《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》3 可キャと出會いました

教室を放逐されたというのに、足取りは軽かった。

奇妙な解放に浸っている。

たとえるなら、風邪をひいて休んだ日、普段は見られないお晝のワイドショーを見ているような覚だろうか。なんでもないふつーの番組が新鮮ですごく楽しく見える、あの覚。あれに近い。

と――。

その時、制服ズボンのポケットでスマホが震えた。

元・なじみからのメッセージの著信だ。

08:40 瑠亜:ねえカズ、昨夜のアタシの畫見た?

08:40 瑠亜:みーんな、アンタのことひでーやつだってw

08:40 瑠亜:どーしよっかなー。次の畫でアンタの名前公表しちゃおっかなー。

08:40 瑠亜:そしたらアタシのファンに襲われちゃうかもよ?

08:40 瑠亜:さっさとそこの機ひきずって、慘めに教室にって慘めにアタシに謝りなさい!

08:40 瑠亜:そしたら許してあげる。ッシャッシャ!

「あー。も、いいや。ブロック」

ぶーぶーうるさい。ブタ。

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どれだけ綺麗な顔や聲をしていようと、格がド最悪なら「ブタ」としか認識できなくなるんだな。いやあ、認知心理學に一石を投じる貴重なサンプルだ、あのブタさん。

「――さて」

どこに行こうか。

図書室に行きたいのだが、あいにくあそこは職員室の隣。教職員に見つかってしまうような場所はダメだ。あるいはサボリの定番スペース・屋上? いや、ふつーに鍵かかってるし。屋上の鍵が開いてる學校なんてラノベの中だけっすよ。

ならば、あそこしかない。

地下書庫。

學園の生徒のなかでは、その存在はほとんど知られていない。下手すれば教職員だって知らない。本好きで図書室常連の俺だけが、図書委員の先輩から「特別に」って教えてもらった、の場所なのだ。

鍵は――かかってるけど、かかってない。

ドアノブにぶら下がってる古い南京錠は、ちょっとしたコツで簡単に開けられるのである。そのコツも先輩に習ってある。

育用室の隣にある長い石階段を下りていく。ここの天井は低くて、し屈まなくては頭がつかえてしまう。まるで窟を探検してるみたいで、いつ來てもわくわくする。

ところが――。

「……誰か、いる?」

扉の向こう側から、聲が聞こえる。

何やら調子っぱずれな奇妙な聲が地下書庫から聞こえてくるのだ。なんだろう? ネズミはこんな聲で鳴かないし、まさか幽霊?

ちょっと怖いけど、興味あるな……。

キャも幽霊も、日者って意味では似たようなもんだし。仲間だ仲間。

好奇心にまかせてドアを開けると、そこにはひとりのの子が立っていた。

「きゃあああああぁぁぁぁっっっ!? だ、誰ですかっ!?」

ものすごく驚かれた。

學校じゅうに響き渡るような、めちゃめちゃな聲量だ。あわててドアを閉めた。

「怪しいものじゃない。もうちょっと、聲のトーン落としてくれ」

「……はっ」

はあわてて自分の口を小さな両手で押さえた。その仕草が子供っぽくて、なんだか可らしい。

制服のリボンのからして、同じ高等部の一年生だろう。

が白くて、背が小さくて、だけどはぱつんとしていて――。

ぜひ顔を見てみたいところだけど、前髪がめちゃめちゃ長くて、目が隠れてしまっている。つやつやとした黒髪の隙間から、臆病な瞳が俺を見つめていた。

「高等部1年1組の、鈴木和真」

「……2組の、皆瀬甘音(みなせあまね)です……」

鈴をちりん、と鳴らしたみたいに、儚げで綺麗な聲だった。

「こんなところで、何してたの?」

「あ、あの……その、う、歌とダンスの、練習です……」

どうやらさっきの聲は、彼の歌だったらしい。

「わ、私……いちおう、聲優やってまして……だ、大それたことですけど……」

「あー、そっちの人か」

元・なじみの例を見ればわかるように、この學園には蕓能人も何人か通っている。彼もそのうちの一人らしい。つまり、學園から期待されている特待生、「イケてる軍団」のひとりってわけだ。

本棚でぎっしりの地下書庫に、大きな姿見まで置いてある。ダンス練習のためわざわざ持ち込んだのだろうか。熱心にもほどがある。

「確かに一人で練習するにはもってこいの場所だよね。でも授業は?」

すると、皆瀬さんはぐっとをかみしめて俯いた。

「……今朝、登校したら……廊下に私の機と椅子が出されてて……『おめえの席ねーからw』って、り紙が……」

「……」

どこかで聞いた話だなー。

「なんで? 聲優なんでしょ? 特待生なのに」

「違いますよ。私、全然売れてないから。顔も聲もこんなですし」

「顔はよく見えないけど、聲は可いんじゃない?」

皆瀬さんは頬を真っ赤にしてピクン、と震えた。

「と、とんでもないですっ。聲優の世界には、もっといい聲の方がたくさんいらっしゃいますし。高屋敷瑠亜さんとかと比べたら全然……っ」

「ふうん」

聲優の世界はわからないけど、そんなものなのかな。

「そんな私が、瑠亜さんとユニットを組んでCDデビューすることになってしまって……だから、だと思います」

「それが気にらないやつがいるってこと?」

「昨日、私のSNSに凸がたくさん來ましたし」

「凸?」

「瑠亜さんのファンの方から。『お前なんかと組んだら姫様の格が下がる』みたいな」

タチの悪いファンがいるもんだ。ブタのファンはブタのブタ、ブタブタってことか。

「そもそも、なんだってアレと組むことになったの?」

「あ、アレって?」

「瑠亜のこと」

はキョトンとして俺を見つめた。

「あ、あの……この學校で、あまり瑠亜さんの悪口は言わないほうが……」

「誰もいないよ、ここには」

誰か聞いてたところで関係ないけどね。

「事務所の方針です。瑠亜さんの引き立て役には打ってつけだと思われたんじゃないでしょうか」

「引き立て役ねえ」

「學校が同じですから、學校の宣伝にもなるって判斷かも」

「學校が関係あるの?」

「私と瑠亜さんの事務所は、テイカイミュージックっていって……この學園と経営母が同じなんです」

なるほど。すべてがつながった。

「私、引き立て役でもいいんです。せっかくもらえたCDデビューの機會ですから。せめて足は引っ張らないようにしたいんです」

「だから、ここで練習か」

こくん、と彼は頷いた。

機と椅子を廊下にほっぽり出したのは、言うまでもない。瑠亜(ブタ)の仕業だろう。イケてる軍団の手下にやらせたのか、自分でやったのか知らないが、格下の彼とコンビを組まされることに腹を立て、こんなイジメをしたってわけだ。アレのやりそうなことである。

そんな目に遭わされても、彼は恨み言ひとつ言わず、前を向こうとしている。

(……かっこいいじゃないか)

ならば俺は、彼の味方をしよう。

「俺が、練習付き合うよ」

「えっ?」

「素人目線で想を言うことくらいしかできないけど、それで良ければ」

は、ぱぁっと顔を輝かせた。

「は、はいっ! お願いしますっ鈴木くん!!」

俺の手を握って、ぴょんぴょん飛び跳ねる。その拍子に前髪もぴょんぴょん跳ねて、大きなぱっちりとした目がチラチラと見える。

……あれ?

なんかこの子。

ブタなんかより、よっぽど可くね?

今日はあともう1話投稿します。

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