《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》38 お前らの罪は俺を怒らせたこと

その兇報は、円卓の空気を凍りつかせた。

「ば、発です!! 東の部室棟で発が起きました! 被害甚大!!」

真っ先に聲をあげたのは涼華會長だ。

「生徒への被害は!? 怪我人はいるの!?」

「あそこは運部の長屋です。全員練習に出ていたはずですが、詳しいことははまだ……」

會長は立ち上がった。

怪堂が呼び止める。

「待ちたまえ胡蝶。どうするつもりだ?」

「現場へ向かうに決まってるでしょう。被害の程度と生徒の安全を確認しなくては。それから警察に通報を」

「やめておけ。おそらくこれは皇神學院の襲撃だ」

「だとしても、よ!」

いつも冷靜な涼華會長がこんな大聲を出すのは珍しい。

暗田が口を挾んだ。手元のPCを見つめている。

「理事長が、校ネットで何か配信を始めるみたいです。スクリーンに回します」

壁面の大型スクリーンに大寫しにされたのは、荒鷲のように鋭い眼を持つ老人だった。

演説が始まる。

『帝開學園理事長、高屋敷泰造である。先ほど、東棟の部室長屋が破されたのは、皇神學院による宣戦布告である。彼らは不敵にも、來(きた)る帝皇戦の前哨戦を仕掛けてきたのだ。すでにかなりの人數の刺客が學園り込んでいるのを確認している』

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涼華會長がつぶやいた。「滅茶苦茶よ」。いや、まったく同

神にあふれる生徒諸君よ、迎え撃て! この暴挙に怯んではならない。悪辣な侵略者どもの手から我が校を守り、帝開魂を見せつけるのだ! この戦いで功績を上げた者には、このワシから手厚い報償を約束する。逆に、臆病にも逃げ出した者・外部に助けを求めた者には、相応の報いがあることだろう』

後半はほとんど脅しである。

例のバッチ制度のこともまだ記憶に新しい。あの時「金」と「銀」の格差を見せつけられた生徒たちは、「底辺」に落ちたくないがため、この煽にのせられてしまうだろう。

警察への通報も封じられた。

『なお、怪我人が出た時のため、一流の醫師団を西側校舎の校門に待機させている。心置きなく戦うがよかろう。生徒諸君らの健闘を祈る――』

映像が切れた。

自分で放火しておいて「消火の準備はしてあるぞ」と言わんばかりの言。まことにファックである。ブタの一族が好んで用いる論法だ。

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銃の天才・種子島が言った。

「至れり盡くせりだな。葬式の準備もしてあるのかねえ?」

「冗談でもそんなこと言わないで!」

涼華會長が叱っても、種子島は薄いを吊り上げただけ。彼はこの事態を歓迎しているようだ。さもありなん。わざわざ銃を持ち歩いてるからには、撃つチャンスを狙ってウズウズしていたはずなのだ。

怪堂が偉そうに宣言した。

「天才會議はこれより、戦闘態勢を取る。剣持、大盛、種子島は現場に向かい、刺客を各個撃破せよ」

「待ってました!」

「マッスル! マッスル!」

「そうこなくっちゃなぁ」

三人が立ち上がる。

「暗田。お前も行ってくれ。一般生徒を統率して指揮を執るんだ」

「僕もですか? 怖いなあ。弱い僕をねらってきたらどうするんです?」

怯えたように言った。

「それもそうだな。では剣持、暗田を護衛してやってくれ」

「しょうがねえな。足手まといにはなるなよ?」

「はあ良かった。助かります」

暗田は慇懃に頭を下げた。

「あー、私もいきまぁす」

を翻して立ち上がったのは、〝発明の天才〟霧ヶ峰理科だった。

「新発明のテストにうってつけの事態です。こんなこともあろうかと、準備は萬端ですよ~」

ジュラルミンのケースをぽん、と叩く。新発明ってなんなんだろう。

「あたしは行かないわよ。喧嘩なんて馬鹿馬鹿しい。アスリートが怪我したら大変じゃないの」

〝軽業の天才〟こと、胡桃沢ネコはやる気がないようだ。まともな意見である。

怪堂が言った。

「俺も殘って、報の掌握と全の指揮を執る。胡蝶も殘ってしいが――」

「いいえ。怪我人の確認をしにいくわ」

俺も彼は殘ったほうがいいと思うが、決意は固いようだ。

「じゃあ、俺がついていきます。護衛としては心許ないかも知れませんが、いないよりマシでしょ」

「そうだな。いないよりはな。せいぜい會長サンの弾よけにでもなってやれや」

種子島がせせら笑う。つられたように剣持と大盛も笑った。

「和にぃが行くんなら、ボクも!」

立ち上がりかけたいっちゃんの頭をぽんと叩いた。

「駄目だ。お留守番」

「え~? 會長さんと行っちゃうの?」

「未來の名優が、顔に傷でもついたらどうするんだ? ここでいい子にしててくれ」

渋々といっちゃんは座り直した。

怪堂が円卓を見回した。

「これで決まったな。現場に行くのは剣持・大盛・種子島・霧ヶ峰・胡蝶・鈴木の6名。殘るのは胡桃沢、白鷺、この俺の3名だ。新報がったらスマホで逐一連絡をれる――では、〝天才開始〟」

地上に向かう6人でエレベーターに乗り込んだ。

怪堂が最後の檄を飛ばす。

「いいなみんな。これには我が校の誇りがかかっている。みっともない敗北を喫して瑠亜たんを落膽させるなど、俺は許さんからな。いいな? 絶対勝てよ!」

武闘派の三人が応える。

「まかせとけ! オレの刀で、姫様を笑顔にしてみせるぜ」

「そんなナマクラじゃ無理だな。瑠亜ちゃんを笑顔にするのはこの俺のキンニクさぁ!」

「元気だねえお二方。ま、及ばずながら俺も加勢して、瑠亜姫にお褒めの言葉でもかけてもらうか」

ブタなんて勝手に落膽させておけば良いと思うのだが、まぁ、何も言うまい。

狂信者につける薬など、ありはしないのだ。

上昇するエレベーターの中で、俺は思考を巡らせた。

俺が大切に想うたちの安否について。

甘音ちゃんは大丈夫。今日は朝から晩まで収録がぎっしりだと言っていた。學校にはいないだろう。

だけど――。

もう一人。

俺をかっこよくしてくれると約束した、ダンス部の「彼」は違う。

今日はバイトも休みだから、きっと部活に出ている。特待生試験をもう一度けるため、練習に勵んでいるはずだ。

無事でいてくれ……。

あともうしで地上に著くという時、スマホを見つめていた暗田が「あ」とつぶやいた。

「なんかもう、犠牲者出ちゃってますねえ」

ほら、と畫面を見せてくれた。

皇神學院の生徒が使用している裏SNSのようだった。10分前のメッセージが「オラオラwww襲撃開始www」。5分前のメッセージは畫像つき。「さっそく部室破したったwww ミジメ帝開www」。壁が剝がれ落ちた部室の無慘な姿が寫っている。

そして――。

1分前。

『戦利品、げっとしたった!』

『ギャル系、超オレ好みw』

『このコの恥ずかしいカッコが見たいスケベども、いいねヨロシク~』

下品なメッセージとともに表示されていた畫像は、紅茶の髪をポニーテールに結わえたの姿だった。

ぐったりと気を失っている。

そんな彼を後ろから抱きかかえ、キメ顔でピースサインをしている金髪の男――。

「會長」

エレベーターのドアが開くとともに、俺は言った。

「俺と居るのが一番安全です。絶対離れないでください」

「えっ? えっ?」

「失禮します」

目を白黒させる會長のを抱きかかえた。

「飛ばします。しっかり摑まっててください」

「……え、ええ」

會長は顔を真っ赤にしながら、俺の首にしがみついた。

「あっ、オイこら!! 勝手な行は――!!」

剣持の聲が聞こえたが、無視した。

走り出す。

疾風のように駆ける。

いっさいの加減はしない。本気の速度。ブタの〝洗脳〟が解けた俺が今出せる、全速力で助けに向かう。

「きゃあああああああああああああああああああ!?」

いつもお淑やかな會長が、らしくない悲鳴をあげるほどの速度。

「しゃべらないでください。舌を噛みますよ」

「で、でもっ、こんな、と、飛んでるみたい!」

仕方ない。

いったん、急停止。

「失禮」

「えっ? ――ンゥっ」

に、の不意打ち。

いつぞやの地下書庫のお返しだ。文句は言わせない。

「……………………」

とろけた顔で黙りこくる會長を抱き直し、再び駆け出した。

校舎から飛び出し、ダンス部の練習場――総合育館へと向かう。逃げう生徒たちの群れが行き過ぎる。皆表に恐怖を浮かべながら必死に逃げている。

逃亡者の流れに逆行して俺は走る。

帝皇戦なんて、興味なかった。

どうでも良かった。

あのジジイやブタが喜ぶというのなら、わざと負けてやるまであった。

しかし――。

向こうが俺のに手を出すのなら、話は別だ。

皇神學院。

お前らは敗北する。

これは予言ではない。規定の事実だ。

敗因は「俺を怒らせたこと」。

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