《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》10 キャの〝瞬殺〟を見せつける

素人格闘技大會「黒に染まれ」。

清原兄弟のヨウチューブチャンネルの人気企畫で、総再生回數は一億を軽く超えている。

清原兄弟が審査員を務めるオーディションをやって、合格者同士が試合をする。勝ち抜いた者同士がまた戦い、ある程度勝ち進むと清原兄弟と試合ができる。

勝てば、百萬円。

仮に負けても、目立つことができれば有名になれる。なにしろ一億再生だ。「黒染ま」か數々の人気ヨウチューバーを輩出しているということで、売名目的で出場する輩も多くいるらしい。

今日は「瑠亜姫杯」ということで、特別賞金一千萬円が出る。

集まった參加者は、なんと、百人を超えるという。

「世の中、の気が多い人ばかりなのね」

涼華會長がため息をついた。

憩いの場であるはずのプリンセスプールは、時代錯誤の特攻服やらリーゼントやらのむさくるしい男どもと、その男たちの連れであるキンキンの髪をした日焼けたちでひしめいていた。まるで暴走族の集會だ。殺伐殺伐、サツバツバツ。「うう、煙草くさい……」と、いっちゃんが泣きべそをかくのが聞こえた。

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彩加が言った。

「ねえ、試合ってどこでやるの?」

「あそこですよ、あのリング」

甘音ちゃんが指さす先に、金網で囲まれた八角形のリングがあった。

「変なかたち。ふつーリングって四角じゃないの?」

俺は答えた。

「総合格闘技は、あの形のリングが一般的なんだ。ロープもなくて、代わりに金網が張られている」

「へえ、和真くわしいんだ? 実は格闘技好きとか?」

「いや全然」

昔ああいうリングに上がってたことがあるから――とは、言わなかった。

海外の、しかも地下の話である。

「それにしても、こんな百人もいてどうやって試合すんの? 一日で終わらなくない?」

「さあ、そこまではわからないな」

甘音ちゃんが代わりに答えた。

「時間はそんなにかからないと思います。一試合一分制で、決著つかない時はダメージとか関係なく『ともかく攻撃してたほうが勝ち』っていうルールなんです」

「ガンガン毆り合わなきゃ駄目なわけか」

「はい。だから派手な試合が多くて人気なんです」

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甘音ちゃんは、不安そうな目で俺を見た。

「和真くん。ケガとか、しないでくださいね?」

「まー、和真なら大丈夫っしょ!」

彩加が明るく言った。俺が戦ってるところを目の當たりにしたことがある彼には、全幅の信頼を置かれているようだ。

いっちゃんや會長も同じで、ケガを心配してるようには見えなかった。

たちが心配してるのは、別のことだ。

「和真君。瞬殺されてくるって言ってたけど、どうするつもり?」

「わざと倒れたりしたら、バレちゃうんじゃない? 和にぃ、そんな演技上手いほうじゃないし」

俺は四人のたちを見回して言った。

「大事なのは、説得力だよ」

「説得力?」

「観客やネットの視聴者に納得してもらえるような負け方。『弱い』『完敗』そんなコメントで埋め盡くされるような負けっぷり。それを見せつければ大丈夫さ」

そんなことより、俺は別のことを心配している。

ブタさんの向である。

今大會の特別ゲストであり、スポンサーでもあるというブタ屋敷ブタ亜。

すでに生配信が始まってるようで、リング橫に設置されたステージ上で清原兄弟や桃原ちとせとトークしている。ブタさんのよく通る耳障りな聲がここまで屆いていた。

『瑠亜姫は、格闘技観戦とかしないのかな?』

『えぇ~? るあ、そーゆーのこわくてぇー。人が毆ったりするのとか、ムリだしぃー。でもまぁ、お仕事だし? がんばって今日は見に來ました!』

噓つけ。

俺が地下のリングに上がった時は「コロセ!」って一秒間に百回んでたくせに。「全からというをドバドバ出し盡くさせてコロセ!」とか。放送止用語や差別用語もたくさん口にしていた。あのブタの本は、本來、日の當たるところに出られるようなものではないのだ。このコラボもノリノリだったに違いない。

ももちー先輩は、にこにこと相づちを打っている。時々面白いツッコミをれたり、場を和ませるボケを披してみたりして、見てる人を飽きさせないよう気配りしている。

あれこそまさに「お仕事」ってやつだ。

「瑠亜さん、今日は何を企んでるのかしら」

厳しい顔つきで會長は言った。

「偶然仕事でここに來たっていうだけならいいけど、違うわよね」

「そうですね。會長たちは、なるべく俺の目の屆くところにいてください」

ましろ先輩の時のように、特殊部隊をかしている気配は今のところはない。

もし「十傑」がいているとしたら察知は困難だが、その時は師匠からひとこと連絡がるだろう。多分。

ちなみにブタ専屬のボディーガードである「十傑」氷ノ上零は、ステージ脇にぽつんと立っている。ただぼーっとしているようにも見えるが、その立ち姿にはスキがない。事ある時にはすぐに飛び出せるよう準備をしている。真っ白な髪に赤い瞳、しい狩猟獣のようなその姿は、周囲の男どもの視線をかに集めていた。

あいつも水著になればいいのにな……。

きっと、モテるだろうに。

そんなことを考えていると、スマホに著信音があった。

畫面を見れば、さっきインストールさせられた大會參加用アプリが呼び出しを告げていた。

出番のようだ。

「がんばって、和真くんっ!」

「相手を殺しちゃダメよ」

「和にぃ、ふぁいと!」

「よっ、ス●ブラ和真! あの時みたいにかっこいいとこ見せてよ!」

……だから、瞬殺されにいくんだって……。

リング側に行って、レフェリーからボディーチェックをける。ちょっとれるだけの、ものすごくぞんざいなチェックだった。ちょっと隠せば兇持ち込み放題、むしろ「持ち込んでくれ、その方が撮れ高がある」と言わんばかりの。

グローブもつけてもらう。

ボクシングやキックなんかで使用される打撃専用のグローブだ。當然、相手を摑むことはできない。その代わり、ってる綿が極薄だ。これだと素手で毆られるのとあまり変わらない。

リングに上がる。

対戦相手はすでに対角線上のコーナーにもたれかかり、いや、ふんぞり返って俺を待ちけていた。

デカイ。

縦にも橫にも、でかい。

ブヨッとした型で、腹が五段、いや、六段、七段……近くの神社の階段くらいありそうだ、

髪型も個的だ。

サイドを短く刈り込み、頭には長いちょんまげが乗っている。世界史の資料集に載ってるモンゴル騎馬民族みたいな髪型である。

じっ、と無言で俺をにらみつけている。

いちおうは真剣な表に見えるが――口元がわずかにほころんでいる。

『 1回戦の相手がこんな弱そうなやつで、良かった。 』

そんな心の聲が聞こえてきそうだった。

レフェリーに促されて、リング中央へと進む。

観客たちの聲が背中にぶつかってきた。

『おいおい、すげー格差じゃん』

『勝負になんのか?』

キャが毆ったら手のほうが折れそう』

そんな聲のなかにじって、黃いブタの聲が響き渡る。

「カズ~!! がんばってね~~ン!! アタシが見てるからってやりすぎちゃ駄目よ? ちゃーんと手加減してあげてねぇ~!!」

思わず耳を塞ぎたくなったが、周囲に與えた効果は劇的だった。

『お、おい、るあ姫が応援してるぜ』

『マジ? どーゆー関係だよ?』

『帝開の同級生とか?』

『あのS級學園の生徒なら、結構やるのかも――』

どよめきがリングまで屆いてくる。

対戦相手のモンゴルマンも、目のを変えて俺をじっと見つめている。その表から侮りが消えて、本気の目になっていた。

ゴングが鳴った。

様子を見ようとばかりに下がったモンゴルマンとは逆に、俺は踏み込んでいった。

脂肪のつきまくった顔に驚きが浮かび上がる。

おおっ、と観客が沸く。

俺はパンチを繰り出した。

といっても、ただグローブを突き出しただけなのだが――。

のろいパンチなので、モンゴルマンはあっさりかわす。いわゆる「ダッキング」という技でかがみ込んで拳をかいくぐり、チャンスとばかりに、俺がわざとがら空きにしたボディに拳を出してきた。

うん……。

まぁ、可もなく不可もなく。

「説得力」にはやや不安が殘るが、やり直しを要求できる立場でもない。

グローブが俺のみぞおちにめり込む。

「うぐぅ」

なんかそれっぽい悲鳴をあげてみる。「うぐぅ」。いや「ぐはぁ」の方が良かったか? あるいは「あべし?」「ひでぶ?」どういえばダメージが伝わるのか? 意外と奧が深いな、やられ役の〝説得力〟。

悲鳴をあげつつ、俺はをくの字に折り曲げた。

イメージするのは、昔、なんかSNSで流行ったやつ。

マカンコウサッポウ、だっけ。

膝のバネだけで思いっきりジャンプして、両足をリングのマットから離す。

拳の威力で吹っ飛ばされた風を裝い、目指すは後方。

このまま金網に背中をガシャンと叩きつけられ、マットに崩れ落ちてKO。そんなじのやられ方。

王道である。

だが――。

俺は、王道のその先を往(ゆ)く。

頭にあるのは、ももちー先輩が心配していた「撮れ高」のことだ。

ショーとして、エンタメとして、見栄えのあるやられ方。

だから。

俺は加速する。

つま先がマットにれる――ふりをして、思い切り力をれて蹴った。

吹っ飛ぶ勢いが増す。

金網に背中が深く深くめりこんだ。

まだまだ。

さらに強く、マットを蹴った。

蹴るのが速すぎて、レフェリーにも観客にも見えなかったに違いない。

彼らの目には、ただ、「すごいパンチでキャが吹っ飛ばされた」ようにしか見えないはず。

まるごと、金網にめり込んでいく。

金網がその負荷に耐えきれず、めちめちという音を立てて破れていく。

そこでもう一度、マットをかかとで蹴る。

引きちぎれた金網の破片をまき散らしながら、俺は宙を舞う。

あんぐりと大口を開けて見上げる観客の頭上を跳んで、翔んで、飛んで――目指すはリングからし離れたところにあるゲスト席である。

そこには、ももちー先輩が座っている。

い顔に驚きを広げているその席の橫を、著地點にしよう。

最後のダメ押しとばかりに、もう一度悲鳴をあげる。

「うぐぅ」

言いながら、ごろごろ地面を転がった。なるべく派手に、回転多めに、砂埃とかあげつつ。撮れ高撮れ高。

どすん、と背中がレンガの壁にぶつかった。

ついでにこの壁を突き破って――いや、さすがにそこまではやらなくていいか? やりすぎは逆効果だよな。自重しよう。

すでにリングは遠くなっている。

だが、誰もリングは見ていない。

モンゴルマンに瞬殺されて吹っ飛ばされ、場外を転がった俺のことを、ぽかん、と見つめていた。

――あれ?

なんか、あんまり盛り上がってないぞ……?

その時、ももちー先輩と目が合った。

ぱくぱく、何度も口を開いたり閉じたりしている。目をぱちっ、ぱちっとな何度も瞬きさせて。その仕草がとてつもなく可らしい。作った表より、素の表がずっと可い。

俺は小聲で聞いた。

「撮れ高、どうでした?」

は一瞬、何を言われたのかわからなかったらしい。

しばらく、ぽかんとしていた。

俺をびしっと指さして、んだ。

「ありすぎ!」

やったぜ。

本日のイラストは、學校ではカーストトップのギャル、夜は純メイドさんの鮎川彩加(書籍版の名前は柊彩茶)です!

個人的にすごく気にってるデザインです!

書籍版「S級學園」いよいよ7/29の金曜に、早いところでは発売になります(正式発売日は8/2)。

よろしくお願いします!

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