《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》45 ブタ、ブチ切れ

勝負の當日になった。

放課後、室に集まったのはおよそ30名。ましろ先輩と荒田を含む全部員たちと、部外者である俺とブタ。そしてブタさんの護衛の氷上零だ。

審査員をしてくれる部員たちの表は固い。荒田が描いたブタの人畫を評価しなくてはならないのだ。下手なことを言えば、ブタの心証を悪くする。ともかく褒めて褒めて褒めちぎらなくては――そんな風に考えているのだろう。

また、數だが、どこか白けた顔をしている部員たちもいる。これは俺に対する反応だ。「仮部の1年が、絵で荒田に勝てるはずがない」そんな風に思っている。荒田の名聲がましろ先輩の「代筆」によるものであると知っている彼らでも、素人の俺よりは上だと判斷しているのだ。

「準備はいいかしら、カズ!」

ブタのしっぽのような金髪をブヒッとかきあげ、豚野郎が汚い口を開く。

「ちゃんと絵は仕上げてきたきたんでしょうね? そこのブスの絵を!」

「ああ。お前の方こそ持ってきたのか?」

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「とーぜんでしょっ」

ブタがアゴをしゃくると、布を巻いたキャンパスを抱えた荒田興二が一歩進み出た。噂によれば、先日正式に戸籍を変えて「荒田」姓になったらしい。荒木家代々の墓碑まで彫り直したのだという。ご先祖様かわいそう。

「逃げずにやってきたのだけは褒めてやるぜ。1年」

偉そうに言い放つと、俺の隣にいるましろ先輩に目をやった。

「ましろ。お前は本當にドンくさいよなあ。そんな1年のお守りをさせられたおかげで、オレたちを敵に回すことになるんだからよ」

「あはは……そう、だね……」

ぎこちない笑みをましろ先輩は浮かべた。

違う。

この「笑顔」じゃない。

荒田はもちろん、他の部員たちもわかってない。ましろ先輩の本當の笑顔は「これ」じゃないんだ。

「じゃあ、オレの絵から行くぜ。見ろ!! この〝武蕓両道の天才〟荒田興二サマが描いた、瑠亜姫の絵を!!」

布を取って、絵を部員たちの方に見せた。

邪悪な笑みを浮かべる金髪豚野郎の油絵がそこには描かれていた。なかなか力強いタッチだ。実より斷然綺麗に見える。素人の俺から見ても、荒田が高い技量と熱意を持ってこの絵を描いたことがわかる。ふつーに上手い。

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部員たちが口々に褒め始める。

「うわー。すてきー」

「やっぱり上手いなー。荒木……じゃなかった、荒田くん」

「ウデもあるけど、モデルがいいからだよねー」

「瑠亜さん、やっぱりかわいいー」

半ば本気、半ば演技といったじの定型文が並ぶ。最初から打ち合わせてあったのだろう。仮に荒田の絵がド下手でも褒めちぎる準備があったはずだ。ふつーに上手くてホッとした、みたいな雰囲気もある。

「ま、とーぜんよね! アタシがモデルなんだから!」

すっかり鼻を高くしたブタさん。ッシャッシャ! と高笑い。

「さあ、次はカズの番よ! 見せてみなさいよ、そこのブスの絵を!!」

俺は頷いて畫板をケースから取り出した。

「和真、くん……」

ましろ先輩が不安げなまなざしを俺に向ける。彼にはまだ完品を見せていない。モデルである先輩にも隠したのは、俺にひとつの企みがあるからだ。

俺の目的はブタに勝つこと。

それからもうひとつ。

素敵で可い先輩に、自分の魅力に気づいてもらうことだ。

畫板から取り出した水彩畫を披すると、室は沈黙に包まれた。

「――――――」

誰ひとり、言葉を発しない。

ましろ先輩も、荒田も、ブタですら、口を開くのを忘れて目を見開いている。

ただ一人、口を開いたのは、氷上零だった。

「かわいい」

平坦な聲で、そんな風につぶやいた。プロの護衛として、荒田の絵には目もくれずに周囲を監視していたこのマネキンが、俺の絵を見てそう言った。夏休みに出會ってから初めて、人間らしい言葉をつぶやいたのだ。

部員たちは無言である。

ただただ、水彩で描かれたましろ先輩の「本當の笑顔」を、呆けたように見つめていた。

「…………っ、や、やっぱりブスじゃん!!」

強がるように、ブタが口を開いた。

「か、カズの絵はなかなかだけど、やっぱモデルが駄目だとねえ、どーしようもないわッ!! ねえ、みんなもそう思うでしょ!?」

誰も頷かなかった。

びへつらっていた荒田ですら、絵に魅られたように立ちすくんでいる。ひびわれた聲で「昔のましろだ……」とつぶやくのがかろうじて聞こえた。

焦ったブタは部員たちをにらみつける。

「ちょっと、アンタらなんとか言いなさいよ!? 打ち合わせを忘れたの!? 早くカズの絵をけなして!! ひとり1億ずつ振り込んでやったでしょうが、この恩知らず!!」

馬腳、いや、豚腳を現わしたな。

「これが、あたし、なの?」

ましろ先輩は、自分の頬をぺたぺたっている。

「先輩が心から笑ってくれた時、俺にはこんな風に見えています」

「うそ、だよ。こんな可いわけないよ」

「可いですよ」

潤んでいる彼の瞳を覗き込んだ。

「もう、リセットしてもいいんじゃないですか。なじみ……いや、昔の思い出を」

「!!」

「0からの再スタートはつらいこともあるけど、新しい出會いもある。案外良いものですよ。〝絶縁〟って」

その時、荒田が怒鳴った。

「ふざけるな!! てめえ、ましろに描かせたんだろう? インチキだこんなの!!」

「いいえ。俺が描きました」

「ウソ言え! てめえごときがこんなに上手いわけねえ! ましろに描かせたんだろう!? そうに決まってる!!」

走った目をしている。完全に取りしていた。

「妙ですね。荒田先輩」

「何が!?」

「その口ぶりだと、あなたもましろ先輩の力は認めてるっぽいじゃないですか。あれだけ馬鹿にしてたくせに、おかしいですね?」

「っ……」

「ましろ先輩に描かせてたのは、どちらですか? と名聲に溺れて、楽をすることばかり覚えて。なじみの優しさにつけ込んで。――恥を知れ!! クズ野郎!!」

バキイッっ、と何かが砕ける音がした。

ブタが自分の絵を床に叩きつけたのだ。

怒りに全を震わせながら、でかい聲でんだ。

「もういい。コロス!! カズ以外全員コロス!!」

ぶなり、窓に向かって手を挙げた。

外に合図したのだ。

「全員、伏せろ!!」

俺がぶのと、ガラスが割れる音がしたのは、ほとんど同時だった。

銃弾が窓から撃ち込まれる。

それは正確にましろ先輩を狙っていた。

師匠から前もって聞いていなければ、守れなかっただろう。

ブチきれたブタが外に合図すると踏んでいたから、間一髪間に合った。先輩を抱きかかえ、床を転がってかわすことができた。

「良い判斷だよ」

悲鳴が飛びうなか、先輩を背中にかばいつつ、ブタに言ってやった。

「俺に対抗するには、銃で狙撃させるしかないって思ったんだろう? 確かにその通りだ。――だが、前もってスナイプされるとわかっていたら、対処法はある」

室を狙撃するなら、ポイントは向かいの一年生棟の視聴覚室、その隣の準備室、それから屋上。この三つしかない。角度の問題からして、もっとも有力なのは準備室。そこから狙われるとわかっていたら、安全地帯は確保できる。

「カズ!!」

火を噴くような目でブタがにらみつけてくる。

「この瑠亜ちゃんサマより、そのブスのほうが可いっていうの? そのブスを選ぶの?」

「……やれやれ」

まったく。何度も言わせるなよ――。

「ブスは、お前だ」

「!!! コロス!!」

その聲が二度目の合図だった。

目出し帽をかぶった屈強の男たちが四人、室になだれ込んでくる。全員が銃を構えている。「ひいいっっっ!?」黒りするそれを見るなり、荒田は泡を吹いて倒れた。

「全員、そっちの隅に固まってください。かないで」

部員たちを避難させつつ、俺は四つの銃の前にを曬した。

「あのをコロセ!! カズはだめよ!! 死なない程度に痛めつけて!!」

ブタの命令に四人が頷く。

ただ、そのうちの一人が舌打ちするのが聞こえた。面倒なことを言う依頼主だと思ったのだろう。銃で死なない程度に、なんて無茶な注文だ。

そう――無茶な注文。

殺さないようにできるか不安なのは、こっちなんだよ。

「かっ、かかかか、かずま、くんっ、こここ、これ、なに? え、えいが? 映畫だよね? ねえ?」

俺の背中にしがみつき、すっかり怯えている先輩に聲をかけた。

「守り切ってみせます。ここでじっとしててください」

さあて。

世界一可の子の笑顔を守るために。

ちょっと、本気出そうかな?

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