《【第二部完結】隠れ星は心を繋いで~婚約を解消した後の、味しいご飯とのお話~【書籍化・コミカライズ】》2-8.震える吐息
お晝休みも終わりに近付いてエマさんと別れたわたしに、先程までの鬱々とした気持ちはなかった。
エマさんに話を聞いて貰えて良かった。きっと家族もウェンディも話を聞いてくれただろうけれど、わたしとノアを一番近くで見てきたのはエマさん達だから。あまりりす亭じゃないけれど、いつものエマさんの雰囲気に安心してしまったのかもしれない。
小分けされたクッキーが大量にった紙袋を腕に抱えて、図書館に戻るわたしの足取りは午前中とは打って変わって軽やかなものになっていた。
ノアの護衛任務が終わるまであと數日。終わったらあまりりす亭に行こう。わたしも愚癡って、きっとノアだって愚癡りたい事があるだろうからいっぱいお喋りをしよう。
そんな楽しい事を考えられるくらいに、気持ちが上向いている。
味しいクッキーも貰ったし、これはウェンディには絶対に渡さなくちゃ。他の子や上司にも……それから騎士団にも持って行ったら、ノアにも渡して貰えるかもしれない。うん、今日は騎士団の詰所に寄ろう。
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早足になった自分を心で笑いながら、腕時計に目をやった。うん、大丈夫。午後の始業までにはまだ余裕がある。
「あの……」
不意に掛けられた聲に足が止まった。
そちらを見ると長い薄茶の髪をうなじでひとつにまとめた、長の男が立っている。眉を下げ、見るからに困り顔だ。
「はい、どうかなさいましたか?」
この人は……アンハイムの使節団の方だろう。
著ている制服らしき裝がアンハイム王國特有の刺繍で彩られている。帯剣もしていないし鎧姿でもないから、兵士ではなく文としていらっしゃっている方かもしれない。
「すみません、図書館へ行きたいんですが道は合っていますか?」
「ええ。この道を進んで左に曲がり、門を越えた先にあるのが図書館です」
「ああ、良かった。恥ずかしながら道を覚えるのが苦手でして……」
「わたしは図書館の職員なんです。宜しかったらご同行致しましょうか?」
「いいんですか? ぜひお願いします!」
困っていた顔から一転して明るい笑顔になる。眼鏡の奧で緑の瞳がきらきらと輝くのが分かった。それだけ困っていたのだろう。
つられるようにわたしも笑みを零しながら、こちらです、と足を進めた。
「この國の図書館は蔵書數が凄いから、必ず行った方がいいって先輩に言われましてね。休みの日が來るのを楽しみにしていたんです」
「そうだったんですね。本を探すのにお手伝い出來る事があれば、いつでも聲を掛けて下さい」
「ありがとうございます!」
本が好きなのだろう。逸る気持ちを抑えられないようで、段々と急ぎ足になっているようだ。一緒に歩くわたしは半ば駆け足になっているのだけど、それは不快ではなかった。
限られたお休みの中で、図書館に來るのを楽しみにして下さっていたのだもの。早く本を読みたいだろうし、その気持ちはよく分かる。
分かれ道で右に行きかけたり、違う建にろうとするのを止めて導したりと、中々大変ではあったものの何とか図書館には辿り著けた。
道を覚えるのが苦手……と言ってらしたけれど、その言葉に間違いはないようだった。
図書館を見上げて嬉しそうにを震わせているのを見ると、こちらまで嬉しくなってしまう。
「ありがとうございます、ええと……アリシアさん。僕はヨハン・エーリッツと言います」
「アリシア・ブルームです。また何かありましたら、いつでもお聲掛け下さいね」
名札を読んだのだろうエーリッツさんに、自分からも名を名乗る。
エーリッツさんはひとつ頭を下げると、周囲を見回して嘆の聲をらしながら本棚の向こうへと消えていった。
さて、わたしもお仕事に戻らないと。
一足先にカウンターに戻っていたウェンディがわたしの顔を見て驚いたように目を瞬く。それから安心したように表を和らげるものだから、午前中のわたしは余程ひどい顔をしていたみたいだ。
集中して仕事に向き合えたからか、終業時間まではあっという間だった。
急いで帰り支度をしたわたしは、ウェンディに挨拶をして更室を飛び出した。急いで騎士団の詰所に行ったって、ノアには會えないと分かってはいるのだけど。
バッグから覗くクッキーの包みには小さなメモを添えてある。
ほんの一言、【に気を付けてね】なんて可げもない言葉だけど……本當に、忙しい彼の事が心配だから。
図書館の建を出ようとした、その時だった。
急に現れた人影にぶつかりそうになって、慌てて避ける。
「アリシアちゃん! ちょうどよかった!」
息を切らせたラルスさんが、わたしの顔を見てほっとしたように息をつく。隨分急いでいたみたいだけど、何があったのだろう。
「わたしに用事ですか?」
「うん、ちょっとこっちに來て!」
わたしの腕を摑もうとした腕は宙で止まる。わたしと距離を取ったラルスさんはその手でわたしを招くから、それについていく事にした。
「いやー……危なかった。アインハルトに殺されるところだった」
「何が?」
「ただでさえイライラしてんのに、俺がアリシアちゃんにったなんて知られたらやばかったね」
あははと、ラルスさんは軽く笑うけれど、わたしは目を瞬いていた。
わたしにれるはともかくとして……。
「ノアは大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないんじゃないかなー。ただでさえ普段は表を出さない男だけどさ、仮面でも被ってんのかってくらいの無表。あれはだいぶキてるね。近付きたくねぇもん」
「そうなの……」
そんな事を話しながら、わたしが連れていかれたのは醫務室だった。
何があるのかと問う前に、中にるように促される。首を傾げながら大きく扉を開いたら、腕を強く摑まれて引き寄せられた。そのまま腕檻に閉じ込められる。
苦しいくらいにきつく抱き締められて、震える吐息が耳を擽って。
これが誰なのかなんて、目を閉じたって分かってしまう。
「……ノア」
「會いたかった……」
掠れた低い聲に、彼の気持ちが溢れている。
両腕を背に回してわたしからも抱き著くと、もっと強く抱き締められて──涙が零れた。
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