《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》5 「元」トップアイドルのほうが「現」トップアイドルより可い件

しばらく歩いたところで、いっちゃんがぎゅっと俺の腕にしがみついてきた。膝がプルプルしている。怖かったのだろう。

肩を優しく叩くと、甘えるようにらかいをすり寄せてきた。

れ合ったから、じんわりと甘い熱が伝わる。

誰かさんの言い草じゃないけど、このの子は確かに無理があるな……。

「和にぃの“合気”ひさしぶりに見た。古宮道場にいた頃より、すごくなってるね。プロの格闘家にも通用しちゃうんだ」

「いろいろあったからな」

別にみもしないのに。

プールでパーカーも気軽にげないような験を、に刻まれたのだ。

あのブタとその一族に。

「もうセンパイたち來ちゃうね。水著、見てもらいたかったのになぁ」

「さっき、見せてもらったよ」

それが、あの意味のない小競り合いの唯一の果だ。

「爽やかな水で、いっちゃんのイメージにぴったりだった。似合ってる」

「あ、あんな形で見られても嬉しくないよぉ!」

顔を真っ赤にしたいっちゃんが指で俺の脇腹をつつく。痛い痛い。さっきの攻撃なんかより、こっちのほうがよほど強烈だ。

と、その時――。

ひとりのの子が、俺たちの前に立ち塞がった。

の長い髪のだ。

歳はたぶん、俺と変わらない。

ベースボールキャップをかぶっているが、そのかぶりかたが、キャの俺には魔法にしか見えないくらいイケてる。

腰の位置が高い。

すらりとして、かつ、嫋やかな

らしいふくらみにも恵まれている。

つまり抜群のスタイルということなのだが――。

おかしなことに、彼はTシャツにミニスカート姿だった。

ここはプールである。

俺やいっちゃんのように、水著の上から何か羽織っている人は大勢いるが、服のままというのは珍しい。

「どこ行くのよ」

天使のような容姿とは真逆の、不機嫌な聲を彼は発した。

目深にかぶった帽子の下にある瞳が、ジロリと俺をにらみつけている。

「配信してない時に清原三男ぶっ倒してどうすんのよ。あんた企畫の參加者じゃないの?」

「企畫?」

俺といっちゃんは顔を見合わせた。

「悪いけど、心當たりがない」

「あっそ。挑戦者ってわけじゃないんだ。なら――」

は勢いよく顔を近づけてきた。

帽子が落ちて、長い髪がふわりと広がる。

の髪から、そのにふさわしい、瑞々しい白桃のような甘い匂いが香る。

は、そのまま思い切り背びして、右手を高く振り上げた。

――ぱしん!

鮮やかな音がした。

近くで見ていたいっちゃんが、呆気にとられてけないほど――見事なビンタだった。

「ひとの仕事の邪魔すんな! 馬鹿!」

そう言い捨てて、彼は足音も荒く去って行った。

「うわー、すごいモミジ」

ビンタされた左頬を見て、いっちゃんがこわごわと言った。

「大丈夫? 和にぃ」

「大丈夫じゃないな。クラクラする」

ビンタの威力もさることながら。

あんな可い顔を近づけられて、クラクラしない男はいないだろう。

「もしかしてあのヒト、桃原ちとせじゃないのかな」

「桃原?」

その名前に、なんとなく聞き覚えがあった。

「和にぃ知らない? おととしくらい紅白にも出てたんだけど」

「ああ――そうだ、アイドルだよな」

蕓能界に疎い俺でも知ってるくらいだから、大メジャーってことになる。

「一時期ドラマやバラエティでよく見かけたよね。テレビで見ない日はないくらい」

「過去形なのか?」

いっちゃんは苦笑した。

「今は、ほら、瑠亜さんがいるから」

「あれがいると、何かまずいのか?」

「アイドルって競爭が激しいからね。一人が頂點に立てば、もう一人は……」

「そういうことか」

ブタさんが人気急上昇アイドルとして注目され始めたのは、去年のことだ。

誰かが上に立てば、誰かが下になる。

ブタという太が昇ったので、桃原ちとせという星は、地平線に沈んでしまったのか。

あんな超のつくが、もったいない。

他のアイドルに人気が出たからって、彼の価値が下がったわけじゃないだろうに。

どうも蕓能界ってところはよくわからないな。

8/2の発売まであと2週間です。

こちらの和真とあまにゃんのカバーを本屋さんやネット書店で見かけたら、ぜひよろしくお願いします。

本日はもう1話投稿します!

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