《【コミカライズ&電子書籍化決定】大好きだったはずの婚約者に別れを告げたら、隠れていた才能が花開きました》森の中で
本日は2話更新しています。
「さあ、著いたよ。今日は、魔討伐の様子を見學するだけではあるが、十分に気を引き締めていてくれ」
アルバートに手を貸されながら、シルヴィアとユーリは、魔が確認された森の傍に止めた馬車から降り立った。
背の高い木々の葉が生い茂り、も遮られて薄暗い森の中に、アルバートに続いて足を踏みれながら、ユーリの表が、いつもよりもやや固くなった。
「……やっぱり、ちょっと張するね」
「そうですね、ユーリ様」
ユーリの言葉に頷きながら、シルヴィアは森の中を見回した。魔が確認されたのは、森の奧の方だということで、まだ魔の姿も見えなければ、その気配もわからない。森の中を分ける三人が足を進める度に、かさかさと落ち葉を踏む音だけが周囲に響く。
アルバートが、シルヴィアとユーリを振り返って口を開いた。
「この森の奧で確認された魔は、警戒心の強いアルミラージとコカトリスだ。もうし先まで行ったら、俺たちも気配を悟られないように、三人それぞれが別れて、し離れて進むよ。……もう、火魔法の上級生たちと教授は、先にこの森にって、魔の様子を確認している。俺たちが著いたのを合図にして、魔の駆除が始まることになる」
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シルヴィアは、ユーリと視線をわして、アルバートの言葉に頷いた。
「魔の気配をじたら、俺が合図をするから、魔法の盾(シールド)を発しておいてくれ。盾に伴うは、できるだけ抑えるように。いいかい?」
「わかりました」
「うん、わかったよ」
森の奧に進むほど、さらに重なり合う木々の葉は厚くなり、溫度もし下がったようにシルヴィアには思われた。しずつ、アルバートとユーリとも距離を置くように意識して歩きながら、シルヴィアは、振り返ったアルバートの視線に応じて、意識を集中させた。
(……『盾』)
微かな煌めきを伴うのが、シルヴィアの周りを覆った。ユーリのの周囲にも、淡いが浮かび出ている。アルバートが足を止めたのを見て、シルヴィアも別の方向から、アルバートの視線の先が見えるように近付いた。
シルヴィアは、し先に見えて來た魔の姿を見て、こくりと唾を飲み込んだ。
(あれが、魔なのね)
シルヴィアの視界には、アルミラージの群れが映っていた。さして大きくもない兎のに、額に鋭い角を持った、一見可らしくもある彼らだったけれど、よく見ると獰猛な目をしており、隠し切れない殺気を漂わせていた。コカトリスと思われる、ししわがれた鳥のび聲も、遠くからシルヴィアの耳に屆いていた。
突然、シルヴィアの目の前にいるアルミラージたちを囲むようにして、激しい炎が舞い上がった。アルミラージが斷末魔の聲を上げる間もなく、一瞬で彼らは灰になっていた。
(何て強力な火魔法なの……)
シルヴィアが息を飲んでいると、火魔法の教授の嘆の聲が聞こえて來た。
「素晴らしいよ、ランダル君。君の炎魔法は、さすがだな」
シルヴィアは、真っ黒になったアルミラージたちを覆っていた炎のから、いつの間にか現れたランダルを見つめた。
(ランダル様もここに? ……あれが、ランダル様の火魔法なのね)
ランダルに火魔法を教えてもらったことはあっても、彼が魔に向かって火魔法を実際に使うところを見るのは、シルヴィアにとって初めてだった。その威力を目の當たりにして、シルヴィアのは、どうしてか小さく震えた。
ランダルは、微かな笑みを浮かべて教授を振り返った。
「このくらい、たいしたことはありませんよ。あと、もうしだけ……」
躊躇いなくランダルが上空に向かって放った火魔法の一閃で、空からは、力盡きたコカトリスがぼとぼとと続けて落ちて來た。激しい炎の熱が、し離れたシルヴィアのところまで伝わって來る。
「これ以上駆除してしまうと、ほかの生徒の分がなくなってしまいますね。……僕は、後は様子を見ていることにしますよ」
「そうだな。よくやった、ランダル君」
満足気に頷いた教授に笑みを返してから、ランダルは木々の間へと姿を消した。
他の生徒たちが、まだ近くに殘っている、逃げうアルミラージとコカトリスに向かって火魔法を放つ。魔たちの駆除は、順調に進んでいるようにシルヴィアの目には見えていた。
その時、森の奧に一番近い側にいる生徒から、悲鳴混じりの聲が上がった。
「サ、サラマンダーだ! 大型のサラマンダーと、ほかにも何かいる……!」
想定外の事態が起きた様子に、アルバートが聲の聞こえた場所に向かって駆け出しながら、シルヴィアとユーリを振り返って聲を上げた。
「サラマンダーは炎をる魔だ、火魔法は効きづらい。サラマンダーの駆除には俺が向かう。……もし、君たちがの危険をじたら、魔法の盾を強化して、すぐに來た道を戻るように。いいかい?」
二人にそう言い殘すと、アルバートは森の奧へと消えていった。近くでは、まだ生き殘っているアルミラージとコカトリスが、火魔法を扱う生徒たちに対して必死の抵抗を試みていた。
シルヴィアは、不安をじながら、ユーリのいるであろう方向を見つめた。ユーリは木のにいるのか、シルヴィアのいる場所からは死角になっているようで、その姿は見えなかった。
幸い、アルバートの向かっていったさらに森の奧を除いては、近くに殘る魔は弱いものだけのようだったけれど、予想外の狀況に、シルヴィアは心細さをじていた。
(念のために、防魔法を強化しておいた方がよさそうね)
シルヴィアが重ねて魔法を唱えようと意識を集中させたその時、シルヴィアが纏っていたのに、ぱりっと亀裂が走ったかと思うと、そのひび割れがの盾全に広がった。
(……!!?)
青ざめたシルヴィアは、ひび割れの走った先を見つめた。熱く燃える激しい真っ赤な炎が、まるで牙を立てるかのようにの盾を勢いよく破壊していく様子が、見開かれたシルヴィアの瞳に映った。
(これは、さっき出たというサラマンダーの炎? ……いや、これは……)
シルヴィアは、その炎に、覚えのある魔力をじ取っていた。彼は、さらに顔からの気が引くのをじながら、恐る恐る後ろを振り返った。そこに立っている人の姿を見て、シルヴィアは凍り付いたように固まった。
「やあ、シルヴィ。そんな顔をしないでよ」
シルヴィアの背後には、楽しげに彼を見つめて微笑むランダルの姿があった。シルヴィアは、微かに震える足元に力を込めて、ランダルに向かって口を開いた。
「ランダル様、どうして私のの盾を壊したのですか?」
「……だってさ、そんなものがあったら、シルヴィと話しづらいじゃないか。僕は、ずっとシルヴィと話がしたかったんだ。……二人きりでね」
ランダルは笑みを深めると、悲鳴を上げることすらできずにいるシルヴィアの手をぐいっと引っ張って、大きな木のへと引き込んだ。
ユーリは、に纏わせた魔法を強化すると、きょろきょろと辺りを見回していた。
「あれ、シルヴィ、どこにいるの……?」
そう遠くない場所にいたはずのシルヴィアの姿が見えないことに、ユーリは首を傾げていた。
「おかしいな。シルヴィ、もう森の外に戻っちゃったのかな……?」
しばらく歩き回ったものの、シルヴィアを見付けられずにいたユーリは、不思議そうに小さく呟いた。
不穏な話が続いており恐ですが、ハッピーエンドも近付いておりますので、もうしばらくお付き合いいただければ幸いです。
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