《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》35 天才達に混じれば俺も〝普通〟になれるという完璧な理屈

またひとつ、レビューをいただきました。

ありがとうございます。

翌日の朝である。

晴れ渡る青空の下、通學路途中にある公園のり口で待っていると、流線型を白銀で彩るスポーツカーが橫付けされた。

運転席のウインドウが開き、銀髪の帰國子が笑顔を覗かせる。

「ごきげんよう、和真君。會いたかったわ」

胡蝶涼華(こちょう・すずか)會長。

クルマで迎えに來るというから、運転手つきのリムジンか何かかと思いきや、まさかまさかの自分で運転。

「おはようございます。免許持ってたんですね」

「まあね。どう? このクルマ」

「會長と同じ髪ので、かっこいいです」

「ん。90點。かっこいいじゃなくて『會長綺麗です』だったら、100點だったわ」

生徒會長は微笑を浮かべた。まぁ、赤點ではなかったようだ。

俺が助手席に乗り込むと、先輩はクルマを発進させた。ぐいぐいスピードを出して、あっという間に公園が見えなくなる。見かけによらずスピード狂のようだ。

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「ところで先輩。『天才會議』ってなんですか?」

昨日のメッセージのことを俺は尋ねた。

「その名の通り、學園が認めた天才だけが出席を許される會議よ。議題は様々だけど、今回は秋に迫った〝帝皇戦(ていこうせん)〟についてね」

「帝皇戦?」

「一年の貴方は、知らないわよね」

赤信號で停車した。橫斷歩道を渡るサラリーマンがまずクルマに見惚れ、次に運転手が制服姿のであることに目を丸く見開いた。

道行く人々の注目を集めながら、貌の生徒會長は會話を続けた。

「私立・皇神(こうじん)學院との対抗戦のことよ。學問・スポーツ・格闘技・蕓能などなど、あらゆる分野で激突して勝敗を決めるの」

「皇神學院っていうと、あの皇神グループが運営している學校ですよね」

「そう。帝開グループの、宿命のライバルよ」

皇神グループとは、帝開グループに負けずとも劣らない規模を持つ大企業群である。帝開と同じく舊財閥系の流れを組み、そのライバル関係は江戸時代にまで遡るという。

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「皇神が相手じゃ、前(ごぜん)――高屋敷理事長が眼になってそうですね」

「ええ。みっともない負け方をした生徒には、罰が與えられることもあるわ。逆に功績を殘せば、奨學金の名目で莫大な賞金が出たり」

信號が青になり、クルマが発進した。

「そんな大事な対抗戦について決める會議に、俺が? どう考えても出る幕じゃないと思いますが」

「十分、參加資格があると思っているわ。あのバッジ制度を叩き潰した貴方の知略を、天才たちに認めさせるチャンスよ」

學園の建が見えてきた。

五つもあるグラウンドの近くを通りがかると、そこには炎天下で汗を流す部員たちの姿がある。校舎からは吹奏楽部の楽の音や演劇部の発聲練習が聞こえてくる。夏休みとは思えない活気だった。

「みんな、帝皇戦に向けて燃えてるのよ」

そんな彼らに、涼華會長が向けるまなざしは優しい。

毎朝毎朝、人知れずグラウンドの石を拾っている姿が、その橫顔に重なった。

「お願い。和真君。私を救ってくれたあの力を――みんなに貸して頂戴」

帝開學園には、巨大な地下フロアがある――。

噂には聞いていたが、足を踏みれるのは初めてだった。

昇降口近くの一階エレベーターに乗り込むと、會長は自分の指紋を裝置にかざした。晶パネルに見たこともない表示が浮かび上がり、エレベーターが靜かに下降を始める。

「すごいな。基地みたいだ」

「ちょっと、わくわくするでしょう?」

會長の言う通り、なんだか昔のロボットアニメみたいで「男の子」の心をくすぐるものがある。

「學園が認めた天才しか、足を踏みれられない場所よ」

「天才、か……」

その時、ひとつの考えが浮かんだ。

俺の目的は「普通」の學園生活を送ることだ。

しかし、ブタさんの婿候補として洗脳(きょういく)されてきたため、なかなか普通のことができない。

甘音ちゃんや鮎川先生に教えを請うて、「普通」は引き続き學んでいくとして――別の方策も考えておいた方が良い。

自分を目立たなくする方法だ。

學園が誇る天才たちの端っこにいれば、俺は目立たなくなるのでは? 木を隠すには森の中――とはちょっと違うが、すさまじい才能を持った人々の中にまぎれてしまえば、俺の存在なんて誰も気にしなくなる。

「いいですね、天才會議。ぜひ參加したいです」

「どうしたの? 急に」

地下5階でエレベーターを下りると、そこは黒い無機質な壁と床に覆われた部屋だった。かなり広い。普通の教室の4倍、いや6倍くらいはあるだろう。

間接照明が點る薄暗い空間、その中央に円卓があった。

7人の男が著席している。

7つの視線が俺を鋭く抜いた。

「おい胡蝶。なんだそいつは」

3年生らしき男が不機嫌な聲を出した。

7人の中でもっとも老け顔。長い髪をちょんまげのように結っていて、サムライ――いや「野武士」の風格。

鞘にった刀を椅子の橫に置いている。模造刀の類いではないことは、その質でわかる。

「〝剣の天才〟。剣持兇二(けんもち・きょうじ)よ」

會長が小聲で説明してくれた。

ふむ。確かになかなかの殺気である。それなりの場數を踏んでいるのだろう。あの空手3バカやネズミ程度なら相手にもならない。「超高校級」ってじ。

剣道なら、多分勝てるやつは高校生にいないんじゃないか?

剣「」ではなく、剣「道」なら。

「一年生だな? 見るからに弱っちいじだが、何者だ?」

「昨夜メッセージを送ったでしょう? 彼が鈴木和真君よ」

剣持は無髭がびた顎をさすりながら、俺をにらみつけた。

「冗談だろ胡蝶。そんなひ弱なやつをオレたちの仲間にれろってか?」

「彼の取り柄は腕っぷしではなく、知略よ。あのバッチ制度を叩き潰したのは彼。知ってるでしょう?」

「はん。余計なことしやがって。オレはあの制度、賛だったのによ」

刀を持ち、剣持は立ち上がった。

ゆっくりと近づいてくる。

見事な足運びだが――わずかに足音がする。重心の移が甘いのだ。あれでは、橫から足を掛けられただけで簡単に転ぶ。師匠ならきっと「30點」と言うだろう。赤點である。「足音立てずにお屋敷の外苑を百周して來なさ~いっ」とか言われるパターンだ。

気持ちに、技が追いついてない。

これで「剣の天才」か。

…………。

……これは、ひょっとして、意外に大変かもしれないぞ……。

「おい、一年坊主」

他の天才たちが見守るなか、剣持は刀を抜いた。

「オレから一本でも取ったら、天才會議の見習いにしてやる。構えろ」

……えーと……。

「はは、安心しろ。殺しゃしねえよ」

……どうしよう。

殺さないようにできるだろうか?

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