《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》親近

「琥珀、大きいお風呂に行くんだけど。一緒に行かない?」

「おっきい風呂! 行くのじゃ!!」

市場巡りも終わって宿に帰ってきた私達は、各自自由に過ごしていた。夕飯の予約も無事人數を変更出來たので、一安心して琥珀をう。

そうすると、大きな湯舟にを沈める心地よさを知っているらしい琥珀が目を輝かせた。やはりかつては裕福な環境にいたのではないかという私の予想は外れてないと思う。

常識すらあまりまともにに著けていなかった事と言い、それがどうして一人で冒険者をしているのかとか、その辺りを二人きりで聞き出す予定なのだ。だからアンナは用事があるという事にして部屋で待っていてもらう事になっている。

フレドさんは自分が代わりに聞き出してみようかと言ってくれたけど、私が選んで弟子にすると決めたのだから、事があるなら私がきちんと聞かないと……! と思って最初から頼るのはやめておいたのだ。話したくないとか、本人が嫌がるなら當然無理強いはしないけど……。

上手く話が出來なかったら、その時は後で協力してください、とお願いしてある。

「極楽なのじゃ~~」

子供サイズの湯著の下から尾が覗いてゆらゆらしている。水滴に反応しているのか、獣耳はピルピルいててちょっと可い。

Advertisement

首まで湯舟に浸かる琥珀はとても気持ちが良さそうだった。……今ならとてもリラックスしてるし、話しづらい事も言いやすいかもしれない。

「ねえ。琥珀はどうして……何がきっかけで冒険者になったの?」

話をする時、本當は食事してるタイミングが一番良いんだっけ。知識としてしか知らないが、心理學を學んだ時に読んだ本に書いてあった。

浴室の中に聲が響く。他に利用客はないが、大きな聲でする話ではないので聲を抑え気味にして話した。琥珀の耳ならこの聲量でも十分聞き取れるだろう。

「琥珀がなぜ冒険者になったかじゃと? それは……強き者になるためじゃ」

強き者……お晝にも言ってたっけ。その「強き者」の基準も良く分からないのよね。これはちょっと長い話になるかもしれない、としっかり姿勢を正す。

「……それで………?」

「しまいじゃ」

「……えっ?! そ、それだけ? 強き者……って話に冒険者として活する事が含まれてる、とかじゃなくて……?」

「なーんも分からんぞ。強き者になったら戻って良いと言われたが、何をすればいいのかとか琥珀は知らん」

理由が判明すると思ったのに、予想外の言葉が続いてなんて反応したらいいのか分からない。

Advertisement

とにかく、當の本人である琥珀が分からないなら……私がいくら考えても仕方ないから一旦置いておこう。何か基準はあるとは思うのだけど、その正解と答え合わせが今は出來ないんだから。

「……誰にそう言われたの?」

「伯母上じゃ、一族の仕來りだと」

武者修行の旅……みたいなものだろうか? でも生活するための知識どころか常識も不安があるこの子を放り出すなんて、琥珀じゃなければどうなっていたことか。

いや、琥珀のように強い子にならやっていいという訳ではないけど。本人だけじゃなくて、周りの影響的にも。現に琥珀は々な問題を起こしていた。

たしかに私自は、実家に居たら學べなかった事をたくさん経験できた。一度も戻りたいと思ってないし、家を出て良かったと思ってる。でもそれは、誰かに強要するものじゃないのに。

冒険者になったのは完全にり行きだったみたい。私が冒険者になったのもほぼ思い付きみたいなものだしな。

さらに話を聞いていると、最初まとまったお金を持たされていたが、無計畫に買い食いをしてわりとすぐに使い果たしたと聞いてクラクラしてしまう。皇(スメラギ)の貨幣のと形と照らし合わせると、1年は都市部で働かずに暮らせるだけの金額だったと思うのだが。

Advertisement

でも、琥珀の言葉から想像した部分が大きいが……。おそらく、琥珀がお金の計算がまともに出來ないのに大金を持ってると悪い大人が知って、不當に高い金額を支払っていたのではないかと思われる。

金級冒険者だったのに食べるものにも時々困る生活をしているらしいのも不思議だったが、普段をどう過ごしてるか聞いてその原因も見えてきた。計算が出來ないのに付け込まれて今も本來より高い金額を取られてるんじゃないか。

……確かにこの子は問題をたくさん起こしてたみたいだけど、だからと言って搾取していいという話はない。でも証拠があるわけじゃないし、ちょっとこの件について対応は、フレドさんとアンナにも相談しよう。

「でも仕來りはそうなっとるが、琥珀はやらなくてもいいから奧にずっとおればいいと父上も兄上もじいさまも言っておったのに。伯母上はきっと琥珀を意地悪で追い出したのじゃ」

「いじわるって……」

「だからのう、琥珀は誰もが認めざるを得ない強き者になるのじゃ。それでこの世の皆が琥珀をどれだけ褒めたたえても、伯母上が頭を下げるまで國元に帰ってやらないと決めておる」

の高ぶりのままに振り上げた琥珀の拳がぱちゃりと湯面を叩く。

琥珀のそれは決意と言うより意地に見えた。その伯母さまを見返す、そのためだけの……。

「……琥珀は、じゃあ……伯母さまを見返すことが出來るくらい強くなって、それで何をしたいの?」

「何を……?」

「強くなって、……どうするの? 私は琥珀がならなきゃいけないと思う『強き者』が何か分からないけど。でも歴史に殘ってる英雄……誰もが強いと認める人には、大目的があったみたい。大切な人や、故郷を守るためとか……」

黙ってしまった琥珀を湯気越しにしばらく見つめる。何か考えてるようだが、目はゆらゆらといていて、探しは見つからないようだった。

「じゃあ、まずはそれを探すと良いんじゃないかな」

「探す? どうやってじゃ?」

「私もね……自分が何をしたかったのか最初は分からなかったけど。今は誰か……困ってる人を助ける、って事が出來る人になりたいなって思ってるの。緒ね」

私のこの夢は、聞いての通り誰かに謝されたいって俗な願でしかない。これは信念を持って仕事をしてる人に恥ずかしくて、ちょっと大聲では言えないけど。

「目的……」

「弟子にするって約束したからね。私も琥珀の目的が見つけられるように手伝うし……他には、有名な英雄をお手本にしてみようか」

でもまず、そのためには常識を教えないとだな。強き者の基準は分からないけど、やはり武力には責任が伴う。琥珀自が自分の強さに振り回されないように相応しい禮節をに著けるべきだ。これは早急に。

「リアナはすごいなぁ」

「すごい?」

心したように告げられた言葉をそのまま繰り返してしまう。家から出てからは、アンナ以外からもたくさん言ってもらえるようになった、その言葉。

「だって家に居た時はみーんな琥珀を褒めておったのじゃ。父上も母上も兄上も……何をしても褒められるし、何をしなくても褒められるから、そういうものだと琥珀は思っていた」

「何もしなくても……?」

「でも一人になってからはうまくいかないのじゃ。みーんな琥珀を怒る」

「それは……」

ああ、やっぱり私はこの子の手を取って良かった。不安があったけど、今確信した。

正反対だけど……琥珀と私が居た環境は本質的に似ているんだ。私は何をしても褒めてもらえなかったけど。琥珀は何をしても肯定されて、甘やかされてきた。

それはどちらも、個人の否定である。「リリアーヌだから何をしても認めない」「琥珀だから何をやっても叱らない」。

「どうしたらいい、何でダメだって、リアナはどうして分かるのじゃ?」

琥珀の瞳はまるで私を英雄のように見ていて。

「正解が分かるなんて、リアナはすごいな!」

こんなの普通は周りの大人から心つく前に教わってに著けるもので、特別すごい事なんて何もないよって、そう思ったけど口にするなんて到底できなかった。

「リアナ様、お誕生日おめでとうございます!!」

溫泉を上がって琥珀と一緒に部屋に戻るととても機嫌の良さそうなアンナが待っていて、「おめかししましょう!」とわれて久しぶりにお化粧をした。レストランに向かおうと合流したフレドさんに「普段からだけど、今夜はもっと可いね」なんて言われて、社辭令だって分かってるのになんだか頬に熱が集まってしまう。そんな事するからいっつもの人に言い寄られて困ってるんだと思いますよ!

その火照る頬を隠すようにうつむき気味で予約した個室にった途端にそう聲をかけられて……びっくりして固まってしまった。

何故案された個室に照明がついてないんだろう? 部屋を間違えたのかな? と思ったのだが、聲と共に照らされた室を見て理由が分かった。ああそうか、今日、私の誕生日だった。すっかり忘れてた。

「はいはい、主役のリアナちゃんは真ん中の席ね~」

「ふふ、リアナ様……とてもびっくりした顔をされてますね。サプライズ大功です!」

本気で自分の誕生日を忘れていた私はまだ驚きが抜けきらないまま、フレドさんに促されて席に著く。そうするとここ數日のあれこれも全部納得がいった。

フレドさんが、遠出をする私に旅行を提案したのも。アンナがレストランの予約を「私が予約したいです!!」と珍しく強く主張したのも。私が誕生日だったからか……!

「琥珀については俺達も予想外だったけど、まあ歓迎會を兼ねるというじで」

「誕生日……赤飯を神棚に納めて、酒と餅を振舞うやつか?」

「うーん、ちょっと文化圏が違うな……ここでの誕生日は、誕生日を迎えた人を囲んで、『また素敵な一年になりますように』って、みんなでケーキとか味しいものを食べるじだよ」

家に居た時は、午前中に教會に行ってお祈りを捧げる行事があったけど、今年は忘れてしまった。でもまぁ、國教だから信徒ではあったけど元々あまり熱心な信者ではなかったし。ここの國とは文化圏が違うせいでユグディラの教會はないから覚えてても難しかっただろうけど。

そういえば琥珀の誕生日を知らなかったなと思って尋ねてみると「覚えとらん」と驚愕する答えがあって返事に困ってしまう。

「ま、まぁとりあえず。琥珀の誕生日についてはまた明日話そうか」

「そうですね。今日は誕生日のお祝いをしたいって伝えたら、レストランがケーキを用意してくださったので。3人だとちょっと大きいかなと思いましたけど、ホールで頼んで良かったです」

琥珀の食べる量を思い浮かべてかアンナが笑顔を浮かべる。「そっか、誕生日だっけ」とぼんやりしてる私本人より、アンナとフレドさんの方が楽しそうにしていて。こんなに心からお祝いしてる人がいるなんて、私は幸せ者だなって実したら……顔がニヨニヨしてきてしまった。

「手料理は用意できませんでしたが……こっそりプレゼントを作っていたんですよ」

そうか、リンデメンで誕生日を迎えていたらアンナの手料理で祝ってもらえたのか。來年は忘れて遠出しようとしたりせずにしっかり休日にしておかないと。

「わあ……とっても素敵なマフラーね。すごくりが良い……」

「フィールドワークの時も使えるように、短いものをボタンで留めるタイプにしてあります。長く垂れてると危ないですからね」

深みのある青いマフラーを、ふわふわりながら考える。え、でも外につけていって汚れたりほつれたりしたらやだなぁ……。編みが得意なアンナからは今までも何回か贈りをもらった事はあるけど、ひざ掛けとか、ナイトウェアの上に羽織るカーディガンとか、部屋の中で使うものだったら安心して使えてたけど……。

「せっかく作ったのですから、ぜひ使ってくださいね!」

私の格を見かしたようにそう言われてしまって、慌てて頷く。そうね、言う通り、せっかくの手編みのマフラーなんだから自慢して使わないと。

これから寒くなるからすごく活躍しそう。

「俺からはね~……人の仲間りをしたリアナちゃんと、同い年のお酒! ちゃんと酒の低いお試し用の奴だから」

私の生まれた年が記載されてる瓶のラベルを見てちょっと驚いてしまう。これってちょっとどころじゃない良い酒蔵のお酒じゃない……?

「あ、しまったな……未年だから詳しくないと思ったんだけど、発したのバレちゃった?」

「はい……でも、せっかくのお祝いなので、ありがたくいただきますね。生まれて初めて飲む記念のお酒に素敵なものを選んでくれて、ありがとうございます」

「うんうん! 遠慮せずに飲んでくれたら俺も嬉しいよ」

一瞬「こんな良いお酒を私のためになんてもったいない」と思いかけたけど、言わなくて良かった。悪戯っぽく笑うフレドさんは私の心には気付いてなさそうだ。後ろ向きな自分をしずつ直せてるかな。

誕生日、毎年パーティーを開いていつも盛大に祝ってもらってたけど、毎回本當にしいものはもらえなかった。「これでリリアーヌもまたひとつ大人に近づいたから」と、この一年出來なかった事の指摘をされて、次の一年で達するべき指標を與えられる。

自分が一年間どんなにダメだったか家族一人一人から突き付けられる日。

でも次の誕生日に、前の年に言われた事を全部し遂げても誰も褒めてくれなかったしな。

あまり思い出しくない事をつい考えてしまって、追い払うように頭を軽く振る。食べた事のないものがたくさん、と純粋に喜ぶ琥珀を見て気を取り直した。

今日人したから當然だけど、お酒は初めてだ。世の中には人前からこっそりたしなんでる人もたまにいるらしいけど、私はルールを破りたいと思ったことは無いから。

ドキドキしながら口を付けた人生初めてのアルコールは、思ったより飲みやすかった。苦いとかが焼けるようだ、なんて想も見たことがあるけど、いいお酒だからだろうか、とっても味しいとじる。

フワフワして気分が良くなった私は、楽しいな、嬉しいな……そんながいっぱいになったと思ったら気が付いたら宿のベッドの上で目を覚ました。

一瞬理解できずに固まる。え……何? いつレストランから出てきたの……? 食事の記憶が途中から、無い。いや、結構最初の……グラス一杯目から無いな。カーテン越しにも分かるが、もう朝だと告げる室で私は呆然としていた。まさか、一晩経ってる……?

「リアナ様はもうお酒飲まない方がいいですよ」

「うん、そうだね。お酒は止した方が良いね……」

朝食の席で目を合わせないようにそんな事を言う二人に、私は自分が一どんな醜態をさらしたのかと頭の中が真っ白になっていた。わ、私は何をしちゃったの……?!

「何でじゃ? 昨日のリアナは可かっただけで、別に問題は……もがっ」

「おっ、琥珀~俺の分のデザートあげるな!」

「琥珀ちゃん、私の分のケーキもあげますね」

「?? よふわからんが、もらえるならもらっとくのら。わーい」

フレドさんにプチケーキを口にねじ込まれる琥珀が何か言いかけた事には気付かずに、私は昨日の失った記憶をどうにか思い出そうと無駄な努力をしていた。

と、とりあえず……何をやらかしたか分からないけど、二人の言う通りにお酒はもう止にしないと……! 私はそう心に誓った。

リアナちゃんの母國(クロンヘイム)も今いる場所も「お酒は16歳から」の國です

    人が読んでいる<【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才少女は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください