《真実のを見つけたと言われて婚約破棄されたので、復縁を迫られても今さらもう遅いです!【書籍化・コミカライズ連載中】》45話 近衛兵たち

國境まで送ってくれていた帝國軍も、その紋章に気がつきざわめき始める。

「バークレイ侯、こちらへお戻りください!」

帝國軍の隊長がジェームズに呼びかける。

だがジェームズはそれに応えず、馬車の扉を開けて地面に下りたった。

「見たところ、王國軍……それも王太子直屬の近衛と見えるが、一私にどんな用ですかな」

旗には王太子直屬の近衛隊を示す、赤い縁取りがあった。

ジェームズの帰國に際し、王國からなんらかのきがあるだろうとは予測していたが、さすがに王太子の近衛がやってくるとは思わなかった。

領地にいる妻と息子は大丈夫だろうかという思いがジェームズの頭をよぎる。

……二人とも、生粋の貴族だ。うまくやってくれていることを祈るしかない。

ジェームズは心のを隠して、貴族らしい笑みを浮かべた。

「バークレイ侯、ご息であるマリアベル嬢のことについて、お聞きしたいことがございます。王城までご足労頂きたい」

「ふむ。それは任意かね、強制かね?」

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ジェームズの問いに、近衛は直立不のまま答える。

「できれば、無理強いは避けたく思います」

それは抵抗するならば、捕縛してでも連行されるということだ。

あの國王にしては、ずいぶん暴なことだと思ったが、よく考えれば彼らは王太子の近衛たちだ。

であれば、また王太子が暴走したのかもしれない。

マリアベルの婚姻に関しては國王から文書で許可を得ている。

まさか帝國の皇太子に嫁ぐとは思わなかっただろうが、許可した以上、今さら口を出されるいわれはない。

確かに帝國との通を疑われる可能はなきにしもあらずだが、証拠がない。

そもそも通などしてないのだから証拠もなにもないし、帝國は敵國ではなく友好國なのだから、問うべき罪がないはずだ。

ここで自分が下手に抵抗などして、王國と帝國の間に亀裂がることは避けなければいけない。

両國が爭うことにでもなれば、すぐに共和國が介してくるだろう。

ならば、ここはひとまず大人しくして、王太子側の出方を見るのが得策だ。

厄介なことだと心でため息をつきながら、ジェームズは帝國の兵たちに手を振って何でもないことを示し、王國軍の用意した馬車へと乗りこんだ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

その一報はすぐさまダンスの練習中のレナートとマリアベルの元へ屆けられた。

「お父さまが王國軍に連れていかれた!?」

「詳細を報告せよ」

手を一振りして演奏を止めたレナートは、の気を失った顔をしているマリアベルのを支え、震える肩を引き寄せる。

「バークレイ侯爵は、國境を越えてすぐに王國軍に連行された模様です」

「それを帝國軍は指をくわえて見逃したのか」

「バークレイ侯より、手を出すなとの指示があったようです」

「確かに、越境行為は軍事示唆だととられても仕方がないから何もしなかったのだろうが、バークレイ侯が帝國側に戻るだけの隙を作るという手もあっただろうに。……いや、それではバークレイ侯に叛意があると言いがかりをつけられる可能を考えたのか」

レナートがジェームズにつけた兵士たちは、帝國軍でも優秀なものたちだ。

帝國皇太子の婚約者の父ということで、帝國の貴族に狙われるかもしれないという危懼はしていたが、まさか王國側で問題が起こるとは思わなかった。

しかもただの王國軍ではなく、王太子の近衛だ。

確実に、レナートとマリアベルの婚約に異議を唱えようとしての行だろう。

「マリアベル」

「はい」

「王太子エドワードとはどんな人間だ?」

レナートに問われて、マリアベルは距離だけではなく、気持ちの上でも遠く離れてしまったかつての婚約者のことを思い出す。

「真面目で勤勉で、文武両道の方ではあるのですが、一度信用した人間にはし甘いところがございます」

「つまり傀儡(くぐつ)にはもってこいの人柄だということだな」

「そんなことは……」

ない、と斷言できるだろうかとマリアベルは自問自答した。

何事もすぐにこなしてしまうからか、エドワードは努力をするということがない。そして何かを極めようとするよりも、新しいものに興味を引かれることが多かった。

それを諫(いさ)めた側近もいたのだが、口うるさく言われるのを嫌ったエドワードによって遠ざけられた。

その人事を、國王も王妃も、特に咎めることはなかった。

王國で妃教育をけている間、マリアベルが王國の派閥に特に気を配ったことはなかった。

十年前の疫病で貴族が減った結果、殘ったものたちの間で権力闘爭をしている暇などなかったからだ。

だから父は、ただバークレイ家の家格を高めるためだけに、自分をエドワードの婚約者にと推したのだと思っていた。

けれど、もしも水面下でかに権力闘爭があったのだとしたら――。

それは、今までなんの疑問も抱かなかった王國のいびつさが、マリアベルの目にもはっきりと映った瞬間(とき)であった。

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