《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》6 馴染をこらしめたら、モテてしまった

放課後の地下書庫。

「 浮 気 の 現 場 、 ハ ッ ケ ソ ! 」

インターネット老人會り間違いなしのネットスラングとともに現れたブタさんは、ブヒーッと鼻息も荒く近寄ってきた。

「ちょっと、そこの。前髪ウザスダレ」

「はっ、ははははは、はいっ!」

ひどいあだ名で呼ばれて、皆瀬さんはみ上がった。

「なんでアンタがカズと二人でこんなとこいるのよ。ねえ。答えなさいよ。ナニしてたのよこんな暗くて狹いところでやらしーーー! やーーーらーーーしーーー! せーんせーにゆってやろーーー!!」

「……」

小學生かこいつ。

「そういうお前は、なんでここに?」

「アンタと、そこの泥棒貓が、ここにってくの見たヤツがいるのよ!」

なるほど。

しかし、それでわざわざ放課後やってくるとは……。

いつも「収録やらリハやら取材やら、あー忙しい忙しい♪」とか言ってたくせに、案外ヒマなのか?

「あーもーーー!!! ヤダヤダヤダ!!!! ぜったいヤダ!!!!!」

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ブヒンブヒンと地団駄を踏みながら、ブタが荒れ狂う。

「なんでカズが、アタシのなじみが、こんなと一緒にいるのよう! なんでアタシの隣じゃなくてそんなクソ聲優の隣にいるのよ全ッ然人気ないのよそいつ!! 三年後にはAV出てウンコ食わされてるわ確実に!!」

「たっ食べませんっ!」

「うっさいウンコ!! うんこうんこうんこうんこーーーー!!」

「……」

小學生かこいつ。パート2。

「ううう~~~ヤダァァ……こんなのヤダァァァ……」

なんか泣きべそかいてるし。怒ったり泣いたり忙しいなあおい。

「あ、あのっ!」

勇気を振り絞るかのように、皆瀬さんが言った。

「和真くんは、悪くないんです。彼は私に付き合ってくれてただけで、」

「 か ず ま く ん ! ? 」

さすが人気聲優、すごい聲を出す。ヤクザの組長役とかやれそう。

「ちょっと、今、不適切な単語が聞こえたんですケドも。言い直してもらえる?」

「……す、鈴木くん……」

「それでいいわ。わきまえなさいッ」

ツン、とすまして長い金髪をかきあげる。決め臺詞も飛び出した。

「いったいどういうつもりなのよカズ!」

「どうと言われても」

「こんな前髪びろーんと、どうして? どうしてよ? こんなのネクラでブッサイクでどうしようもないじゃない! ほら、見なさいよ――」

ブタはおもむろに手をばし、皆瀬さんの前髪を持ち上げた。

「……!?」

前髪の下からコンニチハした可憐なおめめを見て、ブタの表が凍りつく。

あわてて、髪を元に戻した。

「そっ、その前髪の下、まさか、カズにも見せたんじゃないでしょうね?」

「いえ、和……鈴木くんにはまだ」

ほっ、とブタはをなでおろす。「よかった。地球の平和は守られたわ……」。どんな侵略者だよ。

「じゃあ今のうちに、髪をガムテープでぐるぐる巻きにしとかないと」

「そっ、それだけは止めてくださぃぃ!」

頭を抱えて、皆瀬さんが後ずさる。

「おい。いい加減にしろ」

さすがに見かねて、言ってやった。

「お前、この子とユニット組むんだろ?」

「そっ、そうよ! 引き立て役にすぎないけどねそんなヤツ!!」

「その引き立て役を一杯こなすために、頑張ってんじゃねーか。ここで一人で練習してたんだよ」

「だ、だからなに? そんなん當たり前でしょ、このアタシと組むんだから!」

「なら邪魔すんなよ。人気聲優だからって、やっていいことと悪いことがあるぞ」

ブタは涙目になった。

「な、なんでカズはコイツの味方するの? どうしてアタシの味方してくれないの、なじみなのに!」

「俺はがんばってるやつの味方だ」

「あ、アタシだってがんばってるもん! 笑顔の練習、自撮りの練習、口パクの練習、ファンの出待ちをかわして素早くタクシーに乗り込む練習、毎日欠かしたことはないわ! だからほめて! ほめてよホラ!」

「……」

そんな、「野球の練習、ただしホームラン打って観客の聲に応えながらダイヤモンド一周する練習!」みたいな……。

まぁいい。ブタに努力の価値を説こうとは思わん。

「いいか瑠亜。はっきり言っておく。お前とはもう、絶縁したんだ」

「ぜ、絶縁?」

ブタの顔に絶が浮かび上がる。

「あんなことしたんだから、當たり前だろ。あれはもう『私は嫌われても憎まれても文句ありません』って行為だぞ」

「あ、アタシはそんなつもりじゃっ……ただ、ちょっと面白いカナ~と思って」

「面白い?」

冷たい目で、にらんでやった。

「お前は今まで『面白いから』って理由だけで、どれだけの人を傷つけたんだ?」

「……っ」

「今も皆瀬さんをいじめてるけど、それも『面白いから』なのか? もうガキじゃない、高校生だろ? しかもプロの聲優で、社會に出て働いてるんだろ? どうしてそんな簡単なことがわからない? いい加減――『わきまえろよ』」

最後は、決め臺詞を奪ってやった。

ブタはぼーっとして、俺を見つめている。

……ん?

なんか、心ここにあらずってじ。そんなにショックだったのか? それにしては、頬も赤い。目も心なしか潤んでいる。俺の言葉を聞いているのやら、いないのやら。

まぁいい。

言うだけのことは言った。

「もう、ここには來るなよ」

「…………」

「行こう、皆瀬さん」

「は、はい……」

練習も終わったし、俺たちは去ることにした。

ブタは立ち盡くしたまま、ドアに背中を向けている。

「……もん……」

外に出てドアを閉めるとき、ブタが鳴いた。

「アタシの方が、そのより絶対カワイイもん!! カズのばか! ばか! うんこたれーーー!」

――その、人を見下す態度が、すでに可くねーんだよ。

そんな忠告すら、もう、惜しい。

學校を出て、皆瀬さんと二人で歩いた。

俺は徒歩通學で、彼は電車。所屬事務所の寮から學校に通っているらしい。田舎から一人出てきて、苦労しているようだ。

駅までの道のり、彼はつぶやいた。

「私のせいで、瑠亜さん怒らせちゃいましたね」

「いいよ。怒らせておけば」

「だけど、和……あ、ええと、鈴木くんに迷が」

「和真(かずま)、でいいよ」

は嬉しそうに顔をほころばせた。

「じゃあ、和真くんって呼びますね! 私のことも、甘音って呼んでください」

「甘音より『あまにゃん』のほうが良いな」

「えへへ。さっきの貓ちゃんダンスですか? やめてくださいよぅ」

前髪に隠れた顔を真っ赤に染めて、はにかむ甘音ちゃん。

これ。

これだよ、ブタさん。

前髪のぶん、ルックスはお前に劣るかもしれないけど、これが「可い」ってことなんだ。

「――あ」

「どうしたんですか?」

聲をあげた俺の顔を、彼が覗き込む。

「もしかしたら、例のイベント、上手くいくかも」

「? 私と瑠亜さんのイベントのことですか?」

去り際に放った、ブタの言葉がヒントになった。

この方法なら、アレのプライドを上手く擽(くすぐ)ることができるかも……。

名付けて「本當に可いのはどっち?」作戦。

「続きも読んでやるよ!」「あまにゃんのダンス見屆けてやんよ!」と思ってくださった心優しき方、ブックマークと、畫面をスワイプした先にある広告下の『★5』をつけて応援してくださればうれしいです!

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