《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》7 馴染が畫で俺の悪口(?)を配信してる

翌日の放課後。

學校からし離れたファストフード店で、甘音(あまね)ちゃんと待ち合わせした。萬が一にもクラスメイト、億が一にもあのブタに出くわさないようにするためにだ。

「はい、これ」

某激安量販店の袋から取り出したのは、ネコミミとしっぽである。

「これをどうするんですか?」

甘音ちゃんは可らしく小首を傾げた。

「自分の畫チャンネルは持ってる?」

「は、はい。登録者さんないですけど、いちおう」

「じゃあ、そこにダンス畫をアップしよう。昨日練習した『あまにゃん♪』。ネコミミとしっぽをつけて。きっと、話題になると思う」

値札のついたままのネコミミを見つめて、甘音ちゃんは言った。

「私のチャンネル、登録者さんないから、バズらないと思います……」

「そこは任せてくれ。なんとかしてみせる」

いちおう、手は考えてある。

「その畫がバズったら、きっとアレもネコミミをつける。いや、つけざるをえなくなると思うんだ」

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「瑠亜さんが、私に合わせてネコミミを? まさか!」

確かに、あのブタの格からしてありえないだろう。「なんでこのアタシ様が、こんなウンコ聲優に合わせなきゃいけないのよッ!」とか言いそう。

だが、むしろそこが付け目なのである。

「……わかりました。和真くんのこと、信じます」

あやふやなことしか言えない俺に、甘音ちゃんは頷いてくれた。良い子だなあ。

「その畫を上げる時にさ、前髪をオープンできない?」

「えっ?」

「甘音ちゃん、本當はすごく可いのに。もったいないよ」

あのブタがびびるほどの可憐さである。その威力は折り紙つきだ。

甘音ちゃんは申し訳なさそうにうつむいた。

「ごめんなさい……。私、人の視線が怖くって。こうして前髪ごしでないと、落ち著いて話すこともできないんです」

「あー……視線恐怖癥ってやつ?」

こくん、と頷く。

なるほど、そりゃ困ったな。

「事務所からは『前髪上げて』って言われないの?」

「特には……。なくとも、このユニットの解散までは言われないと思います。その方が引き立て役にふさわしいから」

「またそれか……。だったらアレがソロデビューすりゃいいのに」

「はい。もう決まってるはずです。今回のユニットはあくまでその踏み臺というか、ただの話題作りで。CD一枚で解散ですって」

うーわー。蕓能界汚ねー。

「事務所の社長が、瑠亜さんのお爺さまと親しくって。全力プッシュを約束してるって聞きました」

「アレの爺さんか……」

アレの祖父・高屋敷泰造(たかやしき・たいぞう)は、地元が誇る名士である。高屋敷グループという巨大企業のドンであり、帝開學園の理事長も務めている。駅前にそそり立つでっかいタワマンの最上階をまるごと所有して、そこに孫娘を住まわせているブルジョアっぷりだ。

「でも和真くんは、そんな瑠亜さんとなじみなんですよね? すごくないですか?」

「元だよ、元」

「いったい、どうやって知り合ったんですか?」

「ガキの時、公園でひとりぼっちだったアレを、ボール遊びにってやった。以上」

「……えっ。そ、それだけですか?」

それだけである。

「じゃあ、よっぽど瑠亜さんに気にられたんですね」

「迷な話だ」

きっぱりと言った。そう言い切ることに、なんのためらいもじない。

「……そんな瑠亜さんを敵にまわして、大丈夫なんでしょうか……」

またもや心細そうにする甘音ちゃん。

この自信のなさは、天のものではあるのだろうけれど――後天的な要素も、多分にあると思う。

昨日の地下書庫でのやり取りに、それははっきりと表れている。

『そっ、その前髪の下、まさか、カズにも見せたんじゃないでしょうね?』

『じゃあ今のうちに、髪をガムテープでぐるぐる巻きにしとかないと』

そうやって、出る杭を打つのが、「やつら」のやり方だ。

あいつらはいつだってそうだ。

弱い者が、決して上がってこれないように、自分たちの地位を脅かさないように、見張っている。

學園でも。蕓能界でも。

この世界は、そういうところなのだ。

甘音ちゃんと別れて帰宅して、いろいろ用事を済ませてから、ブタのヨウチューブを見に行った。絶縁した時にチャンネル登録も解除してたから、いちいち検索しなきゃいけなかった。クソ面倒だな。

「計畫」の報収集のためにわざわざ見てやったわけだが――最新畫を再生した直後、めちゃめちゃ後悔した。

【ほぼ毎日投稿】るあ姫様が斬る!~わきまえなさいッ~

チャンネル登録者數110萬人

『鈴○和真!』

『鈴木○真!』

『鈴木和○!』

『○木和真!』

『鈴木和真○』

『ばかーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

『あほーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

『うんこたれーーーーーーーーーーーーー!!』

『アタシの魅力にぃぃぃなーーーーーーーぜーーーーーーーーーきづかないーーーーーーー!!』

『……と、いうわけで。はろはろ~ん、ヨウチューブ!』

『〝るあ姫様〟こと、瑠亜だよーん!』

『えーと、冒頭のアレはね、ただの心のびだから。気にしないでねん♪』

『ただ、ちょーっと昨日ムカつくことがあって。それを表現してみただけだから』

表現の演技練習ね! そこんとこヨっロシクぅ♪』

【コメント欄 2142】

るあ様の靴下・1分前

ちょwww 冒頭意味不明www

砂糖昆布・1分前

スズキカズマって誰や…

ドンブラ湖・1分前

よくわかんないけどウンコたれなんだな

牛饅頭・1分前

くさそう

シンドイーのリスト・1分前

誰か知らないけどとりあえず氏ね

まぁ――。

今さら驚かないけど。

こいつがブタ野郎なのは知ってるから、驚かないけれど。

ここに來て、さらに俺の闘志をかき立ててくれるとは思わなかった。

「いいぜ、ブタ野郎」

ならば遠慮なく、叩き潰してあげよう。

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