《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》17 カリスマ墜つ

迫り來るアウトローたちは、兇を手にしていた。

ナイフ。木刀。鉄パイプ。金屬バット。

持ち合わせがなくて現地調達したのか、プールに店を出している焼きそば屋の宣伝ポールを手にしている者までいる。

準備集合罪で逮捕できそうな連中だが、ブタさんが絡むと日本が法治國家でなくなるのはいつものことである。

五人の兇男が、ももちー先輩を背後にかばう俺を、半月狀に取り囲んだ。

人數で勝り、しかも武まで持っている。

負ける要素はない――とたかをくくっているのが、にやついた表から見て取れる。

だが、俺に言わせれば逆だ。

を手にすることが、イコール、そのまま有利とは限らない。

たとえばナイフ。

ナイフを持ったところで、本気で刺せなければ意味はない。

躊躇なく急所に突き刺す「度」と「慣れ」が必要である。

これみよがしに取り出して見せている時點で、素人なのは明白だ。

もし俺が逆の立場でナイフを使うとしたら、刺すその瞬間までナイフは「隠す」。そして、チャンスとみれば、か心臓を狙って躊躇なく刺す。もちろん、殺すつもりで。その覚悟がないなら、ナイフなど手にするべきではないのだ。

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も慣れもない人間が使うと、ナイフは逆に「枷」となる。

そう、ちょうど目の前にいるモヒカン刈りの男のように。

「おらおらどうしたッ! 來いよ來いよッ!」

威勢のいいことを言いながら、モヒカンはナイフを振り回している。

だが、淺い。

俺の蹴りや拳を警戒してのことだろうが、腰がひけている。

仮に切っ先がれたとしても、軽い切り傷程度で済む。

ナイフを手にした時點で、関節技や寢技に來る可能はほぼゼロだ。俺にしてみれば、こんな楽な相手はいない。

そら。

へっぴり腰のせいで、顔面がお留守だぞ――。

「びゅびゅびゅ!!」

ナイフを突きだそうとしていたモヒカン男が、個的な悲鳴をあげた。

ゴリラ次男に使った「発勁」を、顔面に叩き込んでやったのだ。

的には、口。

ヤニだらけで真っ黃な前歯に「勁」を食らわせてやった。

煙草なんか吸うよりは、「勁」のほうが栄養あるかもしれないしな――。

のけぞるように後ろへ倒れたモヒカンの向こうから、次々と反社會的勢力が押し寄せてくる。「反社回転壽司」とでも名付けようか。正直どの皿も取りたくないが、まあ、來るっていうのなら――。

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「がぼぼ!!」

木刀を振り上げた男に、カウンターのつま先蹴り。

右足の親指を、みぞおちに突き刺す。

當ててから、ねじる。

親指に力をこめて、木刀男の腹筋をねじ切るようにつねった。

「ががぼぼぼぼぼぼぼぼ!!」

腹を押さえてうずくまった木刀男とれ替わりに、金屬バットと鉄パイプが左右から襲いかかってきた。

うん、この使い方はいい。

のリーチを最大限活かして、遠い間合いからの挾み撃ち。

反社らしい、卑怯な戦法で大変よろしい。

まぁ、通じないんだが――。

「あべべ!」

「だべべ!」

金屬バットが、鉄パイプ男の右肩を強打した。

鉄パイプが、金屬バット男の左肩を痛打した。

同士討ち。

俺が仰向けに地面に倒れ込み、狙うべき目標が消失したため、勢いあまってそうなったのだ。

リーチのある武の弱點。

強く振れば振るほど、急に武を止めることができなくなる。

遠心力という理法則(もの)は、それを理解できない知能の持ち主にも、平等に働くのである。

「死ねやキャああああああああああああああ!!」

最後のひとり、スキンヘッドの巨漢が、焼きそば屋の宣伝ポールを振り回しながらつっこんできた。

「おたっぷり」「広島風ソース」なるのぼりがはためいている。

お店の呼び込みとしては優秀だが、戦闘者としては三流だ。

リーチのある武を持っていながら突っ込んでくるなんて、素手のほうがまだマシである。

広島風ソースをかわして、懐に飛び込んだ。

巨漢の顔に驚愕が浮かび上がる。

今日の戦闘で、俺はこの「懐に飛び込む」を多用している。不良ヤンキー反社どもは、弱い者を怖がらせて追い詰めて、カサにきてボコるっていうのが習いだ。「キャ弱者は、俺様が強く出れば退く」「だから追い詰める」「ボコる」「かんたん!」という論法だ。

追い詰めるのは大好きでも、追い詰められるのは慣れてないんだろう?

いつもいつも、キャが逃げてばかりだと思うなよ――。

「あぼぼぼぼぼぼぼぼぼーーーーーん!!」

今日三度目の古宮流奧義「早鐘(ハヤガネ)」。

またもや個的な奇聲をあげながら、巨漢が反吐をまき散らす。

後ろのももちー先輩にかからないように、のぼりを奪って、け止めた。

「すいません先輩。髪にかからなかったですか?」

先輩は壁にぺたんと背中をくっつけたまま、呆然とした顔でコクコク頷いた。

「良かった。じゃあ、しばらくそのままでいてください。あとしですんで」

■ばくお。 武もった連中が負けてて草

■銀二 なにものあいつ

■阿畑ノン いや強すぎんだろ

■ノンドル ナイフ出されて平気なの? ナンデ?

■基山 無表なのがマジこえー

コメントの容がずいぶん変わってきた。

さて、そろそろも暮れ始めた。

プールの外に避難させた甘音ちゃんたちを待たせるのも悪い。

終わらせよう。

■ミンチ男 拳一発でウソだろ

■れんどー 人間が木の葉みたいに吹っ飛んでる

■ヤリチン 早すぎて見えねえ

■砕月 なんなんマジ、なんなん

■うんこマン え?これやらせでしょ?ガチなの?

駆け抜ける。

無法者たちの荒野を、キャ男子が、拳とともに駆け抜ける。

ひと突きごとに、不良のうめき聲があがる。

ひと蹴りごとに、ヤンキーの悲鳴があがる。

ひとり、またひとりと、數を減らしていく。

もうここまで來たら、人數の差は関係ない。

むしろ向こうが不利になったといっていい。

「百人、なら負けるはずがないっしょw」から、「百人、なのに負けるのか!?」へと形勢が変化したのだ。數にまかせて粋がっていた連中が、恐慌狀態に陥るには十分な狀況だ。

すでに立ち向かってくる者はほとんどいない。

俺が前に出ると、引きのように後ずさる者ばかりで、すでに戦闘と呼べるものではなくなっていた。

いつもの俺なら、逃げる者を追うことはしない。

降りかかる火のを払えれば良いのだから、深追いはしない。

だが――。

今日はダメだ。

徹底的にぶちのめす。

二度とももちー先輩や甘音ちゃんたちに手を出さないよう、わからせておく必要がある。

それだけじゃない。

俺は、怒っている。

ずっとなじみの奴隷で、友達もいなくて、彼もいない俺が、今日という日をどれだけ楽しみにしていたのか――。

お前らには、わかるまい。

友達や彼と浮かれて、こんなところに遊びに來て、人気ヨウチューバーの畫に出ようぜイェーイ! みたいなお前らには、わかるまい。

この拳ひとつひとつが、その怒りの発と知れ――。

■本戸翼 あいつだれ?

■のしんの 何者?

■プチャラ 絶対無名じゃねーだろ

■くろたん プロボクサー?

■小田信 名前知りたい

■よっくん あいつ誰?

■ゼノン様 なにもの?

■ガチャ歯 強すぎる

■シンタロー つよすぎる

■由菜 かっこいい。

見渡す限り、立っている者はいなくなった。

倒れ伏した敗殘者たちの山から、汗との匂いが漂っている。懐かしい匂いだった。これだけの規模の戦闘はひさしぶりだ。つい昔を思い出してしまうが、首を振って振り払う。俺はもう、あそこには戻らない。

ふうとため息をつき、彼方を見やれば――全速力で遠ざかっていく清原長男の背中が見えた。

いつのまにか、プールの向こう側まで渡っている。

まるで気づかなかった。

逃げ足の速さなら、十傑クラスかもしれないな。

■まさのり ちょwwカリスマ逃げてる

■デカ四駆 うわっだせえ

■神主代表 幻滅しました

■バフ森太郎 イヤそれはない

■夜の帝王 もう終わりだな清原w

「ももちー先輩」

「なっ、なに? もう終わり? 終わりよね!?」

「あとし。最後の仕上げをしてきます。ビート板ってありますか?」

ももちー先輩はこくりと頷き、設営テントの橫に積まれているビート板を指さした。

「ありがとうございます。五枚くらい貸してくれます?」

「い、いいけど、何に使うの?」

「説明するより、やってみせた方が早いので」

ビート板をプリンセスプールに放り投げた。

西日の差し込む澄んだ空気をシュッと飛んで、オレンジに染まる水面に著水する。ここからの距離、およそ十メートルというところ。

「せえの――」

軽く助走をつけて、プールの縁から跳んだ。

■タコス丼 うわっ、また跳んだ!?

■ケルト人 とびすぎッ!!!

■森サマー 人間じゃねえ!

■タートル男 歩くの? 水の上?

ビート板の上に、とん、と爪先で著地する。

もちろん、このままだと、沈む。

泳げない者にとっては命綱に等しいビート板だが、人ひとりが乗れるほどの浮力はない。

だから。

再び、跳ぶ。

ビート板が沈んでしまう前に、次のビート板を十メートル前方に投げて、そこめがけて跳ぶ。

投げて、跳んで、を五回繰り返した。

すると、五十メートルを渡れる計算になる。

小學生でもできる。簡単すぎる方法だ。

「待てよカリスマ。どこに行く?」

「うげえっ!?」

行く手を遮って現れた俺に、清原長男は飛び上がって驚いた。こいつのジャンプ力もなかなかのものだ。

「お、おまえっ、どうやって回り込んだ!? 泳いで間に合うはずがない!」

「普通に。歩いて」

「プールを歩くのは普通じゃない!」

……うーむ。

傷つくなあ。

普通じゃないって言われるのが、ナイフや木刀より一番応える。

「ラスボスが逃げたんじゃ、撮れ高がないだろう?」

「……っ」

「あんたも格闘技者なら、他人をけしかけたりの子をいじめたりするんじゃなくて、自分のバトルで観客を酔わせてみろよ。今の地位にはそうやって辿り著いたんじゃないのか? なあ、チャンピオン」

清原長男は一瞬、目を見開いた。

覚悟を決めたように、構えをとった。

俺も構える。

二メートルほどの距離を置いて、にらみ合う。

コメントがぱたりと流れなくなった。

靜寂。

「…………」

「…………」

清原長男の膝が震えている。

小刻みに、ぶるぶる。

震えている。

だんだんと、震えが大きくなる。

に震えが広がり、滝のような汗が流れ出した。

腐っても「チャンピオン」。

戦う前にすべてを悟ったか――。

ズボンの前には大きなシミができている。

ふとともを濡らし、裾を濡らし、地面に水たまりができていた。

「――ゆ、ゆるしてくれ! 俺は悪くな、」

拳を打ち込んだ。

腹。

「いだあっ」

「これは、お前の弟がいっちゃんを辱めた分だ。それから――」

「あぐぃっ」

「甘音ちゃんを怖がらせた分」

「かびぃっ」

「俺をってくれた會長の気持ちを踏みにじった分」

「あどぉっ」

「彩茶をいやらしい目で見た分」

まだまだ。

一番やり返さなきゃいけない分が殘っている。

「これから毆る分は、全部、ももちー先輩の分だ」

「もう、もうぅぅ……ゆるしてくれぇ……」

「二度と彼に近づくな。関わるな。いいな?」

れ墨の浮いた頬に涙を流しながら、長男は何度も頷いた。

よし――。

「じゃあ、百発毆るところを十発で許してやる」

「え!? 許してくれんじゃないのかっ!?」

「ももちー先輩を百人に襲わせておいて、よくそんなことが言えるな。彼がどれだけ怖かったか想像できないのか? 十分の一にするだけでも大盤振る舞いだと思え――まず、腹」

場所を予告してから、毆った。

長男のが「く」の字を通り越して、「一」の字のように折り重なる。

「右頬」

一。

「左頬」

―。

「鼻」

・。

「腹。腹。腹」

一。一。一。つまり三。

「めんどうだから、全部」

全部。

全部。

全部――。

すべてが終わった時、プールはしんと靜まりかえっていた。

大型モニタに映し出されたコメントだけが、速で盛り上がっている。

滝のように、嵐のように、ずっと言葉が流れ続けていた。

■ミズーキ すごいヤツだな

■ナナナ君 ありえないでしょさすがに

■太鋭 いやマジですげえよ

■ショウタ ファンになりました!

■公爵様 ところでももちーは?

■ひろゆこ。 超星ぼっこぼこ笑

■河たん 強すぎる

■廉太郎 だれも、勝てない

決著ッ!

後は明日、エピローグを2話更新します!

ももちー先輩の今後と、和真との仲はいかに…!?

明日が正式発売!

涼華會長の恥じらう挿絵が麗しい書籍版をどうぞよろしく!

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