《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》9 桃原ちとせは子供好き
彩加にレクチャーしてもらいながらスマホを作して、格闘大會「黒に染まれ」にエントリーした。
十五分後に集合らしい。
その前にトイレをすませておこうと歩いてると、売店の近くで桃髪のが四、五人の子供たちに囲まれていた。
元・トップアイドル桃原ちとせ。
ブタさんの出現で今は斜の途にあるらしいが子供たちにはまだまだ人気のようで、記念撮影やサインをねだられ大忙し。俺にはいきなりビンタをかましてきた彼も、子供たちにはニコニコ笑顔ではしゃいでいる。ファンサービスっていうより、素で楽しんでるみたいだった。
彼の周りだけスポットライトが當たっているみたいに、くっきりと輝いて見える。
これぞアイドルってじ。
さっき半グレ兄弟と現れた時とはまるで別人じゃないか――。
しばらく見つめていると、母親らしきグループが子供たちを呼びに來た。
「ねえ! 向こうに高屋敷瑠亜ちゃん來てるわよ! 行こ?」
子供たちは首を振る。
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「やだ! ももちーがいい!」
「るあちゃんって、あたし、すきじゃなーい!」
い子供たちは、ちゃんと本を見極める目を持っているようだ。
だが悲しいかな、大人はそうではない。マスコミやネットに騙されてしまう。自分がいいというものではなく、大勢が「いいね」したものを信じてしまうのである。
「ほら、向こうで清原兄弟と撮影會やってるって。瑠亜ちゃんとツーショット撮れたらSNSでいいねたくさんもらえるわよ。行きましょ?」
母親グループは子供の手を引っ張って、強引に連れ去ってしまった。
後にはぽつんと、立ち盡くす桃原ちとせが殘されて――。
「…………」
子供たちの背中を見送るその橫顔は、なんともが締め付けられるようなものであった。悲哀や落膽、あるいはあきらめ、子高生が顔に浮かべるにはふさわしくない、彼が今まで歩いてきた道の険しさをじさせる顔だった。
そして、それだけじゃない。
それらの蕓能人としての表に混じって、「もっと遊びたかった」という、おもちゃをとりあげられてしまったのような、純真で素樸なが一番奧にゆらめている――ように、俺にはじられた。
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聲をかけずにはいられなかった。
「子供、好きなのか?」
長い桃髪がびくんと飛び跳ねた。
じろりと振り向いた時、彼はいつもの不機嫌な表に戻っていた。
「別に。営業よ営業」
「営業?」
「ファンサービスも業務の一環。蕓能人でございます、ってふんぞりかえってるアイドルなんて、今どき流行らないの。あんな風に『いい人営業』『子供好き営業』しないとね」
「それにしては、ずいぶん楽しそうだったな」
「だから、それも含めて営業なの! なんも知らないくせに、プロのあたしにえらそーなクチ聞くな、アマチュア!」
うーん。
これは、めちゃめちゃ嫌われてるな……。
「てか、あんた何者? 名乗りなさいよ」
「帝開學園一年、鈴木和真」
「なんだ、一個下じゃん。あたし高二。お姉さんよお姉さん。わかる?」
しまった、タメ口はまずかったか。
「瑠亜姫とはどういう関係よ? ずいぶん親しげだったけど」
「學校が同じなだけの、元・なじみです」
「元……?」
彼は怪訝な顔をした。
「それより、さっきはどうしてかばってくれたんですか?」
「は? 何が?」
「清原三男を俺が倒したところ、見てたんでしょう? なぜそれを長男と次男に隠したんですか?」
彼は大げさにため息をついた。
「さっきも言ったじゃん、撮れ高の話よ」
「撮れ高?」
「極端な話、あんたが強そうなイケメンだったら良かったのよ。でも、あんたキャじゃん。超よわそーじゃん。三男を倒したところはこの目で見たけど、今でもインチキじゃないかって疑ってるくらい」
「……」
「あんたじゃ畫として面白くならないから。だから噓ついたの。それだけよ」
「つまり、俺を助けたわけじゃないってことですか」
「そういうこと。ビジネスよビジネス」
ビジネス。
時々、涼華會長も口にする言葉だ。
會長の言う「ビジネス」は、俺が言うところの「日直當番」とか「テスト勉強」とニュアンス的には大差ない(スケール的にはもちろん違うが)。
だが、桃原ちとせの「ビジネス」は、俺が言う「容院に行く」とか「渋谷で買い」と似たようなニュアンスにじる。
背びしてる、とでも言おうか。
さっき子供と遊んでいた時の彼のほうが、ずっと「リアル」なじがしたけどな。
「何よ、黙りこくっちゃって。怒ったの?」
「怒ってないです」
口に出したら今度こそ怒られそうなので、別のことを言った。
「それにしても、さっきのももちー先輩は魅力的に見えましたよ。俺の連れも大ファンだって言ってました。あのブタに人気で負けるなんて、信じられないんですが」
「ももちー先輩って何、その呼び方。……まぁいいけど。ブタって誰のことよ?」
「ブタはブタですが」
他の言い方だとなんだろう? ピッグ? ポーク? ハツ? レバー?
彼はハッとした表になり、それからぷっと噴き出した。
「もしかして瑠亜姫のこと? ブタって、マジ? あの子が今どんだけ稼ぐアイドルか知らないの? インスタドラムのフォロワー數やヨウチューブの登録者數だってすさまじいんだから」
「さあ。興味がないので」
「呆れた。あんた本當に現代を生きる高校生なの? 実はジャワ原人?」
「平均以下であることは自覚してます。だから、普通になりたいんですよ」
「ふうん。変わってるね」
しトゲが取れた表で彼は言った。
「きっかけは、水著よ」
「水著?」
「二年くらい前かな。水著グラビアの仕事がったの。ま、アイドルとしては定番なワケだけど……あたし、そういう売り方は好きじゃないから。拒否ったの」
水著グラビア。
俺が時々読む青年漫畫誌にも載っている。アイドルやコスプレイヤー、聲優なんかの水著姿が巻頭を彩っている。甘音ちゃんも一度聲がかかったって言ってたっけ。
「それがどうも、事務所のエライ人の怒りにれたらしくってさ。お高くとまってるって思われちゃったのかなぁ、そう思われないようにいろいろ気配りしてたつもりだったんだけど。甘かったわ」
「それで、干された?」
「そのタイミングで出てきたのが、あの子――高屋敷瑠亜よ。帝開グループの後ろ盾もあって、あっという間にトップアイドル。ナマイキキャラで売ってるあたしとキャラもカブッてるとなれば、事務所が瑠亜姫を優先するのは、ビジネスとして當然よね」
現代を生きる子高生らしくない、重々しいため息を彼はついた。
「ま、でもこのままじゃ終わらないわよ。水著になんかならなくたって、もう一度トップに返り咲いてみせるわ。そのためなら、なんだって利用するし。清原兄弟だって――」
「付き合わないほうがいい気がします。『反社』でしょう、彼ら」
粋がっているだけの次男や三男はともかく、あの長男からは「裏」の匂いがした。アイドルのような「」の存在が関わるべきじゃない。
彼はまたため息をついた。
「わかってるわよ。でもせっかく事務所がブッキングしてくれた仕事だし、斷ったら今度こそクビになる。これでもあたし、プロだから」
「そこが、よくわからないんですが」
「何がよ?」
俺は自分の考えを話した。
「アイドルには、なりたくてなったわけですよね?」
「そうよ。子供の時からの夢」
「アイドルなら水著になることくらい『普通』だと思ってました。それは、わかってたはずじゃ?」
彼は答えなかった。
その代わり、Tシャツのおなかのあたりをさするような仕草を見せた。
俺は続けて尋ねた。
「あの兄弟みたいな輩と絡むことより、水著になるのが嫌っていうのは、ちょっとわからないんです。ももちー先輩は可いしスタイルもいいし、ファンなら絶対水著を見たがるはずでしょう。ポリシーに反するとしても、先輩なら『これもビジネス』って割り切りそうな気がして」
やはり彼は答えなかった。
代わりのことをぽつりと言った。
「難しいわね。世の中って」
「……そうですね」
しばらく二人で、遠くのプールではしゃぐ子供たちのことを眺めた。
「あんた、今からでも棄権してきたら? あの大會危ないわよ」
「素人ばかりって聞きましたが」
「ほとんどは街の不良レベルよ。でも、中にはプロのボクサーもいるし、ヤクザや半グレみたいなのも混じってる。兇を隠して持ち込んでるヤツだっていると思う」
「怖いですね」
「怖いわよ。だから人気なの。悪いこと言わないから、やめときなさい」
その聲音は、真剣に俺のことを案じてくれているようだった。
「心配いりません。瞬殺ですから」
「まさか合気道でなんとかしようと思ってる? 無理無理。試合はグローブはめてやるんだから。三男の時みたいに摑ませてもらえないわよ」
「格闘技のこと、わかるんですか?」
「清原兄弟とコラボするからには、そりゃ、しはね」
ずいぶん勉強家で、努力家のようだ。
ますます好を持ってしまうが――。
「瞬殺されるのは、俺のほうです」
「……ハ?」
「見ててください。『撮れ高』のあるやられっぷりを披してみせますよ」
彼は大きな目をさらに大きく見開いた。
不機嫌そうに引き結んでいたに、その時はじめて、笑みが浮かんだ。
「おっかしい! あんた、ちょっとおかしいんじゃないの!?」
「いや、それほどでも」
「褒めてないって! ほんっと、おっかしい!」
そう言って笑う彼は、ドキッとするほど魅力的だった。いつもとびきりのたちに囲まれてる俺でさえ、心をグッと摑まれてしまう。つまりそれは、姿かたちのことだけじゃない。「華がある」ということ。彼の心が、その存在そのものが「おしい」という証明だった。
やっぱりどう考えても、ブタさんより魅力的と思うんだけどな……。
世界は間違いだらけだ。
いっちゃんこと、白鷺イサミの畫像公開~。
こんな可い男の子がの子のわけないだろ!!!!!!!!!
ちなみに書籍版では「瀬能イサミ」という名前に変わってます。
「S級學園」書籍版よろしくお願いします!
正式発売は8/2ですが、早いところでは7/29からもう書店に並びはじめるようです!
【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
書籍版4巻は、2022年7月8日発売です! イラストはかぼちゃ先生に擔當していただいております。 活動報告でキャラクターデザインを公開していますので、ぜひ、見てみてください! コミック版は「ヤングエースUP」さまで連載中です! 作畫は姫乃タカ先生が擔當してくださっています。 2021.03.01:書籍化に合わせてタイトルを変更しました。 舊タイトル「弱者と呼ばれて帝國を追放されたら、マジックアイテム作り放題の「創造錬金術師(オーバーアルケミスト)」に覚醒しました -魔王のお抱え錬金術師として、領土を文明大國に進化させます-」 帝國に住む少年トール・リーガスは、公爵である父の手によって魔王領へと追放される。 理由は、彼が使えるのが「錬金術」だけで、戦闘用のスキルを一切持っていないからだった。 彼の住む帝國は軍事大國で、戦闘スキルを持たない者は差別されていた。 だから帝國は彼を、魔王領への人質・いけにえにすることにしたのだ。 しかし魔王領に入った瞬間、トールの「錬金術」スキルは超覚醒する。 「光・闇・地・水・火・風」……あらゆる屬性を操ることができる、究極の「創造錬金術(オーバー・アルケミー)」というスキルになったのだ。 「創造錬金術」は寫真や説明を読んだだけで、そのアイテムをコピーすることができるのだ。 そうしてエルフ少女や魔王の信頼を得て、魔王領のおかかえ錬金術師となったトールだったが── 「あれ? なんだこの本……異世界の勇者が持ち込んだ『通販カタログ』?」 ──異世界の本を手に入れてしまったことで、文明的アイテムも作れるようになる。 さらにそれが思いもよらない超絶性能を発揮して……? これは追放された少年が、帝國と勇者を超えて、魔王領を文明大國に変えていく物語。 ・カクヨムにも投稿しています。
8 159No title
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