《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》9 〝大逆転〟はじまる

ついに、イベントの日がやって來た。

會場となるシャインシティは、大型ショッピングモールである。

日曜の今日は多くの買い客でごった返している。家族連れがメインだが、カップルの姿も見える。みんな、楽しそうだ。友達がいる。人がいる。そんな幸せオーラで、広い建の中がいっぱいになってるようにじられた。

そんな「キャ天國」みたいな場所で、キャの俺は、これから「悪事」を働く。

今をときめく大人気聲優様に、逆らおうっていうのだ。

出番を待つ甘音ちゃんの「楽屋」としてあてがわれたのは、ステージとなる催事場の脇――の、トイレ。その傍にある小汚い用室だった。

あのブタは別室である。

ちゃんとした部屋が用意されている。

『あんな格下と、アタシ、同じ空気吸いたくないナ~』

『ねぇジャーマネ、なんとかしてして?』

ということで、甘音ちゃんは追い出されたのだった。

「なんだかここ、落ち著きますね」

裝に著替え、パイプ椅子に腰掛けて、甘音ちゃんは言った。別に強がってるわけじゃない。本當にここが落ち著くのだ。キャは端っこ・隅っこにいると地形効果+30%くらいけられるからな。あのブタには想像もつかないだろう。

「練習通りやれば大丈夫だよ。甘音ちゃん、めちゃめちゃ練習したんだから」

放課後だけではなく、朝練・晝練もこなしていたのだ。

その甲斐あって、「あまにゃん」ダンスはもう神の域、神々しいまでの可さを発揮するに至っている。畫よりも數段レベルアップしている。きっと、観客の度肝を抜けるだろう。

甘音ちゃんは俺をまじまじ見つめた。

「和真くん。どうして私なんかにここまでしてくれるんですか?」

「……」

「ねえ、どうして? 瑠亜さんと絶縁しちゃったから?」

しばらく考えてから、俺は言った。

學して二ヶ月経ってみて思うんだけどさ。俺たちの學校、ちょっと息苦しいと思わないか?」

「特待生優遇のことですか?」

「そう。どこの學校でもある話だとは思うけど、帝開はちょっと骨すぎる。ここまでカーストがきつい學校って、なかなかないと思う」

甘音ちゃんは控えめに頷いた。

「もし、君が活躍してくれたら、そんな學校に風を開けられるんじゃないかって。そう思ってる」

俺は、用意してきたバッグから、新しいネコミミを取り出した。

「これ、自作してきた」

「じ、自作? 和真くんがですか?」

「ネットの友達に手伝ってもらって、どんなのなら可いかリサーチしてさ。君に似合うと思う」

甘音ちゃんははにかむように笑った。

「ありがとうございます……。きっと、上手くやってみせます」

頭にかぶろうとするのを、俺は止めた。

「違うよ。これは、こうつけるんだ」

「えっ? ――きゃあっ」

カチューシャ式になっているネコミミで、彼の前髪をアップにする。

ぱっちりとした大きな目、深いをした瞳がわになる。

子貓みたいにまんまるで、見ているだけでキュンとなるような――。

「やっぱり、こっちの方が可いよ」

素直な想を述べた。

「か、か、か、かずま、くんっ、な、なにを……」

真っ赤になって口をぱくぱくさせる彼に告げた。

「俺も、髪型を変えてみたことがあるんだ。クラスのみんなでカラオケするっていうから、母さんにお金もらって、勇気出して容院に行ってきた。怖い容師さんにおどおどしながら、髪切ってもらって。さっぱりして。生まれ変わったみたいな気分になった」

「……」

「ラノベとかだと、それでイケメンになって、一気に周りの見る目が変わって――なんて奇跡があるみたいだけど、俺にはそんな奇跡、やってこなかった。指さして笑われただけだった。やっぱり俺は『下』なんだって、思い知らされただけだった」

でも。

だけど。

「皆瀬甘音は、違うだろ?」

「……!」

「君は輝ける。絶対輝ける。あんなに頑張ってて、こんなに可くて――何より、アニメ聲優になるっていうでっかい夢があるんだから」

俺には、夢がない。

なんにも、ない。

ただのキャだ。

だけどさ。

そんなキャでも――。

夢を持ってるやつの背中を押すことくらいは、できるんだ。

廊下に足音が響いて、イベントスタッフがやってきた。「出番でーす」。そう聲をかけて去って行く。甘音ちゃんの肩が、大きく震えた。

「さあ、行ってこい!!」

の背中を思い切り押し出した。

「あのブタ目當ての観客を、ぜーんぶ君のファンにしちゃえ! 奪っちまえ!!」

甘音ちゃんは泣きそうな目で俺を見つめた。

それから。

コクン。

力強く頷いた。

「行ってきます!!」

前髪をあげたまま、甘音ちゃんは歩き出した。

その足取りは頼りなくて、覚束ない。肩が小刻みに震えている。怯えているのだ。

だけど、その歩みを止めはしない。

り輝くステージへの道を、前を向いて歩いて行った。

最初のクライマックスです。

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