《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》11 反社とブタ
場はまだざわついていた。
観客は誰もリングのほうを見ていない。
金網を突き破って場外に吹っ飛ばされるというやられっぷりを見せた俺に、視線が集中していた。
『めちゃくちゃ飛んだなぁ、あいつ』
『あのモンゴルマン、すごいパンチ力だ』
『優勝候補だわ』
『……いや、毆られたってあんな飛ばなくね? 普通』
なんだか議を醸しているようだ。
ももちー先輩が歩み寄ってきた。
「大丈夫? ほら、立ちなさいよ」
差し出された手を握り返すと、超人気アイドルはをかがめて顔を近づけてきた。
鼻先がふれあいそうな距離だ。
こんな可い人にそんな接近されて、ドキドキしない男子高校生なんてこの世に存在しない。
「あのう、先輩?」
甘いラブコメなシチュエーションに似合わない厳しい顔と聲で、彼は言った。
「高屋敷瑠亜と清原兄弟が何か企んでる。あんたの彼たちが危ないわ」
「……!」
しまった。
気がつけば、いつのまにかゲスト席からブタの姿が消えている。
Advertisement
撮れ高のことばかり気にして、吹っ飛びすぎた。リングから離れすぎたのだ。
「連れ込むとしたら、メインプールの後ろにある第二プールよ。次男が何か準備してたから」
「ありがとうございます」
観客をかきわけるようにして席に戻ると、そこにはべそをかいているいっちゃんだけが取り殘されていた。
「和にぃ! 大変だよ! 先輩たちが変な男たちに捕まって……」
「ああ、わかってる」
いっちゃんを拉致しなかったのは、「あいつ」は未だにいっちゃんをの子だと知らないからだ。
「いっちゃんはここをくなよ。いいな?」
「うん! 気をつけて!」
ももちー先輩に教えてもらった「第二プール」は現在改裝中で、青いビニールシートがかけられている。中で何が起きていても、外からはわからない。この會場が清原兄弟の貸し切りで、そこにブタが絡んでいるとするなら、何かするにはおあつらえ向きの場所だった。
り口らしきところに、門番が立っている。
ひとりは派手な柄シャツを著たヤンキーだ。
そしてもうひとりは、黒の背広をかっちり著込んだいかつい男。
その奇妙な取り合わせが、中にいる人間の正を表している。
反社とブタは、グルってことだ。
「ぐっ」
「ごっ」
懐に飛び込み、素早くみぞおちに拳を叩き込んだ。
吹っ飛ばす必要なんてない。
拳のもたらす衝撃を、人に浸させるのに派手なきはいらない。
いわゆる寸勁、「ワンインチパンチ」とも呼ばれる技だ。
やられるほうも、見ているほうも、何が起きたかなんてまるでわからない技だ。
撮れ高なんてまったくない、ももちー先輩に怒られそうな技だけど、ここはリングじゃない。見せかけの技など使う必要はないのだ。
気絶した男二人を蹴り退け、中にった。
そこは奇妙な場所だった。
改裝作業中らしい大きなプールに並々と水が張られている。だが、その水は緑でドロドロしている。藻が繁しているのかと思ったが、あきらかに植とは違う、粘土のような匂いが立ちこめていた。
「和真くんっ!」
その不気味なプールのそばに、甘音ちゃんが捕えられていた。
捕まえているのは案の定、清原次男だ。
甘音ちゃんに執心を見せていた金髪ゴリラは、太い腕で彼を羽い締めにしていやらしい笑みを浮かべている。
「和真君!」
「和真ぁ! たすけてーーーっ!」
涼華會長と彩加も、次男の手下らしきチンピラに後ろ手に拘束されていた。
この二人もニタニタと好な笑みを浮かべている。彼たちの水著のふくらみを濁った目で見つめている。自分が捕えている極上のに不埒を働きたいのが見えいている。
モラルの欠片もない下品な輩が、何故それを実行に移さないのか?
それは、背後に黒幕がいるからだ。
「ずいぶん早かったわねえ、カズ!!」
ブタさん。
黃のビキニ姿で、ぺったんこなを誇らしげに逸らしながらのご登場である。
「惜しいナー。もうし遅かったら、この泥棒貓三匹の無様な姿が見られたのにねェ?」
「何をさせるつもりだったんだ?」
「アタシが用意した特製スライムプールでスイムしてもらうの。ブクブクモガモガドロドロヌルヌル、みっともなくねェ! アタシのチャンネルのメンバー限定配信で、その畫を流してやるわ! いい気味いい気味ィ!! ッシャッシャ!」
「……」
ブタさんのセンスはあいかわらずよくわからん。
スライム風呂っていうのが一時期流行ったけど、かなり前の話だからなあ。
「撮れ高があるとは思えないが?」
「いいのよ、こいつらに恥をかかせてやれればいいんだから!」
恐ろしいような、そうでもないような、微妙な復讐の仕方である。
「俺が間に合った以上、それはもう不可能だ。わかるな?」
「……フン」
ブタは肩のツインテールを後ろに跳ね上げた。
その隣では氷ノ上零が臨戦態勢をとっているが、彼では俺に勝てないのはわかっているはずだ。
「ちょっとゴリラ、その前髪ウザスダレを、今すぐプールにたたき落としなさい」
「へ、へっ!?」
ゴリラと呼ばれた次男はきょとん、となった。
「イヤ待ってよ瑠亜姫、そんな焦る必要ないだろ? こんなキャ、俺がブッ飛ばしてやるからさぁ」
「いいから今すぐ落として。會長も、彩加もよ。それを撮影して今日は撤収!」
「いやだから待てって!」
次男は必死だった。
やつにしてみれば、ブタさんが去った後で、甘音ちゃんに抱(いだ)く下衆(げす)なを実行したいのだ。
彼をスライムでドロドロにしてそのまま帰るなんて、むわけがない。
ブタさんがため息をついた。
「アンタじゃ、ムリ」
「え? ムリって何が?」
「ムリだからムリだって言ってるのよ。半グレ格闘家ごときが、どうやって『十傑』に勝つのよ。『表』でおだてられてチョーシこいてる程度のヤツが」
「じゅっ、けつ?」
その時、次男にスキが生まれた。
甘音ちゃんが激しくを揺すったため、羽い締めがし緩んだのだ。
彼の勇気を無駄にするわけにはいかない。
俺は音もなく地面を蹴った。
するする、地面を這うような低い姿勢で一気に懐に飛び込み、甘音ちゃんを小脇に抱えるようにして奪還する。
次男は何が起きたのかもわからず、ぽかん、と空白になった自分の腕を見つめている。
「いわんこっちゃねーわ」
そう吐き捨てるブタさんの聲が聞こえた。
混するチンピラ二人から、同じようにして會長と彩加を奪還する。
「ごめん、三人とも。怖い思いをさせたな」
「ぜんっぜん大丈夫です!」
「必ず來てくれるって、信じてたわ」
「和真は、う、うちの王子さまだしっ!」
絶対怖かっただろうに、そんな素振りは微塵もみせずに笑ってくれる。
彼たちは寶だ。
かけがえのない俺の寶。
だから――。
それを汚そうとするものに、俺は一切の慈悲はかけないと決めている。
「おい、ゴリラ」
「――ああん?」
ぽかんとしていた次男の顔が、怒りで赤くふくれあがった。
「ゴリラってのは誰のことだ。なあ、キャくんよ。オオ?」
さっきブタから「ゴリラ」呼ばわりされた時は流したくせに。
こいつのプライドは、相手によって出したり引っ込めたりできる類(たぐい)のものであるようだ。
「てめえのさっきの試合、見てたぜ? めちゃめちゃブッ飛んでたよなぁ? あんなザコの打撃で場外まで吹っ飛ぶようなやつが、空手チャンプの俺に勝てると思うのかよ?」
ひゃははと笑うゴリラに、他の二人も追従する。
「なあに、安心しろ――」
甘音ちゃんたちを下がらせて、俺はゆっくり、構えをとる。
空を指さし、靜かに言った。
「お前は、もっと遠くまでトバしてやる」
キャラクター畫像紹介ラストは、主人公・鈴木和真!
チャームポイントは目つきの悪さです!
「S級學園」、早いところでは明日金曜から書店に並び始めます。
よろしくお願いします!
【書籍発売中】【完結】生贄第二皇女の困惑〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜
【書籍版】2巻11月16日発売中! 7月15日アース・スターノベル様より発売中! ※WEB版と書籍版では內容に相違があります(加筆修正しております)。大筋は同じですので、WEB版と書籍版のどちらも楽しんでいただけると幸いです。 クレア・フェイトナム第二皇女は、愛想が無く、知恵者ではあるが要領の悪い姫だ。 先般の戦で負けたばかりの敗戦國の姫であり、今まさに敵國であるバラトニア王國に輿入れしている所だ。 これは政略結婚であり、人質であり、生贄でもある。嫁いですぐに殺されても仕方がない、と生きるのを諦めながら隣國に嫁ぐ。姉も妹も器量も愛想も要領もいい、自分が嫁がされるのは分かっていたことだ。 しかし、待っていたのは予想外の反応で……? 「よくきてくれたね! これからはここが君の國で君の家だ。欲しいものがあったら何でも言ってくれ」 アグリア王太子はもちろん、使用人から官僚から國王陛下に至るまで、大歓迎をされて戸惑うクレア。 クレアはバラトニア王國ではこう呼ばれていた。——生ける知識の人、と。 ※【書籍化】決定しました!ありがとうございます!(2/19) ※日間総合1位ありがとうございます!(12/30) ※アルファポリス様HOT1位ありがとうございます!(12/22 21:00) ※感想の取り扱いについては活動報告を參照してください。 ※カクヨム様でも連載しています。 ※アルファポリス様でも別名義で掲載していました。
8 73【書籍化】ファンタジー化した世界でテイマーやってます!〜貍が優秀です〜
主人公は目が覚めたら森の中にいた。 異世界転生?ただの迷子?いや、日本だったが、どうやら魔物やら魔法がある世界になっていた。 レベルアップやら魔物やらと、ファンタジーな世界になっていたので世界を満喫する主人公。 そんな世界で初めて會ったのは貍のクー太と、運良く身に著けた特別なスキルでどんどん強くなっていく物語。 動物好きの主人公が、優秀な貍の相棒と新たに仲間に加わっていく魔物と共に過ごす物語です。 ※新紀元社様から書籍化です! ※11月半ば発売予定です。 この作品はカクヨム様でも投稿しております。 感想受付一時停止しています。
8 174【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無愛想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~
「君に婚約を申し込みたい」 他に想い人がいる、と言われている冷徹宰相に、職務のついでのようにそう告げられたアレリラは。 「お受けいたします」 と、業務を遂行するのと同じ調子でそれを受けた。 18で婚約を破棄されて行き遅れ事務官として働いていた自分の結婚が、弟が子爵を継いだ際の後ろ楯になれるのなら悪くない。 宰相も相手とされる想い人と添い遂げるのが、政略的に難しいのだ。 お互いに利があるのだから、契約結婚も悪くない。 そう思っていたのだけれど。 有能な二人の、事務的な婚約話。 ハッピーエンドです。
8 80【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く
【2022/9/9に雙葉社Mノベルスf様より発売予定】 (書籍版タイトル:『悪役令嬢は、婚約破棄してきた王子の娘に転生する~氷の貴公子と契約婚約して「ざまぁ」する筈なのに、なぜか溺愛されています!?』) セシリアは、あるとき自分の前世を思い出す。 それは、婚約破棄された公爵令嬢だった。 前世の自分は、真実の愛とやらで結ばれた二人の間を引き裂く悪役として、冤罪をかけられ殺されていた。 しかも、元兇の二人の娘として生まれ変わったのだ。 かつての記憶を取り戻したセシリアは、前世の自分の冤罪を晴らし、現在の両親の罪を暴くと誓う。 そのために前世の義弟と手を組むが、彼はかつての記憶とは違っていて……
8 147【書籍化コミカライズ】死に戻り令嬢の仮初め結婚~二度目の人生は生真面目將軍と星獣もふもふ~
★書籍化&コミカライズ★ 侯爵家の養女セレストは星獣使いという特別な存在。 けれど周囲から疎まれ、大切な星獣を奪われたあげく、偽物だったと斷罪され殺されてしまう。 目覚めるとなぜか十歳に戻っていた。もう搾取されるだけの人生はごめんだと、家を出る方法を模索する。未成年の貴族の令嬢が家の支配から逃れる方法――それは結婚だった――。 死に戻り前の記憶から、まもなく國の英雄であるフィル・ヘーゼルダインとの縁談が持ち上がることがわかっていた。十歳のセレストと立派な軍人であるフィル。一度目の世界で、不釣り合いな二人の縁談は成立しなかった。 二度目の世界。セレストは絶望的な未來を変えるために、フィルとの結婚を望み困惑する彼を説得することに……。 死に戻り令嬢×ツッコミ屬性の將軍。仮初め結婚からはじまるやり直しもふもふファンタジーです。 ※カクヨムにも掲載。 ※サブタイトルが少しだけ変わりました。
8 111Umbrella
大丈夫、大丈夫。 僕らはみんな、ひとりじゃない。
8 187