《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》34 凡人なのに「天才會議」に呼ばれてしまった

ラップのようなレビューをいただきました。

ありがとうございます。

ブタさんと人形が店を出て行った。

その間際、ブタさんが投げキッスをかましてきたので、バク宙してかわした。「もうカズったら、また照れちゃって♥」。照れてねえ。照れてバク宙なんかしねえ。それを見た鮎川が目を丸くする。くそ。またしても普通じゃないところを見られてしまった。

「さぁて、と」

仕切り直すかのように、高屋敷羅(たかやしき・みら)は言った。

こうして向かい合っていると、まったく普通にしか見えない。普通の、おっとり人だ。

だが、その正はどうか?

俺が知る限り、彼は世界で五本の指にる〝合気〟の達人だ。

それなのに「普通」にしか見えないというのが、どれほど規格外のことなのか――。

いずれ俺も、あの境地まで辿り著きたいものだ。

「ねえ和(かず)くん。いちおう聞いておくけれど~」

「はい師匠」

「…………あれ~? なに聞こうと思ったんだっけ~?」

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「…………」

知らんがな。

まぁ、この人はいつもこんなじだけれど。昔から。

「ああ思いだした。和くんは、もう高屋敷家に戻る気はないの~?」

「ありません」

そう答えるのに、なんの躊躇いもない。

前(ごぜん)は、あなたのことあきらめてないわよ? 何がなんでも瑠亜ちゃんの婿にするつもりだと思うけど~」

「迷です」

「そうはいっても、この國で一番の権力者だからねえ~。これから大変よ~?」

「覚悟の上で、絶縁したんです」

師匠は扇子で口元を隠し、ため息をついた。

「本當に解けちゃったのね。『服従の洗脳』。簡単には解けないようになってるはずなんだけどなぁ? よほどの士に出會ったのね」

士? 覚えがないですね」

「うそうそ~。いくら和くんでも、自力では絶対ムリよぉ。解除のキーワードを言わないと」

「キーワード?」

「そ。主(マスター)である瑠亜ちゃんが口にしないと、効果を発揮しないようになってるはず。絶縁の時、彼に何か言われた?」

「『あんたと馴染ってだけでも嫌なのにw』」

師匠は扇子で自分のおでこを叩いた。

「絶対それよぉ~! 『主従関係の解除である』と和くんの脳が認識しちゃったのよ~! ああもう、なんでそんなこと言うかなぁ~瑠亜ちゃん!」

「そのつもりはなく、つい口にしたんでしょうね」

調子に乗ってるうちに、「超えちゃいけないライン」を踏み越えてしまったのだ。ブタさんあるある。ついさっきもクラスメイトを殺そうとしたように、その時のノリで、法律でもなんでも破ってしまう。

「どうします? 俺を連れ帰って、もう一度洗脳しますか?」

「おとなしく洗脳されてくれる~?」

「まさか」

せっかく手にれた自由、手放せるわけがない。

「まぁ、もう手遅れだけどね。洗脳って、子供の時からずーっと刷り込んでいかないとできないし。高校生まで育っちゃったら、再洗脳はもうムリね~」

「あの零(れい)って子も、洗脳ずみなんですか?」

「そ。〝超神(ちょうじん)機関〟がSS評価つけた自信作なんだって」

「さっき、軽くボコッちゃいましたけど」

「…………。聞かなかったことにしよ~っと♪」

師匠はしれっと目を逸らした。

「洗脳が解けたことで、潛在能力の制限(リミッター)も外れていくと思うわ~。くれぐれも気をつけてね?」

「何か危険でも?」

「あなたが、じゃなくて周りが。ていうか、この世界が」

「そんな大げさな」

「大げさなものですか。和くんが全力を出したら、この日本が壊れちゃうでしょ」

ふうん。そうなのかな。

仮に本當でも、俺には関係ない。

「安心してください師匠。俺は普通に生きていくつもりです」

「普通ね~? あなたが〝普通〟ね~?」

師匠は俺の姿をじろじろと見つめた。めちゃめちゃ疑われている。

「じゃあ、そろそろ私帰るから~。今度は客として來たいわね~」

「ぜひ。師匠ならサービスしますよ」

「今度は、敵同士かもね」

「その時も、手加減(サービス)します」

「言うわねぇ~、この弟子クン!」

の著流しの袖を振り、師匠は今度こそ帰っていった。

には、俺と鮎川だけが殘された。

靜まりかえった空気のなかで、鮎川がつぶやくように言った。

「なんか、すごかった……。あの師匠って人の話も、和真のス○ブラみたいなきも、まるで現実がないや」

「……」

スマ○ラって言われたのは初めてだな……。

「すまない。変な騒に巻き込んで」

鮎川は笑って首を振った。

「元はといえば、あーしがまいた種だもん。あーしが、ずっと噓ついてたからだもん。瑠亜が怒るのもわかるし、しかたないよ」

「あいつが出した條件、本當に呑むのか?」

「もちろん。もう一度特待生審査ける。あーしのダンスで、もう一度奨學金勝ち取ってみせるよ」

だけど、と彼は笑った。強がりの笑みだ。

「だけど、だけど…………和真とクラス別れちゃうのは、寂しい……かな」

俺はメイドの細い腰を抱き寄せた。

「大丈夫だよ。鮎川は強いから、大丈夫」

「……ウン……」

紅茶の髪を優しくでながら言い聞かせた。

「ごめんね和真。あのカラオケの時のこと、ちゃんと謝ってなかった。あの時笑っちゃって、本當にごめん。あーしに、あんたと仲良くする資格なんかないのに」

「仲良くなるのに、資格がいるのか?」

の中に収めた溫もりに問いかけた。

「俺には友達がいなかったから、わからないんだ。それが『普通』なのか? だとしたら、ずいぶんくそったれな普通もあったもんだ。鈴木和真は、鮎川彩加を尊敬している。仲良くなる理由はそれで十分だ」

鮎川は嬉しそうに微笑んだ後、まつげを伏せた。

「でもそれじゃあ、あーしの気が済まないの」

らしい律儀さだった。ルックスは今どきのギャルそのものの彼が、こんないじらしい誠実さを持っていることに、それを俺だけが知ってることに、喜びを覚える。

ならば――。

「じゃあ、ひとつ頼みがある。あのカラオケの時、俺は一杯お灑落していったんだ。イケてる軍団の仲間にりたくて、わざわざ容院まで行って。俺的にはかっこいいつもりだったんだけど、笑われた。それは、俺がダサかったからだよな?」

「ん……。まぁ、ちょっと背びしすぎてたのかも。普通のお灑落で良かったと思う」

「そこだよ」

俺には「普通」がわからない。

だから。

「鮎川。俺を普通に、かっこよくしてくれないか? 『髪切って登校したらいきなりワーワー騒がれる』とかでなくていい。普通でいい。ふつーに、かっこよくしてしい」

鮎川は笑顔になった

「まかせて! あーしが服と髪型コーディネイトしてあげる! 世界一かっこよくしてあげるから!」

「いや。世界一普通にしてくれ」

世界一の時點でもはや普通じゃない気もするが、まあいい。鮎川先生にお任せしよう。

「じゃあ、今度の休みにお出かけしようねっ。……えへへ」

鮎川は頬を赤らめて、俺のの中でもじもじした。メイド服と執事服がれの音を立てる。紅茶の髪から漂う清潔な匂いに、異を意識した。

「あの、さ。さっきの、キス、だけど……」

「ごめんな。強引にして。怒ってる?」

「それは、いいんだけどっ。いいんだけどっ……あーし、初めてだったから、さ……」

俺のすぐ目の前で、彼の瞳が潤んでいる。

「ちゃんと、ムードあるじでやり直したいの……。ダメ?」

「いや。栄だね」

嬉しそうに彼が微笑む。

目を閉じるのを待ってから、を重ねた。

しばらく、溶け合っていた。

ゆっくり離すと、さっきより熱を帯びた瞳が俺を見つめていた。

「……ごめん、もう、いっかい……」

三度目は、目を閉じるのを待たずにした。

「…………も、いっ、かい…………」

四度目で、もつれ合うようにソファへ倒れ込んだ。

この夜。

俺は彼に、五回の「初めて」を経験してもらった。

バイトを終えて帰宅する、その暗い夜道。

ポケットの中でスマホが震した。

畫面に表示されていたのは生徒會長・胡蝶涼華(こちょう・すずか)先輩からのメッセージだった。

曰く――。

『親なる和真君へ』

『貴方に、我が帝開學園が誇る〝天才會議〟への出席を求めます』

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