《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》今すぐ帰りたい
心配だな~~。
どんなにあれこれ考えてももう何もできないのだが、やっぱり不安になってしまう。
初心者講習の教を擔當したレイブさんには心配しすぎの過保護だとからかわれたけど、俺が心配してるのはそっちじゃないんだよ。
今時の若い子にしては珍しいくらい真面目で基礎を大事にしている優秀な子だとレイブさんは褒めていた。和を大事にして目立つような行はしてなかったが相當筋が良いな、とも。リアナちゃんは隠してたのに気付かれたのかと焦ったけど、依頼は目立たない評価で達してたから安心したのに。何かが起きてそうな懸念がどうしても拭えない。
リアナちゃんは良い子だし、失敗したり悪い方に転ぶような立ち回りはしないだろう。そこは信頼できるけど、自己評価が低すぎるリアナちゃんがとんでもない事をやらかして「目立たずに冒険者としてやっていく」のが無理な狀況になってそうで……。
それどころか「100年に一度の天才だ」とか祀り上げられる事になってたりするかもしれない。俺は考えただけで心配で、ここ數日は夜もよく眠れなかった。
トノスさんからの依頼にかこつけたこの輸送は、出発する日が決まってたのでそれに間に合わせるためにバタバタしてきちんと話をする時間がとれなかったのだ。やっぱもっとちゃんと確認しとけば良かったな。
でもリアナちゃんの心殘りをなるべく早く解消するためにはこうする必要があったからなぁ。
正式に依頼出せるのはずっと先になっちゃうし、そしたらリアナちゃんはずっと心の中で親友の子に謝りながら過ごすだろう。あのままだったら無茶して依頼をこなし続けていたと思う。
商品化する都合上、出発を延ばすのも出來かねた。向こうは一日でも早くしいと言っていたから。むしろ飛竜便を使っても良いと言っていたくらいだったのだ。
まぁ、各國が運営する飛竜便でごまかしの効かない形で記録を殘すわけにはいかないのでそれはうまく回避したけど。
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やっぱリンデメンが今どうなってるか分からないのが一番不安なんだよなぁ。でもリアナちゃんの様子を聞きたいって理由でギルドの通信機使わせてもらう訳にもいかないし……
中継地點の街に到著していったん解散、となった俺は今回の商隊に護衛として一緒に參加しているパーティーからの夕食のいをまたそれとなくかわして一人で先に宿屋にった。
あの中の後衛の魔師のミセルさん、最初からほんのり警戒していたのだが……道中で魔とエンカウントした時にちょっと庇った事がきっかけで今ではガッツリ狙われてしまっている。參った參った。
まぁいつもの事なので今のところは特に問題ないだろう。今回は騒ぎになるような言い寄られ方もされてないし大丈夫だと思う。
いつもなら極力と長時間すごすような依頼はなるべくけないんだけど、今回ばかりはそうもいかないから。
リアナちゃんの親友のアンナ・ロイヤーさんはなので、のメンバーのいる冒険者パーティーと組む必要があったためだ。リアナちゃんみたいに特殊な変裝スキルがあるわけじゃないから、パーティーの一員に見せかけて誤魔化したいと言う目的がメインだが。大勢の、それも初対面の男しかいない所でがロイヤーさんたった一人と言うのはちょっとね。
今回合同依頼として組んでる「モンドの水」の面々はいわゆる馴染姉弟と兄妹の混じったグループで、のがパーティーにいるため冒険者の男にありがちな暴者やオラついた態度を取るものがいない。ちなみにパーティー名は皆の出地に実在する泉に由來しているらしい。穣祭の舞臺にもなっているんだとか。
一般であるアンナさんを迎えに行く都合上、一番適任だとそれとなく手を回してこの依頼が行くように選んでもらった。ギルド長のサジェのおっさんは俺に導されたなんて思ってはいないだろうけど。
しかし「モンドの水」の皆さんが俺の予想以上に仲がいいせいで俺はちょっと苦労している。仲間で末妹ポジションのミセルさんが俺にどうやら惚れたらしいと察してあの手この手で俺と二人きりにしようとするんだよ。
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空気読めない奴のふりして何とか回避してる。直接何か言われたわけじゃないのに俺が自意識過剰に見えるかもしれないが、殘念ながらそうではない。ほんとに我ながら分からんくらいにモテてしまうのだよ。
全部お斷りをしてるが、毎回角が立たないように苦労する。俺の生まれの複雑な事から、安易に縁を作るわけにいなかいってのもあるが。何よりその事を乗り越えて親しくなりたいと思えた人が今までいなかったから。平凡な生まれだったとしても人なんていないと思うけど。
円満に冒険者を続けるためには、他の冒険者とも良好な関係を築く必要があるので出來たらきっぱり拒絶せずに終わりたい。この依頼が完了してリンデメンに戻ったらなるべく避けて顔を合わせないようにしてフェードアウトしないと。
何度もあったせいでさすがにもう慣れたが、どうしてここまで面倒を引き寄せるのか俺だって聞きたい。目元を隠してからは頻度も減ったが、それでもこうして厄介な事は無くならない。
幸いというか、俺の危機察知能力はかなり優れている。まぁこんな事が何回もあったから嫌でも鍛えられてしまった訳だが。俺に好意を向けて「おかしくなる」人の予兆と言うか、その見分け方が。
當然、リアナちゃんもそうだけどそうならない人の方が多い。けど既婚者や人がいる人でも時々そうなっちゃう人が出るので油斷出來ないんだよ。その場合斷ってるのにそのパートナーや家族に俺が恨まれるから、予兆をじたら関わらないようにするしかない。
でも自分の個人的なトラブルでリアナちゃんの依頼に影響を出すわけにはいかない。
俺は気を引き締めた。たとえこの依頼がギルドを挾んでいない、正式なものじゃないにしても大切な依頼だ。とりあえずこの問題はリンデメンに戻るまで棚上げしておこう。
しかし薄々いいとこのお嬢さんだと察してはいたが、リアナちゃんやっぱり貴族のお嬢様だったなぁ。まぁ公爵家とはさすがに思ってなかったけど。
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つまりロイヤーさんも公爵家の上級使用人である侍なので、外國人の冒険者でしかない俺が無計畫にフラッと行って會える相手ではない。リアナちゃんも「家出をした私を一応は探していると思う」と言っていたように、正面から會いに行くつもりも元々無いが。
一応目立たないように連絡を取るためにロイヤーさんとやらが休日に行く店やら日常の過ごし方等を聞いてはあるが、リアナちゃんが家出した後事が変わってる可能もある。
まぁ専屬侍だったのが、そのお仕えしてたお嬢様が今はいない訳で。リアナちゃんの魔道の契約書と基礎魔導回路図を屆けて自由行がとれるようになってもすぐ接するんじゃなくてし調べる必要があるだろう。
使用人の寮になってる敷地の別邸の見取り図の出番はさすがに無いと思うけど……公爵家の警備をかいくぐって侵なんてそもそも無理だし。
そうしてクロンヘイムの王都に「観」という口実でってからしばらくアジェット家について観察していたが、リアナちゃんの親友のロイヤーさんの狀況は思ったより悪かった。
リアナちゃんから聞いてた家族の様子とも齟齬がある。世間では「アジェット家の天才」とも呼ばれる「公爵令嬢リリアーヌ」は家族全員から溺されていた事になっていたのだ。
この國の第二王子との婚約も秒読みだったなんて噂も聞いたが、これはおいておく。
家出したリリアーヌ嬢の専屬侍だったロイヤーさんは、その「家族皆からされているリリアーヌ嬢」の家出に関わっていたと、公にされないながらも現在は閑職同然の仕事に追いやられているらしい。職業に貴賤は確かに無いが、上級使用人としての教育をけた人間に回す仕事容ではない。これに嫌がらせ以外に何か理由があるならぜひ聞きたい。
アジェット家はリリアーヌ嬢が調を崩して領地で療養していることにしているらしいが、そうじゃないのは俺がよく知っている。彼が家出した事を隠しているのだ。
リアナちゃんが噓を吐いていたとは考えられないので、ここに何か事があるはずだ。この件についてリアナちゃん本人より何か事を知っていそうな専屬侍のロイヤーさんにまず連絡を取らないと、と俺は算段を付けた。
「……ご用件とは、何でしょうか」
目的の人が向かい側に到著したのを察して、俺は周囲を警戒するため周りに廻らせていた意識をほんのし自分に戻した。彼が本來侍がしないような仕事まで任されていて、良かったのか悪かったのか。俺はおかげで、廚房の下働きの代わりに買いを命じられた彼が外に出てくれた時にこっそりメモを渡してこうして會えたが。
一応、ロイヤーさんへの接を監視している罠の可能も考えて、二人で會っている所を見られないように、今回のお使いの通り道にある公園のベンチの後ろの生垣越しにこうして話すことにした。
彼を監視している存在がいたとして、買いの途中にちょっと座って休んだようにしか見えないはず。
……勝算はあったけど、信用して來てくれて良かった。俺を拐犯か家出をそそのかした犯人として通報する事だって出來たわけだから。リアナちゃんから聞いていた、ロイヤーさんとの思い出に出てくる「水晶百合とカスミ草」の話に気付いてくれたようだ。
「あなた宛ての手紙を預かってるんだ、詳しい事はそこに」
「ま、待ってください……!」
あまり長時間彼がひと所にとどまるだけでも、監視が居たらまずい事になる。夜などに個室で一人になる時間はあるはずだと、リアナちゃんの手紙(とても分厚い)に加えて俺からも事を説明する一筆を添えて生垣の隙間から彼ののになるように渡した。
だから一旦この場はすぐに離れた方が良い、とリアナちゃんから聞いた話ではその程度は察する事の出來る人だろうとろくな説明をしなかったのだが、予想外に呼び止められた。俺はつい構えてしまう。
「私の、私の敬するあの方は、ご無事でしょうか」
「……怪我も病気もなく、過ごしてますよ」
「!! ……よ、良かった……」
どうして、何で一人で出て行ったのかとこの場で泣き言を言われるかと思った俺は自分を恥じた。まずリアナちゃんを案じたロイヤーさんの様子に、「あの子にこんな素敵な味方がいたんだ」と改めて知れて安堵していた自分がいる。
この分では迷わずこの國を出ることに同意するだろう。いい知らせが持っていけそうだ。
そして驚いたことに、次に顔をちゃんと合わせた時、彼はすでに公爵家を退職していた。
判斷が早い……思い切りが良すぎると言うか。いや、まぁそれだけリアナちゃんの事が大切だって事なんだろう。
一応退職については家令の執事に伝えてもきたらしいが、「悩んでるリリアーヌお嬢様の心を救えなかった自分が許せないから償いをする」と書置きを殘してほぼ失蹤同然に出てきたらしい。……主人に似てるな。
というか、その手紙は本心だろうが、そんな書き方では自殺をほのめかしているようにも見え……いや、これは使えるかもしれない。
「とりあえず、事を確認したい。『公爵令嬢リリアーヌ』の評判と、今は『リアナ』と名乗ってる彼から聞いた話があまりにも違うから」
「それは……」
今は人払いも済ませた個室にいるため変に探り合いはせず結論から話す。監視がいない事も確かめている、時間も惜しい。容によっては今夜中にここを発った方が良いかもしれないし。
そうして彼の口から語られた話は、第三者として聞いてるだけの俺が怒りでどうにかなってしまいそうな腹立たしい話だった。
ロイヤーさんは、俺よりリアナちゃんを知ってる分より強い憤りをじているのが分かる。話しているうちに涙があふれていた、膝のあたりのスカートの生地を握りしめた指も震えている。
リアナちゃんが家族からの仕打ちにどんな思いをしていたか、それでいて家族はリアナちゃんをしていたつもりだったなんて、反吐が出る。
「俺も……これはとても酷い話だと思うけど。判斷するのはリアナちゃんだ」
「でもっ、正當な評価をしてくれない方達の元に戻っても、リリアーヌお嬢様は……!」
「違うよ……ロイヤーさんも、リアナちゃんに幸せになってしい気持ちが一番でしょう? でもそのためにも、どうしたいのかリアナちゃん自に選択してもらわないと」
俺が言いたいことが分かったのだろう、ロイヤーさんは激を抑え込んで「ではお嬢様にいつ、どうやって連絡を取りますか」と建設的な話に戻ってくれる。俺は安心して話を続けた。
「ロイヤーさんを呼び寄せる話について、承諾してもしなくても結果を連絡する事にしていた。商品化する魔道についての話の後に、『個人的な話がしたい』とちょっと時間をもらう予定」
出來るなら裏に話したいがそれは難しい。人払いくらいは出來るだろうが。こうしてついでに話をさせてもらうのでなければ、國境を越える通信の出來る魔道なんてそう使えないというのが理由でもあるが。
でも、俺は何となく、リアナちゃんがどんな選択をするのか分かるような気がした。
だったら、傷付くだけの話なんて本當は伝えたくなかったんだけど。「家族に冷遇されてるから評価してもらえなかった」と思っていた方が、まだリアナちゃんにとっては救いになるのではと思ってしまう。でも俺が「リアナちゃんのために」と判斷して勝手に真実を隠すわけにはいかない。それでは彼を傷付けたアジェット家の人と一緒だ。
だから、予想していたとはいえ、リアナちゃんの反応はが締め付けられるくらいにキツかった。
商品化に関わるこちらの錬金工房の技師とのやり取りが終わって、俺が「相手の錬金師とは個人的に親しくしてるから」と言い含めて上手い事人払いをして通話をさせてもらえる運びとなった。リアナちゃんの側にも他にもう誰もいない。
ロイヤーさんも「むしろ俺より彼の方がリオ君をよく知ってるんじゃないかな、親戚だし」なんて嘯いて、同席させることに功。若き天才の友人と親類だって、錬金師ギルドの職員は最大限便宜を払ってくれた。
その「錬金師リオ」が作ったポーションを賄賂……いや宣伝を兼ねたプレゼントとして渡したのが何より大きかったと思うが。もちろん出発前にもらった一番ヤバそうなのじゃないよ。まぁ他のもお禮として気軽にけ取るには十分ヤバい能だけどリアナちゃんは自覚が無いからな……
「……二人がお互いの無事を確かめ合えた所で、大事な話をしたい。きっと君にはつらい真実だと思うんだけど、どうか最後まで聞いてから判斷してしい」
『は……い、あの、何かトラブルがあったんですか……?』
リアナちゃんには俺から伝える、と話を代わることは前もって決めていた。もし、彼が家族の仕打ちをけれて、家に戻ると判斷した場合。今後もそばにいるロイヤーさんとは確執を持たない方が良い。そうなったら一旦辭めたとはいえ、ロイヤーさんには誤解を解いた功労者になってもらえば問題ない。
通信用の魔道の向こうから聞こえる、しノイズの混じった聲。俺の知る「リアナちゃん」の聲が、しくなった。
ああ。きっとそれが「幸せになる人が一番多い」選択なのは俺も分かってる。家族も憎くてやったんじゃないってのも理解はした。これで実家に戻ったら、今度こそリアナちゃんは家族から正當な評価をもらえるだろう。
けど、俺はそれをハッピーエンドと思いたくない。彼が実際けた仕打ちも、リアナちゃんが傷ついた事も無かったことにならないんだから。
本當はしていたの、なんて。ただの加害者側の言い訳だ。
本人が決めないとと言いつつ……リアナちゃん一人だけに我慢を強いる、その結末になりませんようにと祈ってしまっていた。
『え……? ……そんな理由で? たったそれだけの事で私、ずっと、家族の誰にも認めてもらえなかったの……?』
ただそれは、今よりもさらに傷付くという事でもある。
涙の滲む聲、それだけで彼が今どれだけ深く悲しんでいるのかが伝わってきて、つらい話になると予想していたものの、俺が考えていたよりずっとキツかった。
『わ、私……ずっと、褒めてしかった……認めてしかった! 外では他所の人に私を自慢してたって……何で? どうして? 私、一回も、一回も褒めてもらった事、無いのに……ずっと、私がダメだから褒めてもらえないんだと思ってた……!』
ロイヤーさんが、俺の橫で「お嬢様……」と切なげに呟きながら涙を流している。俺もつられて泣いてしまいそうだ。
『……ずっと、自分を誤魔化してたの……きっと私がここで満足しないように、あえて厳しい事を言ってるんだって、言い訳して。けど、全然違ったのね。私がいくら頑張っても、どんな果を出しても、最初から、一回だって褒めるつもりなんて無かったんだ……!!』
ただ厳しいだけの言葉なら、真面目なこの子はきっとけれてしまっていたんだろう。
でもその悲鳴のようなびに、彼の家族の罪深さを改めて見た。「自分だけは天才のこの子に苦言を呈する存在であろう」って、つまりリアナちゃんがどんなに頑張っても、どれだけすごい結果を出しても認めるつもりは無かったって事なんだから。
養子の噓を信じてリアナちゃんを叱責した事なんて、ただのきっかけでしかない。
『全部、無駄だったんだ。私がずっと、いつか褒めてもらえるように頑張ってたの、全部。だって私の事……最初っから最後まで、褒めるつもりなんて無かったんだから……うう、うぇえ……うぇぇん……』
まるで小さい子供みたいに聲を上げて泣き出したのが聞こえてきて、俺は耳鳴りがするくらい自分に強い怒りが湧いた。もっと上手くやれたんじゃないか。リアナちゃんを傷付けないように、何か。
ああ、どうして俺は今彼の傍にいないんだろう。獨りで聲を上げて泣いてるあの子に、魔道越しでは言葉をかけるしかできない。
抱きしめてあげたい、と考えていた自分の心にハッと我に返って、俺は頭を振った。
「リアナちゃん! ……お願いだ、どうか自棄にならないで。君が心配してた親友を、俺が連れて帰るのをあの街で待ってて! 頼むから!」
今にも魔道の前から走り去ってしまいそうな気配をじて俺は聲を張り上げていた。この話を聞いて家族を許すのかそうじゃないのか、聞かなくても分かるからその問答は飛ばす。
「お嬢様!! ……私の事を、親友とおっしゃってくれた事、大変嬉しく思います。どうか、私から……大好きな、大切な親友を奪うような真似はなさらないでくださいね!!」
『アンナ……』
涙聲のリアナちゃんの言葉に、「ああ良かった引き留められた」としだけ安堵する。けど同時にほんのしの憧憬をじた。いや、これは嫉妬か? 違う、そんなの今は関係ないんだよ。
「リリアーヌ様。どうか、どうか許可をください。私の大切な親友の名譽を取り戻し真実を明らかにする許可を」
『……もう、どうでもいいの。家族の事も、ニナの事も』
「いいえ。あの事故ではお嬢様でなければ誰かが亡くなっていたかもしれないのですよ! あの卑怯な考えの彼はまた同じことをするでしょうし、次は人が死にます」
俺も真実の告発には大賛だった。その噓を吐いたニナっても責任逃れに罪を押し付けた學園の教師も、家族達も全員、相応の報いをけさせないと気が済まない。けどリアナちゃんは積極的に復讐するような格じゃないから。
リアナちゃんの事を深く知っている分、どう伝えたら心に響くか知してるな、とじた。自分はないがしろにしてしまうけど、未來の被害者を救うためにだったら考えてくれる。それはロイヤーさんが予想した通りだった。
『それは、確かに……再発は防がないと……』
「彼の噓を信用したアジェット家にも多影響は出るでしょうが、ご容赦ください」
『私がいなくなったら、別の人が無実の罪を著せられちゃうもんね』
リアナちゃんが家族に失してるのがよく分かる言葉だった。またニナが噓を吐いたらろくに調べもせず騙されると確信しているような口ぶりだ。
まぁ、「自分が褒めたら図に乗る」って決めつけでリアナちゃんをずっと傷付けてた人達だからな。
泣きはらした目で出て行ったら職員が不審がるからと、俺の出した氷で目を冷やしてから何でもない演技をしつつ錬金師ギルドを出た。
ロイヤーさんの目には怒りが燃えていた。元々あったものが、リアナちゃんが悲しんでいる所を実際に見てさらに強まったらしい。それは俺もだったけど。
「……お嬢様のファンだった、貴族令嬢達にお伝えしましょう! あとは……お嬢様が姿を見せないことを純粋に心配している方は他にもいるので、その方に……そうしたら、もみ消される事はないと思います」
話をしたいと汲み取ってくれたロイヤーさんは、晝食にも夕食にも中途半端なこの時間に食事処の個室にるまで口をつぐんでくれていた。
聞いている人が誰もいないのは分かっているのに、それでも明言を避けつつ口にした「心配している方」とは……やんごとなき分、婚約間近だったと言う第二王子の事か。
「いや、それより最適の相手がいる。俺はこの國の勢には明るくないからちょっと聞きたいんだけど……アジェット家の政敵って、現宰相が當主のドーベルニュ公爵家であってるかな?」
「……さようでございます、が……」
「そこにこの件については一任する。政敵の擁立する魔法使いの養子の不祥事だ。何も言わなくても証拠固めから何から何までしっかりやってくれるよ」
ロイヤーさんの目が「こいつえげつない事考えるな」と言っているような気がする。俺の被害妄想だろうか。
「それは……確かに効果は絶大でしょうね……」
「そこで、ロイヤーさんの事も頼むつもりだ。ああ、勘違いしないで。連れてかないとかじゃなくて、リアナちゃんからの手紙の一部を『若いの死が持ってた』って事にすれば君の実家に問い合わせもいかないでしょう?」
「そう……ですね。送金以外は流が無いとはいえ、家族のは多ありますから……私が何も告げずに死んだならそれ以上は追及されないでしょう。それでお願いします」
自分が死んだ事にされるのも、それで戸籍がなくなるのも特に問題無いようだ。すがすがしいくらいに優先順位がはっきりしている。
そのドーベルニュ公爵家には何の伝手も無いので、どう伝えるか考えつつそれについてはこれから頑張ろう。
うーんとりあえず、使用人に狙いを定めて親しくなるかな。それが一番早そう。さっさと報渡して、可能な限り早くリンデメンに帰らないと。
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