《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》思いもしない
アンナとフレドさんに會ったら最初に何て言おう。
私はそれを考えて、ここのところずっと気がそぞろだった。
久しぶりに會う喜びも、二人はいらないと言うだろうが私のために苦労させてしまった謝罪と謝も、伝えたいことは山ほどある。
しかし指折り數えて待ち遠しく思っていた二人の帰還日に浮かれ切ることが出來ない、私のを重く押しつぶす存在がある。首からかけた「それ」を意識しかけて、「今は依頼に集中しないと」と頭を切り替える。
當然周囲への警戒はしていたが、こんなに注意散漫では目當てのものを見逃してしまう。
気を引き締め直すと、周囲一帯を把握できるようにぼんやりと視界全に意識を広げる。直視できない背後は聴覚でカバーして、呼吸は靜かに。そうして森の中に溶け込んだ私に、小や蟲が人間と気付かず目の前に近づいてくるまでになった時、探していた蜂の羽音が聞こえてきた。
いた。特徴的な羽音に目を向けると、想像通り緑と黒の毒々しいカラーリングのメディ・ビーが飛んでいた。
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急にいた私に気付かれて、逃げられてしまっては息をひそめて時間をかけた苦労が無駄になる。音を立てないように、ブン、ブンと不規則な軌道で飛ぶ蜂を追いかける。
そうしてしばらく追跡していくと、それまでゆっくり警戒するように飛んでいたのが、ある地點に達した瞬間迷いなく飛んで行った。幹が太いが背の低い木の(うろ)の中にっていったように見える。
メディ・ビーと共生している事があるアカゲグマの巣が周囲にないか距離を置いたまましっかり確認して安全を確保した後、蜂を採るために必要な道を出して風下から巣と思しき木の幹に近づいた。
たくさん採れた。
蜂のった陶の瓶を抱えた私は上機嫌になっていた。
メディ・ビーの蜂はポーションをはじめとした魔法薬の材料になる。そのまま飲んでも療養中・消耗時の滋養強壯になるが、基本飲みづらい魔法薬の薬効を邪魔せず甘い味を付けられるので様々なレシピで使われている。
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自分で作る魔法薬用に在庫が盡きそうだったのだが、これで當分大丈夫だろう。
正直錬金的には無くても効果のほぼ変わらないものが作れるのだが、素のポーションはどうしても飲みづらくて苦手で。自分でも子供っぽいと分かっているが、ずっと苦手だった。
公爵家にいた時、調を崩したらコーネリアお姉様の最高級品のポーションを「家族だから」という理由で大した癥狀でもないのに使わせてしまっていた。能特化で、味については一切考えられていないものだったので、申し訳ないがとてもまずかった。もちろんただのワガママなので文句として口にしたりしてないけど、自分で作るなら味も気にしたいと思って。
家を出てからはあの原因不明にちょこちょこ繰り返していた熱が出ていないが、いつまた調を崩すか分からないので今のうちに魔法薬を作っておかないと。
とは言っても実は、完したポーションはまだたくさんあるんだけど。「材料が無い」と考えると落ち著かなくなってしまって……要は私が心配癥ってだけなのだが。常に逃走経路や失敗した時の事を考えてしまうのは私のみたいなものなので一生直らないと思う。
フレドさんにも「こんなにポーション無くても大丈夫だよ」って言われたけど、どうしても「もしも」に備えないと安心できないのだ。
しかし余ったら魔法薬用に確保しようとは考えていたが、予想よりかなり採れてしまった。野生のメディ・ビーの巣ひとつから小瓶一本採れれば良い方だと聞いていたのだが……よほど大きい巣だったのだろうか。
人間の頭部よりも大きな壺を満たす蜂を見下ろす。蓋の隙間から、甘い匂いが漂っていた。お腹が減ってきちゃう……今日は食事とは別に甘いもの食べちゃおうかな。
「納品する分の余りを自分用に確保しよう」と思っていたのだが、納品量を増やした方が良いかな? これでは、売る予定もないのに、治療院を開けるくらい魔法薬を作れてしまう。さすがにそんなに調を崩す予定はないので、さてどうしたものかと私は考えながら街に戻った。
ギルドにると、予想通り帰還した冒険者達で納品窓口の前が混み始めていた。まだ行列までは出來ていないが、空いているカウンターは無い。
どこが一番早く空きそうかな、と窓口の職員を見ていると私に聲がかかった。友達どころか知り合いもない私の名前を呼ぶ人は限られているが、予想通り聲の主はダーリヤさんだった。
「リアナちゃん、お帰りなさい」
私を見つけて納品窓口の後ろからわざわざ聲をかけてくれたようだ。
しかし、ただ「顔見知りに聲をかけた」というじではない。何か伝えたいことがあるような様子だったので、ちょっと行儀が悪いがカウンターの切れ目に近寄って話だけ聞くことにする。
「ダーリヤさん、私に何か用事があるみたいですけど、どうしました?」
「用って程でもないんだけど。リアナちゃんはまだ聞いてないみたいだから教えておこうと思って」
「? どうしました?」
「フレドさんが帰ってきたのよ」
その言葉を聞いた私は、「どこにいるか」すら聞かずに走ってその場を離れそうになっていて、ダーリヤさんが慌てて私を引き留めてギルドのどの個室を使っているか教えてくれた。嬉しいからって必要な話も聞かずに駆けていきそうになった私は、まるで我慢の出來ない小さな子供みたいだとちょっと恥ずかしくなりながら、今度は走らず落ち著いて、ギルドの2階に向かうのだった。
依頼の達報告をしていると聞いていた個室の中から出てきた、副ギルド長のラスターノさんにはやる気持ちで室の許可をとってから、気持ちが抑えきれずに飛び込むように部屋の扉を開いた。
「……アンナ……!」
私がいつも見ていた侍の服ではない。しかし確かに、アンナだった。私の、年上の親友。一番長い時間を一緒に過ごしてきた大切な人がそこにいた。
何を言おう、とあんなにグルグル頭の中で考えていたのに。「たくさん心配させてごめんなさい」って思いがやっぱり一番強くて、アンナの顔を見た瞬間に「ごめんね」と口にしていた。
「ごめ……アンナ、私、一人で逃げてごめんね……!」
部屋にったところで立ちすくんでボロボロ泣き出した私は、うつむいたまま前すら向けない。涙で何も見えなくなっている所に、よく知った香りがふわりと漂って私を溫かい腕が包んだ。
「謝らないでください。お嬢様は、何も悪い事をしてらっしゃらないんですから……十分頑張っていたのを、私は誰より知っております」
そのまま私はアンナに抱きしめられて、自分でも何を言ってるかよく分からないくらいに泣いてしまった。小さな子供が泣き止まない時にするような、トントンと背中を優しく叩かれて、ようやくし落ち著いてくる。
「あ……フレドさん……あの、お帰りなさい。アンナの事、ありがとうございます……すいません、挨拶もなしに、その……」
「いやいや、大切な親友との再會だし。なんか俺もジーンと來ちゃって『ただいま』も言えなかったから」
改めて「おかえりなさい」「ただいま」と言い合った私達はお互いの無事を確認すると、そのまま個室を借りてし話すことにして席に著いた。
いつものクセで私の後ろに立ちそうになったアンナを、説得して隣に座ってもらうとそのやり取りを微笑ましそうに見ていたフレドさんが話を仕切り直す。
「それで、リアナちゃんには……俺がリンデメンの街を離れてるたった一か月の間に、飛び級で銀級冒険者になってた事を説明してもらいたいんだけど」
「う」
「元や過去を探る人が出ないように、一般的な冒険者としてふるまって目立たないようにしようという予定だったはず……だよね? ああ、いや……怒ってるんじゃないよ。……どうしてそうなっちゃったの?」
叱られているのではないからこそ、私は申し訳なさで正面に座るフレドさんの目が直視できなくなっていた。
そう、フレドさんの留守にする1カ月の間、私も「普通の冒険者」として頑張っているはずだった。いや途中まではかなり順調だったと思うんだけど。護衛についた冒険者の使っていなかった技や魔法を封印したし、依頼の推奨ランクとかも気を付けていた。
なのに、どうしてか、私は「銀級冒険者」になってしまっているのだ。階級だけで言ったらフレドさんと同じ。
手を抜くのではなく、「それを達可能な最低限の事だけする」を常に心がけていたのに。言い訳になってしまうが、どれが失敗で何が原因でこうなったのか全部辿って思い返してもさっぱり分からないのだ。
純粋に心配してくれているのが分かる、だからこそ居たたまれない。上手くやれなかった自分がふがいなかった。
「何が駄目だったのかすら分かりません」なんて、実家に居た時に言ったらとてつもないお叱りをけていただろうけど。フレドさんもアンナも、結果だけを見て私を評価したりしない。私は失敗を反省しつつも、これからのために「どこが悪かったのか自分では分からない」と正直に二人に相談しつつこの一か月、フレドさんがクロンヘイムに向かった次の日からの話をし始めた。
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