起こしたくない……気がする。

俺の右肩にれている相沢さんの溫度。

実の所、溫をじたのは初めてだ。

いや、結婚の契約をした時に握手したか。

そうだ接しているな、うん。

俺は過去に意識を飛ばしてなんとか冷靜さを保つ。

かさないように目だけかして相沢さんを見ると、閉じた瞼の上に……小さなほくろがあるんだな……うわ……まつが長い……

その瞬間、相沢さんの目が開いた。

「!!」

「……すいません、寢てましたね」

俺は見ていたことがバレないように一瞬で視線を戻して、勢も戻した。

相沢さんはふあああ……とあくびをして、ビールを飲んだ。

「花火の音と滝本さんの聲って、なんだかセットで眠くなりますね。倍音ですか。能は一回見た事ありますよ」

そう言ってほほ笑んだ。

俺はなんだか嬉しくて、手に持っていたビールをグイと飲んだ。

肩にはまだほんのりと相沢さんの溫が殘っている。

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