《【書籍化・コミカライズ】三食晝寢付き生活を約束してください、公爵様》2.敵対するのは、権限持ち1
思い返すは、七日前の出來事。
リンドベルド公爵家の使用人を紹介された時の事だ。
「こっちは、このリンドベルド公爵家を取り仕切る総括執事のロックデル・ファーヴァー、我が一族の分家筋の出で、古くから執事家の一族だ」
「ロックデル・ファーヴァーと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
きっちりと決まった角度で頭を下げる姿に、伯爵家にいた執事の事を思い出した。
彼も、かなりきっちりした格で、厳しくも優しい人だった。
このロックデルと名乗った執事からも同じ空気をじる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こちらも貓をかぶりつつ、下手に出るじで頭を下げる。
リンドベルド公爵家の総括執事など、新妻として嫁いできたわたしよりも家に対しての影響力は絶大だ。
敵にしてもいい事は無い。
「そして、こっちはミリアム夫人だ。父の元部下の正妻で、子爵夫人だ。彼の夫は十五年程前に事故死し、その後生活が困窮したために、父(・)が呼び寄せて、この家の家政を取り仕切ってもらっている。ちょうど同時期に母が亡くなったからな」
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「よろしくお願いいたします、奧様」
「……本日より、よろしくお願いします」
ピリリとした敵意に近いをじ、わたしはしだけ目を細めた。
昨日からじていた、じの悪いモノだ。
ちらりと、昨日結婚したリンドベルド公爵家當主であり、わたしの旦那様を見上げた。
意味ありげに口の端を上げ、ふいとすぐに二人に視線を向けた。
「それから、ここには彼の娘が一緒に暮らしている。が弱いので、離れの一室を貸し出していて、ミリアム夫人もそこで暮らしている」
「はい、アンドレ様には格別(・・)に良くしていただいております。娘も実の娘の様に可がっていただいておりまして――……その関係でクロード様ともとても(・・・)親しくさせていただいております」
アンドレ様とは旦那様のお父様の事だ。
親し気に名前を呼ぶ関係と。
なるほど、なるほど?
しかも、旦那様ともとても親しくしている娘がいると。
これは、またなんともデンジャラスな関係ですね。
大人しく殊勝な態度で、無難に躱すことも出來るけど、ここまで言われて黙っていたら舐められて、今後に差し障る可能がある。
それとも、やはり黙って聞き流した方がいいのかどうか。
対応如何では、わたしの將來が決定する。
対応一、下手に出てわたしは敵ではないですよとアピールする。
対応二、人を狙うならどうぞ、とそれとなく言う。
対応三、煽って見る。
対応一の場合、そもそもわたしはすでに敵認定されている。効果はなさそう。むしろ舐められて、終わりそう。
対応二の場合、言われたら馬鹿にされてるって思う。なくともわたしなら。
対応三の場合、完全に敵対する。
結局、どれをとってもいいじにはならなそうなのでどれでもいい気がする。
それにわたしは一応公爵夫人だから、最悪解雇すればよくない? と思い至った。
わたしは三食晝寢付きの墮落生活を満喫するために結婚したのだし、旦那様にも言ってある上、許可もある。
嫌がらせに屈したら、そこで平穏平和な生活が一変する恐れがあった。
これがもし、家政の取り仕切りに関する爭いなら、喜んで負けてあげた。
やりたい人がやるべき、これ絶対。
でも、今回のこれはそうじゃない。
本格的なの主権爭いだ。
えー、超めんどい!
なんでこの家、こんなことになってるわけ? しかも、領地もない困窮した子爵令嬢がよく旦那様を狙ってるなぁ。
そんなに自分に自信があるのか、はたまた母親の暴走なのか。
でも、一時は皇殿下が降嫁するって話もあったのだ。
し無謀ってものじゃないかな?
それとも、期待するほど旦那様と親しいのかな?
まあ、とりあえず、わたしの取るべき態度は一つに決まった。
「そうなんですね。では、ぜひ挨拶に來ていただきたいわ。の調子が良い時でも構わないので。急いではいませんわ」
とりあえず、あなたの娘をあいさつによこしなさいよと、言い返した。
マウントを取りたいわけではないけど、どちらが上かをはっきりさせておく。
そもそも、わたしはそう見えなくても、一応教會で式を挙げた新婦で新妻で、ミリアム夫人の娘なんかよりも対外的には分は超上だ。
まあ、結婚する前も伯爵令嬢だから、上だけど。
子爵夫人とは言っても、どうやらあまり良質な教育はけていないようで、わたしの発言に分かりやすいほど、忌々しいという気持ちを隠しもせずに顔に出してきた。
その表に、旦那様まで面白そうにしながら、火に油を注ぐかのように、追加で煽る。
「そうだな、常に合が悪いわけでもない。の調子がいい時に、新たな主人にあいさつするのは當然だな。そうだ、彼は侍を連れてきていない。采配は任せる、ミリアム夫人。――リーシャ、家を案しよう」
隣で楽し気に口角を上げている旦那様に、わたしは逆らわず従った。
というか、逆らえなかった。
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