目標があって頑張ってる人はすごいし、うらやましい。私は「褒められたいから」って低俗な機しかないのに。

ああ、でももしいつか褒めてもらえたら。私は何をして生きていけばいいのだろう。褒めてしいってそれ以外に考えたことがないから、手にれたら私はどうなってしまうのか。空っぽになってしまうかもしれない。

もう、意地とかそんな可い言葉じゃなくて、自分でも執念のようにじる。お母様に、お父様に、褒めてもらえたら。褒めてもらえるような何かが出來たらきっとその時は自分の事が好きになれると思うの。

褒められたい、褒めてもらいたい、すごいねって、私が必要な存在だって言ってしい。

「お嬢様、學園に著きました」

「……私、寢てたのね」

心配そうに私を見つめるアンナの目が不安そうに揺れる。

「昨日もお休みが遅くなりましたから……」

「そうね……うん、今日はなるべく早くベッドにれるようにするわ」

そう言って、私は何か言いたげなアンナを無視して送迎用の魔導車を降りた。ご學友の令嬢達に聲をかけて教室まで向かう途中で私に憧れているとキラキラした瞳を向けてくれる……主に年下の生徒達が視界にる。

學園祭の劇で王子の役を私がやってからどうも拠のない噂が生まれてそれだけ獨り歩きしているらしくて。私は自分の噂を聞いて「それ、誰？」って何度も思った。

演技の才能もあったのかと王都の劇団の関係者から稱賛されたなんて話はもし本當なら悪い気はしないけど。ふふ。でも、ご家族とも仲が良くて、アジェット公爵家の方は皆リリアーヌ様をベタ褒めしてて仲が良くて素敵だなんて。これは私にとってはとってもつらい作り話だった。

私がそれを聞いて何を思ったかを知ったら幻滅されてしまうだろう。だから訂正する気はない。あの子達の心の中だけでも「家族からされるリリアーヌ」が存在するなら素敵だと思うの。

現実の私はそんなに素晴らしい存在ではない。他にも求婚者が次から次へと現れて公爵は斷りの手紙を書くのに大忙しだなんて噂もあったけど、現実での私は求婚どころか異とデートに行ったことすらないのに。

近年は政略結婚も時代遅れだと言われるようになったけど、我が家の規模からすると私に許嫁や婚約者すらいないのはやっぱり不自然に思う。だってお兄様、お姉様達には決まった方達が小さいころから誰かしらいたもの。親や家の仕事の関係上、どうしても「縁づいて問題がないかどうか」はやはり懸念されるから仕方ないし。

昔のように結婚相手まで決められるという訳ではなく、その縁づいて問題ないお家の子と互いに何度か會わせて相が良さそうな組み合わせを探すようなじのもの。なので馴染の縁（えにし）の中から複數カップルが生まれることになるのが高位貴族では一般的だ。

まぁ、私にはいないのだけど。うんと小さいころ、それこそ４つとか５つのころは自分と同じくらい小さい子達のいる場に連れて行ってもらった記憶がある。そこで何人か……遊んだり楽しくしゃべったり、友達のような存在もいた気がするけどすぎて名前も顔ももう覚えていない。

馴染にさせようと周りの大人が場を整えたのなら同じ派閥の貴族の子供なのは間違いない。お母様に聞けばわかるだろうが、そんな小さいころのほんのしの流をもとに友人面されたら彼、彼らも戸うだろうから當然そんな事をするつもりはないが。

気が付いたら、私が流するのは兄姉とライノルド殿下だけになっていた。いころの私はそれが普通の貴族令嬢の過ごしかたではないというのをよく分かってなかったのだ。普通は同年代の友人と言う存在がいるらしいと初めて正式な茶會に出席した時に他人同士の會話を聞いて察した。

私も正式ではない茶會にはデビュー前にもたくさん出ていたが、それはほとんど家族に連れられてのもので。大人の他にはし上の兄姉の年代しかいなくて、呼ばれた家族のオマケということで皆さまには良くしていただいたけど……今思うとあれは兄姉の友人宅での茶會だったのだろう。

でも同じ子供とひとくくりにされても、一番近いアルフォンスお兄様も４つ上だった。子供で４歳差と言うと対等な友達になるのは難しい。

お呼ばれしたお家に私と同年代の子供が居たら友人になれたのかもしれないが、それもなく。兄姉の友人には弟や妹がいる人もいたのに、何故かその方達のお家への招待には連れて行っていただく機會はそう言えば無かった。

家庭教師からの教育は気が付いたら神と呼ばれる兄姉達が同席し、いつしか直接教わるようになっていた。私が學んでいた事は今でもそうだが多岐に渡っていたため、殿下からのお呼び出しがある時と兄姉かお母様の茶會についていく以外は何かを勉強していた記憶しかない。當時は勉強の方が楽しかったような記憶がある。

そうして茶會への公的なデビューの時にはすでに友人関係がほとんど構築されてしまっていたのだ。

もちろんアジェット家の娘という事でないがしろにされたことなんて無いし、學園に學してからできたお友達の皆様も良くしてくれるけど、いころからの友人同士の間にはやっぱりどうしてもり込めずに一歩引いてしまう。

私にとっての馴染と言うかいころから唯一定期的に顔を合わせていたのはライノルド殿下だけだが、噂されるような親しい関係ではない、それだけは本人である私は誰より正しく分かっている。

お友達はデートだと言っていたが、あれは殿下の言う通り城下街や市民の遊楽地へのお忍びでの査察でしかない。何より殿下は私といる時に目も合わせようとしないし想笑いすらしないから。普段人前で周りや私に向ける笑顔も社用の余所行きだが。

私も小説の中でしか知らないけど、あれらは絶対にデートなんて素敵なものではないと思う。お忍びにふさわしい、周りから見て分かるような護衛を付けなくても済む令嬢だったからとかそんな理由だろう。

では馴染でないなら正しい呼び名は何かと聞かれても私にもよく分からない。

「なぜライノルド殿下は私を毎回夜會でパートナーにするの？」と、お母様やお父様を含めた周りの大人に聞いてもはぐらかされて正しい理由は教えてもらえなかった。だって婚約者か許嫁でもない限り周りにそんな人いなかったから。

自分で考えてみなさい、と言われて自分なりに當時の王家と周りの家の婚約関係と噂などから推理したら「都合が良かったから」という結論になった。

同年代の令嬢で派閥などの関係から王家に嫁げる者は殘っていない、ライノルド殿下には婚約者にとむ令嬢がいるという話も事実だときちんと裏付けもとったし。

集めた報から考えた結果、そのお相手は５年前から張狀態にあるニュアル國の一の姫で間違いないと思う。

第一、彼が過去こちらの國に滯在した時に私は本人の口からライノルド殿下との婚約を整えに來たと話を聞いているし。あれは私が１０歳のころだからライノルド殿下は１１歳で、一の姫は１２歳か。今から５年前だ。

しかしニュアル國では當時から反王家組織が國でテロ行為を繰り返しており、戦がいつ始まるかもしれないと王族の婚約を結ぶのは様子を見るしかなかったのではないか。

現在のライノルド殿下はニュアル國の騒の鎮靜化に未だ學生のながら盡力している。ご本人も果を出したらプロポーズして婚約を結ぶのだと私に言っていた。

つまり私は一の姫にプロポーズするまでに夜會などでパートナーをいちいち探さずに済むので都合が良かったからそうされているのだろう。はとこだが縁でもあるし。

周りの大人がはぐらかしたはずね、本人にこれを言うのははばかられたから言葉を濁すしかなかったのでしょう。私はそのように納得した。

この微妙な國際問題も関わる婚約事を周りに説明するわけにもいかず、私は學園などではライノルド殿下の「婚約者候補」という扱いになっている。

その設定の中では、どうやら私があんまりにいろんな分野で目立とうとでしゃばるせいで、殿下が嫌気が差して正式な婚約者にはせず候補で留め置かれているんだそうだ。なんとも親切な、お父様の敵対派閥のお家の令嬢がそう教えてくれたわ。ふふ、そうだとしたらとってもくだらない話ね。

その場にいた私のお友達は「ドリス侯爵令嬢はライノルド殿下を昔からお慕いしていた人ですから……気にしたらダメですよ」と言ってくれたけど、隣にいるってだけで嫉妬に巻き込まれるなんて損な役回りだわ。殿下の想い人は國外にいるわよってのここまで出かかったもの。

……今日は放課後は城に上がって、王太子妃であるアンジェリカお姉様の肖像畫を描く日だ。當然一日では仕上がらないのでしばらくは定期的にお城に上がることになる。あの有名なデザイナーでもあり偉大なアーティストである『アンジェリカ』に直接指導をしていただけるなんて私はとても恵まれているとよく羨まれる。

でも私にとっては「アンジェリカお姉様」でしかないのだ。

だから、一杯頑張らないと。頑張って、今日は私の大好きな家族に、お姉様に、褒めてもらいたいから。