《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》42 新學期なので仮部したら馴染みまでついてきた

調崩して休んでました、すみません。

更新再開します。

レビューをまたひとついただけました。ありがとうございます。

怒濤の勢いで夏休みは過ぎ去った。

あっという間だった。

時間がすぎるのを早くじるのは充実している証拠だと、師匠がむかし言っていた。その通りだと思う。俺の人生でこんな短い夏休みはなかった。だけど、思い出はたくさんできた。バイトに遊びに、花火大會に、毎日忙しく楽しくすごすことができた。

ただ一點――。

俺の行く先々にいちいち現われた金髪ブタ野郎が、目障りといえば目障りである。

まぁ、徹底してスルーしてやったので実害がないといえばないのだが――甘音ちゃんと行った縁日で「迷子扱い」されたのが腹立たしい。迷子はお前だろ。常に迷走してるくせに。

ともあれ、夏休みは終わった。

二學期の開始である。

「和真君。貴方は部活にるべきよ」

二學期初日の放課後。

今日も今日とて地下書庫で読書中の俺に向かって、胡蝶涼華會長が言った。まだまだ蒸し暑い中、冷房もない地下書庫までわざわざ來てくれている。甘音ちゃんは収録のため帰ったので、二人きりだ。

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「貴方のその才能、眠らせておくのは惜しいわよ。何か興味のある分野はないの? スポーツでも蕓でもなんでもいいから」

し考えてから答えた。

「特別これ、というのはないですね。でも、何かやってみるのは悪くないって思います」

「良かった。その気はあるのね?」

「はい」

あのブタと絶縁した今、俺は何をするのも自由だ。バイトも経験したし、次は部活を経験してみるのも良いだろう。

「じゃあ、部に仮部してみない? 部長とは中等部から友達だから、話が通しやすいの。和真君、絵は好き?」

「好きですよ。小學校の時、母親の絵を描いて先生に褒められたことがあります」

いい先生だった。あのブタのお付きということで、腫れのように扱われていた俺のことを、普通の生徒として扱ってくれた。俺の絵を上手だと褒めてくれた。そしてその翌日、先生は唐突に休職した。「産休」とのことだった。男教師なのに。しばらく経ってから、遠くの學校へ転勤したと聞かされた。ブタの一族が手を回したのか、あるいは校長が「忖度」したのだろう。

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過去はどうあれ――。

「じゃあ、決まりね。明日から仮部よ」

自分のことのように嬉しそうな會長の顔を見ていると、頑張ろうって気になれる。

部活、せいいっぱいやってみよう

翌日の放課後。

帝皇戦を目前に控えて、校は活気に満ちていた。運部の練習には熱がり、文化部も作品を仕上げる追い込みの時期にっている。

俺が仮部する部も例外ではない。

20名以上の部員たちが部に集まって、キャンパスと真剣な顔で向かい合っていた。

右も左もわからない新部員(仮)の指導についてくれたのは、二年生の子だった。

「綿木(わたぎ)ましろです。よろしくねぇ、鈴木くんっ」

マシュマロみたいだな、というのが第一印象。

ぽっちゃりしていて、白で、ふわふわとした綿菓子みたいな髪をしている。ほんわか、頷くたびにその髪が揺れるのが目に優しかった。やわらかそうなの子。

「とりあえず、今日はわたしの橫で見學しててくれる? いま、ちょうど仕上げにってるから」

「わかりました」

隣に椅子を置いて、先輩の筆遣いに見った。この近くにある雲晴(くもはらし)海岸の水彩畫を描いている。鮮やかなとダイナミックな筆遣いで、県有數の名所が見事に表現されていた。

「すごいですね、先輩」

「へ、何が?」

「絵のことはよくわからないですけど、なんていうか、ガツンと來ます」

「あはは、がつん?」

「ガツン、です」

専門的なことはわからないが、脳みそに絵のイメージが焼き付くじがする。

「すいません。口べたで」

「ううん。うれしいよ。鈴木くんの、あたし好きかも」

「和真でいいですよ」

「えへ。じゃあ、あたしのこともましろで」

ほんわかと微笑むましろ先輩。

この可らしい人が、こんな大膽な絵を描くなんて。

ってちょっと面白いかもな……。

「でもね、これ、わたしの絵じゃないんだぁ」

「そうなんですか?」

代筆ってことだろうか? ゴーストライターならぬ、ゴーストペインター?

「部活なんだから、自分で描かないと意味ないんじゃ?」

「……うん、まぁ、そうなんだけどね。なじみのためだから」

明るいましろ先輩の顔が曇った。

聞いちゃいけないことだったんだろうか。

なじみ。

俺にとっても、良い思い出のない言葉だけれど――。

その時、室後方のドアが大きな音を立てて開いた。びくっ、と部員たちの肩が小さく跳ねる。現われたのは、短い赤髪でガタイのいい男子生徒。ジロリと周りを見回すと、部員たちはあわてて目を伏せた。

「あ、コウちゃん……」

つぶやくましろ先輩のところに、赤髪はずかずか近寄ってきた。

「おいましろ。オレの絵、もう描けたのかよ?」

「う、うん……たぶん、明日じゅうには」

「は? 今日じゅうに仕上げろって言っただろうが。ったく、どんくせえなあオマエは昔っから」

どうやら舊知の仲らしいが、ずいぶん橫柄な態度だ。

赤髪はジロリと俺に視線をやった。

「誰だ、オマエ? なんでましろの隣にいるんだ?」

「あ、か、彼はね、仮部の……」

「ましろには聞いてねえ。黙ってろ」

偉そうに見下ろしてくる。

ケンカ、売られてるんだろうか?

「1年1組の鈴木和真です。今日から仮部したので、ましろ先輩に々教えてもらってます」

「そうか。じゃあ、今日で退部しろ」

固く握り締めた拳を、俺の鼻先に突きつけてきた。空手の握りではない。バンテージを巻いた跡が指についている。ボクサー、それもヘビー級か。

だらしなく著崩した制服のシャツには、金バッチがっている。とっくにバッチ制度は廃止されたというのに、これ見よがしに。つまり、そういう人種なのだ。

「ましろは忙しいんだよ。オマエみたいなカスに構ってるヒマはねえ」

「や、やめてコウちゃんっ」

「黙ってろって言ってんだろ!!」

びくっ、とましろ先輩は肩を竦ませる。

他の部員たちも、らぬ神に祟り無しとばかりに無視している。

「ましろ。オマエいつからオレに命令できる立場になったんだ?」

「……ごめん、なさい……」

「オマエはトロくて、ナニやってもへたくそなんだからよ。黙ってオレの手伝いだけしてりゃぁイイんだ」

ましろ先輩はしょげかえってしまった。

互いの呼び方からして、どうやら二人は「なじみ」のようだけれど……。

赤髪が、ずい、と俺に顔を近づけてきた。

「出て行かねえなら、オレが追いだしてやろうか?」

「先輩は、ボクサーじゃないんですか? 何故部に?」

ボクサーであることを言い當てたが、赤髪は驚かなかった。自分のことは知られてて當然、そんな傲慢さが見える。

「兼部してんだよ。『武蕓両道の天才』荒木興二(あらき・こうじ)ってのは、オレのことだ」

ああ――こいつがそうなのか。

將來はオリンピックも狙えるという天才ボクサーが、二年生にいるっていう話。さらに絵畫コンクールでも有名な賞を取っていて、新聞やニュースで取り上げられていたのを見たことがある。

絵の腕前は知らないが、ボクシングの方は大したもののようだ。面構えや筋のつき合から見て、非常に優秀なアスリートであることはわかる。そう、アスリート。スポーツ選手である。

最近じゃあ、スポーツのことを「武」と呼ぶらしい。

……ふうん。

「痛い目見たくなきゃ、さっさと出て行け。それともオレにぶっとばされたいか?」

ニヤリと笑って、黃ばんだ歯を見せる。

やつの殺気が、イメージとして伝わってくる。俺のボディに強烈なブローを食らわせようとしている。本気で毆るつもりらしい。その殺気が、まなざしからギラギラと伝わってきた。

そっちがそのつもりなら――。

こっちは〝こう〟かな。

ガツン。

「っっ?!」

赤髪が全を戦慄かせた。

好戦的な笑みが凍りつき、その顔に怯えが走る。

俺をサンドバッグにする「絵」を描いてくるから、そこに上書きしてやったのだ。ご自慢のボディーブローでびくともしないサンドバッグ。それどころか、反撃のアッパーカットを繰り出してきて、『ガツン』と顎の骨が砕かれる己の「絵」を。

そのイメージを、赤髪の脳裏に描いてやったのだ。

「……っ、お、オマエ、何だ今のは!?」

「人を毆ることはできても、毆られる覚悟はないみたいですね」

伝わるということは、こいつもそれなりの使い手ということだ。さすがオリンピック。すごいすごい。

ところが赤髪は、自分の勘を信じようとはしなかった。

「表に出ろ!! 徹底的にぶちのめしてやる!!」

愚かだ。

せっかく「野生」が逆らってはいけない相手を教えてくれているのに、安いプライドを優先させている。

「も、もうやめてようっ。コウちゃん! ね?」

先輩は、泣きそうな顔で必死に俺をかばってくれる。不謹慎だけど、その顔がとても可いと思ってしまった。庇護をくすぐられる。甘音ちゃんとも鮎川とも違う、出會ったことのないタイプのの子だ。

――と、その時である。

「はろはろ~~~ん♪ カズぅ~~~!!」

忌まわしい聲とともにってきたのは、クソったれのブタ野郎。

護衛の氷上零(ひかみ・れい)を引き連れて、金髪を汚らしくなびかせて、堂々のご來(にゅうらい)である。

部にったって聞いたわん♪ だからアタシが様子を見に來てあげたの♪ うふふ、盡くすってじでアタシヤバッ♥ って、何目ぇ逸らしてンの? ああわかった、ひさしぶりに瑠亜ちゃんに會って恥ずかしいんでしょ? カズったらもう貞丸出しでウーケーるーwww」

うざい。果てしなくうざい。

「ところで、誰よその!? ブスね!!」

……こいつ……。

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