《【書籍化】オタク同僚と偽裝結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!》最重要の會社へ向かう

「はああ~~……」

相沢さんは玄関の段差に座り込んで大きなため息をついた。

アプリがタクシーの到著を知らせる。相沢さんの荷を持って外に出ようとしたら、鞄がかない。

下を見ると、相沢さんが鞄を摑んで俺のほうをじっと見ている。

い……。

「……ものすごく気が重いです」

「行きましょうか」

俺がほほ笑むと相沢さんは再び「はあああ~~」と言いながら鞄から手を離した。

行かなければならないことは分かっているようだ。

お盆休みになり、相沢さんの実家の旅館に行く日が來た。

憂鬱そうな相沢さんと対照的に俺はわりと楽しみだった。

まず二人で旅行に行くのが初めてなのだ。

一緒に歩いて帰ることや、出かけることはあったが、朝から晩まで、それも一週間近く一緒にいられるなんて、正直楽しみだ。

普通どれだけ仲が良い相手でも、一週間も旅行に行くとなると疲れそうだが、相沢さんなら距離を間違えることもないし、俺もそこは最大限空気を読んでこうと思う。

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心配なのは、たぶん同じ部屋で眠ることだ。

「あの、相沢さん。泊る部屋はどこになるんでしょうか」

「旅館近くに実家があるんですが、もう私の部屋はなくて、お兄ちゃんのお嫁さんとお子さんのお部屋になってるんです。だからホテルのどこか、従業員用の部屋の一部だと思います。狹い部屋ですよ。期待しないでくださいね。でも滝本さんが一緒だと変わるのかな。いや、変わらないな」

なるほど。

狹い部屋に二人で眠ることになると、張してしまうので、眠くなる花癥の薬を持ってきたし、先日寢ている所を録畫してみた。

どうやら俺はいびきもかいてないし、むしろツタンカーメンのようにきせず眠っていたので、安心した。

相沢さんは俺と一緒に寢ることに、何の違和も恐怖もじていないようで、嬉しいような悲しいような微妙な気持ちだ。

大好のおが沢山のったお弁當を目の前にしても相沢さんの表は晴れない。

俺はしでも元気付けようとスマホで〇プラトゥーンのサイトを出した。

「一週間後だと帰った次の日は、ツキイチリグマですね。また一緒に出ましょう」

「〇プラトゥーンって一週間プレイしないと、めっちゃ下手になりませんか? だからどうしても毎日やっちゃうんですけど……言い訳ですね」

「あれ。持ってきてないんですか?」

俺はカバンからswitchを出した。

相沢さんはそれを見てキョトンとした。

「……ゲームする時間なんて、無いと思いますよ」

「じゃあ移時間に遊びましょうか。最近テトリスをれたんですけど、進化しすぎて熱いですよ」

「……滝本さん、めっちゃエンジョイする気なんですね」

「iPadには映畫を20本ほどれてきました。まだこれ一緒に見て無かったですよね、ホームカミング」

「あーー! いいですね、見ましょうか」

し気分を持ち直した相沢さんは牛弁當を手に持って口を開いた。

「実家著く前にひとつ言っておきますけど、とにかくうちのお母さんに口答えしたら1が100になります。だから何か言われたら『はい』が一番です」

「1を100で返せるなんて、頭の回転が速いんですね。さすが相沢さんのお母さん」

「滝本さん!!」

相沢さんは俺の左肩をグッと摑んで俺の方を見た。

その表には並々ならぬ決意が見える。

「私の親だから譽めようとか、そういうのは本當に要らないです。カマキリが嫌いって話をしたら『でもカマキリも 目が可いですよ』とか要らないです!」

「カマキリは鳥を食べるからすごいんですよね」

「ええ……カマキリヤバいですね……じゃなくて! 本當にわざわざ褒めなくていいですから」

「俺がお世辭を言ったのを見た事ありますか?」

「……そうですね、あまり言わないですね。そうなんですけど……」

相沢さんは納得いかない顔で、それでもホームカミングを見ながら食事を始めた。

お義母さんが、頭の回転が速いと思うのは、本當にお世辭ではない。

実は俺は、この旅行前に、かなり相沢さん周辺を調べた。

いや、ストーカー的なじではなく、決してそうではなく、調べた。

旅館はかなり大きく従業員數300人、溫泉名で調べると一番上に出てきた。

旅行サイトの評判も上々で、良い旅館のようだ。

將紹介の所に『相沢津子(あいざわみつこ)』と寫真が載っていた。

この方、実はFacebookを持っていた。

舊姓でされていて、々リンクが切ってあった所をみると、旅館の方々には知られたくないようだ。

しかしさすが『みんな友達Facebook』。見つけるのにし苦労したが、ずっと地元にいらっしゃるという事で、同窓會のタグから探り、見つけ出した。

同級生のタグから、どこの高校を卒業しているのか、どうやって今総料理長をしている相沢さんのお義父さんに出會ったのか、何なら二人の初めてのデートの話まで出てきた。

そして6年以上マメに日記(きじ)を更新していた。

6年以上同じ所に書き続けるのは、かなり気が必要だ。

そして文章はかなり落ち著いていた。

それはつまり、冷靜になれば考えをまとめられる人……ということだ。

あの獨自の話し方は、次から次に出てくる言葉を出してしまうからだと思う。

友達の記事も必ずシェアしていて、気遣いをじた。

Facebookひとつ、記事やコメントの書き方で、會ったことがなくてもかなり正確に『人』が分かる。

すべてを総合的に見た結果、俺の中で相沢津子さんはかなり頭の回転が速い人だと結論付けた。

これは正直アイドルの事を調べる時にに著けた知識だ。

しかしストーカーではない、斷じて違う。

同じように仕事でも使えるのだ。

どうしても落としたい社長が、どういう所で育ち、何を好み、どういう人達に囲まれて生きてきたのか、座右の銘は何か。

調べ盡くして落とす。

それが俺のやり方だ。

「はああ~~おおいしい……行きたくない……〇ニースタークがうちの旅館買い取りませんかね?」

「〇イアンマンが食事を運んでくるのは楽しそうですね」

「それなら行きたい……やっぱり行きたくない……」

相沢さんはおをもくもく食べながらため息をついた。

相沢さんと結婚してから、お義母さんは俺のなかで『最重要の會社』として登録された。

落とさないと會社が(家庭が)傾くので、當然だ。

清川についで5年連続営業績2位の俺が本気を出して落としにいくのだから、安心してほしい。

でもそんなことを言っても相沢さんの気が晴れるわけでは無いから、デザートにシュークリームを取り出した。

「マロンのシュークリーム!」

「保冷剤をれておきました」

味しそう……!」

相沢さんは口に生クリームをつけてほほ笑んだ。

ずっとこの笑顔を見ていたい。

俺はわりと、この旅行を楽しみにしている。

落としにくい社長を落とすのが、営業をしていて一番楽しいから。

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