《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》50 絶縁者は「ふつーに上手い」って言われたい

九月末日。

帝開學園校は、祭りの舞臺と化した。

「かっせ! かっせ! てーーーいーーーかーーーーい!!」

「負けるな負けるな! こーーーーーうーーーーーじん!!」

第1グラウンドで始まった野球部の対戦には両校の応援団が詰めかけた。ブラスバンドの演奏あり、チア部のダンスもあり、さながら甲子園のような熱気である。

野球だけではない。

第2グラウンドではサッカー部の試合が始まったし、総合育館では演劇部の出しが行われている。運系・文化系を問わず、両校の熱意はすさまじい。帝開グループと皇神グループ、日本の経済界を二分する巨大企業の威信がここにかかっているといっても過言ではないのだ。

帝皇戦(ていこうせん)、と帝開生は呼んでいる。

皇神生は「皇帝戦(こうていせん)」と呼んでいる。

こんな些細な呼び名にも、両校の意地の張り合いが見てとれるのは、微笑ましいのか、子供っぽいのか――。

お助け部(仮)の部員たちも、忙しくしている。

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胡蝶涼華會長は、生徒會長として大會運営テントに常駐して指示を出している。天才會議がもはや機能していない今、生徒會長である彼にかかる責任は相當なものだろう。まぁ、涼華會長なら問題はない。きっちり大會を取り仕切ってくれるだろう。

いっちゃんこと白鷺イサミは、演劇部の出しで主役(メイン)を張る。なんの実績もない帝開の演劇部だが、いっちゃんの加以降、公演にはかなりの客がるようになった。ファンの親衛隊もできて、舞臺に立てば黃い聲援が飛ぶし、楽屋には差しれが山のように屆く。もし、いっちゃんがだと知ったらどうなるか、ちょっと怖い。

ちなみに、この舞臺には皆瀬甘音ちゃんもゲスト出演する。演劇部の要請をけての「客演」である。彼もいっぱしの役者になったみたいで、我が事のように嬉しい。甘音ちゃん目當ての客も大勢來るみたいなことをネットの書き込みで見た。

鮎川彩加は、ダンス部のエースとして講堂でダンスを披する。しかもソロらしい。界隈では結構な有名人らしく、わざわざ県外から見に來るファンもいるとのこと。話してるとふつーのギャルなんだけど、やっぱり彼も「天才」なのだ。

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天才といえば、綿木ましろ先輩もそうだ。先日自分の名義で発表した水彩畫がコンクールで賞し、一躍有名になってしまった。あわてた學園側が、今さら彼を特待生にしようと申し出たらしいが、先輩は謝絶したらしい。「あたし、自由に描きたいから!」とのこと。かっこいい。マシュマロみたいに可いのに、中は男前。彼の絵を見るために、やはり多くの客が訪れるだろう。

さて――。

俺の戦場は、第一育館だ。

ここではバスケ部の試合が行われる。両校ともに県大會ベスト4の強豪である。白熱した試合を期待して、育館には大勢の観客が詰めかけた。

両校の激突に先駆けて、前座試合が行われる。

帝開學園バスケ同好會 VS 皇神學院バスケ部二軍。

二軍にも試合の機會を與えたいという皇神側の申し出があってのことらしいが――帝開側は二軍ではなく、同好會を出すという形で応じた。「帝開は選手層が薄いから、二軍同士じゃ負けると思ったんじゃない?」とはノッポ先輩の言。まぁ、あの負けず嫌いの理事長(ジジイ)の考えそうなことだ。同好會なら負けて當たり前、恥はかかないというわけだ。

帝開のバスケ部員は、當然面白くない。なぜ二軍同士でやらせてくれないんだと、ヘイトをためることになる。そしてそのヘイトは、理事長ではなく、立場の弱い同好會に向かう。

皇神バスケ部にしたって、面白いはずがない。

二軍とはいえ、普通の高校ならエース級の選手ばかりである。同好會なんか出して舐めやがって、、ということになる。

そういうわけで――。

俺がユニフォーム姿でコートに現われると、周りから一斉にブーイングが飛んだ。「帰れ! 同好會!」「ひっこめ、へたくそ!」。四面楚歌ってやつだ。皇神の応援席はぎっしり人がいるのに、帝開のほうはまばら。しかもスマホいじってて誰もこっちを見ていない。一軍同士の試合までのヒマ潰しありありである。

周りじゅう敵だらけのなか、唯一聲をかけてくれたのは、帝開ではなく皇神の生徒だった。

真っ白なセーラー服姿の黒髪

切れ長の目にはしい棘がじられる。

ツンとすまして、長い艶やかな髪をかきあげる。

「夏休みぶりね〝孤狼〟」

「その呼び方はやめてくれ。中二病だと思われる」

皇神月乃(こうじん・つきの)。

夏休み、皇神學院が毆り込んできた時にいた凄腕のである。名字からして、皇神グループの関係者なのだろうけど、未だその正は謎に包まれている。

月乃はユニフォーム姿の俺をじろじろ見つめた。

「あんた、バスケ部員だったの? 見かけによらないね」

「部じゃなくて同好會。それも今日限りの助っ人だよ」

「ふうん。上手いの?」

「ふつーに上手いって、チームメイトには褒められてる」

それから彼は怪訝な顔をした。

「そのチームメイトはどこにいるの? あんたしか來てないじゃん」

「……そういえば、遅いな」

ノッポ先輩ほか、同好會メンバーの姿が見えない。ロッカールームにもいなかった。もう皇神はウォーミングアップを始めているというのに。

下品な笑い聲が背中で聞こえた。

振り向くと、このあいだ因縁をつけてきた帝開バスケ部の連中がニヤニヤと笑っている。

「おい1年。お仲間はどうしたんだよ?」

「お前ひとりで試合する気か? さっすが同好會、バスケをナメてるよなあ~~あ?」

その口調と表に、ぴんと來るものがあった。

こいつら……。

「ノッポ先輩たちをどうした? 彼たちはどこにいる?」

「さあ、知らねーなぁ? ビビッて逃げたんじゃねーの?」

耳障りな笑い聲を連中はあげた。

その時、スポーツバッグの中で著信音が鳴った。

ノッポ先輩だった。

『ご、めん、鈴木くん……』

痛みをこらえている聲だった。他のメンバーのうめき聲のようなものも後ろで聞こえる。

『バスケ部の連中に、襲われた……。お前らが辭退しないから俺たちの出番が回ってこないって。ハハ、とんだ言い掛かりだよね』

「しゃべらないでください。ケガは?」

『たいしたこと、ないよ……。救急車呼んだし。それより、行けなくてごめん。君に助っ人を頼んでおきながら、この……ザマ、で……』

「しゃべらないでください!」

ずずっ、と鼻をすする音が話口から聞こえた。

『ああ、殘念だなあ。あんなに、練習したのに……』

「先輩……」

『……鈴木くんと、バスケが、したかったよ……』

聲が聞こえなくなった。

スマホを下ろした俺を見て、連中がまた笑った。

「お、どうした? 泣きそうなツラして」

「お前もさっさと帰ったらどうだ? 『スクダン』や『白バス』でも読んで寢てろ。な?」

連中の言うことは無視した。

「月乃。ひとつ頼みたいんだが、いいか」

は目を丸くした。

「初めて名前呼んでくれたね。何?」

「3秒……いや、2秒でいい。目くらまし頼む」

月乃は軽く髪にれて「いいよ」と頷いた。

はただちに実行した。

を沈み込ませるようにしゃがみ、スカートの中に手をばす。まぶしい太ももに裝著したガーターベルトのホルスターから、小型のリボルバーを抜き放つ。

銃聲が鳴り響く。

観客も選手も審判も、一斉に月乃を見る。天井に向かってぶっ放した黒髪の姿に、釘付けになった。

その隙に俺はいた。

壁に寄りかかっているバスケ部五人に素早く駆け寄る。月乃から俺に視線を移すより速く――ハイキック。一人目の側頭部にバスケシューズを蹴り込み、昏倒させる。そして二人目には正拳突き。ねじるように拳を腹に打ち込み、飲んでいたスポーツドリンクをぶちまけてもらった。

「てめっ、この」

口を開きかけた三人目の顎にアッパーカット。汚い口を閉じてもらう。さらに四人目、逃げようとした相手のユニフォームを摑んで引き寄せて背負い投げ。からの、膝落とし。一発レッド間違いなしのラフプレイだが、先に仕掛けたのはそちらだ。

ラスト、五人目。一番デカイ男には――ダンクシュート。

ただし、ボールは俺の拳骨。

脳天直撃の強烈なダンクに、帝開學園が誇る190cmセンターは目を回して倒れた。

――これでだいたい、2秒。

銃聲の衝撃から観客が醒めるころには、すべてのケリがついていた。

「流石」

淡々と褒めてくれる月乃の肩を叩き、謝意を示して――俺はコートへ進み出た。

すでに試合開始時間はすぎている。

審判のもと整列している皇神の二軍部員たちが、焦れたように言った。

「なんだよ、同好會ってお前ひとりか?」

「他のメンバーは?」

「あそこで倒れてるの、帝開バスケ部の連中じゃねーのか?」

頷いた。

「ああ。今日のところは俺一人だ」

彼らは「ハァ?」という顔をした。

「それは棄権と見なしていいのか?」

「いいや。一人でも試合する」

「アホ抜かせ! どうやって一人で五人を相手にするんだよ」

「心配はいらない。先日も銃を持った五人を相手にしたばかりだ」

「アタマわいてんのかオマエ!?」

「いいやまともだ。――だから」

審判が持っていたボールを、俺は奪った。

そのままシュート勢にる。

3ポイントシュート。

ここはセンターラインの遙か後方である。「そんなところから、るかよ」「マンガの読み過ぎだっつの」。そんな馬鹿にした聲が聞こえる。様子を見守る観客からも失笑がれた。

だが――。

殘念だったな。

るんだ。

いや、「るのだよ」。

「!?」

會場から聲にならない聲がれる。

超超距離から放たれた3ポイントシュートが、ネットにかする音すら聞こえないほど、にゴールを抜いたのだ。

マンガ「白子のバスケ」を読みまくってにつけた必殺技。ぶっつけ本番だが、功したらしい。

きょとん、としている月乃に言ってみた。

「どうだ俺。ふつーに上手いだろ?」

それに反応したのは、月乃ではなく、會場じゅうの観客であった。

聲が重なる。

「「「「「「「「「「ふつーじゃねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーよ!!!!」」」」」」」」」」

……えっ?

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