《【第二部完結】隠れ星は心を繋いで~婚約を解消した後の、味しいご飯とのお話~【書籍化・コミカライズ】》2-10.味しい晝食

「そういえば、あのアンハイムから來ている文さん。毎日のように図書館に通ってきているわね」

混雑するお晝時の食堂で、わたしと晝食をとっていたウェンディが思い出したように言葉を口にする。

それに頷きながら、わたしはふわふわとした白パンを一口大に千切って、ブルーベリーのジャムをたっぷりと載せた。パンが青紫に染まっていくのがとても綺麗。零さないように気を付けながら口に運ぶと、程よく殘った果味しい。

「蔵書が凄いから見てきたらいいって、先輩に言われたと言っていたけれど、気にって下さったみたいで嬉しいわね」

「そうね。昨日は館長と宗教學について語っていたそうよ。館長もご機嫌だったもの」

あの時迷子になっていたヨハンさんは、暇さえあれば図書館に通っているらしい。その姿を図書館で見ない日がないし、いつも山積みの本を両手に抱えている。

すっかり職員とも顔馴染になっていて、特に館長はヨハンさんと語り合うのを楽しみにしているところがある。

Advertisement

ゴブレットで水を飲み、一息ついたわたしは改めてテーブルの上に目を落とした。

今日は白パンにブルーベリージャムが添えられている。これはとても味しかったから、家でもドロテアに作ってもらおう。ドロテアの作るジャムは味しいから、きっとブルーベリーでも味しく作ってくれるはず。

それからチキンソテー、野菜のクリームスープ。デザートにはチョコレートムースが添えられている。

切り分けた鶏を口にれると、レモンの爽やかな香りが口いっぱいに広がった。鶏の旨味とバターソースがよく合っている。ソースにもレモンが使われているようで、くどくなくさっぱりと仕上がっていた。

「それにしても……まさか、使節団の滯在がびるとは思わなかったわね」

深い溜息をつくウェンディの様子に、わたしも苦笑をするしかなかった。

使節団の滯在は三日前で終わる予定だった。予定は二週間だったから。

それが……まさかびる事になるなんて誰が思っていただろう。それがアンハイム側からの要ではなく、王太后様からのお話でびたというのだ。何でも王太后様が近々パーティーを開くから、それに參加してしいと願ったそうで。

王太后様は縁戚の王殿下が可くて仕方がないと聞いたから、一緒に居たいのだと思う。王殿下が輿れなさったら、中々會えなくなってしまうだろうし。

「でも良かったわ。アインハルト様が護衛任務から外れる事が出來て」

「皆さんが配慮して下さったおかげよ。団長も大変だったんでしょう?」

「元々アインハルト様に負擔を掛けすぎてしまったんだもの。遅すぎたくらいだって申し訳なく思っていたわよ」

「ふふ、ありがたいわ」

そう、ノアはやっと護衛任務から外れる事が出來たのだ。

予定をしていた別任務にあたるという事で、日中は都外に出ているそうだ。王都に戻ったら夜は護衛をしてしいという王殿下のお願いも、次の日の任務に差し障るからと斷る事が出來ているらしい。

わたしもノアに會えていないから、これは……手紙で教えて貰った事なんだけど。

昨日の夜に屆いた手紙と、添えられていた一の薔薇を思い出して、の奧がぽかぽかと暖かくなってくる。

醫務室で會えた次の日から、毎日のように手紙が屆くようになった。それには必ずお花が添えられていて、わたしが不安にならないようにしてくれているのだ。その気遣いが嬉しくて、幸せな気持ちで満たされる。

「本當はアインハルト様にお休みして貰おうと思ったみたいなんだけど……それだと王殿下がついて回りそうだからって苦の策だったみたいね」

「そうなの。……前にし、皆さんのおかげで會う時間を取れた時にね、怪我を理由に休みを取ろうかと考えたそうなの。でもそんな事をしたら、王殿下の側で療養をとされそうだって王太子殿下に助言を頂いたみたいで」

「ああ……。聞いた話だけど、王殿下は獨占し……しじゃないわね。だいぶ強いみたいで。お気にりのものは手にれて、大事にしまっておきたいみたいなのよ」

「そんな……ノアはじゃないのに」

実際に會った事はないのだけど、印象は最悪だ。

確かにノアは格好いいし素敵な人だけど、それは貌だけじゃない。あまりりす亭で笑うノアとの軽口がしくて、小さく溜息がれてしまった。

わたしの言葉を耳にして、気遣わし気にウェンディが表を曇らせる。

ピンクの瞳に宿る心配のが濃いものだから、大丈夫だとばかりにわたしは笑って見せた。

「そんな顔をしないで、ウェンディ。わたしなら大丈夫よ」

「……本當に? あなたは無理をするし、一人で抱え込んでしまうから心配なの」

思い當たるところが多くて、苦笑しか出來ない。

わたしがもやもやした気持ちを抱え込んでいたことを、ウェンディは知っていたのだ。心配をさせないようにとしていたのに、逆にそれが心配を掛ける事になってしまっていたなんて。

「心配させてごめんなさい。確かにね、前まではちょっと……もやもやして落ち込んでいたんだけど。でもね、本當にもう大丈夫なのよ。だって滯在がびてもノアが側にいるわけじゃないしね」

「それならいいんだけど……やっぱり、アインハルト様に會えたのが大きい?」

笑みの混じった優しい聲に、口にれたばかりのパンをに詰まらせてしまうところだった。

何とか飲み込んで、ゴブレットのお水を飲む。一息ついたわたしを見て、ウェンディはにこにこと笑っているものだから、居たたまれなくてジャムをパンに塗る事に集中をした。

「……そう、かもしれないわ」

「ふふ、あなたが笑っていたらきっとアインハルト様も安心ね。でも、次からは私にもちゃんと零してね?」

「ええ、そうさせて貰うわ。……ウェンディ、いつもありがとう」

「いいのよ。あなたは私の、一番の友人なんだから」

暖かい言葉に、目の奧が熱くなってしまう。それを誤魔化すようにパンを口にしたけれど、ジャムを載せすぎてしまったみたいだ。

視界が滲むのは、ジャムの酸味が強かったせい。

お腹もいっぱいになったし、午後からのお仕事も頑張ろう。

それにしてもチョコレートムースも味しかったし、久し振りに飴細工の載ったあのチョコレートケーキも食べたいな。

なんて、そんなのんびりした気持ちで図書館に戻ったのだけど……人だかりとざわめきが凄い。

何があったのだろうと近付くと、どうやら注目を浴びているのはカウンター付近のようだった。

仕事もあるし向かわないわけにはいかない。そう思って更に歩を進めると、そこにいたのは──アンハイムの王様だった。

淡い金髪が窓から差し込むけてきらきらと輝きを放っている。抜けるような白いも、寶石のような深い青をした瞳もしい。

その後ろには王太子殿下とラジーネ団長も居たのだけど、二人ともひどく疲れた顔をしていて、ウェンディと顔を見合わせてしまった。

    人が読んでいる<【第二部完結】隠れ星は心を繋いで~婚約を解消した後の、美味しいご飯と戀のお話~【書籍化・コミカライズ】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください