《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》8 調子に乗りすぎた馴染と、ずっとがんばってきた彼
【聲優・甘音ちゃんねる】オリジナル貓ダンス踴ってみた
チャンネル登録者數41人
『ど、どうもみなさん、こんにちは』
『聲優の皆瀬甘音(みなせあまね)です』
『今日は、あのー、そのー……お、踴ってみたの畫をだします!』
『歌も振り付けもオリジナルなんですけど、最後まで見ていっていただけるとうれしいですっ』
『そ、それでは……すたーとっ』
・
・
・
『い、いかがでしたでしょうか?』
『このダンスで、みなさんがほんのひととき、笑顔になれますようにっ』
『聲優の、皆瀬甘音でした』
『……あ! ちゃ、チャンネル登録、よ、よろしくっおねがいしまっ、あー電池切れち』
【コメント欄 5】
ダン=キボーテ・8時間前
あなたが瑠亜さんと組むのはふさわしくないと思います。
るあちゃん好き好きマン・8時間前
るあ姫に迷かけるな! 無名!
瑠亜姫親衛隊・8時間前
ブッサw
天使るあ様の靴下・8時間前
ユニット辭退しろ
段々畑・1分前
初見だけど聲かわいい。前髪が惜しい。
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◆
甘音ちゃんの「あにゃにゃん」畫がアップロードされて、一日。
再生數はたったの50回程度に留まった。
あのブタの畫なんて、アップロードされるや否や、すぐに數萬再生されるっていうのに。
でもまぁ、それはしかたがない。知名度ってやつがあるのだ。
だけど、あの貓ダンスの可さは「本」だと俺は思う。見てもらえさえすれば、必ず広がる。
てなわけで――拡散、拡散っと。
◆
今さら言うまでもないが、俺こと鈴木和真はキャである。
友達がない。
だが、ネットではその限りではない。
中學の時からやってるスマホゲーでは、そこそこ大規模な有名クランに所屬していて、そこでは結構流していたりする。リアルではな分、ネットでは……とまではいかないが、まぁ、それなりの人脈はあるのだ。
クラン部のチャットで、この畫URLをり付けたところ――なかなかの反響があった。
19:40 エロゲ大好き侍:これ誰? かわいー!
19:52 ケントバリカット:カズマ殿の推しでござるか?
19:55 しい鈴木:さっすが副リーダー、いい趣味してるなー
20:08 ミッシェル奧沢:カズマにはいつも助けてもらってるし、拡散協力するわ
他のSNSにも投稿して、相互フォローワーさんに拡散をお願いした。
もちろん、元の畫に魅力がなければそこで終わり。仲間うちで消費しただけで終了となるが――そこは「聲優」皆瀬甘音。やはり本だった。
07:40 たくや:マジで可い! あまにゃん可い!
08:05 シンタロー:あにゃにゃん伝染っちゃったw
08:05 バイトリーダー:速攻でチャンネル登録したわ
09:55 ダクト洗浄:學校の休み時間見てたら、クラスでバズったw
09:59 社畜王グンマ:友達にも勧めといた
そんなじで3日も経てば、いつのまにやら50萬回再生。
同じチャンネルの他の畫はせいぜい2桁の再生數だったから、これは破格である。バズったと言っていいだろう。
◆
數日後。
俺と甘音ちゃんは一年生棟の廊下はしっこで、即席會議を開いた。
「あ、あの、なんだか信じられません」
聲をうわずらせて、甘音ちゃんは言った。
「私なんかの畫が、あんなに再生されるなんて……。今までの最高が70とかそのくらいだったのに、いきなり50萬再生なんて」
「そう? 別に不思議じゃないと思うぞ」
彼の真の可さからいえば、50萬でもないくらいだ。あのブタの100倍はいかないと。
「最近、學校でも聲かけられるんですよ。イベント見に行くからね、みたいに言ってくれる人もいて」
「そりゃすごい」
甘音ちゃんの可さが、學園でも広がりつつあるようだ。
「ともかく、計畫通りだよ。この調子なら、きっと近いうちに引っかかると思う」
「引っかかる?」
「ブタの一本釣りさ」
「???」
と、その時――近づいてくる人影があった。
「おい。鈴木和真っていうのは、お前か?」
橫にも縦にもでかい格にふさわしい、野太い聲だった。
「そうだけど」
「おれ、5組の南田介(みなみだ・ようすけ)。サッカー部だ」
日焼けした悍な顔に、全から滲み出る「」のオーラ。どう見ても「イケてる軍団」の一員だ。甘音ちゃんがさっと俺の背中の後ろに隠れてしまう。
彼をかばって、前に進み出た。
「何か用事?」
「……や、ひとことお禮が言いたくてさ」
「お禮?」
南田は白い歯を見せてニッと笑った。
「お前、こないだ淺野のバカをやり込めてくれたそうじゃないか」
「淺野って、野球部の?」
「そうそう。アイツ最近チョーシのってたからさ。がスッとしたぜ」
ああ、なるほど。
野球部とサッカー部は、犬猿の仲だって言われている。大會の実績が拮抗しているライバル同士。どちらが學園の「覇権部」か、創立以來ずーっと爭い続けていると、耳にはさんだことがある。
「別に俺は何もしてないけど」
「謙遜すんなよ。お前のおかげで、あいつ瑠亜ちゃんから嫌われたらしくてさ。もーすげー落ち込んでんの。笑えるぜ」
へえ、そうだったのか。
同じ教室だけど、完全スルーしてるから、気づかなかった。
イケてる軍団も一枚巖じゃない。いくつもの派閥に分かれてるってことだな。
「理事長の孫の瑠亜ちゃんに嫌われたら、この學園じゃ生きていけないからな。あいつもやりづらくなるだろうぜ」
一番アレに嫌われている俺を前にして、よく言うよ。
しかし――。
これは、利用できそうだ。
「南田だっけ。ひとつ、提案があるんだけど」
「おお。なんだ?」
「今度さ、高屋敷瑠亜のイベントがあるの、知ってる?」
「あぁ、なんか聞いたな。もう一人、この學校の聲優と組んで出るんだろ。ミズセだっけ」
ミナセ、な。
てか、本人目の前にいるし。
こいつはまだ、あの畫を見ていないらしい。
「もし、サッカー部引き連れて応援に行ったら、瑠亜もきっと喜ぶんじゃないか」
「おお、そりゃ名案だ!」
「淺野は顔出しづらいだろうし、一気に近づくチャンスだぜ」
「だな! クラス違うからあんま話せなかったけど、瑠亜ちゃんと接近できるかも。ぐふふ」
この男、心をつい口に出してしまうタイプのようだ。
「鈴木! お前、意外とやるやつだな!」
「そりゃどうも」
でかい手で俺の肩をバンバン叩いてから、南田は去って行った。
甘音ちゃんはようやく俺の背中から出てきた。
「ど、どうしてあの人をったんですか?」
「あいつ、スポーツ特待生みたいだからさ。きっと影響力あると思うんだ」
甘音ちゃんの魅力を広めるためなら、手段なんか選んでられない。
「私のために、そこまで……」
を噛んで、甘音ちゃんは俺を見上げた。
「まだまだ。これだけじゃ不十分だよ」
さて。
後は、アレが上手く釣れるかどうかなんだけど――。
◆
放課後。
地下書庫でいつものように練習していると、またもや「バァン!」と扉が蹴破られた。
「今日も來てあげたわよ、カズッ!」
もう來るなと言ったのに、「來てあげたわ」というのがブタさんクオリティ。
その金の頭には――俺の思通り、しっかり・ちゃっかりとネコミミが裝著されていた。
はい、釣れた。
「え? えっ? えっ? ど、どうして?」
驚いてまごついている甘音ちゃんを、ブタはビシッと指さした。
「例の畫、見てやったわ!!」
いつもと変わらぬ傲岸不遜な態度――だが、かすかにの端がひくついている。これは、悔しさを堪える時の表であると、元・なじみの俺にはわかる。
「なんかネコミミつけて良い気になってたけどねェ、このアタシがつけたら條件は同じ!! 同じ條件なら、超絶エリートのこのアタシ様が、アンタみたいな前髪ウザスダレに負けるはずないでしょ?」
某野菜王子が超に目覚めた時と同じ臺詞を吐いた。
こいつの思考回路、あのM字ハゲと同じだからな。そうくると思ってたよ。
「ふふふ。どう、惚れ直した? カズ?」
「直してねえ」
そもそも最初から惚れてねえ。
ともあれ――。
これで、ブタがエサにかかった。
後は、本番で料理するだけだ。
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