《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》一人前になるには
「また変な奴が聲かけてこないか心配だったからしばらく一緒に依頼けたいな~と思ってたんだけどねぇ」
「そんな、むしろ助けていただいたのにお力になれなくてごめんなさい……」
ちょっと殘念そうに言うフレドさんの首には『私はギルドの中で喧嘩をしました』 とかかれた木の板がぶら下がっている。手には掃除道が握られていて、ダーリヤさんが言うにはこの格好で一日モップ掛けをするのがフレドさんの罰になるらしい。
私のせいでこんな事をさせて、ものすごく申し訳ない。原因なんだから私が代わりにやる、せめて手伝わせてしいと主張したが「そういうルールだから」とやんわり退けられてしまった。
「珍しかったよなぁ。フレドがキレるなんて」
「初めてじゃないか?」
「いやぁ、自分でもびっくりしたよ。蟲の居所が悪かったのかな」
「自分の事だろ!」
モップ掛けをするフレドさんを笑いながらからかう友人さん達の言葉に棘は無かったが、やはり後ろめたく思ってしまう。自分のせいなんだと弁明したかったが、「大丈夫」とだけかしながら私に手を振るフレドさんに、頭だけ下げてその場を離れた。
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……今謝罪しても私の気が晴れるだけだし、行で示そう。心配かけずにしっかり冒険者やれてますよ、とを張って言えるようにならないと。
その日の依頼注をした窓口の職員に、毆ったのが私だったらあの場合は正當防衛でお咎めなしだったんですけどね、と言われて一層申し訳なくなる。多分やんわりと、自分の事なんだから自分で解決しなさいと言われてるのだろう。本當、けない。目立ってしまうと余計な事を考えてて更に迷かけてしまうなんて。
せめて私がもっときっぱり拒絶していれば良かった。知り合いを救うためにした事だとはっきり分かる、そうなる前にフレドさんが毆ってしまったので「私的な喧嘩」とされてしまったのだそう。……フレドさんは優しいから、また私が同じような事になってたらきっと助けてしまうだろう。次は手は出ないと思うが、自分のトラブルなんだし、目立ちたくないとかは一旦橫に置いて自分で解決するようにしないと。
しかし、これでもフレドさんは狀酌量されている。冒険者ギルドに登録した時にもらった、ギルド利用規則の載った手帳には、「冒険者同士で正當な理由なく私闘をした場合は両者共謹慎1週間と地域清掃」と書いてあったから。
私を守るためだったとはいえ、先に暴力をふるったのはフレドさんだから、こうして何かしら処分を下さないわけにはいかなかったようだ。
「私は、フレドさんは普段職員からも信頼されてる方だし、注意だけで済ませてもいいんじゃないかと言ったんですけど。副ギルドマスターが、贔屓だと思われかねないから厳格な処分をとサジェさんに余計な事言うから。もう」
「そうだったんですね……」
多対一だったり加害者被害者がはっきりしてる場合はその限りではない、と記載を思い浮かべていた私は意識を戻した。暴力沙汰なんて私には縁遠い事件だと思っていた。まさか私のせいでフレドさんがこんな目に遭ってしまうなんて。
「頭にが上って先に手を出した俺が確かに悪いし」と気にしないように言われたが、そんな訳にはいかない。
「まぁリアナさんは正當防衛と言っても反撃はできないでしょうから……次からは早めに逃げるか助けを求めてくださいね。聲を上げるだけでもいいし、そしたらギルドが介できますから」
「はい……そうします」
「パーティーを組めばこういった面倒も起きなくなりますけど、まだどこにも所屬するつもりはないんですか?」
「……すいません、人に知られたくない技も多いので」
「ああ、まぁ、その辺は理解しますけど。信頼できる仲間を早めに探した方が良いですよ。技を奪おうとする人間もいないわけではないですし」
やっぱりパーティーを組むことについて本格的に考えた方がいいのだろうか。
私は依頼の注書をけ取ると森に向かって歩きながらもやもやと考え続けていた。
正直、聲をかけられるくらい親しいのはフレドさんしかいないのでパーティーを組んでもらえないかお願いしてみようか……と思っていた事はある。
しかしフレドさんの友関係の數人から、彼に迷をかけるのはやめてしいと言われてからは別の道を考えている。昨日の事も、すぐ釘を刺されたし……ほんとに悪い事をしてしまった。私がちゃんと抵抗してなかったばかりに……。
パーティーにうのは諦めたが、知らない人に言われた言葉に従うのではない。彼達がいるなら、フレドさんが私とパーティーを組んだ場合フレドさんにより迷をかけてしまう事になるなと判斷したのである。
私は昨日地面に埋めた罠を確認すると、そこにかかっていた蟲の中から目的の種類だけを回収して殘りは適當にその辺に逃がした。
今回の目當ては魔法薬の原料に使われるアヅロビートルという名の甲蟲だ。ひっくり返してしっかり押さえながら太めの針を頭部と前腹板の間に差し込んで神経を破壊して素早く息のを止める。本當はこの狀態で蜂が凍るくらいの低溫で凍らせて保管するべきなのだが、中級以上の魔法は使えない事にしているので氷で冷やした保冷瓶を使っている。
用意しておいた新しい因餌を仕掛けてから、元の通り埋め直した。因餌の効き目は思っていたより強いみたいで、予定の倍の數が獲れた。結構良い収になるだろう。
作業を終えて立ち上がると、一度周囲にぐるりと目を向けた。警戒はしていたが、一応だ。しかし手をかして集中していたのが途切れると、途端にまた考え事が戻ってきてしまう。
……言い寄られ過ぎてトラブルに発展する事が多いから、には近付かないようにしている、って。フレドさんはそう言っていたが、実際に目の當たりにしたら思ったより衝撃があった。
妹分として面倒を見てくれているだけの私に敵意が向くくらいだから、フレドさん本人はきっとすごくアプローチされているだろう。
本人は笑い話として話してくれたけど、結構……々大変な目に遭っていた。大変だなと思う。何か力になれる事はあるだろうかと考えているが、今のところフレドさんに想いを寄せる達を刺激しないように気を付けるくらいしか思いつかない。
私のパーティーについてと同じように、フレドさんもいっそ決めた相手が出來たら落ち著くのかな。
でもそれはちょっと嫌だな。
……嫌? 何で?
自分でも、今何故そんな事を思ったのか。の理由が分からなくて、私の頭の中は一面疑問符で埋め盡くされてしまう。
またしても上の空になってしまった私は、ぶんぶんと頭を振ると今日の仕事はこれで終わらせて街に戻る事にした。今までの比ではなく変な事を考えてしまう。
……この後もう一件、魔素材を獲りに行く予定だったけど、ほとんど罠を使った狩りとはいえこれでは怪我をしかねない。調子が悪い時は出來るだけ早く撤収するべきである。
まだ森の中だし、集中と警戒を怠る訳にはいかないのに。私はパン、と頬を張って自分に気合をれると、仕事を終わりにして來た道を戻り始めた。
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