《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》48 第1回〝誰が和真の正妻か〟會議

翌日の放課後――。

地下書庫に機と椅子を持ち込んで、即席の會議室が作られた。

出席したのは、俺と、五人のたちだ。

それぞれがそれぞれの面持ちで、おとなしく席についている。今のところは。

「はい。それでは」

長機を合わせて作った即席の円卓を見回して音頭を取ったのは、〝ビジネスの天才〟こと、胡蝶涼華(こちょう・すずか)生徒會長である。

「第一回〝和真會議〟を始めたいと思います。初顔合わせの面々も居ますので、一人ずつ、自己紹介をお願いします。時計回りに行きましょう。まず、貴から」

促されて立ち上がったのは、長い前髪と甘い聲を持つ――〝聲の天才〟である。

「1年の皆瀬甘音(みなせ・あまね)です。まだまだ駆け出しですけど、聲優をやらせていただいています。和真くんとは、この地下書庫で出會ってからのお付き合いです。CDデビューする時に練習を見てもらっていました。多分、この中で一番最初に和真くんと知り合ったんじゃないでしょうか?」

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にこっと笑いかける。

自己紹介にさりげない自己主張を混ぜている。昔の甘音ちゃんだったら考えられないことだ。この積極長の証……なんだけど、時々背中に冷たい汗が滴る。

次に立ち上がったのは、栗のショートカットの、いや年――〝演劇の天才〟である。

「中等部3年の白鷺(しらさぎ)イサミです。演劇部に所屬しています。この中では一番の若輩なので、お手らかにお願いします。それから――皆瀬先輩?」

つい、と視線を甘音ちゃんに固定する。

「和にぃと一番最初に知り合ったのは、ボクですよ。小學生の時からの付き合いなので」

「白鷺くんは、男子だからカウントしてないんです」

事も無げに甘音ちゃんは言った。どうして男子だとカウントしなくていいんだろう?

「ああ。それもそうですね」

いっちゃんはらかく微笑んだ。わかりがいい後輩を演じている。……だが、俺は見てしまった。いっちゃんが機の下でぐっ、と拳を握るのを。「してやったり」みたいなじ。

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次は、紅茶の髪をポニーテールにしたギャル――〝ダンスの天才〟である。ブタによって再度けさせられた特待生試験に見事パスして、その才能を見せつけた。

「1年の鮎川彩加(あゆかわ・あやか)でーす。ダンス部で踴ってます。和真とはバイト先で仲良くなって、いろいろ教えてあげたカンジかな~。あと、ファッションのアドバイスとかもしてあげてるから、もうなんかタメだけどセンパイってじ? むしろセンセイ? ともかく、そーゆー深い仲ってコトでヨロシク~」

明るくてサバサバとした挨拶なのだが――他のの子を見つめる目はどことなく険しいモノがある。ていうか鮎川センセイ、バイトしてるの知られたくなかったはずじゃ……?

「あの時のメイドさん、あなただったんですね」

俺のバイト先に來たことがある甘音ちゃんが言った。

「道理で、なんだか和真くんに馴れ馴れしいな~って思ってました。うふふ」

「あーしも、わざわざバイト先まで顔出しに來て彼アピールうざっ♪ って思っちゃった。あはは」

うふふ。

あはは。

……二人とも笑ってるのに、目が笑ってない……。

「まあまあ、二人とも落ち著いてよ~」

と、のんびりした聲で仲裁したのは、ふわふわ綿菓子のような髪と、マシュマロみたいなもち――〝絵畫の天才〟。

「2年の綿木(わたぎ)ましろで~す。いろいろあって部を辭めて、自由にお絵かきしてます。かずくんとはつい先日知り合ったばかりだけど、! はこの中で一番大きいと思いますので、みなさんよろしく~」

甘音ちゃんが聲を上げた。

「綿木先輩、それは聞き捨てならないですっ。取り消してください!」

「そーよ、あーしが一番に決まってんじゃん!」

鮎川は思いっきり両腕を広げた。

「あーしは、和真のこと、こーーーんくらいしてるんだから!!」

こーんくらい、というのはその両腕の幅って意味か。

甘音ちゃんは激しく首を振って立ち上がった。

「なんですかぁそのくらいっ! わたしなんて、こっちの壁から、あっちの壁くらいまで、そのくらい、そのくらい和真くんのこと大好きです!!」

わざわざ地下書庫の壁から壁を走ってアピールした。距離の問題なのか?

「あはは、二人とも可いなあ」

と、先輩のよゆーを見せつけたのはましろ先輩。

機の上に置いていたスケッチブックを頭上に掲げて見せる。

「あたしのかずくんへのはね、このくらい! 地球サイズだからっ」

そこに描かれていたのは、見事な地球の絵であった。わざわざ準備していたんだろうか。

「えへへ。びじゅあるの勝利~! ましろちゃんの勝ち~!」

「勝ちじゃないっしょ!? なに勝手なこと言ってんのよセンパイ!」

「そうですよ! そういうこと言うなら、わたしだって〝聲の大きさ〟でを示します! 和真くん、大好きーーーーーーーーーっっっっ!!」

書庫の壁が震える聲量である。さすが聲優。ていうか、それ以上に目力(めぢから)がヤバイ。

「なら、あーしだって踴っちゃうから!」

鮎川は制服のスカートをふわっと翻し、両手を羽のように広げて軽やかなステップを刻む。なにこれ、求ダンス? 俺と目が合うたびにウインクする。鮎川らしい熱的な踴りだった。

……なんか、異種格闘技戦みたいになってきているぞ。

この場合、異種ラブコメ戦……いやまあ、単にひとこと「修羅場」でいい気もするけど。

「書庫で踴らないでくださいホコリが立つじゃないですか!」

「あんたこそでかい聲でんでんじゃないわよ迷でしょ!?」

「まーまー二人とも落ち著いて? ここは先輩のあたしの顔をたてようよ~?」

「先輩でも和真くんは譲れません!」

「そーよ! それを言うならあーしなんか『センセイ』なんだからねっ!」

ぎゃーぎゃー言い爭う三人をよそに、涼華會長がそっと耳打ちした。

「いつの間にこんなに側室をこさえていたの? どこの戦國大名なのよ貴方は」

「モテたくてモテたんじゃないんですが」

頭を掻いて誤魔化すしかない。

涼華會長はギュッ、と俺の腕を引き寄せた。この五人の中、いや、おそらく校でも一番かながむにゅりと當たる。

「貴方ほどの男(ひと)だもの。モテるのも立派な甲斐。あの子たちみたいにみっともなく喚(わめ)くつもりはないけれど――」

「……」

「正室は、私よ。良いわね?」

「…………」

さりげなく他の三人より要求が重いんですけど……。

その「抜け駆け」を鮎川がめざとく見つけた。

「ちょっと會長、どさくさに紛れて何してんのよ! あーしの和真に手をれないで!」

「鮎川さん。そのスカート丈、短すぎるわね。校則違反よ」

「なんで今言ったの!? それなら會長だってフジュンイセイコーユーしてんじゃん!!」

「そうですよ會長! 和真くんからはーなーれーてー!!」

「ですです~。かずくんにれるなら、地球を越える〝宇宙〟の絵を描いてきてくださいっ」

もう、あっちこっちに飛び火している。

いつのまにやら「誰が一番俺を好きか會議」になっているな……。

「まあまあ、落ち著いてください先輩方」

そんな風に言ってくれたのは、いっちゃんである。

ただひとり余裕の表なのは「自分は警戒されていない」という強みか。ちゃっかり俺の隣をキープして、肩をくっつけている。

「今日ここに集まったのは、和にぃの部活をどうするかってテーマでしょ? 言い爭いはまた今度にしましょうよ?」

一番年下の中學生にそう言われたのでは、四人も立つ瀬がない。バツ悪そうにしながらおとなしく席に座り直した。

いっちゃんが、俺にだけ聞こえる聲で言う。

「えへへ。ボクのことみんなの子だって知らないもんね。ノーマークノーマーク♪」

果敢にゴールを狙うFWのような発言。

「いっちゃん、何企んでるんだ?」

「ん。和にぃを獨り占めすること♪ だって、このなかで一番和にぃをしてるのはボクだもんっ」

すごい自信である。

「ちなみに、その拠は?」

「〝いっちゃん〟だから、いっちば~ん♪ えへへっ。だいすき、和にぃっ」

ただのダジャレじゃねえか。

なにはともあれ仕切り直しである。

年長者であり言い出しっぺである涼華會長が全員を見回した。

「自己紹介も終わったところで、本題にりましょう。鈴木和真君の類い希な才能を活かすため、彼を中心とした新しい部を作りたいの。皆さんに集まってもらったのは、その部員になってもらいたいから」

「部活って、最低五人の部員が必要ですもんね」

ウンウンと、甘音ちゃんが頷いた。

依然、こわーい目で會長を見ながら鮎川が言う。

「ダンス部と兼部でいいなら別にいーけど。でも、的にナニすんの?」

「それを、話し合いたいと思っているのよ。和真君の超人めいた力を、もっとも活かせる方法を」

うーん、と五人のたちは考え込んだ。

いっちゃんが口を開いた。

「やっぱり、格闘技関係ですかね?」

「私もそれは考えたわ。だけど道剣道空手ボクシングレスリング合気道フェンシングに至るまですでに部があるし、新しい格闘技と言ってもね……」

「総合格闘技部、とかじゃダメですか?」

「高校生の部活としてはさすがに相応しくないじゃないかしら。學園から認可されるとは思えないわ」

この帝開學園で新しい部活を作るには、二つ條件がある。

一つは、五人以上の部員を集めること。

もう一つは、「學園にとって有益な部である」と認められることだ。

空手や道と違って「総合格闘技」には高校生の大會なんかない。オリンピックの種目にもない。つまり、どれだけ強かろうと學園の名聲には繋がらない。帝開學園の教職員會が自分たちの利益にならない部を認めるとは思えなかった。

はーい、とましろ先輩が手を挙げた。

「格闘技にこだわらなくてもいいと思いま~す。かずくんってば能力もすごいから。スポーツなら何でもできるんじゃ? ねえ?」

と、尋ねられても。

スポーツって育の授業でしかやったことないから、わからないんだよな。

目立たないようにするため、サッカーでも野球でも、ただ突っ立ってるだけだった。

「スポーツこそ難しいんじゃないかしら。和真君一人でできる競技なんて、限られるわよ」

「あ、そっか~」

個人競技だと陸上や水泳ということになるだろうけど、それもすでに部がある。

まだ開拓されてない未知の競技も探せばあるのかもしれないが、そうなると今度はマイナーすぎて學校の認可が下りない。

議論が暗礁に乗り上げたかに思えたその時――。

「はいっ!」

よく通る聲とともに甘音ちゃんが挙手をした。

何やら名案が浮かんだらしい。

「和真くんの才能をいちばん活かせる方法、ありますっ。これしかありません。皆さんはよく知ってるはずですよ?」

そう問われて、他の五人が怪訝な顔をする。

そんな彼らを、甘音ちゃんは見回した。

「わたしも、胡蝶會長も、白鷺くんも、鮎川さんも、綿木先輩も、みんな和真くんに助けられてここにいるはずです。つまり、和真くんの能力を最大に活かせるのは、人助けなんです。だから――」

聲が響き渡る。

「學園のありとあらゆる難題、事件を解決するトラブル・シューター。〝お助け部〟を提案します!」

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