上松（あげまつ）　勇太が、アリッサ・洗馬（せば）と楽しく旅行をしている……一方その頃。

勇太の馴染み、大桑（おおくわ）　みちるはクラスメイト達と、カラオケに來ていた。

マイクを握っているのは、高長のイケメン男子。

「きゃー！　中津川（なかつがわ）くんかっこいー！」

「素敵ぃ～……♡」

きゃあきゃあと子達が黃い聲を上げる。

中津川。

淡くした髪のに、甘いフェイス。

しかもバスケ部の主將。

外見だけ見れば、確かにモテるのもうなずける。

「（……はぁ、心底どうでも良い）」

中津川の歌を、みちるは聞き流していた。

今気になるのは、馴染みの勇太のこと。

彼（カミマツ）はツイッターで、土曜日にこんなことをつぶやいていた。

【友達と北海道にきてますー！】

勇太ことカミマツは、ツイッターのフォロワー２０萬人（僕心の連載してからさらにびた）の超有名人だ。

しかしその正は、限られたものしか知らない。

そのなかに、みちるもいる。

「（……勇太のヤツ、今朝アリッサ・洗馬と出かけたわよね。ということは、あいつふたりきりで旅行を！？）」

勇太への好意に気づいたみちるは、彼に振られたあとも彼を思い続けていたのだ。

授業中もチラチラと彼を見ている。

土日は、何度も彼の家の前をいったりきたりする。

今朝彼が出かけたことも當然知っていた。

それがアリッサとの旅行と知った今、気が気でなかった。

「（なんなのよ……他のと旅行なんて。あたしの許可もなく……なんなのよ！）」

みちるは既に振られている。

別に勇太が許可を取る必要など頭ない。

だが長年彼と一緒に居たという謎のプライドがある。

ポッと出のに勇太を取られたということが……許せないのだ。

……とまあ、みちるはこのところずっと勇太のことばかり考えていた。

だから……気づかなかったのだ。

自分に向けられている、好意の視線に。

ややあって。

「はぁ……」

みちるは子トイレにいた。

用を足して手を洗っている最中である。

「勇太のヤツ……ツイッター更新してない。なんなの気になるじゃないのよ……もうっ！」

きゅっ、と水道を止める。

「てゆーか……カラオケつまんないわ。気晴らしになるかと思ってきたけど……はぁ……」

子トイレを出た、そのときだった。

「よぉ、みちる」

「……中津川くん」

キャ男子、中津川が廊下にいたのだ。

何をいきなり話しかけてくるのだろうか？

いきなり【みちる】ってなんだ、と彼は心の中でイラッとする。

「さっきの歌どうだったよ？　おれ、得意なんだよねカラオケ」

「はぁ……」

正直勇太のことが気になりすぎて、歌なんて全く聴いてなかった。

「はぁ、ってなんだよ。聞いてなかったのか？　お前のために歌ってたのに」

「はぁ？　なにそれ。別に頼んでないし」

恩著せがましい態度に苛立ち、みちるは中津川の橫を通り抜けようとする。

「ちょ、待てよみちる」

ガシッ、と腕を無遠慮に摑んできた。

「なんなの？」

「いやなんなのはこっちの話だよ。せっかく話しかけてやってるのによ」

なんだその上から目線の態度は。

「別に話しかけてこなくていいから」

キッ、とみちるは中津川をにらみつける。

だが彼はニィ……と気の悪い笑みを浮かべる。

「気の強いは好きだぜ」

「は？　何いきなり」

「照れんなよ。好きなんだろ、おれのことが？」

……一瞬、何を言ってるのかさっぱりわからなかった。

「な、なに……？　誰が、誰を好きって？」

「おいおいとぼけんなよみちる。おれのこと好きなんだろ。とっくに気づいてるって」

みちるは、彼が何を言ってるのかさっぱりわからなかった……。

「あんなふうに、毎日熱烈におれのことを見てきたら……誰だっておれのこと好きなんだってわかるよ」

「あ……」

……みちるは、中津川の勘違いに気づいた。

彼は教室でいつも、上松　勇太をジッと見ている。

だが勇太とみちるのちょうど真ん中には、中津川がいるという座席順なのだ。

結果、どういう勘違いを起こすか。

みちるが、ずっと中津川を見ている……ということになる。

「ち、違うわよ！　誰があんたなんて見るかっての！」

「ははっ。照れるなよ。おれのほかに、誰を見てるっていうんだ？」

中津川は、みちるが自分を見ているとばかりに思っている。

よもや、キャで目立たない勇太に、熱烈な視線を向けているとは思わないだろう。

みちるは教室の中でも上位の貌を持つ。

そんなみちると、暗キャな勇太では釣り合わない。

彼が勇太を好きなんて……誰もわからない。

結果、中津川は、大桑みちるは自分のことが大好きで、授業中ずっと熱烈に見てくると勘違いしてるしだい。

「いいぜみちる。おれ、付き合ってやるよ」

「結構よ！」

ぐいっ、とみちるの腕を強引にひっぱり、壁に押しつける。

「逃げんなって」

べろり、と中津川が舌なめずりする。

彼の目は、みちるの顔とにロックオンされていた。

みちるは小柄ながらなかなかのバストサイズを持つ。

いわゆるロリ巨というやつだ。

思春期男子にとっては、彼の魅力的な房に目を奪われてしまう。

特に中津川はが強く、みちるのをずっとガン見している。

……その視線に、みちるは嫌悪を覚えた。

「このまま外に抜けね？　ふたりでさ」

「いや！　お斷り！　離してよ！」

みちるは逃げようとする。

だが腕をがっちり捕まれてきが取れない。

「おれと付き合いたくても付き合えないってたっくさんいるんだぜ？」

「だから何よ！　あたしあんたのことなんて一ミリも好きじゃないから！」

「ハハッ、いいね。気の強いは好きだぜぇ～……なあみちる、いいじゃねえかおれと付き合えよ」

スッ……と無遠慮に中津川が、みちるの頬にれようとする。

「るんじゃないわよ！」

強めにみちるが、中津川の手を払う。

ガツンッ！　とそのとき肘が、中津川の鼻に當たる。

「っつぅ～……」

「フンッ……！」

別に中津川のことは一切好きじゃなかったし、なおかつ今の態度で完全に彼のことが嫌いになった。

みちるは彼を気遣うことなく、スタスタと去って行く。

「ま、待てよみちる……！」

中津川は焦って彼の手を取る。

「なぁ、マジなに怒ってるんだよ？」

彼からしてみれば、困するのも當然だ。

大桑みちるは、授業中ずーっと自分を見てくる。

その熱っぽい視線は、する乙のそれだ。

つまり中津川視點では、ロリ巨でクラスでも上位の貌を持つみちるが、自分に好意を向けている。

しかし実際に聲をかけてみても淡泊な反応、しかも強引に迫っても、喜ぶどころか不快をあらわにしている。

……全くもって、理解できなかった。

「別に。あんたが嫌いなだけ。なによ、今日話したばかりなのに馴れ馴れしいったらありゃしない！」

解せない。まるで解せない。

中津川は更なる混に陥った。

彼は生まれ持った顔の良さから、に不自由したことが一度もなかった。

聲をかけたはみな、喜んで近づいてくる。

し強引に迫っても、男らしいと好意的に解釈してくれる。

……なのにみちるは、まったく自分になびいてくれない。

「じゃあね、アタシ帰るから」

不快な思いをしたみちるは、その場からさっさと退散する。

一人殘された中津川は……ぽかんとした表で突っ立ってた。

「んぁ？　どーしたん中津川ぁ」

カラオケの部屋から、男子生徒が顔を出す。

「みちる姫はもう手にれたん？」

「…………」

「え゛？　振られたの？　マジ？」

男子生徒は目を丸くする。

中津川から頼まれたのだ。

みちるを手にれるために、手頃な子達をってカラオケに行こうと。

すべては中津川がみちるを彼にするため、企畫したことだった。

……だが、結果は振られた。

「あんだけおまえに好き好きオーラだしてたのに……みちる姫振るとかまじどーなんてるん？」

「わからねえ……ただ……」

「ただ……？」

にぃ……と中津川が邪悪に笑う。

「是が非でも、あの、手にれたくなったぜ」

今までどんなも落としてきた。

そんなプライドがあるからこそ……自分の手を離れていったみちるを、なんとしてでも手にれたいという求がわいてきたのだ。

「絶対におれのもんにしてやるよ」

「だーいじょぶっしょぉ。だって授業中にあんだけ熱烈な視線送ってるんだぜｗ　きっと照れ隠しだろぉｗ」

……だがこの生徒も、中津川も気づいていない。

みちるの眼に寫っているのは、馴染みであり、しの神作家、上松　勇太ただひとりであることを。