《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》4 馴染に引導を渡す

晝休み――。

様子を見に教室へ行くと、機と椅子が元通りになっていた。先生が戻したんだろうか。さすがにあのままにはしておけなかったらしい。

「ちょっとカズ、どこ行ってたのよォッ!!」

ブヒーッ! とブタが鳴く音がして、ヒヅメの音高らかにアレが近寄ってきた。

「授業サボって、何サマのつもり? ハゲのやつ超怒ってたわよ?」

しーん。無視。

「ちょっと何無視してんのよ。メッセもブロックするしさぁ。このるあ姫さまのこと無視していいヤツなんて、この世にいねーんですけどぉ? それともしすぎるアタシの顔をまともに見たら目ぇつぶれるとか思っちゃってる? 照れちゃってンの? あん?」

そうだな。今も鼓がつぶれ、いや腐りそうだよ。無視無視。

「……カズさぁ、昨日のことまだに持ってるワケ? あんなのただの遊びじゃん? イジリじゃん? なーにマジになっちゃってんの? ガキじゃあるまいしさぁ?」

で、出た~!! 此非唯弄也~!!(漢文)

あれはイジメじゃない。イジリだ(キリッ)。

定番の言い訳、いただきましたー。ハイ、無視続行。

「おい、ネクラ野郎」

のっしのっしと近寄ってきたのは、野球部一年生エース・淺野勇彌。

「さっきらか何シカトかましてんだよ? 瑠亜ちゃんに失禮だろ?」

ニヤニヤ軽薄な笑みをそのイケメンにり付けて、俺の肩を小突く。

「おら、なんとか言ってみろよ。それとも怖くて聲も出ねぇか?」

いや、呆れて聲も出ないんだよ。

爽やかな高校球児様が、學園期待の特待生エース様が、こんなくだらないイジメ、いや、イジリだっけ? まぁどっちでもいいけど――そんなことをやるくらいヒマだなんてな。晝休みもトレーニングとかやんねーの? もっと野球真面目にやんねーの? そんなんで甲子園行けんの? プロになれたとして、大できんのか? 日曜に誰かさんに喝れてもらえよ。

そんな俺の侮蔑が伝わったのか、淺野はそのイケメンを醜く歪めた。

「おい、何余裕ぶっこいてんだ、この雑魚――」

「やめなさいよッ!!」

そう割ってってきたのは、ブタであった。

ムキになって、金切り聲でんだ。

「カズのことイジっていいのはアタシだけなのよ!」

おもしろおかしくり行きを見守っていた教室の空気が、一瞬にして凍りついた。

「いい? カズはアタシのなじみなんだから。こいつをガチでイジっていいのはアタシだけなの! アンタらがイジるのは、アタシの命令があった時だけ! それ以外で勝手に手出ししないで!! 邪魔しないで! わかった!? わきまえなさいッ!!」

クラスメイトたちは皆、ぽかんとして、人気聲優様のご尊顔を見つめている。

ブタは、はぁはぁと息を切らせている。

そんなブタに、俺はゆっくりと歩み寄った。

「なあ、瑠亜」

「……な、なにっ? カズ?」

一瞬、何故か嬉しそうな顔をしたブタに、俺は言葉のハンマーを振り下ろした。

「お前、それ、カッコイイと思って言ってるのか?」

「――――」

ブタの顔が「え?」と固まった。

「バトル漫畫なんかでよくある『あいつを倒すのはこの俺だ。誰にも邪魔はさせん』みたいなライバルキャラでも演じてるつもりか? いつから野菜の王子様になったんだよお前」

ブタは雷に打たれたみたいに全を戦慄かせた。

「いいかよく聞け」

「……な、なによぅ……なんだっていうのよぅっ……」

涙目で後ずさるブタに、はっきりと言い渡す。

「俺をイジっていい、いじめていいやつなんか、誰もいない。お前だろうと、誰だろうと」

「……!!」

「もう俺に構うな。いいな」

俺は鞄を機に置いて、弁當を取り出して歩き出した。

皆瀬さんが、地下書庫で待っているのだ。

教室を出る間際――。

「か、かっこいぃ……ッ」

ん?

今、ブタの鳴き聲が聞こえたような気がしたけど……。

ま、気のせいだな。

野菜の王子様か、M字ハゲにするかで迷いました。

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