《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》27 俺は「絶縁者」(ノーブランド)

シャツの背中が汗で濡れる季節になった。

真夏。

一學期最終日の朝である。

いよいよ明日から夏休みということで、教室の空気はどこか浮き足立っている。イケてる軍団も、そうでない連中も、表が明るい。大きな聲で夏休みの予定を話し合っている。頻出単語は「海」「プール」「花火」。夏の代名詞みたいな単語が四方八方から飛んでくる。

そんななか、俺は一人。

窓際の席で、文庫本を友としている。

ブタとの絶縁以來、ますますぼっち屬が加速した俺である。

以前と異なるのは、周囲の見る目が変わったことだ。あの學食の一件以來、一目置かれるようになった。廊下を歩いてると道を譲られたり、あるいは何故か握手を求められたり。甘音ちゃん曰く「特待生には恐れられて、一般生徒には慕われている」らしい。いやはや。どっちも過大評価である。

絶縁者(ノーブランド)。

俺のことを、そんなあだ名で呼んでいるやつもいるらしい。

例のバッチ制度から來ているのだろう。

Advertisement

特待生でもなく、一般生徒でもない。何者にも屬さず、染まらない「無印」。――そんな風に言えばかっこいいけど、ようは「ぼっち」の言い換えじゃないか? 俺としてはそんなものより「普通(ノーマル)」の稱號がしいんだけどな。

その時、ひときわ大きな聲がした。

「えーっ、淺野それマジ? マジでゆってんの?」

ダンス部の鮎川彩加(あゆかわ・あやか)。

ブタさんと並ぶ、この一組の中心子である。

ふわっとウェーブのかかった茶髪を、ポニーテールにしている。他にも髪を染めている子はいるが、彼の髪は薄く淹れた紅茶のようなをしている。くっきりとした目鼻立ちといい、スラッと長い手足といい、掛け値無しのである。噂では大學生の彼氏がいるらしいが、それも納得。もうパッと見からして「ああ、俺と生きてる世界が違うな」っていうギャルのオーラを放っていた。

ブタさんがまだ登校してないので、王の座を獨り占めしているようだ。野球部・淺野以下、イケてる軍団を周りに侍らせている。

Advertisement

「いや、マジのマジよ。彩加と一緒に花火大會行けるなら、俺死んでもいい!」

「うそくさっ。どうせ瑠亜姫に斷られたからっしょ?」

「ち、ちげーって!」

周りからどっと笑いが起きる。「淺ピー、見かされてんよ~」と野次が飛ぶ。淺野は半笑いになりつつも、額に汗をかいている。冗談っぽく迫ってるけど、意外に本気なんじゃないかな。夏休み前になんとしても彼を作りたい、そんな必死さが見える。

鮎川は、短いスカートからびた腳を大膽に組み替えた。付きのいい太ももに、淺野の鼻の下がびる。

「つか、あーし彼氏と行くし。ふふ、クルマ出してもらうんだぁ」

「た、頼むよ彩加ぁ~! みんな連れなんだよ。俺一人で花火見たくねえよ」

「知らねっつの。免許取れるトシになったらまたおいで~」

うーん。死ぬほどどうでもいい。

興味を失って読書に戻ろうとしたその時、俺はし離れた位置で立ち盡くす眼鏡の子生徒に気づいた。

その表は困り果てている。

それで、俺も気づいた。

鮎川が今、その形の良いを載せているのは、機である。鮎川のではない。その子生徒の機だった。

キャの十八番、「キャの席を獨占しておしゃべりに夢中」が炸裂しているわけか――。

見て見ぬふりをしようと思ったが、その子が持っている文庫本が目にり、気が変わった。その本は、こないだ俺が地下書庫から図書室に戻した本だった。時々、「こんな名作が地下に?」という本があるので、サルベージしている。それを見つけてくれた子を見捨てるのは忍びない。

「おい、鮎川」

近づいて聲をかけると、彼骨に不機嫌な顔を浮かべた。

「あ? なによ。何か用?」

「そこ、お前の席じゃないだろ。どいてやれよ」

「はぁ? ……キモッ」

鮎川は俺をにらみつけた。

「瑠亜のドレイが、気軽に聲かけないでくれる?」

「もうチャイムが鳴るぞ。自分の席に戻れ」

「まだ鳴ってないし。それまで何しようとあーしの勝手でしょ」

と、聞く耳持たない。

思えば鮎川は、以前から俺に対する態度がきつかった。口をきくのだってこれが初めて。絶縁のきっかけとなった例のカラオケでも、一番大きな聲で俺を笑っていた。理由はわからないが、嫌われているらしい。

しょうがないな……。

「キャッ!!」

俺は鮎川のを抱きかかえた。

暴れる隙など與えない。スムーズに持ち上げてスムーズに下ろす。いわゆる「お姫様だっこ」の勢はほんの一瞬。相手の重心さえ見誤らなければ、造作もないことだった。

「……なっ、な、ななっ……」

「ほら、今のうちに」

顔を真っ赤にする鮎川を無視して、俺は眼鏡の子に聲をかけた。彼はぺこっと一禮して、恥ずかしそうに席についた。

「ざけんなてめえ! な、何してくれてんのよっ!?」

鮎川が詰め寄ってきた。緩くぶら下げた制服のリボンが俺のれる。第二ボタンまで外したブラウスのふくらみは薄い。なるほど。このならブタさんと「お友達」なのも頷ける。

「ねえ淺野! こいつやっちゃってよ!」

だが、淺野は気まずそうに視線を逸らした。

さっきまでびまくっていたくせに、怯えたようにうつむいている。

「い、イヤ、彩加。そいつはやべえよ。やべえって」

「はぁ? こんなやつタダのキャじゃん。何ビビッてんのよ。ねえってばぁ!」

他の男子たちも、淺野と同じように目を伏せる。

鮎川はうろたえたように周囲を見回した。

「どうしちゃったのみんな? こんなやつただのザコっしょ? こないだ、カラオケで指さして笑ってやったばっかじゃん。ねえ――」

その時である。

「やっほー♪ カズぅ~! おっはろ~~~ん!」

ブヒヒーン! と響くブタの聲。

ブタのしっぽのように右手を振りながら、高屋ブタ瑠ブが駆け寄ってきた。ちっ、欠席じゃなかったか。

「なあに、こんなところで立ち話しちゃって。もしかしてアタシが來るのを待ってたトカっ?」

そういえばここ、ブタさんの席の近くか。道理でワラの匂いがすると思った。

「んん~? なんかめてンの? ねえ彩加。アタシのカズがなんかした?」

「え、えっと……べつに、なんでもないし?」

鮎川は強ばった笑みを浮かべた。

名門と言われる帝開學園ダンス部の特待生であり、學年のファッションリーダー的な立ち位置にいる彼でも、理事長の孫娘には逆らえないのだ。

「そうなんだ。なんでもないんだ。……ほんとに?」

「ほ、ほんとだって。やだなぁ、瑠亜姫。あたしが、姫のドレイに手ぇ出すわけないじゃん」

気まずそうな鮎川のことを、ブタさんはじろじろ見つめていた。

……なんだろう。

なんか、いつもよりブタさんの追及が鋭いというか、しつこいというか。

いっちゃんと別れたばかりで、気が立っているんだろうか。

「――ま、いいけどね」

ブタさんは鮎川から興味を失うと、その絶壁を俺の腕にりつけてきた。痛い。削れる。

「ねぇねぇ、カズっ。今年の花火大會はどうする? またお爺さまに特等席用意してもらう? でもでも、今年は二人で行くのも良いと思わない? ねえ?」

「お、チャイム鳴った」

ブタを振りほどいて、俺は席に戻った。「もぉん、カズのいけずぅ。略してカズズゥ♥」とかほざている。カズズゥ。なんだその新型モビルスーツ。

去り際――。

忌々しそうにつぶやく鮎川の聲が聞こえてきた。

「ノーブランドのくせに」

その聲は、しばらく俺の耳に殘った。

さて――。

高校生になってはじめての夏休み。

俺にとってこの夏は、海でも、プールでも、花火でもない。

アルバイトの夏だ。

実はずっと憧れていたのだ。自分の力でお金を稼ぐ。なんて尊いのだろう。ゲームでも本でも、自分の稼ぎで好きに買える。いつも苦労をかけている母さんに、ささやかなプレゼントだって贈れるだろう。

俺が採用されたのは、隣町の駅前にある個人経営の喫茶店だ。

子はミニスカートのメイド服。男子は執事のようなタキシード姿で接客するということで、一定の客層に有名な店である。

バイトのことを話した時、甘音ちゃん・涼華會長・いっちゃんの反応はこうだった。

『しっ、執事服著るですかっ!? 和真くんがっ? ぜ、ぜったい行きます!!』

『アルバイトで執事? 言ってくれたらうちの屋敷で雇ったのに。絶対行くから。予約をお願い』

『ぶー。ボクもカズにぃとバイトしたかったなぁ。ゼッタイ遊びに行くからね?』

いやあ。恐ろしい。

どうにかこの三人がかち合わないようにしないと。バイト先が修羅場になってしまう。

初出勤の日。

開店30分前に店へると、一人で掃除中だったメイドさんに出くわした。

「ひぁっ!? な、ななな、なんであんたがここにっ……」

鮎川彩加。

學校で見るのとはまるで違う、可憐なメイド服にを包んだギャルが、モップを持って立ち盡くしていた。

作品を読んで「面白かった」「続きが気になる!」と思われた方は

下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと、

執筆の勵みになります。

ありがとうございます。

    人が読んでいる<【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可愛すぎる彼女たちにグイグイ來られてバレバレです。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください