《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》37 ライバル校が盛大に毆り込みをかけてきた

學園の地下5階――。

一般生徒にはその存在すら知らされぬの會議室に、威厳のある聲が響き渡った。

「それではこれより、『天才』を執行する――」

天才會議の議長を務める男・怪堂(かいどう)の言葉で、円卓の空気がぴんと張りつめるのがわかった。

俺の右隣に座る胡蝶涼華會長ですら、頬を強張らせている。いつも冷靜沈著な彼がこれだけ張をわにするのは珍しい。

天才を執行――とは、いったい?

怪堂が背負う壁面スクリーンに、ある映像が映し出された。

軽快な音楽が流れ出す。

どこかのLIVE會場らしい。

広いステージで、バックバンドを背負い、サイリウムの海に向かって歌い踴る一匹のブタ。

超人気聲優・高屋敷瑠亜のコンサート映像であった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお瑠亜たああああああああああああああああああああああああん!!」

汚い咆哮が響き渡った。

怪堂だった。

いつのまにやら、ピンクのハッピとハチマキをにつけている。その至るところにブタさんの似顔絵と「るあLOVE」「るあ姫のためなら死ねる」「我がはすべて姫のもの」などなど切々とした文言が刺繍されている。手作りあふれる裝。一箇所失敗して「ろめ」になっているのが笑、いや哀愁をう。誰だよ。

「える! おー! ぶい! いー! るあるあるあるあるあるあるあさまーーーっ!! オゥイェーイ!!」

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パンパン手拍子を打ちながら、カエルみたいにジャンプを繰り返している。「オタ蕓」っていうんだっけ? 甘いマスクのイケメンがやるとただひたすら不気味である。

涼華會長がこめかみを押さえている。

「怪堂君も、この病気さえなければね……」

「なんなんですか、あれ」

「まあ、儀式みたいなものよ。瑠亜さんは欠席が多いから、その時は決まってアレをやるの」

やっぱり、あのブタさんも會議のメンバーなんだな。

地獄のようなライブが終わった。スクリーンから映像が消える。

怪堂はハッピとハチマキをいで丁寧に畳み、何事もなかったように著席した。オン・オフのギャップが激しすぎる。

「誠に殘念だが、姫様はご欠席あそばされている。『怪堂、アンタに任すわ!』という有り難いお言葉を頂戴しているから、俺の言葉を姫様の言葉だと思って聞くように」

天才たちから異論は聞かれない。あのブタさんの権力はここでも絶大のようだ。鬱陶しい。

「最初の議題は、この天才會議に迎える新メンバーのことだ。學園理事長から直々の推薦をけているから、皆に紹介したい。――りたまえ」

會議室奧のドアが開いた。

ってきたのは、栗ショートカットの小柄な男子である。

小顔で白。くりっとした可い目。のあるルックスは、この薄暗い部屋の中でも輝いて見える。男子の制服を著ていなければ可憐なにしか見えないだろう。

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「あれっ? 和(かず)にぃ!!」

いっちゃんこと、白鷺(しらさぎ)イサミが俺を見つけた。

迎えれた怪堂の橫を素通りして、俺の元へまっしぐらに駆けてくる。

「わあ、どうしたの? 和にぃもこの會議のメンバーだったの? やったあ!」

「いや、今日はただの見學なんだ」

「なんでもいいよ和にぃと一緒に居られるんならっ! 最近ぜんぜん會えてなくて、寂しくて死んじゃいそうだったよ!」

怪堂がゴホンゴホンと咳払いした。

「あー、白鷺。彼と知り合いなのか?」

「はい! 和にぃです!」

「……お兄さん?」

「兄弟よりもっともっと、大切なひとです!」

天才たちの視線が俺に突き刺さる。

演劇部の特待生として學園の注目を集める年が、俺なんかに懐いているのを見て、訝しがっているのだ。

まずいな……。

いっちゃんに小聲でささやいた。

「俺の昔のこと、みんなには話さないでくれよ」

「えっ、どうして?」

「なるべく『普通』でいたいんだ。ギリギリ彼らに認められて、ギリギリ端っこにいられるくらいの存在になりたい」

「む、難しそうだね。和にぃなら『普通に』トップになっちゃうと思うけど」

「ともかく、頼むな」

浮かない顔をしつつ、いっちゃんは頷いてくれた。

仕切り直すように怪堂が言った。

「白鷺の席は、剣持の隣が空いている。そこに座りたまえ」

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「あ、ボクは和にぃの隣がいいです!」

許可が出るより前にいっちゃんは椅子を持ってきて、俺と會長の隣に割り込んでしまった。

「こんにちは會長さんっ。もっと和にぃから離れてくださいね」

「ど、どうして?」

「どうしてでも、ですっ」

ニッコリ微笑むいっちゃんの目が怖い。

會長は戸いの表を浮かべている。後輩男子からライバル視される理由がわからないのだ。いっちゃんがの子であることは、一部の教職員しか知らない。あのブタさんだって知らなかったくらいなのだ。

そして――。

俺の肩に肩を寄せるいっちゃんのことを、あの暗田という男がじっと見つめている。じろじろと、頭のてっぺんから爪先まで、執拗に。

……ふむ……。

その時、怪堂がまた咳払いをした。

「彼、白鷺イサミは我が學園期待の星だ。まだ中等部だが、その活躍はマスコミ等で日本中に知られている。理事長の推薦もあることだし、我々の仲間に加えたいと思うのだが、どうだろう?」

異議無しの聲が天才たちから起きた。満場一致である。

「では新メンバーと見學者が加わったところで自己紹介を行う。剣持、お前から頼む」

ちょんまげのオッサン高校生が頷いた。

「3年1組。剣持兇二(けんもち・きょうじ)だ。剣道部主將。インターミドル3連覇。インターハイ3連覇。〝剣の天才〟とはオレのことよ。五歳の頃から竹刀を握って負けたことは一度もねえ。野試合でもな。ヤクザの組ひとつ、コイツでブッ潰したこともある」

コイツと言いながら持ち上げたのは折れた刀である。うーん、しまらない。

お次は、雲を突くような巨漢。2メートル近くあるだろうか。こんがり日焼けした顔。肩までまくったTシャツの袖からはムキムキッと筋を剝き出している。

「3年2組・大盛猛虎(おおもり・もうこ)。〝筋の天才〟だ! レスリング部部長。オリンピックのユースエリートに選ばれている。ベンチプレスの高校生記録も持っているぜ。――ああ、ちなみにさっきの刀、オレなら素手で折れる! 刀はニセモノを作れるが、筋は噓つかねえからな!!」

剣持がケッ、と舌打ちする。どうやらこの二人、ライバル関係にあるようだ。

3人目は、前の2人とはあきらかに雰囲気が違う男だった。

格的には痩せているのだが、発する殺気は剣持以上のものがある。

「3年3組・種子島十三(たねがしま・じゅうぞう)。撃部だ。〝銃の天才〟なんて呼ばれてる。15まではアメリカ暮らしで、日常的に本れてきた。ま、日本で撃つことはないだろうよ。モデルガンでハッタリかます程度だな。皇神の連中と出りになったら、剣持と大盛に任せるぜ」

ニヒルな笑みを男は浮かべた。うん、こいつは〝やってる〟な。多分、一人か二人くらい殺(や)っている。そういう匂いがする。高屋敷家のSSには傭兵あがりが何人かいるが、似たような雰囲気を持っている。

真夏なのに制服のブレザーを來てるのは、冷房に弱いって理由ではなく――銃を持ち歩くためだろう。あの不自然なブレザーのふくらみ方、たわみ方から見て、おそらく〝本〟。38口徑くらいのリボルバーか。「撃つことはない」なんて言って、その気満々じゃないか。

次に発言したのは、しなやかなだった。小學生に見えるほどい顔つきだが、ぐっと吊り上がった目つきはとても迫力がある。目力がすごすぎる。気位の高いシャム貓という印象。

「1年4組。胡桃沢(くるみざわ)ネコ。〝軽業の天才〟。以上」

著席したまま言うと、それ以上話すことはないとばかりに口を噤んだ。ムスッ、と不機嫌。早く帰りたいとそのい顔に書いてあった。

は有名人だから、俺も知っている。新部のエースで、実家がサーカス団をやっているという話だ。玉乗り綱渡り空中ブランコ、すべて思いのままと聞く。

テレビで大會の模様を見たことがあるが、その時はとっても可い笑顔だった。今ここにいる不機嫌ぶすったれガールとは似ても似つかない。あの笑顔は「本番」に取ってあるのだろうか。

怪堂が言った。

「今紹介した4名が運系の天才たちだ。男子3名は『武闘派』と呼んでもいい。有事の際は役に立つだろう」

では、殘りは文化系ということなのだろうか。

立ち上がったのは、例の暗田という小太りの男だ。

「2年5組。暗田暗記(くらた・あんき)。〝戦略の天才〟。頭脳労働専門。見ての通りのキャ。ひ弱。いじめないでね」

ふむふむ。參謀みたいなポジションなのか。

確かに賢そうだな。

だけど――キャ? こいつが?

それはどうかな……。

次に立ち上がったのは、白を纏った眼鏡のである。いわゆる「リケジョ」の風格。無機質で整った容貌は氷上零(ひかみ・れい)と似ているが、彼はややおトボケた雰囲気がある。

「2年無所屬。霧ヶ峰理科(きりがみね・りか)です。『発明の天才』とか呼ばれています。今取り組んでいるのはAIを組み込んだ人間の能力分析・開発。普段は研究所に篭もっていて、授業はネットでけています。今日ここに足を運んだのは、ある裝置のテストのためです」

名前だけなら俺も知っていた。本來なら海外の大學へ飛び級で留學するはずが、帝開學園が口説き落として學させたのだという。ほとんど籍だけ置いている狀態で、普段は高屋敷家が出資する研究所にいるという話だ。「ある裝置」が何か知らないが、學園でテストする必要があるのだろうか?

次に立ち上がったのは、我らが生徒會長。

「3年1組、胡蝶涼華です。私は特に天才というわけではありません。一般生徒の代表として、天才會議への出席を許されています」

暗田が底意地の悪い目つきで會長を見つめる。

「ご謙遜だなぁ。高校生だてらに出版事業を展開して、年商は億近いらしいじゃないですか。例の車だって、自分の力で購したんでしょう? 〝ビジネスの天才〟ですよ」

へえ、すごいな。

ビジネスを手がけてるって噂は聞いたことがあるけど、そこまでとは知らなかった。

「私よりすごい人なんてたくさんいるわ。自分が天才じゃないことは、私が一番よく知ってるもの」

會長は暗田と目を合わせようとしない。彼の見えいたおべっかに嫌悪を抱いているのは、その表でわかった。

次は、いっちゃんである。

「えっと、中等部3年3組白鷺イサミです。〝演劇の天才〟って言われていますけど、子供の頃から劇団にってて早なだけだと思ってます。天才じゃなくて〝名優〟と呼ばれるようになるのが、ボクの目標です」

演劇への真摯な想いが伝わる言葉だった。

家のしきたりで決められている「18歳までは男子として過ごす」のを終えたら、「名優」へと変するのだろう。輝くばかりの貌で、銀幕や舞臺を彩るに違いない。

……と。

次は、ようやく俺の番だ。

「1年1組の鈴木和真です。趣味は読書です。帰宅部です。……以上です」

何も話すことがなかった。

というより「話せることがない」と言った方が良いだろう。

この素っ気ない自己紹介に、文句をつけた者は誰もいなかった。みんな「ま、コイツはそんなもんだろ」みたいな顔で頷いただけ。會長が「しょうがない人ね」とため息をつき、いっちゃんも「しょうがないなぁ」と微笑んだ、そのくらい。

最後は、一番偉そうなこのイケメン。

「3年10組。怪堂天斎(かいどう・てんさい)。〝オール5の天才〟。俺にできないことは何もない。以上だ」

俺とは別の意味で簡潔な自己紹介だった。

オール5ってすごいな。憧れる。

俺はいつもオール3を取らされていたから。

「では本題にろう。今日集まってもらったのは他でもない。九月に控えた『帝皇戦』について急に話しあう必要があったからだ」

マン・大盛が言った。

「何を話し合うっていうんだい? 各部活、各選手がと筋を見せるだけじゃないか。それとも何か策でもあるのかい、暗田參謀?」

「いいや? 僕には何も。まずは怪堂さんの話を聞きましょうよ」

暗田はずいぶん頼りにされているらしい。

怪堂が言った。

「この報は理事長筋からリークされたものだ。一般生徒にはもらさず、極にしてしい」

あのブタの爺さんから、わざわざ?

嫌な予がする。

「我々の宿敵・皇神學院の武闘派たちが、この學園に毆り込みをかけるという話がある」

涼華會長がしい眉を吊り上げた。

「毆り込みですって? 何故そんなことを」

「帝皇戦の前哨戦のつもりだろう。あるいは、事前に有力な選手を潰しておく魂膽かもしれない」

「馬鹿馬鹿しい。暴力事件じゃないの。もしそんな暴挙に及ぶのなら、警察に通報するだけよ」

「それは不可能だ」

「何故!?」

怪堂は重々しく言った。

「どうも両校の理事長同士で取り決めがあったようなんだ。向こうの理事長が喧嘩を売って、高屋敷理事長がそれを買ったと。聞いた限りではそんなニュアンスだった。皆も知っての通り、この學園は事実上の治外法権。帝開グループと皇神グループの力があれば、學園闘騒ぎなんて簡単にもみ消せる」

「そんな、馬鹿な……」

會長は絶句した。

だが――ありうる。

俺に言わせれば、十分ありうる。

なにしろ前、高屋敷泰造という老人は喧嘩好きだ。格闘技マニアでもあり、を見るのが好きなところもある。退屈するとSS同士を戦わせてそれを孫娘と一緒に見するなんてこともしょっちゅうだった。まったく、救えないブタの一族。

會長は青ざめた聲で言った。

「毆り込みに來るのは、いつなの?」

「わからない。だからこそ、対策のため集まってもらったんだ」

「じゃあ、すぐに生徒たちを避難させなくては。今も地上では大勢の生徒が練習に勵んでいるのよ」

「無茶を言うな。あれだけの人數を別の場所で部活させるなんて不可能だ」

「部活なんて中止でいいでしょう!? 生徒の安全が第一よ!」

生徒を想った発言だが、オール5男は銘をけたように見えなかった。

「皇神學院の連中にしてやられるようなら、その生徒は帝皇戦でも役に立たないだろう。戦爭なんだよ、これは」

「そんな……みんなも同じ意見なの?」

會長が見回すと、他の天才たちの顔にも「やむなし」という表が浮かんでいた。

話に取り殘された新りのいっちゃんだけが、わけもわからず呆然としている。

それ以外は全員、怪堂と同じ意見のようだ。

ああ――なるほど。

ここに來て、俺にもようやくわかった。

この「天才會議」とやらの正は――名譽だのメンツだのに取り憑かれたただの亡者だ。あのブタの眷屬だ。自らの力を誇示することしか頭になく、他人をいくら犠牲にしても平気なのだ。

「そんな、そんなのって、ないわよ……」

ただひとり、銀髪の生徒會長だけが怒りに肩を震わせている。

――と、その時。

會議室奧のドアが唐突に開いて、相を変えた男子生徒が飛び込んできた。

「たっ、大変です!!」

唾を飛ばして彼はんだ。

「ば、発です!! 東の部室棟で発が起きました! 被害甚大!!」

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