《【コミカライズ&電子書籍化決定】大好きだったはずの婚約者に別れを告げたら、隠れていた才能が花開きました》王宮の夜會
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「シルヴィー! もうは大丈夫なの? 心配したんだからね……!」
シルヴィアが當日中に病院を退院して、翌朝魔法學校の教室に著くと、朝早くから教室に來ていたユーリが、勢いよくシルヴィアに抱き著いて來た。
シルヴィアは微笑みを浮かべると、ユーリの髪を優しくでた。
「はい、アルバート様にたくさん魔力をいただいたお蔭で、もう大丈夫です。……ユーリ様、あの時私を見付けてくださって、ありがとうございました」
「アルバート先生も僕も、森の中で眼になってシルヴィを探していたんだよ。急にシルヴィの姿が見えなくなっちゃうんだもん。……あのシルヴィの元婚約者って、とんでもない奴だね。僕、許せないな……」
ユーリの瞳が冷たく細められたので、シルヴィアは慌てて答えた。
「彼とはもうお會いすることもないですし、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「それならいいんだけど。……ねえ、話は変わるけど、」
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ユーリは、シルヴィアのに回していた腕を解いてから、シルヴィアの顔を見上げた。
「今度、王宮で夜會が開かれるんだ。父上も母上も、シルヴィに會いたがっていてね。よかったら、シルヴィにも是非來てしいんだけど、どうかな?」
「私が王宮の夜會に、ですか?」
高位貴族しか足を踏みれることのない王宮の夜會は、シルヴィアにとって今までは遠い存在だった。驚いた様子のシルヴィアに、ユーリは頷いた。
「うん。それに、アルバート先生から聞いているかな、シルヴィはあの魔討伐の時、霊の穢れを浄化してくれたでしょう? ……このデナリス王國にとって、國を守る霊は特別な存在だからね。父上も母上も、シルヴィにお禮を伝えたいみたいだよ。個別にシルヴィを王宮に招待することも考えたみたいなんだけど、しばらく忙しいらしくて……」
「私が王宮の夜會に參加させていただけるのなら、ありがたく出席させていただきます。ただ、私は、ご存知の通り婚約解消したばかりなので……」
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ユーリに向けたシルヴィアの顔が、し曇った。通常、夜會はエスコートをしてくれるパートナーと一緒に出席するけれど、もう婚約者のいないシルヴィアには、特定のパートナーがいないからだ。ユーリはそんなシルヴィアの懸念に気付いた様子だったものの、ちょうど教室の扉が開く音を聞いて、扉を振り返りながらにっこりと答えた。
「シルヴィにはぴったりのパートナーがいるじゃない。ねえ、アル……じゃなかったアルバート先生」
ユーリは、教室にって二人の元に歩いて來るアルバートを、楽しげに見上げた。
「アルバート先生も知ってるよね? 今度、王宮で夜會が開かれること。夜會には、シルヴィにも來てもらいたいんだけど、アルバート先生にシルヴィのエスコートをしてもらうのはどうかな?」
(アルバート様に、私のエスコートを? そんなことが葉うなら、理想的だけれど……)
思わず頬を染めてアルバートを見上げたシルヴィアに、アルバートは優しく微笑んだ。
「俺でよければ、喜んで君のエスコートをさせてもらうよ、シルヴィア」
「よろしいのですか、アルバート様……?」
「もちろんだ。君と出席できるなら、俺も嬉しいよ」
「……!」
シルヴィアの頬には、みるみるうちにさらにが上り、真っ赤になった。
「どうもありがとうございます、アルバート様。楽しみにしております」
「じゃあ、これで決まりだね! すぐに招待狀を送るから、よろしくねー」
ユーリは、二人の顔を見上げて嬉しそうに笑った。
***
シルヴィアは、アルバートに手を引かれ、馬車から王宮前に降り立った。シルヴィアの張を察したように、アルバートがシルヴィアに微笑み掛けた。
「そんなに張しなくても、いつもの君のままで大丈夫だよ、シルヴィア」
「……はい、アルバート様」
シルヴィアは、初めて王宮に足を踏みれることへの張もさることながら、正裝をしたあまりにしいアルバートの隣に並んでいること自にも、どきどきと張をしていたのだった。黒いタキシードにを包んだアルバートは、目を瞠るほどにしく、家までシルヴィアを迎えに來た彼を一目見た途端に、シルヴィアの口からは嘆の溜息がれていた。
この夜シルヴィアがに著けていたのは、金がかった沢のある、シルクの上品かつ華のあるドレスだった。シルヴィアが初めて袖を通したこのドレスの元には、同のシルクのコサージュが付いている。初めてアルバートと會った日に著ていたベージュのドレスよりも濃い味の、品がありながらも華やかさがじられるそのドレスは、シルヴィアが今までに著けていた控えめなドレスとは一味違うものだった。
アルバートの隣に並ぶことを想像し、彼の金の瞳を連想したシルヴィアは、ドレスに著られないかと々不安ではあったものの、思い切ってこのドレスを著ることにしたのだった。シルヴィアを迎えに來たアルバートが、綺麗だと彼の姿に目を細めてくれたので、お世辭かもしれないとは思いつつ、シルヴィアはふわふわと夢見心地だった。彼のプラチナブロンドの髪は、この夜はしく結い上げられ、アルバートから贈られた金の髪飾りが、彼の髪に彩りを添えていた。
アルバートに腕を取られ、夜會の會場である大広間の前までシルヴィアが近付くと、正裝したユーリが二人に向かって手を振る姿が見えた。
「アル、シルヴィ!」
紺のタキシードを纏ったユーリは、いながらも、王子らしい威厳とオーラをしっかりと漂わせていた。
「ユーリ様、とっても格好良いですね。タキシードも、よくお似合いです」
「へへ、ありがとう。シルヴィも、とっても綺麗だよ!」
照れたような笑みを浮かべてから、眩しそうにシルヴィアを見上げたユーリの橫に、もう一人、背の高い人影があった。ユーリにそっくりの緑の瞳をした、さらりと流れるような金髪の、端整な顔立ちをした青年は、目の前のアルバートとシルヴィアのことをじっと見つめてから、アルバートに向かって口を開いた。
「アル。……君がパートナーを連れているところなんて、初めて見たよ。まあ、こういう夜會で君を見掛けること自、なかったけれどね」
「クリス、久し振りだな」
アルバートにクリスと呼ばれた青年は、シルヴィアに向かってにっこりと笑みを浮かべると、その右手を差し出した。
「初めまして。私はユーリの兄、クリストファーです」
(この方が、第二王子のクリストファー様……)
シルヴィアは、クリストファーに差し出された右手を、やや張しながら握り返した。
「初めまして、私はシルヴィアと申します。ユーリ様には魔法のクラスでお世話になっています」
「ユーリの方こそ、シルヴィアさんにお世話になっていると聞いているよ。いつも弟をありがとう」
クリストファーは微笑みを浮かべてちらりとユーリと視線をわしてから、アルバートを楽しげに見つめて、その笑みを深めた。
「……よかったな、アル。君がそんな顔をするところを見られるなんて、私も自分のことのように嬉しいよ。父上と母上のところには後で案するが、まずは二人で夜會を楽しんでいってくれ」
「ああ、ありがとう」
なぜかクリストファーの言葉にし頬を染めたアルバートと、含みのある笑いを浮かべるクリストファーに、シルヴィアが心で首を傾げていると、彼はくすりと笑って、シルヴィアの耳元にし顔を寄せた。
「アルとは、遠縁でも馴染みでもあるし、魔法學校の同級生でもあるから、昔から彼のことはよく知っているんだけどね。これだけ何でも兼ね備えたアルに、浮いた噂も一切なかったのは、こう見えて初を拗らせていたからで……うぐっ!?」
シルヴィアに囁き掛けていたクリストファーが、アルバートの肘が鋭くった脇腹を押さえた。アルバートは、クリストファーの言葉に額を押さえると、小さく溜息を吐いた。
「余計なことは言わなくていい、クリス」
(……?)
シルヴィアはきょとんとして、クリストファーと、し目を眇めたアルバートの顔を見上げた。
ユーリが、くすくすと笑ってそんな三人を見つめていた。
「アルは、今までに一度しかダンスを申し込んだこともないんだって。でも、アルはダンスも上手なのは間違いないから、リードは安心して任せてね、シルヴィ?」
「は、はい……」
ぱちりとシルヴィアにウインクを飛ばし、ひらひらと手を振ったユーリに向かって、シルヴィアは戸いながらも頷いた。
(アルバート様の初。一度だけ、アルバート様がダンスを申し込んだ方もいるのね……)
狀況がよくわからないながらも、アルバートが誰か心惹かれたがいたということに、シルヴィアがつきりとが痛むのをじていると、アルバートはそのままシルヴィアの手を引いて、大広間の中へとっていった。大広間には、既に優なピアノの演奏が流れ始めていて、曲に合わせて數人の男がステップを踏んでいた。
アルバートは、シルヴィアに向かって優しい笑みを浮かべた。
「シルヴィア、俺と踴ってもらっても?」
「はい、喜んで、アルバート様」
アルバートにじっと見つめられ、シルヴィアの頬はふわりと染まった。改めて恭しく差し出されたアルバートの手にその手を重ねながら、シルヴィアのの鼓は知らず知らず速くなっていた。
「……アルバート様と踴らせていただく二人目になれるのだなんて、栄です、アルバート様」
微笑みを浮かべてアルバートを見上げたシルヴィアに、アルバートは微かに苦笑した。
「いや、俺は、今日も含めてただ一人にしかダンスの相手を申し込んだことはないよ。やっぱり、君は覚えてはいないかな」
「……えっ?」
アルバートの言葉が意味するところをすぐに飲み込めず、幾度か目を瞬いたシルヴィアの瞳が、驚きに大きく見開かれた。
(噓、もしかして……)
シルヴィアの脳裏に、昔、彼がランダル以外に一度だけ踴ったことのある青年のことが浮かび上がっていた。彼が完全な壁の花になっていたのを気遣うように、彼に手を差しべてくれた、溫かな手をした綺麗な顔立ちの青年がいたことを、シルヴィアはぼんやりと思い返していた。
優しい気遣いを無下にするのも申し訳なく彼と踴り、その後ランダルに激怒されてからというもの、シルヴィアは、ランダル以外と踴ることはなかったのだけれど、その時の青年の顔を、シルヴィアは必死に思い出そうとしていた。
「まさか、アルバート様はあの時の……?」
「ああ、そうだよ。あの時の君は、他の令嬢と踴っていた君の婚約者のことをずっと不安げに見つめていたから、きっと俺のことは目にってはいなかったのだろうけれどね」
シルヴィアは、溫かな腕で彼を支えているアルバートのしい顔を、信じられないような思いで見上げていた。
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