《【コミカライズ&電子書籍化決定】大好きだったはずの婚約者に別れを告げたら、隠れていた才能が花開きました》不意打ち

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森に來ている魔法學校の教授や生徒たちにとって、まず目にらないであろうと思われる大木ので、ランダルは、を竦めているシルヴィアの手をそっと離すと、彼の顔を覗き込んだ。

「ねえ、シルヴィ。……僕は本當に、君のことが好きなんだ。君は、僕の気持ちを々と誤解していたみたいだけれど……」

「……」

シルヴィアは、固い表のままで口を閉ざしていた。ランダルは、し苛立ったような表で、シルヴィアの髪に留めてある髪飾りをすっと抜き取った。

「シルヴィは、こういうのが好きだったっけ? ……君は、こんなものを著けなくたって可いのにね」

「か、返してください!」

ランダルが取り上げた髪飾りに向かって、慌てて手をばしたシルヴィアを躱すと、ランダルは、細工のしい金の髪飾りを、掌の上で弄んだ。

「もしこんなもので君が喜んでくれるのなら、これから幾らだって僕が買ってあげるけど」

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「それは、私にとって大切なものなのです。お願いですから、返してください」

必死にランダルに言い募るシルヴィアに、ランダルは冷たい瞳を向けた。

「それは、この髪飾りが、あのアルバートに買ってもらったものだから?」

「……どうして、それを?」

シルヴィアは、ぴたりとそのきを止めると、すうっと青ざめた顔でランダルを見つめた。シルヴィアがその髪飾りをアルバートに贈られたことを知っているのは、あの屋臺の店主を除けば、贈ったアルバート本人とシルヴィア、そしてユーリしかいないはずだった。

ランダルは、視線を髪飾りからシルヴィアに戻すと、くすりと笑った。

「君がアルバートと霊降誕祭に向かう姿を、僕はずっと見ていたからね。……去年までは、僕が君の隣にいたのにって思いながら」

(まさかランダル様は、霊降誕祭の間中、私たちのことを見ていたの?)

シルヴィアの背筋がぞわりと粟立ち、そのがふるりと震えた。

「ねえ、シルヴィ……」

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ランダルは、熱の籠った両目に必死なを浮かべてシルヴィアを見つめると、髪飾りを持っていない方の手で彼の肩を摑んだ。

「僕は、君に初めて出會った時からずっと、君のすべてが好きだった。僕には、君が必要なんだ。……お願いだ、シルヴィ。僕のところに戻って來てよ」

「ランダル様……?」

シルヴィアは、二人でいる時に初めて、ランダルから面と向かって懇願されたことに困していた。今までシルヴィアが知っていた、彼の隣にいたランダルは、いつでも余裕たっぷりで、彼にこうして何かを頼むことなんて、一度たりともなかったからだ。僕が君を守ってあげているのだと、君には僕が必要なのだと、そう言って憚らなかったこれまでのランダルからはかけ離れたその姿に、シルヴィアはしばし言葉を失っていた。

ランダルは、さらに強い口調で続けた。

「頼むよ、シルヴィ。僕だって、力づくで無理矢理に君を取り戻したい訳じゃない。君の方から戻って來てしいんだ。……だから、僕にそんなことをさせないでよ。ね、わかるでしょう?」

ランダルは、沈黙を守ったままのシルヴィアの肩から手を離すと、小さく息を吐いて、手にふわりと炎を纏わせた。簡単に発現させたように見える火魔法だったけれど、マデリーンが前にシルヴィアに放った炎よりも、その威力はずっと強いものであることに、シルヴィアは気付いていた。

シルヴィアは、圧のあるランダルを前にして、じりと後退った。ランダルは、ふっと笑みを浮かべると、シルヴィアに向かってさらに一歩近付いた。

背中を嫌な汗が伝うのをじていたシルヴィアだったけれど、その時、ランダルの背後を見つめて目を見開くと、聲にならない悲鳴を上げた。

「ランダル様、後ろ……!!」

(……殺気?)

忍び寄る殺気にようやく気付いて背後を振り返ったランダルは、そこにいた漆黒の生と目が合った瞬間、腹部に焼け付くように激しい痛みが走るのをじた。

「かはっ……」

ランダルのは、墨を流したように真っ黒なその生の槍のような尾に、一撃で貫かれていた。

(しまった、シルヴィに気を取られていた。まさか、こんなに強い魔がこの森にいたなんて……)

鋭い漆黒の尾を引き抜かれた後、ランダルの腹部に殘された空間からは、大量のが流れ出していた。

「ランダル様!!」

シルヴィアの悲鳴が、森に響き渡った。の平衡を失ったランダルは、ぐらりと地面に倒れ伏した。真っ青な顔でランダルに駆け寄って來るシルヴィアの姿が、視界がぼんやりと薄らぎ始めた彼の瞳に映る。蟲の息になっていたランダルは、必死で歯を食い縛りながら、シルヴィアに向かって切れ切れに言葉を紡いだ。

「ごめん、シルヴィ。君の、の防魔法を、僕のせいで破壊してしまって。早く逃げて……」

ランダルは、この一瞬で、自分がもう助からないであろうことを悟っていた。けれど、シルヴィアは涙目で首を橫に振ると、ランダルの腹部に向かって手を翳した。シルヴィアの掌から、溫かなが、ランダルの腹部に空いたを満たすように流れ出す。ランダルをこのまま見捨てるという選択肢は、シルヴィアにはなかったのだ。意識を集中させて、心の中で再生魔法を唱えながらも、シルヴィアは同時に、禍々しい殺気を発する、ランダルを襲った漆黒の生を見つめていた。

(ランダル様を助けてこの狀況をするには、どうしたら? ……こんな魔、見たこともないわ。これほど強い攻撃をけたら、私の防魔法では一溜りもないし、私には、の攻撃魔法の適はない。使える魔法も限られている)

シルヴィアの視線の先にいる、闇に沈むようなをした、竜のような形狀をした生は、暗い靄のようなものを纏いながら、黒りする鱗のを揺らめかせて宙に浮いていた。その鋭い瞳は、目の前にいるランダルとシルヴィアを見據えて、今にも飛びかかって來そうだった。

(いわゆる攻撃魔法ではないし、効くかはわからないけれど……)

シルヴィアは心を決めると、ランダルの腹部に向かって右手で再生魔法を掛けながらも、左手にぐっと力を込めて、その指をぱちりと鳴らした。

(『浄化』)

シルヴィアのから流れ出た強く輝くが、辺り一面を覆った。宙に浮いていた漆黒の生は、ぴたりとそのきを止めた。

シルヴィアがランダルへと視線を戻した先で、貫かれた彼の腹部が次第に埋まっていくのと反比例するように、シルヴィアの視界がだんだん歪み始めた。耳鳴りがし始めたシルヴィアの耳に、遠くランダルの聲が響く。

「もう僕はいいから、シルヴィ。このままじゃ、君のが持たない……」

シルヴィアがランダルを見下ろすと、息も絶え絶えのランダルは、瞳に涙を浮かべて彼を見つめていた。ランダルは、シルヴィアが魔力をランダルに注ぎ過ぎているせいで、力盡きかけているのをじていた。の気が明らかに引いて青白くなっていくシルヴィアの顔を目にして、慄いたランダルは力を振り絞ってんだ。

「君の方が死んでしまうよ……! お願いだから、もうやめてくれ。僕が生き殘ったとしても、君がいない世界なんて、僕には何の価値もないんだ」

霞むシルヴィアの視界に映るランダルの表は、まだ會って間もない頃の、かった彼の顔を思い起こさせた。

シルヴィアの意識が途切れようとしている時、ユーリの高い聲が彼の耳に屆いた。

「シルヴィ、やっと見付けた! ここだよアル、早く來て……!」

ぐらりと傾いだシルヴィアのは、しっかりと優しい両腕に抱き留められていた。

「シルヴィア!」

溫かな力が、彼を支えるアルバートの腕から一気に流れ込んで來るのをシルヴィアはじていた。冷え始めていたシルヴィアのを満たすように、アルバートの魔力が巡っていく。

「アルバート様……來てくださったのですね」

微かな笑みを浮かべてアルバートを見つめたシルヴィアは、彼をぎゅっと力強く抱き締めるアルバートの腕の中で、じんわりとの奧が熱くなるのをじるのと同時に、言葉にできないほどの安心も覚えていた。シルヴィアは、アルバートにそっと抱き著き返すと、そのまま意識を失った。

「早く、シルヴィアを病院へ。……そこの彼もだ」

腹部のがシルヴィアの魔法で再生されたばかりのランダルは、まだ起き上がることもできずにいた。ランダルは、駆け寄ってきた同級生に抱き起こされ、その肩に擔がれた。

心配そうにシルヴィアを見つめていたユーリは、彼のすぐ近くに、空中で固まっている変わった形の黒い生を見付けて、すっとその目を細めた。

(……あれは何だろう?)

その生から、今しがたまで発せられていた強い殺気は、今では完全に失われていた。ユーリの視線の先で、黒いエナメルのような鱗で覆われた皮にぴしぴしと亀裂が走ると、剝がれ落ちた黒い皮側から、仄かな銀に輝く、半明のしい生きが姿を現した。

(……!)

その場にいた者は皆、息を飲んで、その不思議な生を見つめていた。それは、霊の一種とも言われる、デナリス王國の伝承にも登場する竜のような姿をしていた。その生きは、き通ったしいをくねらせて、黒い皮の中からするりと抜け出ると、ゆっくりと翼を羽ばたいて、シルヴィアを腕に抱いているアルバートの頭上をくるりと一周してから、そのまま森の奧へと飛び去って行った。

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