《真実のを見つけたと言われて婚約破棄されたので、復縁を迫られても今さらもう遅いです!【書籍化・コミカライズ連載中】》1話 とは何か

「すまない、マリアベル。婚約を破棄してほしい」

晴天の霹靂、というのは、まさにこのことを言うのだろうか。

いつものように王太子妃教育のために王宮を訪れたマリアベルを待っていたのは、いつものしかつめらしい顔をした教育係ではなく、婚約者である王太子殿下、エドワードであった。

「……突然、何をおっしゃるのです」

驚きに目を見張ったマリアベルの大きな瞳に、眉を下げたエドワードの姿が映る。

かすれた聲で聞き返せば、エドワードは申し訳なさそうに目を伏せる。

背後で、マリアベルの侍が息を呑む音が聞こえた。

「その……。決して君に非があったというわけではなく、これは私のわがままに過ぎないのだけれど――」

真実のを見つけたんだ。

伏せていた目を上げて、しっかりとマリアベルの目を見つめるエドワードの言葉に、マリアベルは何と返せばいいのか分からない。

真実の

そう言われてどう答えれば正しいのか、マリアベルは必死に今までの王太子妃教育を思い出す。

だがそれを邪魔するようにエドワードの言葉が頭の中に反響して考えがまとまらない。

真実の……。そもそも、とは何だろうか。

マリアベルが七歳の時に、エドワードとの婚約が結ばれた。

エドワードの母は、古い家柄ではあるものの、あまり勢いのない侯爵家の出だ。その貌に惚れこまれて當時の王太子と結婚したのだが、なかなか子供に恵まれず、やっと生まれた待の世継ぎであった。

その後、歳の離れた妹姫が生まれるが、エドワードはただ一人の王位継承者として、大切に大切に育てられた。

そうして甘やかされて育ったわりに、エドワードは素直でまっすぐな格をしている。

ただ素直すぎるきらいがあるので、それを補佐する役目として、王太子妃となるマリアベルには過酷ともいえる教育が施された。

のたしなみである詩やダンスや刺繍はもちろん、外に役立つために周辺國の知識を全て叩きこまれている。

言葉に関しては共通語でなんとかなるものの、その國獨自の言い回しなども覚える必要があった。

そうしてエドワードに足りないものをマリアベルが負擔するはずだったのだ。

い頃からエドワードの婚約者として厳しく教育されたマリアベルにとって、結婚する相手というのはエドワード以外には考えられなかった。

そしてエドワードと結婚する以上、とは何かなどと、考える必要もなかったのである。

マリアベルが読むことを許された本の中には、わずかではあるが小説と呼ばれるものがある。確かにそこに出てくる主人公たちは、の力で難局を乗り越えていた。

だが「真実の」で結ばれたお話はなかった。マリアベルのように婚約を破棄してしいと言われる婚約者も。

答えの出ない問題に、マリアベルはどうしていいか分からなくなる。

だが、教育係がいつも言っていたではないか。

王太子殿下の言葉に従い、そのお心をめるのが王太子妃の役目です、と。

であるならば、マリアベルの取る行は一つしかない。

「承知いたしました」

深く頭を下げてそう言うと、エドワードは安堵したように息を吐いた。

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