《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》1 堪忍袋の緒、切れる

「アンタとなじみってだけでも嫌なのにw」

「――ああ、俺もだよ」

「えっ」

予想外の〝奇襲〟に、彼の表が凍りついた。

の名は高屋敷瑠亜(たかやしき・るあ)。

俺のなじみである。

駅前のカラオケ店。広くて豪華なVIPルームに、學校のイケてる軍団、トップカーストの男が集結している。分もわきまえずのこのこやって來たキャの俺を、ニヤニヤと見つめている。

瑠亜は、自慢の長い金髪をサラリとかきあげた。ルージュをひいたの端がわなわな震えている。

「な、何言ってくれちゃってるワケ? 和真(カズ)のクセに生意気よ!」

「お前が嫌だって言ったんだろ、瑠亜。お互い様だ」

「はあ? ふざけんなバカ。アンタにそんな権利ないから。アタシがアンタを嫌いになるのは自由だけど、アンタがアタシを嫌いになる自由はないのよ!」

なんというジャイアニズム。

お前のものは俺のもの。俺のものも俺のもの。

こんな滅茶苦茶を言うやつが、學園一ので、しかも人気急上昇中のアイドル聲優っていうんだから、世も末だ。

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これ以上の議論は無意味。

耳が腐る口が腐る目が腐る。もう同じ空気も吸いたくない。

稚園児以來、十年の付き合いも今日で終わり。

「じゃあな」

テーブルに、自分のぶんの料金を叩きつけた。室して三分と経ってないのに馬鹿馬鹿しいが、手切れ金と思えば惜しくない。

イケてる軍団の野次が俺の背中に投げつけられる。

「ダッサ」

「なにイキッてんの」

「バカみてー」

「死ねw」

奇遇だな。俺もお前らのことが嫌いだよ。ずっと前から、嫌いだった。

ばたん、と扉を閉めた。まだ瑠亜がキーキー言ってるのが聞こえたが、どうでもいい。

もうモテなくていい。

もう『イケてる軍団』にれなくていい。

そう考えたらが軽くじた。

俺はこれから、一人きりで生きていこう。

事の発端は、日曜の朝。

俺のスマホに屆いた瑠亜からのメッセージだった。

『ねえカズ、今日正午に駅前來れるー?』

『淺野クンや彩加っちたちとカラオケすんだけどさー、どーよ?』

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正直、戸った。

瑠亜があげた二人の名前は、どちらも「イケてる軍団」のメンバーである。淺野勇彌(あさの・ゆうや)は野球部のエースで、鮎川彩加(あゆかわ・あやか)はダンス部の一年生リーダー。どちらも、學校のどこにいてもキラッキラしてて目立つ二人だ。

たち、ということは他にも來るのだろう。學校のイケてる軍団が。

そんな連中のカラオケに、クラスでも目立たないキャである俺が參加していのだろうか?

『俺が行っていいのか? 二人とは全然親しくないんだけど』

そう返信すると、すぐにまた著信があった。

『だってカズ、昔言ってたじゃん。明るくなりたい、友達がしい、彼しいって』

『それにはさ、アタシらみたいなイケてる軍団にっちゃうのが一番だよ』

『ね? 勇気出して一歩を踏み出さなきゃ!!』

その言葉には説得力があった。

確かに俺は、地味で暗い自分を「良し」とはしていなかった。健康な高一男子なんだから、の子にもモテたかった。別に瑠亜みたいな人気者じゃなくていい。ふつーに友達がいて、ふつーに彼がいれば、それで良かったのだ。

だけど、その「ふつー」はなかなか手にらない。

なんていうか、上手く言えないけど、そんなテレビとか雑誌で言われてる「ふつー」って、全然普通じゃない。友達が多くて人がいて、なんて青春を送ってるやつなんて、クラスに數名しかいないのだ。

どうして淺野勇彌は、あんな風にかっこよく制服を著崩せるんだろう。

どうして鮎川彩加は、大學生の彼氏と付き合えるんだろう。

どうしてあいつらは、教室で大きな聲でおしゃべりできるんだろう。

別にあんな風になりたいとは思わないが、せめてあいつらの半分程度の明るさと社があれば――と願ったのは事実だ。

瑠亜にも一度、そんな話をしたことがある。

大人気聲優アイドルの回答はこうだった。

「バッカじゃねーの? アンタみたいなブサメンが、の程わきまえなさいって」

「アンタの価値はねえ、この瑠亜様のなじみっていうことくらいよ。そのことだけで、人生の幸運ぜんぶ使い切ってるの! わきまえなさいッ!」

瑠亜らしい言葉だった。

瑠亜はこの王様的なキャラクターで、聲優業界でも売り出している。Mな男がこの世には多いのか、なかなかの人気を博しているようだ。

そんな瑠亜の口癖は「わきまえなさいッ」。

の程をわきまえろ、顔面をわきまえろ、生まれをわきまえろ、伝子をわきまえろ。

いろんな言い方で、自分が「特権階級」であり、俺が「下等民」であることを表現してきた。

そんな風に言われれば俺だって腹が立つけれど、一方で「しょうがない」と思う自分もいた。なにしろ瑠亜は人気者で、小4の時點でもう彼氏がいて、駅前でスカウトされてアイドルになってそこから聲優になって――という絵に描いたようなお姫様(プリンセス)だったから。それに引き替え俺はなんの取り柄もない。友達もない。彼ももちろんいない。顔もブサくて暗くて、趣味といえば読書という、これまた絵に描いたようなキャ。

だから言われてもしかたがない。

そんな風にあきらめていた。

そんなところに、今回のいだ。

(これは、チャンスじゃないのか)

(勇気を出して、參加してみるべきじゃないのか)

(イケてる軍団にれるなんて思わないけど、薄いつながりでもいいからできれば、自分を変えるきっかけになるかも)

俺は決意を固めた。

仕事にでかける準備をしていた母に話をして、容院に行くお金をもらった。母は平日は普通に會社に行き、さらに土日は近くのスーパーでパートをしている。母子家庭だから、お金がないのだ。そんな母親にお金をせびるのは気が引けたが、このボサボサの髪はどうにかしておきたかった。

母さんは笑ってお金を出してくれた。

「頑張っていい男にしてもらってきなさい!」

「彼できたら、母さんにも紹介しなさいよ!」

謝しつつ、急いで近所の容院に行った。無想な鼻ピアスの容師さんに、おどおどしながら「あ、明るくサッパリしてくださいっ」と告げた。ちょっと怖かったけど腕は確かで、こざっぱりしたじに仕上げてくれた。

それから家に駆け戻って、クローゼットをひっかきまわした。ともかく変じゃない格好ということで、ネイビーのジャケットに無地の白Tシャツ、デニムを選んだ。ジャケットは冬しかなくて、五月も後半の今日じゃ暑かったけど、我慢しよう。

父さんの形見の腕時計をはめて、カラオケボックスに行った。

張しながら、指定された部屋のドアを開けると――大笑が出迎えてきた。

淺野勇彌が、鮎瀬彩加が、學園のイケてる軍団十數名が、そして瑠亜が、ドアのところで立ち盡くす俺を指さして笑ってる。

「うわっ、ホントに來たよwww」

「信じらんねーw なんか髪切ってるしww」

「じゃ、じゃ、じゃ、ジャケット著てるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

「ちょwww待ってwww 容院のニオイするwwwwww 無理wwwww」

「ぷぷぷぷぷぷぷ笑っちゃだめだよみんなwwwww おめかしてしてきたんじゃん?wwww 笑っちゃだめぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」

俺は全てを理解した。

ああ――なるほど。

こういう「イベント」だったわけか。

だから、呼ばれたんだ。

広々としたソファに座るのみなさんを、俺は冷めた目で見つめた。別に腹は立たなかった。ただ「ヒマなんだな」と思った。に勉強にスポーツに毎日充実してるんだろうと思い込んでいた連中の「本當の姿」を見て、哀れみすら覚えたくらいだ。ただ、容院代を出してくれた母さんのことを思うと、ちょっと悲しくなった。

「――ほら、何突っ立ってンのよ」

瑠亜が低い聲で言った。聲優だけあって、ドスが効いている。

「ほらカズ。泣きなさいよ。わめきなさいよ。アンタが泣きべそかくのに、アタシ、千円賭けてるんだからさぁ。ほら」

俺が無反応なのが気にらないようだ。淺野勇彌が「俺は、すぐ逃げ出すに千円なー」と茶々をれてくる。

「ひとつ、教えてしい」

俺は靜かに聞いた。

「俺が、何かしたかな? お前らの気に障るようなこと、何かしたか? どうしてこんなことをされなきゃいけない?」

部屋はしんと靜まりかえった。

下等民の意外な質問――いや、反逆に面食らっている。「どうして黙って毆られないんだ、コイツ」みたいな顔。ノリが悪いなァ、みたいに興ざめしている顔だ。

「どうしてって? 馬鹿なこと聞かないでよ」

形の良いあごをしゃくって、瑠亜は言った。

「アンタがアタシの奴隷だから、に決まってンじゃん」

「…………」

無言のままでいる俺に、彼は言葉を投げつけた。

「ホラホラ。せいぜいみっともなく悔しがって、アタシを楽しませてみなさいよ。本當なら、アンタとなじみってだけでも嫌なのにw」

ぶちん。

ぶちん、と。

その瞬間、「何か」が切れる音がした。

堪忍袋? いいや、違うね。

これは〝縁〟が切れる音。

なんだかんだで、瑠亜とは長い付き合いだ。それなりのがある。多の言・行には目をつむってきた。お互い、昔は一緒に風呂だってった仲だ。その傍若無人な態度も、俺に対する気安さの表れ――そんな風に解釈してきた。

だけど、もう。

無理。

こんな思いをしてまで、こんな仕打ちをされてまで、人間の皮をかぶったケモノどもと仲良くなりたいと思わない。

覚悟はいいか、鈴木和真。

三年間、ひとりぼっちの高校生活を送る覚悟はOK?

この場をヘラヘラ笑って流してまで、友達がしいと思うか?

――NO!

気にいらないヤツにびへつらってまで、彼しいと思うか?

――NO!

ならば、良し。

いざゆかん。孤獨の荒野。

「――ああ、俺もだよ」

覚悟を決めて、俺は口にした。

それは、別離の言葉。

十年來のなじみと。

そして、これまでの自分との、決別の言葉だった。

翌日の朝。

登校すると、教室の廊下に機と椅子がおっぽり出されていた。なんだろうと思ってみれば、他でもない、俺の機だ。ご丁寧にり紙してある。

『おめえの席、ねーからw』

まぎれもなく、彼(アレ)の字だ。

「……へえ。なるほど、そうきたか」

うすうすわかってたけど。

昔から、知っていたけど。

自分のひがみかも知れないと思って、ずっと見ないフリをしてきた事実を、俺はいま、はっきりと認識した。

俺のなじみだったは、今をときめく大人気聲優は――。

最低最悪の、ブタ野郎だ。

今日はあともう1話投稿します。

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