《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》これは壯途

冒険者ギルドの建の中にると、こちらに視線が向くのが分かった。

調べるようなジロジロ見るようなものでは無く、く者があったからつい視線が向いたという、そんなじの。

特徴的な、長い前髪で目元まで隠れているフレドさんの容貌を知っていた人も多いらしく、彼の名を呼びながら何人も聲をかけている。人當たりが良いのは知っていたが、やはり顔が広く大勢に親しまれている人なんだなと分かる。

その顔の広いフレドさんの後ろに、見慣れない子供がいると一拍おいて彼らが気付くと明らかに詮索したそうな気配が視線に混じった。

「あれっ?! フレド、戻ってくるのは冬前になるはずじゃなかったのか?!」

「それがな、良い方に予想外の事が起きて、報酬は満額け取ったけど依頼が切り上げになったんだよ」

後ろにいる私を気にされているのは察したが、フレドさんの縁者なのは分かるからかぶしつけに話しかけられたりはしない。どうやらフレドさんに話しかけにカウンターの中から出てきたのはこのギルドのマスターで、口調から、フレドさんと個人的にも親しいことが窺えた。

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世間話のような軽いじで、「ところでこの子は?」と話を振られて、親戚の子だと言う設定で紹介してもらった。

「俺に狩りと戦闘技を仕込んでくれた爺さんの孫なんだ、リアナちゃん。俺のはとこ」

「リアナです、よろしくお願いします」

素で張してしまって、私は々ぎこちなく頭を下げた。クセで騎士の禮をしてしまわないようにしないと。

背筋をばした禮をすると、フレドさんがギルド長と呼んでいた男が「お前に似ずに真面目そうな良い子じゃないか」と茶化した。

興味深そうに見られるけど、マナー違反になるので詮索されたりはしない。ペラペラ聞かれてもいないのに喋るのも不自然なので、私もとくに自分から事を説明したりはせず笑顔だけ浮かべていた。

「冒険者の初心者講習って次はいつ?」

「ちょうど明日あるけど、お前が教えてやればいいじゃないか」

「それだと知識が偏っちゃうから。それにリアナちゃん、強さで言ったら俺が教える事なんて多分無いんだよね~。技は爺さんにバッチリ鍛えられたらしいから。でもちょっと世間知らずなとこがあるから、新人として一通りの説明と、制度とかをきちんと教わってしくて」

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そういう設定でいくと言われたけど、不安だ。皆さんの期待を裏切ってしまう予しかない。フレドさんはどうして「そこそこいいとこの子で凄腕猟師の孫」なんて背景を私に負わせたのかしら。

なるほどな、と頷くギルド長さんに従って私は付に向かった。背中から「ピカピカの新人さんだ」と威勢よく案されて、ほんのし面映ゆい気持ちになる。

「フレドさん、依頼の容が遂行中に変更になったなら処理が必要になります。依頼主の承認はありますか?」

「もらってきてるよ~」

「なら、こちらで事務手続きをお願いします」

フレドさんはトノスさんの依頼について個室で話をするようで、「副長」と呼ばれていた男と奧に向かった。

荒くれものも多い冒険者を抑える役目として、引退した高位冒険者を迎えて対面に立ってもらい、実際の事務権限は副ギルド長が持っているというのはどこの冒険者ギルドでも同じらしい。

銀級でその上人當たりも良く、ここまで一緒に過ごして見ていた限り何でも用にこなしていたフレドさんはかなり貴重な存在なのだろう。

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「お嬢ちゃんはこっちよ。私は事務員のダーリヤ」

「リアナと申します。よろしくお願いします」

「あら、禮儀正しい良い子ねぇ」

想の良い笑顔を浮かべる、優しそうなご婦人――ダーリヤさんに手招きされて私は向かいに座った。指にはめている指と同じ意匠の男の指をペンダントトップにしているのに目が行く。そういえばギルドに貢獻した冒険者の寡婦を雇う制度があったな、きっとこの國もそうなのだろうと頭の隅で考えながら話を聞いていった。

読み書きについて聞かれて、問題なく出來ますと答えた私は登録用の屆け出に指示通りに記していく。

名前、別、得意な事、日常生活で使う以上の魔法が使えるかどうか、泊りがけの遠方での任務は可能か、他の冒険者と合同で依頼をけるつもりはあるか、連絡先は、などなど。々あるものの、正直に書けない事も多いが。

時間経過で変わる項目も多いのでこれは後々変更もできるので問題ない。連絡先は住所が無ければ定宿の名前を書くものだが、「親戚だから」とフレドさんの借りてるらしい部屋の住所がとりあえず記載された。

「得意な事はあるかしら?」

「得意と言えるようなことは……特に……」

私は言葉に詰まってしまった。人にを張って「これが出來ます」と言えるものが何もない。魔法や戦闘技は各分野の超一流の存在達に手ほどきをけていたからさすがに素人よりもマシだろうけど、報酬をいただく冒険者の技として足りているのか自信が無い。

「あら、でも武も持ってるし、冒険者になると決めたくらいなんだから魔を討伐した事はあるでしょう? 『この魔を一人で倒した』って名前を書いておけばいいわ。けど実力を盛って書かないようにね。命に関わるし、すぐ分かるから。あぁ、気分を悪くしないでね、全員に同じ注意をするのよ」

「はい、わかりました」

確かにそうだと私は頷いた。けど注意をしなければいけないくらい自分の実力について噓を吐く人が多いんだろう。

答えることについて打ち合わせはしたけど、これは相談してなかったわ……どうしよう。

単獨討伐の最高記録と言うと、春に倒したコカトリスかしら。いえ、でもあれはかなり運が良かったし、同じコカトリスでも変異種まで含めると私の手には負えない。無責任な事は書けないわ。でも「本當にその名前の魔は何が出ても倒せるの?」と自問自答していった結果、私はためらいつつも「単獨討伐可能:イビルラビット」とそこに記した。

數が多いと冒険者に討伐依頼も出されるが、畑を荒らす害獣くらいの認識しかされておらず一般人も狩れる臆病で大人しい可食魔として知られている。

でも、これなら。今までに観測されたどの変異種でも、イビルラビットの派生なら確実に倒せる。

さすがに「暴食兎」まで育ってしまったら難しいけど、あれはイビルラビット科ではなく「災害(ディザスター)」に分類されるし別枠として扱っていいだろう。

その後もダーリヤさんと、世間話としか思えないような會話をしたがその目的を察して心していた。なんと素晴らしい手腕で私のの上を聞き出すのだろう。いや話しているのは架空の「リアナ」のの上話なのだが。

ここですでに信頼を得ているフレドさんの親戚として紹介されてこれなのだから、きっと私が一人でどこかの冒険者ギルドにいきなり登録するのはかなり警戒されたはずだ。

でもこうしてさりげなく審査しないと犯罪者が簡単に新しい働き口を得てしまう、警戒しすぎという事は無いだろう。犯罪者は魔力紋を登録されているけど、冒険者全員にはコスト的にも難しく魔力紋登録は緑札以上からになるため抜けもある。

それに國境を超えると途端に照會も難しくなってしまうため、魔の世に原始的な話だが、やっぱり早期発見には人の目が一番大事だ。

私はそうやって職務を全うするダーリヤさんを騙す事に申し訳なさをじつつも、「銀級冒険者フレドのはとこのリアナ」という設定で冒険者登録を乗り切った。

「問題なく冒険者登録できたみたいで良かったよ」

「いえ、フレドさんのおかげです。々手配してくれてありがとうございます」

翌日以降に數日続けて行われる初心者講習について職員から簡単な説明をけて、終わったころにフレドさんにわれて夕食に向かった。「冒険者になったお祝い」という名目で、個室をとっていただいたのだ。ここでなら、あまり聞かれたくない話も出來る。

私はそこであらためて、「冒険者なり立てほやほや」としてやっていくのに適切な行についてひもとかれた。

「前も話したけど、わざと手を抜くことはしなくていい。リアナちゃんきっとそういうの苦手そうというか、無理だろうから。ただ、目標に対して……毎回全力は出さずに……そう、出來る限り、『それを達可能な最低限の力』だけを使おう」

「……はい、頑張ります」

全力を出してもちゃんとした冒険者としてやっていけるかすら不安をじるのだが、それは怖がりすぎだと言われている。

悲しそうな顔で否定させるのが申し訳なくて、もう彼の前で本音は口にしていない。

「錬金とか、ほんのし知識があるだけでも相當目立つから。高等教育機関とか本職に師事しないと教わらないような魔法とか、知識もだけど……」

「一応、しかと覚えてます。冒険者として一般的な事なら大丈夫……このリンデロンで、同じような事が出來る人を5人見かけたらそれと同じ魔法やちょっとした技を使っていいんですよね」

「うん。……上級冒険者とかは參考にしちゃダメだよ? まぁそこは……リアナちゃんなら周りを見ながら空気読めると思うけど……」

私が生きていた世界は、相當恵まれていた。だから意識していなかったが、錬金などは習った事があるだけで「文字の読み書きができる」「ある程度の魔法の素養がある」「錬金師に師事出來る、または教育機関に通える環境だった」と、かなりの報が読み取れてしまうとフレドさんに指摘されて初めて気付いたのだ。

天才に一度も認めてもらったことのない私程度の腕でも、「錬金しできる」だけでとっても目立ってしまう。

を隠したい事が無ければ、「まともに錬金師として稼いだ方が儲かるんだから、悪い事なんてしないだろう」と本來ならそれだけである程度信用してもらえるくらいなのだと。

駆け出し冒険者として知っていておかしくないのは「これは錬金師がポーションに使う薬草だから、この討伐依頼のついでに採って帰ったら買い取ってもらえる」とかその程度らしい。

「……リアナちゃんの『チョットデキル』ってめちゃめちゃ信用できないから、初心者講習大丈夫かなぁ……錬金に、音楽、演技にメイクの腕、なくとも3つは言語が喋れるし……特技は他にないとか言ってたけど……」

私は心配させてしまって心苦しくなった。絶対に大言壯語はしない、としっかり心で誓う。しかじっただけの事をちょっとなんて例えても「出來る」なんて言ったら、自分が失敗して恥をかくだけじゃ済まないんだもの。

「なんか今も勘違いしてそうなんだよな……」

前髪の下から心配そうな目を向けてくるフレドさんに、私は自分をい立たせるように返答した。

「……これからも助けていただくことは多いと思いますが、出來る限り頑張ります……!」

「いや! 俺は絶対ほどほどで良いと思う」

その日は「お祝いだから」と気持ちよくおごっていただいて、私はより「何かあったら恩返ししよう」という意思を強めた。

紹介してもらった向けの宿まで送ってもらうと、私は新しい居場所を手にれた高揚で、家出して初めて前向きな気持ちで眠りについたのだった。

次回「絶対に目立たない初心者講習」

フラグじゃないぞ!

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