《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》19 そして、新たな「普通」がはじまる
波瀾萬丈だったプールでの休日から、數日が過ぎ去った。
その後の顛末を簡単に話しておこう。
「不良のカリスマ」こと清原兄弟は警察の事聴取をけることになった。
これまでグレーなことをしてきた彼らだが、いわゆる「帝開バリア」に守られて問題にされなかった。帝開グループが目をかけている存在は、なぜか法の網の目をくぐり抜けてしまうというアレである。
だが、そのバリアが外れた。
あのブタさんの前で醜態を見せたことで、「見切り」をつけられたのだろう。
清原兄弟も抵抗した。
「超弩級の闇報を暴します」なる畫をあげて、この前のメンバー限定配信についての釈明をした。あれが事務所による「やらせ」であり、臺本があったこと。桃原ちとせに対するドッキリであり、本気で襲ったわけではないこと。「とびすぎキャくん(俺のネット上のニックネームらしい)」も同じくやらせで、數々の非人間的戦闘は映畫の特殊効果を使ったトリックであると、苦しい言い訳を並べ立てたらしい(俺は冒頭數分見て興味を無くしたので、後で彩加に聞いた)。
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この畫の再生數は、驚くほどびなかった。
この暴畫より前に、例のメン限配信の切り抜きがすでに百以上もあがっていて、何百萬回も再生されている(これも彩加談)。
そこで見せた清原長男のやられっぷりがあまりにブザマで、カリスマとしての威厳を保てなくなったんじゃね? ――というのが、トレンド有識者・鮎川彩加センセイの見立てである。
カリスマ失墜と同時に、これまで清原兄弟が行ってきた婦暴行、未年に対する行が明るみに出た。
これも帝開バリアが外れた結果だろう。
今度は年院ではなく刑務所にることになるだろう――というのが、一連のニュースを読んだ胡蝶涼華會長の見方だった。
清原兄弟が落ちぶれる一方で、急激にバズッているのが「とびすぎキャくん」である。
モンゴルマンに腹を毆られ、その勢いで金網を突き破って場外までブッ飛んでいく「キャくん」は一躍ネット上の有名人となった。數々のネタ畫やMAD畫、真面目な科學的考察から「外國人の反応まとめ」「うちの柴犬にとびすぎキャくん見せてみた」に至るまで、様々なネタにされているようだ。
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ただ――。
なにしろ「キャ」なので外見的な特徴に乏しく、あまりに地味すぎるため、今だ特定には至っていないようだ。
もちろん、うちの學校の連中は気づいているはずだが――例の帝皇戦以降、俺の存在はアンタッチャブルになっている。らぬ神に祟りなしということで、誰も言い出さないのかもしれない。
ゆえに、今のところ、俺は平穏な日々を壊されずに済んでいるのだが――。
「とはいえ、時間の問題かもね~」
と、今回お留守番だった綿木ましろ先輩の弁。
ふわふわとした綿菓子みたいな笑みを浮かべて言った。
「そろそろ、日本の、ていうか世界の人が気づき始めてるんじゃないのかなあ。かずくんの存在に」
「そんな大げさな」
「いやいや、大げさじゃないとおもうよ~?」
先輩の予言が當たるのかどうか。
今の俺には、知るよしもない。
◆
ネットがそんなじで盛り上がっている一方で、とあるニュースがちょっとした話題を集めた。
アイドル・桃原ちとせの蕓能界引退である――。
◆
放課後の地下書庫。
「お助け部」の部室となっているこの場所には、今日は甘音ちゃんと涼華會長、彩加、ましろ先輩がたむろしている。いっちゃんは演劇部の練習で不在だ。
甘音ちゃんは機で冬の新番アニメ臺本の読み込み中、會長はノートPCで仕事中、ましろ先輩はキャンバスに向かい、そして彩加はソファに寢転がりながらスマホを弄り、ため息ばかりついている。ダンス部は今日はお休みらしい。
「うぅ~、超しょっく。なんで引退すんのよぅ」
今日何度目になるのか、同じことを彩加は言った。
「ももちーは何も悪いことしてないのに、悪いのはあのチンピラ兄弟なのにさ、ねえ、なんでなの? 皆瀬さん」
さっきは同じ質問を會長にしていた彩加である。
甘音ちゃんは臺本を置いて答えた。
「今回の件で蕓能界に見切りをつけたんじゃないでしょうか。あんなことがあった以上、テイカイミュージックでお仕事するのはもう難しいでしょうし」
「事務所移籍すればいいじゃん! 皆瀬さんも瑠亜とモメた時、移ったんでしょ?」
「わたしの時はたまたま運が良かったんです。本當ならそんな簡単にはいきませんよ」
「またトップアイドルに返り咲くのを期待してたのに! なんでなんで?」
二人の蕓能界談義を隣で聞きながら、俺は別のことを考えている。
ももちー先輩は、途中で夢をあきらめたりする人じゃない。
蕓歴は長くても、まだ高校二年生なのだ。いくらでもやり直しはきくはずだ。
だが、その「夢」自の誤りに気づいたのだとしたら――。
「こんにちは、お邪魔しまーす!」
唐突に扉が開かれ、桃の髪のが室した。
純白のブレザーに赤いチェックのスカート姿は、帝開學園の近くにあるお嬢様學校・雙祥子高校の制服である。
甘音ちゃんを問い詰めていた彩加の目が、まんまるに見開かれる。
噂をすれば影というか、本人のご登場であった。
「ももちー先輩。どうしてここに?」
にこっ、と先輩は魅力的な笑みを浮かべた。
小悪魔の笑みだ。
「どうしてって、カズマを探しに來たに決まってるじゃない! 『S級學園』の生徒だったなんて、意外と近かったわね。――それにしても何ここ。図書館にしちゃ狹いわね。帝開って新設校のわりに、こんな古めかしい場所があるんだ」
珍しげに地下書庫を見回すももちー先輩に、甘音ちゃんたちは呆然としている。
はっと我に返ったように彩加が立ち上がった。
「あ、あのっ、あのっ、ももちーさん! うち、うち、あなたの大ファンです! 握手してください!」
「本當? どうもありがとう!」
にこっとビジネススマイルを浮かべて、彩加の手を握り返した。
「あの、本當にアイドルやめちゃうんですか?」
「うん。こないだの一件で冷めちゃった。トップアイドルになるって夢はもう葉えちゃったわけだし、蕓能界にしがみつく理由ってもうないって気づいたの」
「でも、うち、もっとももちーさんの歌やダンス見ていたかったです。特にダンス。あたしダンス部なんですけど、いつかももちーさんくらい踴れるようになるのが夢なんです。だから、やめないでしいです!」
ももちー先輩は、憧れのまなざしで自分を見つめるギャルの肩を叩いた。
「あなたの気持ちはとっても嬉しいけど、あたしにはまた別の夢があるの」
「トップアイドルより大きな夢があるんですか?」
「うん。大學進學して、小學校の先生か保育士になるの。もともとあたし、子供たちの笑顔が見たくてアイドルになったからさ。別にそれって、アイドルじゃなくてもできるよね? って。なーんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう?」
屈託のない笑みをかつてのトップアイドルは浮かべた。
完全に吹っ切れたようだ。
良かった……。
「あと理由はもうひとつ。ほら、アイドルって基本、止じゃない?」
「はあ」
ももちー先輩は俺に向かって、片目を瞑った。
「アイドル続けてたら、カズマと付き合えないから。夢と、二つそろっちゃったらもう、アイドルは卒業しするしかないでしょ?」
甘音ちゃんの口が、ぱかっと開かれ。
會長は頭痛をこらえるようにこめかみを押さえ。
ましろ先輩は「あはは~」と困ったような笑みを浮かべて。
そして、彩加はのけぞった。
「う、うそでしょ!? ももちーがのライバルって、なにその無理ゲーっ!?」
素知らぬ顔で、ももちー先輩は俺の右腕をつかんだ。
「ね、カズマ。帝開學園の中、案してよ。実は前から興味あったんだ!」
「いや、さすがに目立ちすぎるでしょう……」
元だろうとなんだろうと、トップアイドルの容姿はまぶしすぎる。しかも今につけているのは名門子高校の制服だ。きらきらしすぎてて目が潰れそう。
ステージ上の彼も、プールの彼も、素敵だったけれど。
普通の子高校生としての彼は、もっともっと、素敵だ。
「ま、ま、ま、また増えたぁぁぁ……」
甘音ちゃんが機に突っ伏して頭を抱えている。
「仕方ないよねぇ、カズくんだし」
ましろ先輩はのんびりと言って、湯飲みのお茶をずずっと啜る。
會長は何も言わず、淡々とホワイトボードの部員の欄に「桃原ちとせ」と書き込んでいる。
彩加は途方に暮れたようにソファの背にもたれかかり、天井を見上げたままかない。
「ほら、行こうよカズマ! もし気にったら、ここに転するつもりだからさ」
俺の腕を引っ張っていこうとするももちー先輩に、俺は頭をかくしかない。
やれやれ……。
俺の周りは、普通じゃないくらい可いの子たちで、埋め盡くされていくようだ。
これにてプール編、桃原ちとせ編、完結。
お読みいただきありがとうございました!
2巻を出すことができれば、ツンデレ可いももちー先輩のイラストを藤真拓哉さんに書いてもらえる……!
もはや私のモチベーションはそれが一番!だったりします!
S級學園書籍版、ぜひぜひよろしくお願いいたします!
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