《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》新生活のさまざま

その日の夜は、甘ったれた気持ちがどうしても抜けなくて、フレドさんと別れて宿屋に戻ってからも荷を軽く片付けるために手をかすアンナの後ろを、アヒルの雛のようについて回っていた。

寢るような時間になってまだ傍をウロウロしている私に、アンナが見かねたらしく「お休みになるまで手を握っていましょうか」と懐かしむように言われて、ちょっと恥ずかしくなりつつも子供のころを思い出した。調を崩してベッドで寢ている時、なんだか次々見舞いに訪れる家族達と會話をしてぐったりしている時によくアンナが黙って手を握ってくれていた。

私よりちょっと溫の低い、冷たい手をおでこにあててもらうのが、とても好きだったのを覚えている。

一度、アンジェリカお姉様にアンナにそうして甘えている所を見られて、アンナが「使用人として適切にふるまいなさい」とお叱りをけてしまってからは控えたけど……ああそうだ。もうアンナは私の侍じゃないんだから、これからは友達として過ごしたい。

敬語を外すのはもうクセのようなものだから難しいと言われてしまったが、あの家に居た時よりもずっと砕けた口調になっている。接し方だけじゃなくて、友達じゃないとしないような事をたくさんやりたい。

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「私……友達同士がやる、お泊り會みたいにしたい」

「お泊り會?」

「學園で流のあった方達は、長期休暇にお互いの別荘を訪れたり、領地に訪問したりして、夜は同じ部屋で遅くまでおしゃべりしたりするって聞いた事があって……」

私はそれにわれたことはなかったけど、実はすごく憧れていた。

時には、おしゃべりに夢中になってそのまま同じベッドで眠る事もあるのだそう。二人で住む部屋を決めるまではまだ宿屋暮らしが続くから、今日からベッドが二つあるツインの部屋にしたけど。今夜は親友として並んで寢転がって、おしゃべりしながら眠りにつきたい。

祝ってもらった浮かれ気分が殘っていた私は、そんな事を願ってみる。

快くれてくれるどころか「何かお祝いをしたかったのに、これでは私にとっても嬉しいイベントになってしまいますね」なんて言われて、照れた私は返す言葉が上手く思い浮かばずもごもごして、そんなやり取りを繰り返すうちにいつの間にか眠ってしまっていた。

「お嬢様、おはようございます」

翌日、私より早く起きていたアンナは支度をきっちり整えて私が目を覚ますのを待っていたようだ。いつもは朝の鐘が鳴ったら宿の朝食の準備が整う前に一階に下りて目覚ましにカフェオレを飲んでいたのだけど、アンナがいたから、気が抜けたのかぐっすり眠ってしまった。

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アンナがベッドから抜け出たのにも気付けなかったなんて、よほど深く眠っていたらしい。

「おはよう、アンナ……昨日はちゃんと眠れた……?」

「ええ、リリアーヌお嬢様のお顔が見られたから、ホッとして気が抜けたみたいで、ぐっすり。あと私は冷え気味なので、お嬢様が湯たんぽみたいに暖かくて、いつもより深く眠れたくらいです」

昨日は私が甘えて強引にベッドに連れ込んだ形になってしまったけど、アンナが他の人がいると眠れないタイプじゃなくて良かったとホッとした。起きてから、昨日はそれを確認すらしなかったのに気付いて今更慌てたのだ。

それなら良かった。私もベッドから出て、朝食を摂ろう。ごく普通に手伝いをしようとしてきたアンナに、「今は友達同士なんだから」と制止して、家を出てからずっとしていたように一人で著替えた。

私が寢癖を直すのにらかくて絡みやすいこの髪と格闘しているのを、なんとももどかしそうな目で見つめるアンナの視線をやり過ごして私の支度は終わった。

「リアナちゃんとアンナさん、おはよう~」

長期の依頼から帰還したフレドさんも今日は休日で、私とアンナの部屋探しに付き合ってくれるという。その申し出をありがたく頼らせてもらって、3人で借部屋を見て回った。間取りや住所は仲介業者から書面でいただいているけど、実際に見ないと分からないものは多い。

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フレドさんは、実際に住むことになる私達の意見も聞きつつ、一見良さそうに見える部屋も「この近くにあまり治安が良くない飲み屋街があるからオススメしない」「建もキレイだし広さのわりに家賃も抑えられるけど、市場や街の中心地から遠いからそこは不便かも」と様々なアドバイスをもらえた。

庶民の暮らしを知識として知ってはいたけどずっと公爵令嬢として何不自由ない生活をしていた私と、子供と言える年齢のころから奉公人として住み込みで公爵家で仕事をしていたアンナではどこに注目すればいいかも分からずに決めかねて困っていただろう。とてもありがたい。

「お時間をいただいたのに申し訳ありません」

「いやぁ、比べた結果の話だから、必要だった事だよ」

しっかり味して決めた部屋は、フレドさんと同じアパルトメントになった。フレドさん自が當時、家賃や防犯、周辺環境や冒険者ギルドを含めた街の中心地へのアクセスなど、さんざん味して決めた部屋だ。そこに空きがあるのだから當然有力な候補にはなっていたのだが、他の部屋と比べれば比べる程ここしか殘らなかったのだ。

他が悪かったという訳ではなく、私もフレドさんと同じく冒険者であるため、「仕事のために便利」という點で「他がほぼ同じ條件ならここが」となったわけである。

冒険者ギルド付近は単者用の賃貸が多く、アンナと二人で暮らせる家族向けの部屋が余計に限られていたと言うのも理由だが。ここは大家兼管理人のお婆さんが1階のり口に住んでいて、2階の真上だけ管理人室と同じ一人住まい向けの間取りになっている。フレドさんはそこに居していて、私達はそこから2つ隣の個室が二つある區畫にる予定になった。

飛び級で銀級になった私だが、まだ街に住んで1カ月々しか経っていないため、フレドさんには部屋を借りるための一応の保証人にもなってくれて、お返しも満足にできてないのにまた恩が増えちゃったと私は一人で心慌てていた。

本人は絶対気にしなくていいって言うだろうけど、私としてはそういう訳にはいかないのだ。

「リアナちゃん、これからはご近所さんとしてもよろしく」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

ご近所さんに親しい人がいる、なんて新生活としてかなり好調なスタートではないだろうか。部屋を見て回りながら街の中の案もしてもらったフレドさんに、お禮を兼ねて外食を馳走したその夜。街の外に冒険者として仕事をしに行くのとはまた違った疲労をゆだねる。

……部屋を借りたら寢室は別になるのか。そこだけはちょっと寂しいかなと思いつつ、明かりの落ちた宿屋の中、並んだベッドで眠るアンナの気配を名殘惜しく思う。

二人が合流した事で、新しい生活が始まるんだと改めて意識した私はワクワクしたが気が付いたらぐっすりと眠っていた。

「今日は俺もリアナちゃんの依頼についていってもいい?」

フレドさんには、「普通の冒険者のふるまい方」を改めて教えてもらうために護衛名目で依頼を出そうとしていたのだがそれは卻下された。

一昨日と昨日は居のために家を運んだり、手伝いもしてくれたのにまた食事を馳走するだけで終わってしまったし、ちっとも恩を返せない。

「いやぁ、今のリアナちゃん階級で言ったら俺と同じだし、それはいくらなんでも不自然だよ」

「そういえば……そうでした。自分の事なのに、あまり実が無くて」

「リアナちゃんらしいな」

苦笑するフレドさんは、今日私が向かう予定の渓谷で出されている依頼をけて一緒に向かう事になった。

大人數のパーティーだと魔導車を貸し切ったり、あるいは所有して足に使っているのだが、當然私達は徒歩になる。乗合の魔導車が通る場所ならそれに乗るけど、有名な迷宮でもないと停留所は無い。

周りを気にせず話すのは街では場所を選ぶが、周囲に人がいないと分かる街道は道すがら話をするのにはもってこいだ。

「相談したいって言ってた冒険者としての過ごし方なんだけど」

「はい」

「もう評価されちゃってるし、すでにバレてる実力を今から隠すのは諦めた方が良いと思う。リアナちゃんは既に腕の良い冒険者として、有名になっちゃってるし」

有名とは? そんな話は初耳だった私はなんて答えたらいいか分からず固まってしまった。評判になってるなんてちっとも聞いてない。いやそもそも、飛び級して銀級に上がらないかって話をされたのも四半期試験の三日前で、私にとっては降ってわいたような話だった。

依頼を達するたびにダーリヤさんをはじめギルドからは良い評価をいただいていたけど、まさか飛び級を打診されるほどの果を自分が出してるなんて思ってもいなかったから。

……今でも、自分が冒険者として一人前として見られる銀級になったという実はない。フレドさんにはあんまり、なんて言ったけど実のところ全く。

自分の中ではを張って誇れるような果ではないのだが。何かの誤りでに不相応な所にり込んでしまったのではないかと未だに思ってるし、ずっと場違いさをじている。

「あ、その顔は信じてないね? リアナちゃんが人付き合い苦手そうだからって、表彰とかで大々的にお祝いするのは見送ってるって言ってたけど、職員の中では超評判なんだから」

「……?!」

「めっちゃ意外そうな顔するじゃん……リアナちゃんの評価ってリアナちゃんが思ってるよりとんでもなく高いからね……?」

表彰? 評判?

立て続けに言われた事があまりにも予想外過ぎて、全然消化できない。

「表彰って、いったい何のことでしょうか……?」

「その言葉の通り。冒険者では素晴らしい果を出した人を表彰したり、その祝賀會って名目でタダ酒が飲めるちょっとした場を用意したりするんだよ」

「そういった文化があるのは知ってましたが……」

実力はついてきたがまだパーティーメンバーのいない若い人が名を売る機會になったり、大きな冒険者クランがスカウトに來る事もあるらしい。新人講習でも「祝賀會を開催するような活躍がしたい」と言ってる男の子は見たけど……自分がその対象になってるなんてまったく考えていなかった。

「俺が保護者みたいなじになってるから、リアナちゃんの意思を一応確認してくれって頼まれたんだよ。別にやらなくても評価が取り消されるわけじゃないから気軽に考えて。……どうする?」

「……斷っても良いんですか?」

「英雄として名を馳せたいって冒険者は多いから、喜ぶ奴は多いけど斷る人がいない訳じゃないよ。リアナちゃんはあまり賑やかすぎる場所は苦手だろうなってギルド側も予想してたみたいだし、罪悪抱かなくて大丈夫だって」

「じゃあ……あの、すいません。栄なお話ですが……」

「ふふ。だから、そんな懺悔室にるような顔しなくていいのに~」

何でも、私に直接打診したら、「せっかく催してくれるんだから」と気を遣いそうだったからと心配されたそうだ。飛び級したことも、緘口令という訳ではないが大きな話にならないようにあえて広めずにいてくれるらしい。とても助かる……。

そしたら、飛び級って話だけ見てパーティーにわれたりとかしてたかもしれないから。

名譽な話だと分かってはいるが、賑やかな場や大勢の人が居る場が苦手な私はそう配慮してもらえて心底ありがたかった。

いち參加者としてなら何ともないが、自分の誕生日パーティーとか……。文句を言うなんて贅沢だと分かっていたし祝ってくれる人にも悪いから顔にも出した事は無いけど、ああいった宴の主役になって注目を集めるのは本當にダメなの。部屋が暗転してスポットライトが私に當てられて、周りが私の誕生を祝う歌(作詞作曲・お母様)を合唱し始めた年なんてその場から走って逃げたくなってしまった事もある。もちろん、逃げたりしてない。笑顔で模範的な謝を伝えたが。

……実際苦手に思ってるのはその通りなのだが、そんなに人付き合いが不得手そうな雰囲気が出てしまってるのだろうか。見て分かる程? 冒険者は報収集も大事なので、自分では頑張っているつもりだったのに。

歩いてるだけで聲をかけられて々なおすそ分けをされて両手がふさがり、次々飲みにわれる、友人の多い社能力お化けのフレドさんとはそりゃあ比べにはならないだろうけど……。

そう言えば私、この街に來て一か月経つけど同年代の友達どころか個人的な人付き合いをしたかしら……? 必死に記憶を探る。依頼の時に護衛として付き合いのあった人達と、ダーリヤさんを始めとしたギルドの職員と、宿屋を営む一家の方々と、食事を買う屋臺や買いに行く店員さん。以前の私では考えられないくらい友を持っているじゃないか。うん。

しかしそう思う反面、休日に遊ぶなどのプライベートな流のある相手が一人もいないのに気付いて愕然としてしまって、その日の採取は上の空になってしまった。

友人らしき男の人達に聲をかけられまくっていたフレドさんのでひっそりと依頼達を報告して片隅で待っていたら、私を見失ったようでキョロキョロしている。目標金額は稼げたけど友人の多い太みたいな存在を直視できず、引け目にじてつい気配を消してしまったようだ。

でも私もルームシェアしてる親友が待ってるんだから。そう思うと、アパルトメントに帰る足取りは軽くなる。

「あ、お帰りなさいリアナ様。今日は市場で安く買いが出來たので、夕飯をちょっと豪勢にしてみましたよ」

「買いって……どうやって? この國の言葉は勉強中だったはずじゃ……」

「片言ですが簡単なやり取りはリアナ様にいくつか教えてもらいましたし、振り手振りでわりと何とかなるものですよ」

買いに必要な數字の計算は萬國共通ですから、なんて。まるでとても簡単な事じゃないかという様子のアンナに私は衝撃をけた。しかも、昨日引っ越しの挨拶に伺ったお隣の部屋の奧さんとすでに仲良くなって、おすそ分けとして作った料理を換までしたと。

「明日は市場のオススメ店を教えてもらうんです。もちろんちゃんと會話出來たわけじゃないですけど、そんなじの話になりまして」

アンナが、もう友を広げている……?! すでに友達らしき人まで……。

私は勝手に心衝撃をじてしまい、夕飯をおいしましょうと提案されて呼びに行ったフレドさんに「何かあった?」なんて心配までされてしまったのだった。

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