《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》24 馴染の斷末魔(まだ生きてるしぶとい)
レビュー書いていただきました。
謝。
「ボク、和にぃのこと、ずっと好きだった」
俺の手を握ったまま、いっちゃんこと白鷺イサミは言った。
「太ってて暗かったボクのこと、和にぃだけが構ってくれた。道場でボクだけ居殘りさせられた時も、和にぃは付き合ってくれた。今思い返すと、あれがどれだけ特別なことかって思うんだ。――劇団にってボクが痩せて、子役として騒がれるようになったら、たくさんのの子が寄ってきた。大人たちも優しくしてくれるようになった。だけど、あの頃のボクに優しくしてくれたのは、和にぃだけだったから」
くりっとした目が、間近から俺を見つめている。目はこんなに大きいのに、鼻やは小ぶりでとてもらしい。長いまつげで、何度も瞬きを繰り返して。俺が手を離そうとすると、「ヤダ」ってするみたいに、ぎゅっと握り返してくる。
昔から、思い詰めたら何をするかわからないところがあったけど――。
今は、想いが暴走している。
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「ちょっと、落ち著こうか。いっちゃん」
もう一方の手で彼の肩を叩いた。
「再會して嬉しいのはわかる。俺だって嬉しい。でも、ちょっと話を急ぎすぎてる」
「……う、うん……だよね。ごめんなさい」
バツ悪そうに、いっちゃんはうつむいた。
「まず、どうして男子のふりをしてるのか教えてくれないか?」
それを聞かないことには、話が進まない。
「白鷺家のしきたりなの。逆子(さかご)で生まれた子は、十八歳までは男子として生きなきゃいけないって。そうしないと、一族全に不幸が降りかかるんだって」
「そりゃまた、時代遅れな迷信だな」
「しょうがないよ。當主さまにはお父さんもお母さんも逆らえないもん」
いっちゃんの家のことは俺も詳しくないが、古くからの大地主という話を聞いたことがある。この辺は都會とは言いがたいし、田舎特有の舊い因習が殘ってるんだろう。
「學校にも話を通してあって、著替えなんかもずっと別々だった。先生に腫れみたいに扱われて、だから友達もろくにできなかったよ。ボクと話してくれたのなんて、和にぃくらい。道場は厳しかったけど、行くのは本當に楽しみだったんだよ。和にぃに會えるから」
い頃の記憶が甦る。
心細そうに畳の上に立ち盡くすいっちゃんの手をひいて、や組み手のやり方を教えたっけな。大人の前では怯えていたけど、俺の前ではいつも楽しそうだった。
「それから演劇の勉強にも都合が良かったんだ。男の子として日常的に振る舞うことで、演技力がつくって。前にいた劇団の座長さんのけ売りだけどね。実際、それで上手くなったと思う」
「…………」
わざわざ帝開學園が特待生として招くほどだから、役者としての実力は高いのだろう。
しかし――。
「だけど、いっちゃん。さっきの演技は上手くなかったな」
彼はぎくり、と表を強ばらせた。
「な、なんのこと?」
「さっき、演劇部部長から頼まれたって話をした時、態度が不自然だった。実はあらかじめ部長から聞いて知ってたんじゃないのか? 俺が今日、ここに來ることは」
彼は呆然とした顔になった。
「どうして、そう思うの?」
「この部屋のドアに鍵がかかってなかった。だってバレないようにしていたわりは、ずいぶん不用心じゃないか」
「そ、それは、ついうっかり……」
「本當に?」
じっと目を見つめると、彼は大きくため息をついた。
「やっぱり、和にぃに噓はつけないね」
「どうして、鍵をかけなかったんだ?」
「だって、和にぃに気づいてしかったんだもん。ボクはの子だよ、って。和にぃのことが大好きなの子だよって、気づいてしかったんだもん……」
「それで、シャワーを浴びてたのか。いろいろ危ないとは思わなかったのか?」
いっちゃんの顔が赤く染まった。
赤い蕾(つぼみ)のようなを尖らせて、ぽつりと言う。
「……ボク、和にぃになら、何をされてもいいよ……」
いやいや待て待て。
また「思いつめる病」が発してしまっている。
俺はいっちゃんの震える肩を抱き寄せた。ぎゅっとハグして、背中をさすってやる。
「んぅっ………和にぃっ……」
彼は甘えるように、俺のに顔を埋めてきた。栗ショートのつむじから甘い香りがする。腕の中のあるのは、壊れものみたいに華奢な。いっちゃんがの子なのだと、強く意識させる。
「ボク、ずっと不安で不安でしかたなかったんだ。無理やり瑠亜さんの彼氏ってことにされて。逆らえなくて。このままの子に戻れなかったらどうしようって怖くなった。ずっと好きだった人が、こんな近くにいるのに」
「やっぱり、アレとの際は強制か」
いっちゃんは頷いた。
「瑠亜さんから彼氏になれって、脅されたんだ。『もし斷ったら、來月の公演を中止にするわよ!』って。みんな、あんなに頑張ってるのに。ボクのせいで中止なんて、そんなことできるわけないじゃないか」
「なるほどね」
そんな妨害をしたら、帝開學園にとって不利益になるはずだが――あのブタはそこまで考えてはいまい。脳みその代わりにクソが詰まっている。
甘音ちゃんといい、胡蝶會長といい、いっちゃんといい。
どれだけの人に迷かければ気が済むんだ?
「わかった。それは俺がなんとかする」
いっちゃんは驚きの顔を浮かべた。
「本當に?」
「ああ」
あのブタの被害者を救うのは、もう俺の役目となりつつある。
「でも、いくら和にぃでも、あの『瑠亜姫』に逆らうことなんて……」
「いや。逆らわないよ」
「え?」
俺はスマホを取り出した。
あのブタの電話番號――はとっくに削除してあったので、しかたなく記憶から引っ張り出した。攜帯のメモリは消せても、記憶はなかなか消せない。まぁ、今回はそれで助かった。
一回もコールしないうちに、ブタさんが電話に出た。俺からの連絡を待ちわびていたようだ。
『やっほーカズ! どう? 決著はついた?』
「ああ」
『ふふふ。やーっぱりしいアタシを巡ってケンカになったのね! 決闘になったのね! で、結果は?』
「負けた。ボコボコにされた」
『!?』
ブタさんの驚愕が、電話口から伝わってきた。
『ま、負けたって噓でしょ!? カズが負けるはずないじゃん。古宮流免許皆伝でしょ? お爺さまが前に言ってたわ。カズはもう立派な殺戮マシーンだって』
「ケンカで相手を殺せるわけないだろ。俺は手加減が下手なんだ。だからケンカは弱い」
これは本當のことだ。
殺し合いなら普通の人間には負けないと思うが、ケンカとなれば話は別。俺はそんな用じゃない。だから、古宮師範にも「免許皆伝やるから、もう出てけ」って道場を追い出されたのだ。
「そういうわけだから、悪いな。俺は涙を呑んでお前を諦める。強い強い白鷺イサミくんと結ばれて、幸せになってくれ」
『――――』
開いた口が塞がらない、みたいな沈黙がしばらく続いた。
それから、
『むぎゅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!! なんでそーーーーーなるのよもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
汚い咆哮がスピーカーから響き渡った。
うるさいので電話を切った。目的は果たしたのだ。
「い、今のは何? 和にぃ?」
「ブタさんの斷末魔」
これでもう、アレがいっちゃんに粘著する理由は消滅した。明日には際解消を切り出すだろう。
問題は、その後。
これでおとなしく引き下がるようなブタさんじゃない。また別の手を打ってくる。今度はもっと悪辣な計畫を練ってくるに違いない。甘音ちゃんや胡蝶會長たちにも、危害が及ぶような。
それに、どう対抗するか――。
「一度、きっちり話すしかないな」
獨り言のようにつぶやくと、いっちゃんが首を傾げた。
「話すって、瑠亜姫と?」
「いいや――」
俺は首を振り、「諸悪の源」の名を口にした。
「この學園を牛耳る黒幕。高屋敷泰造(たかやしき・たいぞう)と」
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