《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》23 馴染の彼氏が俺のこと○○○って言ってくる

さて……。

どうしたものかな。

白鷺(しらさぎ)イサミは男の子ではなく、の子だった。

この事実を果たして「人」であるブタさんは知っているのだろうか?

あの様子だと、おそらく「知らない」。

だからイサミくんを彼氏に選んでしまったのである。理由は惚れた腫れたじゃなくて、単純に「年だから」「演劇の特待生で目立ってるから」「そんなイケてる子を彼氏に出來ちゃうアタシマジすご~い! ッシャッシャ!」ってなところだろう。いかにもウシ目ほ類らしい淺はかな考えだ。

まぁ、ブタさんはどうでもいいとして。

彼のカウンセラーみたいなことを仰せつかった俺は、どうくべきだろう。

とか思っていたら、

「やっほー、カズゥ!!」

右手をぶんぶん振りながらブタさんが歩いてきた。目が腐る。

「こんなところで會うなんて! くふふふ。アタシに會いたくってつけ回してるんでしょうそうでしょう?」

「いや、お前が後から來たんだろ」

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自分の都合で因果律すら余裕でねじ曲げる。それがブタ屋敷ブ亜。

「でもおあいにく様~! アタシにはもう彼氏がいるんだから! 誰かさんよりよ~~~っぽどイケてる彼氏がね! 殘念でしたっ。ホラホラ、『ンンンンンンンン悔しいよううううううンンンンンンンン!』ってそこらを転げ回ってもいいわよ?」

「わー。くやしー。ごろごろ」

言われた通りにしてやったのに、ブタさんは不満顔である。

「まぁ、いいわっ! イサミとの仲を今日も見せつけてあげる! カズが泣いて謝るまで続けるんだからねっ」

「マジか」

泣いて謝るだけでこのブタヅラが視界から消えるのか。一瞬本気で考えそうになった。

ブタさんはドアノブに手を掛けた。

「おい待て。部屋にるつもりか?」

「そうよ。ここが演劇部の控え室だもん」

「まあ落ち著け。キャベツの千切りを添えるまで待て」

「なんでよトンカツじゃあるまいし!」

ドアを開けて、中にっていった。

「あっ、瑠亜さん」

しっかりと制服を著込んだイサミくんがパイプ椅子に座っていた。髪がしっとりしている。シャワーは終わったようだ。

ふう。良かった。間に合って。

そんなことはつゆ知らないブタさんは、ふふんと金髪をかきあげる。

「稽古を見に來てあげたわ! この大人気聲優のアタシが、アンタの演技を酷評してあげる! ありがたく思いなさい!」

「……あはは。ありがとうございます」

困ったような笑みを彼は浮かべた。

それから、ブタの後ろにいる俺の姿に気づいて目を見開き、

「あ、あれっ!? 和(かず)に……和真せんぱい! ど、どど、どうしてっ!?」

「いやまあ、ちょっとな」

ブタさんの橫槍がウザイので、詳しいことは話さない。

「教室でよく顔を合わせるけど、ちゃんと話したことはなかったからさ。一度じっくり話してみるのもいいんじゃないかなって」

いきなりこんなことを言ったら怪訝な顔をされるかも――。

そんな風に思った俺の不安は、杞憂に終わった。

彼はパッと表を輝かせると、勢いこんで頷いたのだ。

「は、はいっ! ぼ、ボクもせんぱいとお話ししたいなあって、思ってたんです! ぜひ!」

予想外の反応だった。

なんでこんな喜んでるんだ?

「うふふふ。なあにカズ? 『俺のに手を出すな!』とかゆっちゃう? ゆっちゃうわけ? やぁんっもお、どんだけアタシのこと好きなんだかっ♪」

ブタさんはいいじに舞い上がり、カラッと揚がっている。本當に千切りキャベツ添えてやりたい。

「いいわ! じゃあ二人っきりにしてあげる! このアタシを巡って決闘でもなんでもすることねっ! 結果は明日聞かせてもらうからっ!」

おっ、居なくなってくれるようだ。ラッキー。

「武の使用以外一切を認めますッ!」という言葉を殘して、ブタさんは意気揚々と出て行った。どこの地下だよ。

二人きりになった。

イサミくんは、瞳を輝かせて俺のことを見つめてくる。何かを期待するようなまなざしだ。

鼻をくすぐるのは、シャンプーの香り。

じゃない。の子の甘い香りだった。

「実は、演劇部の部長さんから頼まれているんだ。君の話を聞いてやってくれって」

「えっ。香川先輩から?」

彼は目を見開いた。ちょっと大げさなくらい。

「あまり部に馴染めてないんじゃないかって、心配してたよ」

「ごめんなさい。演劇部は、みんな良い人たちです。ボクがその……人見知りしてるだけで」

そうして憂いを帯びた顔をすると、ドキッとするほど綺麗だ。ショートヘアから覗くほっそりとした首のラインが艶めかしい。事実を知った後だからか、もう可の子にしか見えなかった。

こんなを抱えていたんじゃ、人を避けて當たり前だな……。

「最初に會った時から気になってたんだけど、前にどこかで會ったことあるかな?」

彼ははっとした顔になった。

「ぼ、ボクのこと、覚えて……っ?」

「いや、生憎。だけど、君は俺を知ってるみたいだから」

彼はがっくりと肩を落とした。

「そ、そうですよね……。覚えてるはず、ないですよね」

「やっぱり、會ったことあるんだね」

こくんと頷いた。

「せんぱい。古宮(こみや)道場って、覚えてます?」

「ああ、もちろん」

それは、俺が小學校の時に通っていた道場の名前だ。合気の流れを組む古武を教えるところで、SPや警察、自衛など「護衛」を職業とする人々が通う、ちょっと特殊な道場である。外國で傭兵やってる人なんかもいて、まことにインターナショナルな道場だった。

俺はそこに、あのブタの爺さんの命令で通わされていた。いざという時、孫娘を守る護衛とする腹づもりだったのだろう。當時の俺は「古武なんてかっこいい、漫畫みたいだ」なんて無邪気に思ってたっけ。

「だけど、古宮道場に俺以外の子供なんていなかったけど」

「はい。子供で1年以上続いたのはせんぱいだけだって、當時聞きました。ボクは2ヶ月くらいでやめちゃいましたから」

そこまで知ってるってことは、どうやら本當らしい。

「ボク、子供の頃は太ってて、意気地無しで……。古宮師範と仲が良かった祖父の考えで、道場にれられたんです」

「それはずいぶんな荒療治だな」

あんな荒くれ者だらけの道場(とこ)、子供が來るような場所じゃない。めっちゃスパルタだし。なんとかヨットスクール顔負け。

「ボク、大人のひとにたくさんしごかれました。毎日、泣いてました。そんなボクを守ってくれたのが『和(かず)にぃ』だったんです。子供なのにめちゃくちゃ強くて、めちゃくちゃかっこよくって。憧れでした」

「……あああ、あー!」

だんだん、記憶がよみがえってきた。

あれは小學三年だか四年だかの時だった。小さな男の子が道場にってきて、仲間ができて嬉しかったのを覚えている。

名前はもう忘れたけど、確か俺は彼のことを――。

「いっちゃん? お前、いっちゃんだったのか!」

「うんっ!」

イサミこと、いっちゃんは笑顔を弾けさせた。

「やっと、やっと思いだしてくれたんだね! 和にぃ!」

いっちゃんはを乗り出して、俺の手をぎゅっと握った。

「なるほどなぁ。いや、全然わかんなかったよ」

「えへへ。あの頃ほんと太ってたし、わかんないよね……」

「早く教えてくれたら良かったのに」

「転してから、しばらく気づかなかったんだもん。まさか和にぃが帝開にいるなんて思わなかったし。それに和にぃ、わざと目立たないようにしてたでしょ?」

「まあな」

あのブタと、その祖父からきつく言われていたからな。「目立つな」って。「お前はとなって瑠亜に寄り添え」とか、今にして思えばとんでもない理不盡なことを、子供の俺に刷り込んで。い俺は「の子を守るのは男の務め」なんて、疑いもせず信じ込んで。アレはの子じゃなくてブタなのに。

絶縁できて本當に良かった。

「そうこうしてるうちに、なぜか瑠亜さんに見初められちゃって。瑠亜さんが和にぃのなじみって聞いた時は、びっくりしたよ。なんだか妙な縁だよね」

「その縁はもう切れてるよ」

いっちゃんはちょっと変な顔をしたけど、深くは聞いてこなかった。

「あの……ね。ボク、あの頃から和にぃにヒミツにしてたことがあって」

顔を真っ赤にして、気味にモジモジする。に親指を當てる仕草が可いというか、いというか。そういえば、このクセは昔からだ。

「じ、実はね? ボク……ボク……の子、なの」

「……」

うん。知ってた。

「和にぃのことが大好きな、の子なの」

「…………」

それは、知らなかった。

「お嫁さんにして?」

いや待て。

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