《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》17 馴染VS新人聲優

翌日の晝休み。

俺は甘音ちゃんを連れて、ひさしぶりに學食を訪れていた。彼が今日は弁當を作ってこられなかったので、たまには良いかということになったのだ。

學食はあいかわらず激混みである。俺はハンバーグ定食、甘音ちゃんはサバの味噌煮定食を持ってウロつくこと五分、ようやく二つ分の座席を確保した。

しかし――。

「はい、和真くん。あーんして?」

満員の學食の片隅で、甘音ちゃんが俺にハンバーグを食べさせようとしてくる。

先日、野球部・淺野たちから助けてからというもの、甘音ちゃんはますます積極的になった。もう、人目も憚らずイチャイチャしてくる。モテた経験のない俺としてはどうにもこうにも、気恥ずかしい。

「いや、自分で食えるから」

「むー。いつもしてるじゃないですかぁ」

周りの生徒たちが、こちらをチラチラ窺っているのをじる。

甘音ちゃんはもう、この學校の有名人だ。「あまにゃんダンス」の畫はもう200萬再生を突破している。サインしそうな顔をしている者、俺をうらやましそうににらんでいる者、甘音ちゃんのたわわなを凝視してる者、羨・嫉妬・その他が俺たちを取り囲んでいる。

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甘音ちゃんは気にならないのかな……。

なんかもう、俺以外は目にってないじ。

「あ。和真くん、頬におべんとついてます」

いつのまにかついていたらしい米粒を、甘音ちゃんはひょいとつまんで、ぱくっと食べた。周りの男子から「あぁ……」みたいなため息がれる。食べていたうどんを噴き出す者、トレイに突っ伏して味噌に顔を突っこむ者まで出る始末。もう、大騒ぎだな。

その時――。

急に學食が靜まりかえった。

さっきまでうらやましそうにしていた連中の顔が青ざめる。

長年培った俺の「危機察知センサー」にも、ピンと來た。

これは――。

「はい、和真くんっ。野菜も食べなきゃだめですよ♪」

今度はニンジンを食べさせようとする甘音ちゃんの背後に、ヌッと影が差した。

その影は甘音ちゃんの後頭部をつかむと、「そォイ!!」という掛け聲とともに彼の顔をサバの味噌煮にダイブさせた。

「んにゃあ!!」

甘音ちゃんの悲鳴と、飛び散る味噌が錯するなか、その「影」は腕組みをして無いを反らした。ぺったーん。

「ごきげんよう、カズ! 來てあげたわ!!」

「……」

ブタさん、ひさしぶりのご登場である。

その右の頬には、なんか知らんが、でっかいナルトがりついている。

「…………」

「…………」

頬を差し出すようにアピールしながら、キラキラした流し目で俺を見つめてくる。

え、なにこれ。

もしかして、さっきの甘音ちゃんのマネをしろと?

「ねぇカズ、はやくぅぅぅ~~~!!」

「なんで、俺が?」

「うふん。そろそろ、懲りたんじゃないかと思って」

ばっちーん☆ と片目をつむるブタさん。目にホコリでもったんスか。

「無印のつらさ、この1週間でよ~くわかったでしょ? そこの前髪ウザスダレも、なんか危ない目に遭ったらしいじゃん」

白々しい。お前が襲わせたくせに。

「だからさぁ、ホラ。仲直りしよ? このナルトはその印よ。ちゃぁんと食べてくれたら、ぜーんぶ水に流してあげるっ。銀バッチ、ううん、金バッチになれるよう、お爺さまに掛け合ってあげるから!」

「…………はぁ」

やれやれ。仕方ない。

俺はブタのほっぺについたナルトを、つまんで取ってやった。

「ウフフ。カズったら、やっぱりアタシのこと……♥」

なんかクネっクネしているブタさんを無視して、ポケットティッシュでそのナルトを包む。

後ろのゴミ箱にポイッ、と捨てた。

「……!?」

それを見たブタさん、口をあんぐり、でっかく開く。ゴミ箱よりでかい。ここに捨てれば良かった。

「ど、ど、ど、どーして食べてくれないのよッ!?」

「ダイエット中だから」

ナルトのカロリーが何キロか知らないが、とりあえず適當を言った。

ようやく立ち直った甘音ちゃんが、顔をハンカチで拭いている。前髪にはサバの骨がついたままだ。

「な、何をするんですかぁっ瑠亜さん!」

「アンタがアタシのモノに手ェ出すからでしょうが、このドロボー貓!!」

「和真くんは私のものですぅー! 瑠亜さんはむしろ嫌われてますぅー!」

「きッききききききき嫌われてないわよ失禮ね!? カズは、そう、照れてるだけ! アタシのことが好きすぎてついイジワルしちゃうお年頃なのよ!」

ムキーッ! シャーッ! とにらみあう二人。噂に聞くマングースVSハブってこんなじなのかな。

ブタはいつものことだけれど――甘音ちゃん、長したなあ。

ほんの一ヶ月前なら、ブタににらまれただけで竦み上がっていたのに。今じゃもう、こんな風に対等ににらみ合うことができるようになった。これも俺へのの為せる技……というのは、自惚れすぎだろうけれど。

ふと周囲を見渡せば、辺りには人だかりができていた。たくさんの生徒がこちらに注目している。

さっきまでは羨と嫉妬まみれだった視線に、今度は「驚愕」が混じっている。

――まぁ、無理もない。

金バッチ中の金バッチ、この學園のボスであり、スクールカーストのトップに立つ「高屋敷瑠亜」が、無印の俺たちに自分から絡んできているんだからな。見ようによっては、ブタが俺にびてるようにも見えるかもしれない(本人は決して認めないだろうが)。

いわばブタは、自分が作った秩序(ルール)を自分で破壊しているわけで。

例の実験で例えるならば、「刑務所所長役」であるブタが、「囚人役」であるはずの俺に阿(おも)ねっているわけで。

「……ふむ」

件(くだん)のバッチ制度、そろそろぶっ壊してやりたいと思っていたけれど。

案外、ここに解決策があるかもな――。

と、その時である。

學食の片隅で、ドスの効いた怒鳴り聲が響いた。

「おいッ、ふざけんなよてめえッ!!」

あー、ブタさん書いてると、たのしー。

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