《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》2 キャが子とプールに行こうとした結果…
當日――。
やってきたのは、近隣地域で最大の規模を誇るレジャープールである。
夏はもちろん、ガラス張りドーム付きの巨大溫水プールを備えているため真冬でも楽しめる。休日となれば、四季問わず家族連れやカップルで賑わう場所だ。
ここに來るのは、小學生の時に母さんに連れてきてもらって以來だ。
友達と來たことはない。
ぼっちだったから。
彼と來たことも、ない。
モテなかったから。
そんな俺が、涼華會長みたいな超人と、二人きりで行けるなんて。
嬉しい。
が――正直、実がわかないというのが本音だ。
寶くじ一等に當選した庶民って、こんな心境なんだろうな。
心がソワソワと浮き立ってしまう。
ベッドにってもなかなか眠れず、スマホでプールの公式サイトを三回も読してしまった。
――ふう。
の子と二人きりで、プール。
學校の「上級」連中みたいに上手くエスコートはできないだろうけれど、せめて「普通」に振る舞わなくては。
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◆
翌日。
そんな俺の願いは、むなしく、打ち砕かれてしまった。
二人きりでは、なかったのである――。
◆
待ち合わせ場所のプール場口は、修羅場だった。
今日は涼華會長と二人で遊ぶ予定であり、他の誰も來ない。
そもそも行くことさえ知られてない。
そのはずだった。
ところが、まさかの――全員集合。
「えへへ。プールなんてひさしぶりだなぁ。夏は忙しくって、ほとんどお休みなかったから」
一人目は「あまにゃん」こと、皆瀬甘音ちゃん。
今日はピンクのワンピース。伊達メガネをかけて、軽く変裝している。さすが人気急上昇中の聲優。だけど、その可さまでは隠しきれない。メガネのおかげでかえって清楚な真面目さが強調されてしまい、ちらちらと橫目で見ていく男の多いこと。
「甘音ちゃん。何故ここに?」
「なぜ? うふふ。なぜでしょう?」
「……泳ぎたかったから?」
「ぶぶー。ふせーかーい。『和真くんと二人で♪』が抜けてます♪」
なんて、正面から抱きついてくる。積極的すぎるアプローチに、周りの男たちの視線がいっせいに険しくなった。
そして二人目、「いっちゃん」こと白鷺イサミ。
「和にぃ、ボクに緒でズルいよ! 予定なんかいくらでも空けたのに!」
ショートパンツにぶかぶかのTシャツ、ウインドブレーカーというラフな服裝。ユニセックスなコーディネイトとのせいで、ぱっと見では男子か子がわからない。いずれにせよハッとするほどの形なので、男に加えての視線も集めてしまっている。
「別に緒にしてたわけじゃないんだが」
「だーめ。バツとして、今日はボクと一番一緒に遊ぶことっ。いいよねっ?」
左腕にぎゅっ、としがみついてくる。サラシで隠されたを押し當てるようにしてくるのは、いっちゃんがHだから――ではない。はしたないを俺は尊敬しない。「ボクもの子なんだよ?」「忘れちゃヤダよ?」という、いじましいアプローチだということはわかる。
とはいえ、きが取れないのは困るんだが……。
さらに三人目。「晝はギャル、夜はメイド」の鮎川彩加。
俺の右腕を強く引き寄せ、大きな瞳でウルウル上目遣いに見つめてくる。見事な噓泣きだ。
「ううう。和真っ、うちにナイショで泳ごうとしたの? ねえねえ、泳ごうとしたのっ? ヨヨヨ~」
「ヨヨヨ~と言われても……」
おまで隠れる超ビッグシルエットのパーカーから、ダンスで鍛えたカッコイイ素足がびている。亜麻の長い髪は今日もサラッサラ。うーん、イケてる。俺みたいなキャが直視すると目が潰れそう。「チッ」「チッ」「チッ」。キャ男どもの舌打ちがあちこちから聞こえてきた。
――やれやれ、參ったな。
頭を掻こうとした俺の左腕をつかんだのは、胡蝶涼華會長である。
元が大きく開いたノースリーブのシャツにピタッとしたスキニーデニムのおかげで、深いの谷間や満なおのラインが惜しげもなく曬されている。サングラスをかけたそのルックスは、もう完全に大人の。周りからは舌打ちすら起きず、ただただ見とれる男たちばかりだった。
「和真君、これはいったいどういうこと?」
「それはこっちが聞きたいです」
會長の切れ長の目が逆三角形に吊り上がってる。
そりゃ怒るよな。
「まさか、綿木さんも來てるんじゃないでしょうね?」
「そういえば、ましろ先輩がいませんね」
甘音ちゃんたちが勢揃いしているのに、彼だけいないのは不自然に思える。
そのとき、俺のスマホが著信音を鳴らした。
噂をすれば、綿木ましろ先輩からのメッセージだった。
『 今日、デートなんでしょ? 』
『 會長のSNSを見てぴーんときたもん! 』
『 ずるーい! あたしもいきたーい! 』
『 って思ったけど、どうしてもはずせない用事があるの。しくしく 』
『 かわりに、三人のシカクに連絡しておいたからっ 』
『 胡蝶せんぱいに言っといてね。ぬけがけダメ、ゼッタイ! 』
『 ましろ♥ 』
メッセージには畫像がついていた。カラオケボックスのようなところで、たくさんのスイーツと部のみなさんに囲まれて、投げキッスしてる先輩の顔だった。なにかの打ち上げらしい。以前、部には迷をかけてしまったけど、楽しくやってるようで安心した。
「會長、SNSに何か書きましたか?」
「ええ。大事なひとと泳ぐ約束をした、みたいなことを。……えっ。まさかそれだけで?」
「ましろ先輩、鋭いですからね」
「迂闊だったわ」
天を仰ぎながらも、會長は俺の左腕を離してくれない。
そして、それは他の三人も同じである。
正面に甘音ちゃん。
背中にいっちゃん。
右腕に彩加。
左腕に會長。
こういうの「四面楚歌」っていうんだっけ? いや「四楚歌」?
あるいは、世界一らかくていい匂いのする、押しくらまんじゅう。
さすがに周囲の視線がやばくなってきた。
四人が四人とも「S級」の、それを俺ひとりで獨占しているのだ。
今日は休日だけあって、ナンパ目的のガラが悪そうな男たちもり口に多くたむろしている。彼らの俺を見る視線はもう、殺意がこもっている。いつ絡まれても不思議じゃない。
トラブルになる前に、移すべきか。
「甘音ちゃん。會長。いっちゃん。彩加」
「はいっ!」
「何?」
「どうしたの?」
「放せって言われても放さないから!」
わがままを言う彩加に、俺は言った。
「いや、その逆」
「へっ?」
「四人ともしっかりつかまって――離れるなよ」
地面を蹴った。
まずは、軽い跳躍。
すぐそばのブロック塀の上に乗っかる。
さらに跳躍。
今度は街燈、そのフードの上に著地する。
ナンパ男たちが、あんぐりと、大口を開けて見上げている。彼らの扁桃腺や、蟲歯までも、この位置からだとよく見える。
さらにさらに――大跳躍。
四人の彼たちが舌を噛まないよう、対空時間を長めにとるふわりと浮き上がるようなジャンプを心がけた。
場口の屋を飛び越えて――。
途中、植えてあった松の木を二回蹴って、落下の衝撃を吸収させる。
しゅた、っと。
レジャープールの敷地に著地する。
はい、場功。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
ぽかんとする四人から、ようやく俺は逃れることができた。
甘音ちゃんが目を何度もぱちくり、ぱちくりさせている。伊達メガネのおかげで見慣れた表が新鮮。可い。
「かっ和真くん、今のどうやったんですか?」
「跳んだ」
「跳んだ!? あんなに高く跳べるものなんですか!? 場口飛び越えて!? 四人を抱えて!?」
「うん」
「お、重くなかったですか!?」
「重いとかより、四人に著されてドキドキしたかな」
そちらのほうが、彼なしキャにとっては深刻な問題である。
さて、と――。
出口のほうへ向かって歩き始めた俺のことを、會長があわてたように呼び止める。
「ど、どこ行くの? そっちは出口よ」
「知ってます」
シュンとしたように彩加が言う。
「ゴメン和真、怒った? うちら、やりすぎ?」
「えっ? ……いやいや、そうじゃなくて」
俺は頭をかきながら、財布を出した。
「場料、払ってこなきゃ」
【まるやまからひとこと】
長い休載にもかかわらず、読みに來てくださる方がほんとうに多くて
まるやま、激しております!
ありがとうございます!
プール編、8/2の書籍発売まで更新していきます
どうぞよろしく!
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