《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》19 その歪み、彼のため俺が斷ち切る

火花散らす生徒會長と家畜の元へ歩み寄りながら、俺は頭の中で考えを巡らせた。

今回の【バッチ制度】をぶっ壊す鍵となるのは、やはりあの家畜――ブタさんだ。

あの養豚場のクイーンは、いったい、何を考えているのか?

もともとこの學校でもっとも権力を持つブタが、わざわざこんなシステムを作る必要はないのだ。後押しした理事長の思は何かしらあるにしても、ブタにも何かメリットがあったはずだ。

ここ最近のブタさんの行を振り返ってみよう。

生徒會長・胡蝶涼華(こちょう・すずか)から発言の機會を奪い、自分が目立とうとした。

手下の特待生たちをそそのかして、聲優の卵・皆瀬甘音(みなせ・あまね)を襲わせた。

ブタさんが今、目の敵にしているのはこの二人ということになる。

甘音ちゃんを憎むのはわかる。イベントで恥をかかされたと逆恨みしているからだ。……だが、思えばそれより以前から、ブタは甘音ちゃんを嫌っていた節がある。甘音ちゃんを教室から追い出すようなマネをしていたのは、イベントより前の話なのだ。

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では、會長のほうは何故だろう?

俺が知る限り、會長が何かめごとを抱えているという噂は聞かない。そんなトラブルを起こすような人ではないのだ。ブタが一方的に敵視しているだけじゃないのか? だとしたら、その理由はなんだろう?

実は――。

俺にはひとつ、仮説がある。

「多分、これじゃないか?」という、仮説が。

甘音ちゃんと會長、この二人の【共通項】を考えれば、おのずと浮かび上がる事実があるのだ。

元・なじみの俺しか知らない「事実」が。

「いい加減にしろよ。瑠亜(るあ)」

二人のあいだに割ってり、家畜の名前を呼んでやった。

「カズっ。ひさしぶりにアタシの名前、呼んでくれたねっ♥」

この狀況にもかかわらず、目の中にハートマークを飛ばすブタさん。乏しい脳みそを発に振り切ってやがる。

「……鈴木くん、貴方……」

胡蝶會長は、その切れ長の目を見開いている。どこかホッとしたようながあるのは、議論が劣勢だったという自覚があるからか。

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見守っているギャラリーからは、骨な野次が飛んだ。「無印のくせに口を挾むのかよ」「無印が、出しゃばるな!!」などなど。その目はゴミを見るかのようだ。俺の人権、踏みにじられてるなあ。

大きく息を吸いこみ、そして靜かに吐き出した。

「黙れ」

學食が一瞬にして靜まりかえる。聲の迫力に飲まれたのだ。ここ一ヶ月、甘音ちゃんに付き合って地下書庫でボイトレしてた甲斐があった。

「俺は今から、二人と話をする。お前らこそ口を挾むな。出しゃばるな」

野次を飛ばした金バッチどもの顔を、ひとりひとり、にらみつけていった。

「そうよッ。アンタたちは黙ってなさい!」

「これについては、同ね」

二人も同意して、野次馬たちは苦り切った表で引き下がった。

さて――。

「なぁ瑠亜。お前の言ってることは、しおかしいぞ」

「な、何がよっ?」

「銀バッチが金バッチに席を譲ったりするのは、〝強制〟じゃないって話だったよな。お前自が、生徒集會でそう語っていたじゃないか」

「……それは、まぁ、そうだケド」

「でも、お前が今話してるのは、強制以外の何でもない。そこの赤鼻は、眼鏡くんが席を譲らないからって、暴力まで振るったんだぜ。強制してるじゃないか」

ジロリとにらむと、赤鼻は骨にひるんだ。

「い、いや、俺は強制なんて……」

ぐら、摑んでたじゃないか。なあ?」

眼鏡くんに尋ねると、彼はおそるおそる頷いた。さっきまで怯えて俯いていたのに。無印の俺が反攻しているから、勇気づけられたのだろうか。

「まぁ、ボーリョクはだめよね。腕力が強いほうが勝つっていうんじゃ、面白くないし。てか、アタシが威張れなくなるし」

ブタも同意した。これについてはさっき言質を取っている。ブタは自分がふるう暴力は構わないが、他人がふるう暴力には厳しい。とことんジャイアニズム。

そういうブタの格は、俺が一番よく知ってる。

そこをついてやる。

「だけどな瑠亜。なあ、聞いてるか、瑠亜」

「聞いてるわよ、カズっ」

瑠亜、瑠亜と、何度も名前を呼んでやった。

するとブタさん、とろーんと目を(とろ)けさせて。ひさしぶりに呼ばれるのが嬉しいらしい。うーん単純。……何故か、會長がし傷ついたような顔で俺をにらんでるけど、何故だ?

「お前が赤鼻をかばうってことは、暴力と強制を推奨してるってことなんだぜ」

「してないわよ。アタシはただ、〝善意で〟席を譲ってあげてって言ってるだけで」

「いいや。それは強制だ」

「ハァ? 意味わかんない。強制と善意の境目ってなによ」

「そこに〝謝〟があるかどうか」

俺は赤鼻をにらみつけた。

「お前、眼鏡くんに謝してるか?」

「…………いや、そりゃ、まあ」

「だったら、頭を下げろよ。席を譲ってくれてありがとうって、ほら。今からでも」

赤鼻は逃げるように視線を逸らした。

「言えないんだな?」

「な、なんで特待生の俺が、一般のヤツに頭を下げなきゃいけねえんだよっ。俺は特待生だぞ!? 學校から期待されてるエリートなんだ! なんでこんな、クソ蟲にッ!」

はい。本音ゲット。

みんな、聞いたな?

俺は聲を張り上げた。

「もう、このバッチ制度は止めたほうがいい」

學食は靜まりかえり、皆が俺に注目していた。

「このまま行ったら、取り返しのつかないことになる。この赤鼻みたいな、思い上がった自稱エリートの醜い姿であふれかえっちまう。お前ら、部活でいつも言われてるだろ? 『謝を忘れるな』って。部活の〆には必ず『ありがとうございました』って言うだろ。偉大な名選手は謝を忘れないって、聞いたことあるだろ。學生の時から思い上がってて、スポーツでも勉強でも長できると思ってるのか?」

今や、金バッチたちも俺の言葉に聞きっていた。

特待生になるくらいだから、彼らは一流のアスリート、優等生たちだ。謝の大切さは、指導者から叩き込まれているはず。バッチの魔力のせいで忘れていたそれを、ちょっと思い出させてやればいいのだ。

「たとえば――俺の知ってる人に、こんな人がいる。誰に頼まれたわけでもないのに、人知れず、総合グラウンドの整備をしてくれているんだ。朝早くから、綺麗な手を真っ黒にして、腰を折り曲げて。そういう人が、この學園には居るんだよ。もし謝を忘れたら、そんな『優しい人』がいなくなっちまうぞ」

胡蝶會長が、かすかに鼻をすすった。その瞳が潤んでいる。目元を赤らめて、俺のことを見つめていた。

そのとき、ずっと黙り込んでいた眼鏡くんが聲を上げた。

「ぼ、僕、家が貧乏だからっ。今からでも勉強がんばって、瑠亜さんが言うように特待生になろうって思って……さっきも、単語帳めくりながらご飯食べてたんだっ。だから、赤鼻くんがいたのに気づかなかった。もし気づいてたら、ちゃんと席譲ったよ!! 特待生のこと、尊敬してるんだから!」

俺は彼の肩を叩いた。

「立派だな。俺はお前を尊敬する」

眼鏡くんは頬を紅させた。

「聞いたか、瑠亜」

「…………っ」

「お前、集會で言ったよな。このバッチ制度は一般生徒に発してもらうためのものだって。さすが高屋敷瑠亜。お前の考えは正しい。彼はちゃあんと、発してるじゃないか。そんな彼の邪魔をするのか?」

「……そ、それはっ……」

もごもごとブタさんはうつむいてしまう。

「け、けどっ!! それとこれとは話は別っ!! この制度は、お爺さまだって賛してくれたんだからっ!」

「じゃあ、お前から頼んでくれよ。もうやめようって。あの爺さん、お前には甘いから大丈夫だろ」

「言うわけないでしょっ! ばか! ばかばかカズのばか! うんこたれ!」

うんこたれ、いただきました。

これが出たら、神的に追い詰められてる証拠である。

世論はすでに、俺に傾いている。

傲慢発言した赤鼻に対して、銀バッチばかりか、金バッチまでが非難の目を向けている。赤鼻はそれに狼狽(うろた)え、ブタの後ろに隠れるようにでかいこまらせる。

「お、お前ら、なんだってんだよ? 仲間だろ? そんな目で見るなよ」

「…………」

「見るなって、言ってんだろ! やめろォ!」

馬鹿が。

ああ言ったら、金バッチの賛同を得られると思ったんだろう?

逆だよ。

金バッチたちは、お前の中に己の傲慢さ、醜さを見てしまった。謝を忘れて暴走した、見たくない自分を見てしまったんだ。鏡で自分の醜い姿を見せられたら、誰だって目を背けたくなる。「俺たちはここまで醜くない!」そう思わせてしまったんだよ(そうなるように俺が導したんだがね)。

お前は失敗した。

道で心も鍛えるべきだった。

ひとりぼっちになって、1からやり直せ。

「と、ともかくっ、バッチ制度は、まだ続けるからっ」

ブタさんはあくまで、意地を張っている。あいかわらず強なことだ。さすがにこいつは赤鼻とは違う。たとえ全校生徒を敵に回しても、意地を張り通すだろう。

あとはこいつを落とせば、俺の勝ちとなる。

さあ。

最後の仕上げだ――。

「なあ、瑠亜」

俺は元・なじみのブタさんに歩み寄った。

こいつにだけ聞こえる聲で言った。

「もういい加減、意地を張るのはよせ」

「ど、どういう意味よ?」

「こんな大がかりなことをしてまで、甘音ちゃんを追い詰めることはない。會長を敵視する必要もないんだ」

ブタさんはぎくり、と肩を竦ませた。

「だ、だ、だだだ、だから、どーいう意味よっ?」

この期に及んで、シラを切るらしい。

ちらっと視線をやれば――會長があいかわらず俺のことを見つめている。不安からか、自分のを抱きしめるようにしている。そのポーズは、いけない。はちきれんばかりの「たわわ」が、強調されてしまう。

さらに視線を転じれば、甘音ちゃんがじっと俺のことを見守っている。やっぱり、會長と同じようなポーズで……普段は貓背で隠れている見事な「お餅」が、くっきりしてしまう。

再び、ブタさんに視線を戻そう。

そこにあるのは、ぺたーんとした絶壁。

「言っておくけどな、瑠亜」

「…………」

の価値は、の大きさじゃ決まらないぞ」

「!!!!!!!!! ………………♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」

たちまち、ブタさんの瞳に♥が舞した。

すっきりした顔で「とーぜんでしょッ!」と頷き、金の髪をさらりとかきあげる。

「わかったわ! カズがそこまで言うなら、頼んでみてあげるッ!」

「ああ。そうしてくれ」

學食が、ぽかんとした空気に包まれる。

さっきまで心配そうにしていた會長も、甘音ちゃんも、口を大きく開けて立ち盡くしている。いったい、何が起きたの? みたいな顔をして。頭の上に、たくさんハテナマークが浮かんでるみたいだ。

ブタさんの名譽のために、いちおうは黙っておこうか。

たわわとお餅に、手を出さない限り、だけどな。

私も、読者の皆様への謝を忘れないようにしたいです。

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