《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》11 まずは最初の、下克上

イベントは大功だった。

甘音ちゃんの「あまにゃんダンス」の評判はSNSで瞬く間に拡散された。「もうめっっっっっさ可い!!」「全人類が知るべき」「筆舌に盡くしがたい尊さ」「るあ姫、引き立て役w」などなど、絶賛コメントが怒濤の勢いでスマホを流れていく。こっそり撮影してたやつが畫をアップして、それを見たやつがまた魅了されて――という幸福なループ。トレンド8位に「あまにゃん」、5位に「皆瀬甘音」がる始末で、やれやれ、俺が想定していた以上のことを、未來の大聲優はやり遂げてしまった。

一方、メディアの反応は真逆だった。

大手ニュースサイトは「瑠亜姫、鮮烈CDデビュー!」「JKアイドル聲優の歌聲に観客酔いしれる」などなど、軒並みあのブタを持ち上げる記事をアップした。前もって事務所が回ししていたんだろう。甘音ちゃんのことなんかこれっぽっちも載ってない。ブタさんがステージでスッ転んだことも載ってない。なかったことにされてる。完璧な作だった。

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だけど、甘い。

このSNS全盛時代に、そんなもの通用すると思うか?

今回のイベントで一番輝いていたのは誰なのか、それは、見に來た客が全員知っている。今回は俺が拡散するまでもない。甘音ちゃんの輝きを見た人々が、勝手に伝え、広げてくれている。

大人が作り上げた、偽なんかじゃない。

「本」の輝きっていうのは、そういうものさ。

明くる日、月曜日の朝。

いつもの時間に登校すると、昇降口のところに人だかりが出來ていた。

大勢の生徒に取り囲まれているのは、甘音ちゃんだった。

「イベントの畫、見たよ!」

「ネコミミ可かったー、驚いたよマジで」

「あの振り付け、自分で考えたの?」

「てか、聲優やってたんだね! 知らなかった!」

男子子問わず、口々に彼を褒めそやしている。

甘音ちゃんときたら、顔を真っ赤にして「あのっ、そのっ」しか言えなくて。

一夜にして大スターになったっていうのに、格まではなかなか変わらないか。前髪もびろーんと元に戻ってるし。

取り囲んでいるのは、もちろん「イケてる軍団」の皆さん。

あのブタの軍団とは、また別のグループである。

ちなみにブタ軍団はといえば、この騒ぎを遠くから見守っている。なかには、甘音ちゃんに聲をかけたそうにしている連中もいる。野球部の淺野もその一人だ。熱っぽいまなざしで、甘音ちゃんのことをじっと見つめている。……あれは、惚れたな。

そしてブタ本人、いや本豚はといえば。

ものすごい形相で、甘音ちゃんをにらみつけている。口元がワナワナ震えているのが俺の位置からでも見てとれる。あれは相當、アタマに來ている。だけど手出ししないのは、昨日の二の舞になると思ったからか。

いくら高屋敷家の令嬢でも、もうおいそれとは手を出せまい。

あれだけの醜態をさらして、SNSで拡散されたのだ。もし甘音ちゃんに手を出せば、自分が真っ先に疑われてしまう。これ以上の醜聞は、さすがの人気者も避けたいところだろう。

(良かったな。甘音ちゃん)

心の中で聲をかけて、俺はそっと場を離れた。

これで彼は「イケてる軍団」の仲間りだ。ブタの派閥にはれないだろうけれど、別の派閥が必ずってくる。あんな可い子、ほうっておくわけがない。遠からず彼氏もできるだろう。

そうなると、俺の存在は邪魔だ。

學園の支配者・高屋敷瑠亜と敵対する俺がいては、彼の妨げになってしまう。黙って消えるのが正解。あのブタと絶縁した時、もう覚悟は決めている。ひとりきりで高校生活を過ごす覚悟。

(アニメの出演決まったら、絶対見るからな)

もう一度心の中で聲をかけてから、履きに履き替えた。

教室へと行こうと歩き出した、その時――。

「和真くんっっ!!」

大きな聲で呼ばれた。

振り向くと、甘音ちゃんがものすごい勢いでこちらに駆けてくる。

「和真くん、おはようございます」

「……ああ。おはよう」

どう反応したものか迷った。

気づかないふりをしようかと思ったが、こんな大聲で呼ばれたら仕方ない。

置き去りにされたイケてる軍団が、ぽかんと俺を見つめている。「誰?」みたいな顔して突っ立っている。ブタ軍団も、ぽかん。頭(かしら)のブタさんは走った目を見開き、イチの子分・淺野はあんぐり大口を開けている。

「和真くん。今日の放課後も、練習付き合ってくださいね」

「えっ。もうイベントは終わり、ユニットは解散だろ?」

は首を振る。

「実は、今度、新作アニメのオーディションに呼ばれたんです。今の事務所とはまた別のところから、聲かけてもらって」

「……マジ?」

「事務所、移ることになりそうです」

その聲は弾んでいた。

前髪に隠れていて、表はよく見えないけれど、その口元には自信が浮かび上がってるように思う。

「だから、練習したいんです。……和真くんと、一緒に」

甘音ちゃんは、おもむろに前髪をかきあげた。

子貓みたいにつぶらで可い目が、せつなげに俺を見つめている。

後ろでぽかんとしてる連中には、もちろん見えない。

俺にだけ、見せてくれたのだ。

「いや、でもさ。甘音ちゃん」

「そんな呼び方、や、です」

ふるふる、首を振る。

「和真くんにだけは、『あまにゃん』って、呼んでほしいです……」

うわ。

反則だろ、これ。

「甘音ちゃんさ」

「あ、ま、にゃ、ん」

「……あまにゃんさ。前髪上げたら、格変わっちゃうんじゃない?」

「ふふ。そうかも」

は笑った。小悪魔の笑みだ。

「だとしたら……きっと、あなたのせいです。あなたが、前髪上げてくれたから」

「……」

「せきにんっ、とってください。ね?」

は俺の腕を取って、歩き出した。そうして著すると、かなのふくらみもじるし……何より、いい匂いがする。昨日まではこんな匂い、しなかったのに。香水? それともシャンプー変えたのかな。誰のために?

イケてる軍団の視線が、背中に突き刺さるのをじる。

ちらっと視線をやれば、淺野が地面に膝をついて両手で顔を覆っているのが見えた。雑魚だと認識していた俺に彼を取られたのが、そんなに悔しいのだろうか。

ちなみにその隣では、誰かさんが倒れていた。

周りの軍団が「大丈夫!?」「ほ、保健室行く!?」「泡ふいてる!」「どうしたの目ぇグルグルだよ!?」とか相変えて呼びかけている。えらい騒ぎだ。

誰か知らないけど、ご愁傷様。

「行こっ。和真くん」

「……ああ」

やれやれ。

どうもしばらく、俺の周りは靜かになりそうにもない。

それから1週間後――。

全校集會にて、學園理事長からこんな宣言があった。

「特待生への自覚と、さらなる発を促すため『特待生バッチ』を配ることにする」

このバッチが、次なる騒の引き金となることを、俺はまだ知らない。

これからも読んでもらえたらうれしいです!

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