《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》旅先のトラブル

「おかえりなさい、リアナ様」

ただいま、と返事をしながら上著をアンナさんに預けるリアナちゃん。今日は冒険者活時の機能重視の服では無くて、領主に面會するためによそ行きの恰好をしていた。

すっかり冒険者スタイルが見慣れてしまったリアナちゃんだが、かっちりした格好も當然だが似合うな……。好きな子が普段と違う格好をしていて、また違う魅力を発見してしまいなんだかちょっとドキドキしてしまう。

「魔導列車のある街までの移も手配してくれるって、アンナとフレドさんも旅行の準備しておいてね」

「はい! 楽しみです」

「……えっ?! 俺も?!」

何でもない顔をしながらリアナちゃんをこっそり見ていた俺は、そんな事を言われるとは微塵も思っておらず、完全に不意打ち食らって素でびっくりしてしまった。

「……フレドさんは溫泉、行きたくないですか……?」

「いやいや、俺男だからさ……旅行に一緒に行くのはちょっとアレかなって思うんだけど……」

當然よからぬ事をするつもりはないけど、あまりにそれは。一人で慌てている俺に反して、アンナさんまで不思議そうな顔をしている。

「てっきりそのおつもりで提案されたと思ったのですけど……」

「いやいや、まったく、全然、そんな発想なかったから!」

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疑いを晴らそうと気が焦って食い気味に返事をした俺に二人とも何故か反応が悪い。

「いつも通りじゃないですか?」

「え?」

「宿と言っても部屋は當然別で手配してもらったそうですし……ご飯の時は一緒に過ごして……今の狀況と何も変わらないと思いますが」

俺は同じアパートの、別の部屋に住んでいて、ありがたいことにご飯の度に呼んでもらっている。……確かにそうなんだけど。リアナちゃんもそうだが……アンナさん、あなたも相當な箱りだな?! 二人きりではないし部屋も別とは言え、男が旅行に行く。その事実に何が問題なのか予想すらつかない、という無垢な瞳をした二人にどう説明したらいいのか、すごい言葉に困るのだが……俺が言わなくてはならない。

「旅行に行くメンバーに俺がいたら……また今日みたいに勘違いされる可能が高いと思うんだけど……」

可能が、というより確実にされると思う。旅行に行くような仲……人とか、そんなじに。アンナさんがいるから二人きりじゃないとか、部屋は別とかそんな事関係なしに。

「いや、俺はまったく嫌とかそういうのはないんだけどね?! また面倒起こりそうだから申し訳なくて。今日も俺のトラブルで迷かけたばかりだし……」

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多分リアナちゃんは純粋に友達として俺を頭數にれてたんだと思う。いころから様々な分野の教育をけていて、復習や予習に忙しくて遊んだ記憶なんてないと言っていたから、ただただ初めての旅行を楽しみにしていたんだろう。そんな気持ちに水を差すのは大変心苦しい。

「でも、フレドさんが嫌なわけじゃないんですよね? デルールの観名所も、こうして々調べてくれたし……」

「ん? いや~、ほんとに俺もぜひ行きたかったとは思うよ」

リアナちゃんがテーブルの上に視線を向ける。溫泉の街デルールについても載ってる旅行記だ。俺から又聞きするより実際行った人の話を挿絵付きで読む方が參考になるだろうなぁと思って。俺もちょっと読んだけど、普通に「行きたい!」と思うような楽しそうな旅行記だった。他の観地も興味深かったけどね。

そっちの地方に向かう依頼をけて、俺も行こうかと考えたくらいだ。どこかで一日くらい、現地で合流して観しようとおうかな、って。都合の良い依頼があったらいいな~と思っていた。まぁなかったので諦めたわけだが。

そんな嬉しいおいをされては、諦めたはずの行きたい気持ちが再燃してしまう。

でも一緒に行くとなると、口実に困る。旅行……家族ならともかく、親戚とはいえはとこだと弱い。護衛としてついていくってのもかなり苦しい、リアナちゃん実際俺より強いわけだし。

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今からでも領主様に連絡しての二人旅という事に変えてもらった方が良いと提案しよう。そう考え込んでいた俺は問いかけられて、普通に「行きたかった」と本音を話してしまった。

「なら、私はフレドさんも一緒が良かったです」

ちょっと拗ねたように目を伏せるリアナちゃんに、ぎゅわっとが熱くなる。

……俺、どうして、こんな外野に配慮してるんだ? と唐突に思った。

確かに、一人で生きてる中で今まで「波風立てない事」と最優先にしてたけど、それじゃあ守れない事が出來た。そう思って無意識に、リアナちゃんの目を見つめてしまう。

あぁ。俺、あのヒステリックな母親の手元でずっと育ったせいで、人の顔を過度に窺って生きてきたけど、それがまだ染みついたままだ。だって波が激しい日にちょっとでも対応を間違えると、「あなたも私が悪いって言うの?! 私なんて死んだ方がマシだって思ってるんでしょ!!」ともう手が付けられなくなるから……。

離れて良かった、気が楽になったと思ったけど、まだ殘ってたみたいだ。

なんだか自覚したら一気に違和が襲ってきた。きっぱり斷ったら角が立つし、と思ってバカみたいに譲歩してたなって。

アンナさんは一人、背中を見守りながら「リアナ様、ご自分の意見をちゃんと言えるようになって……!」と何だか慨深そうに涙ぐんでる。……そう言えばリアナちゃんもあれしたいこれしたいって全く言わないよな。

面倒ごと回避するためにって俺が強く拒絶しなかったから、後回しにしてたものがまとめて今押し寄せてるじだ。これは俺も悪かったとそこだけは反省して今後に生かさなければ。

「あ、もちろん……フレドさんの事も理解したので! 殘念だとは思いますけど……」

「いや、俺も行きたいな。いや、行く」

「え?」

「極力面倒な事にならないようにしたいと思ってたんだけど。よく考えたら現在それでもトラブル起きちゃってるし。どの道そうなるなら俺も遠慮せず好きな事したいと思って。なぁなぁにしないで、これからは怒る人がいても嫌な事ははっきり拒絶しようと思う」

ぱちくり、と大きな目を見開いて俺を見上げたリアナちゃんは、あまりに予想外だったのか口が開いていた。

「それとも、こんな厄介な男は旅のお供には遠慮したいかな?」

「いえ! そんな事……まったく」

旅行が今から楽しみだと改めて笑顔を浮かべるリアナちゃんに、こちらもつられて笑顔になる。俺がやってたのは面倒だからって譲歩してただけで、完全に相手を付けあがらせてた。人付き合い変えないと……もちろん、良い人達に対しては今まで通り接するつもりだけど。

野営で使う々がそのまま利用できるし、俺は旅行で改めて買い足すものはほぼ無いが、道中つまむお菓子はしいな。明日買いに行くついでに、観名所のリサーチをもっと詳しくしよう。

ちょっと俺の確認不足のせいで水を差してしまったけど、良かった。俺も自分の行を認識し直すきっかけになったし。

……そういえば。俺も、友達と旅行に行くの……初めてだな。

思えば出奔してきてから休息らしい休息を取った事ってなかったなぁ。これではリアナちゃんの事を頑張りすぎ、なんて叱れない。

俺もしっかり楽しもう。その日は旅行中の観計畫で、夕食後も大いに盛り上がったのだった。

外野の聲を気にしてやりたい事を我慢しない。とは決心したものの、回避できる面倒は避けたい。なので、「実力が違うから申し訳ないし」と言い出せなかった「パーティー結」をする事にした。

ああ、もちろん、俺の方が実力面でリアナちゃんに及ばないって意味だよ。リアナちゃんに勝てるのは……う~ん、渉ごとくらいかなぁ。

パーティー結したので今回の旅行もパーティー行の一環だと言えるし。まぁ、聞かれなきゃ俺も一緒に行ったとわざわざ人に言うつもりはないが。

報酬として「友人達と旅行に行きたい」と希した、なんて聞いたら「連れてってもらうなんて悪いかな」ってかすかな遠慮も吹き飛んじゃうよね。

領主様とリアナちゃんに謝しつつ、この旅行を楽しもうじゃないか。

「わぁ……すごい、こっちはもうこんなに寒いんだ……」

「聞いた通りに防寒著を用意してきて正解でしたね、リアナ様」

「あ、見て見て。向こうの方に見える山はもう雪が積もってる」

完全に観客モードでわいわいしながら駅から出てきた俺達はキョロキョロ辺りを見回しつつ街並みを歩く。

街のあちこちに溫泉が湧き出してると旅行記に書いてあった通り、街並みのそこかしこから白い湯気が立ち上っていた。

普通ならここで「まずは宿に行って荷を置いてくるか」となるところなので、マジックバッグはやはり便利だな。今でも簡単に手にる値段ではないが、発明されて流に革命が起きたと言う歴史も頷ける。

「夕ご飯にはまだ早いけど、どこかでちょっと摘んでいく?」

「あ! では大通りに行きましょう。観客向けの地図によると、屋臺がたくさん出てるそうですよ」

いつの間にか駅で街の紹介の書き込まれた地図をもらってきたらしいアンナさんがリアナちゃんと覗き込むように地図を熱心に見ている。

俺も2人の後ろから覗き込む。どうやらこの街にある商會が配置しているものらしく、店の宣伝を兼ねてるらしい。

「名でもある、溫泉の熱を利用して栽培したフルーツを使った屋臺が多いですね」

「カットフルーツ……夕ご飯前だけどこれなら大丈夫、かな?」

どの店に寄るか真剣に話し合う2人は見てるだけで幸せな気持ちになる。

普通のの子らしい様子のリアナちゃんの、しかしちょっと控えめな笑顔に、旅行は始まったばかりだというのにはやくもがいっぱいになりそうだ。

道中の列車も4人用のコンパートメントを貸切だったし、宿も楽しみだな。

「フレドさんはどれになさいますか?」

「そうだなぁ、せっかくだから2人と違うやつにしようかな」

「! ……なら、みんなでちょっとずつ換したら、3種類食べられる……よね?」

実は甘いものに目がないリアナちゃんが控えめに、しかしワクワクした様子を隠しきれないみたいでそう提案する。俺達はもちろんそれをれて、それぞれ違うものを注文した。

一口サイズに切った果を、短めの串に刺して、それをカップに數本立ててある。カップは回収されるそうで、手を汚さず果を楽しめる良いアイデアだなと思う。

よく冷やされているようで、け取った指にじんわり冷気をじた。カットフルーツを手に屋臺脇のテーブルを探すリアナちゃんに「飲み買ってくるね」と言いながら俺の分を預けて、しその場を離れる。

のフレッシュジュースの屋臺があるって書いてあったけど……あ、しまった。何飲みたいか聞いてくればよかったかなぁ。

好き嫌いやアレルギーは2人ともないって言ってたから、適當に人気のやつを3種類買って行こうか。

いや、ダメだ。と俺はここで思いとどまった。……飲み比べしたいなんて言われたら、俺がちょっと、平常心でいられないかもしれない。

「……おい!! 琥珀(こはく)の報酬がないじゃないか!!」

大人しく、一番人気の「ル・ルーバの炭酸割り」を3つ買おうと心に決めながら行列に並んでいると、し離れた場所から騒々しいやり取りが聞こえてきた。

あれは……冒険者、か?

通りの奧の方に、石材で作られた頑丈な作りの建に、よく見知った紋章が掲げられてるのを見つける。ああ、大通りだからな。冒険者ギルドもあるよな。

その手前に今大聲を上げた聲の主らしい、子供の背中が見える。獣人の子供か。なんか、隨分小汚い格好をしてるな……。

見慣れない製の服は汚れでまだらにが汚れていて、髪のも耳や尾も野良犬みたいにぼさぼさだ。

さっきまで楽しい気持ちだったのに、し嫌な気持ちになってしまう。今の言葉から察するに、あの言葉を発した子供と対峙するように立っている青年達と依頼をけたらしいが、報酬でめているようだ。

相手が子供なのを良い事に取り分を変えた、とかだろうか。糞が悪い事に、冒険者なりたての子を搾取するとか……そういった話はたまに聞く。

俺の周りは行列に並んでいる人を含めてと子供がほとんどで、怒鳴り聲に反応して不安そうに皆あっちの方を見ていた。

もめ事の気配につい、が反応して行列から抜けてしまった。あ、やべ……クセが。リンデメンならともかく、知り合いのいないこんな旅先で他人のめ事に首を突っ込むとか「なんだコイツ」としかならないのに。

……直接仲裁するのは良い手じゃない。ギルドの中の職員に外で冒険者同士の喧嘩が起きそうって知らせよう。もうすでに誰か言いに行ってるかもしれないけど、通報する人數が増えたらそれだけが伝わるだろう。

「はぁ? お前が獲を黒焦げにして殺しちまうからだろうが」

「たく、買取価格が低くなったのはお前のせいだろ」

おっと……? あの獣人の子供を一方的に搾取してるのとは違うようだ。

「金貨2枚くれるってゆったじゃろうが!」

「おいおい、勝手に造するなよ。『まともにやれば金貨10枚は堅い依頼だから、報酬は人數で割るんでどうだ』って言ったんだよ」

「いくらだって言うから金貨10枚なら一人2枚だって答えたけどよぉ……」

「分からん! そんな難しい話でごまかすな!」

「誤魔化してなんかないって。買取が低かったからそうはいかないの分かるだろ?」

「パーティー外のやつだから1枚渡したけど、そもそも今回お前のせいで買取で4しかもらえてねぇんだぞ」

怒鳴るちびっこに言い返すように、同じ聲量を張り上げる青年達の言い分で事を理解した。

……本來なら金貨10枚の買取という事は、當然その報酬に相応しい難易度だったことだろうが。あの獣人の子はその依頼で臨時パーティーわれるくらいには腕が立つみたいだが、常識とかの面がまともに備わってないみたいだ。

むしろ青年達は誠実な対応をしてくれてると思うのだけど。うーむ、やっぱりギルドの職員に知らせに行った方がいいよね。當初とは逆の意味で、青年達がこれ以上言いがかりをつけられないように。

「お前らさては……ごちゃごちゃ言って琥珀の金を盜るつもりだな?!」

「いやいや、何でそうなるんだよ」

「くっそ、やっぱ臨時とは言えパーティー組むんじゃなかった」

「さっきから言ってるだろ、報酬が下がったのは獲を黒焦げにしたお前のせ」

「おのれ盜人めぇ! 天誅じゃあ!」

「どわあぁっ?!」

え、と思う間もなく視界の端にいた青年のが宙に浮く。あの獣人のちびっこが彼の事をどついて吹き飛ばしたらしいと考える間もなく、そのまま立っていたら確実に巻き込まれる位置にいた俺は回避行を取ろうとした。

しかしその瞬間、俺の後ろに子供連れのがいるのに気付く。「ダメだこのまま避けたらこの人達が怪我する!!」と変な勢で慌てて踏みとどまった。迷宮の中とかなら臨戦態勢で歩いてるんだけど、街中でそこまで警戒してなかった俺は何の魔法も間に合わない魔法を使う選択肢も頭に浮かばなかったし、第一やろうと思ってもこんな一瞬で魔法を発できないけど。

まぁとにかく、驚いて固まるしかない親子の盾に、俺はただ壁として男をけ止める羽目になってしまったのだった。

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