《真実のを見つけたと言われて婚約破棄されたので、復縁を迫られても今さらもう遅いです!【書籍化・コミカライズ連載中】》55話 モルヴィア共和國
「ところが最近になって、急にマリアベルを側室にという聲が上がってきました。元々妃になるはずだったのを婚約破棄しておきながら、平民を妃にすげ替えておいてマリアベルを側室になど、暴論でしかありません」
「そもそも真実のを見つけたから婚約を破棄したのだろう? はどこへ行ったのだ」
レナートの疑問はもっともだ。マリアベルも、そこが分からない。
「どうやら王太子殿下に吹きこんだものがいるようです。マリアベルは真実、殿下をしていて、しているからこそ、を引いたのだと」
「……すまない。俺には言っている意味が理解できない」
君には分かるか、と視線で尋ねられたマリアベルも、慌てて首を橫に振った。
確かに長く一緒にいたのだ。エドワードに対して、全然がないというわけではない。
だがそれは、家族とか馴染とか、そういっただ。
レナートへの気持ちとはまったく違う。
だからこそ、エドワードからの婚約破棄をすぐに承知したのだから。
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「皇太子殿下との婚約は、父の野心のためで、マリアベルは王太子を思いながら泣く泣く家の為に側室になる、と。……王太子殿下はそう信じているそうです」
あまりにも突拍子もない話に、思わずマリアベルはレナートと顔を見合わせてしまった。
そもそもどうしてレナートの側室になるという話になっているのだろう。
「お兄様、どうして私がレナート様の側室という話になっているのでしょう。王國には正確な話が伝わっていないのでしょうか」
マリアベルはまずそこが不思議だった。
いくら王宮が混していると言っても、副大使が報を伝えにきているはずだ。間違えるなどあり得ないし、帝國に対しても無禮ではないだろうか。
「いや、副大使は正確に報を伝えたんだけれどね。その後でもたらされた理由によって、正室ではなく側室として迎えられるのだろうという話になってしまったんだ」
「その後でもたらされた理由、ですか?」
「ああ。帝國の皇太子は、和平の証として、モルヴィア共和國の姫君を妃として迎えると聞いたのだが……その様子を見ると、誤報のようだね」
レナートとマリアベルの仲睦まじい様子を見て、ジュリアンは一人で納得する。
レナートも當然だろうという態度で頷いた。
「ベルにも言ったが、モルヴィア共和國からの輿れの話など、今回に限らず毎年來ている話だぞ。俺だけではなく弟たちにもそれぞれ來ているが、それこそあの國は問題が起こるとすぐに頭を挿げ替える國だからな。元首が変われば一貴族の娘と同じ扱いになるから、政略上の旨みはない」
モルヴィア共和國は、古代王國の流れを汲むリムエニク神聖帝國の崩壊により生まれた國だ。
王國よりも正當な古代王國の後継者であるとしたリムエニク神聖帝國は、大陸の覇権を握ろうと、幾度も王國やガレリア帝國との戦いを繰り広げた。
力こそすべてというリムエニク神聖帝國は、後継者爭いもまた苛烈だった。
後宮制度を持ち、多くの妃を抱えた神聖皇帝には多くの息子がいた。その中から優秀な皇子を後継者に指名するのだが、謀と裏切りの渦巻く宮廷では兄弟たちがみどろの戦いを繰り広げ、やがて神聖帝國の國土は荒れ果てていった。
それを憂いた神聖帝國の騎士団長ミハイルが立ち上がって、リムエニク神聖帝國の皇族たちを滅ぼし、新たな皇帝となった。
皇帝となったミハイルは、臣下たちの意見をよく聞いて國を治めた。
彼は余計な爭いの元になるとして後宮制度を廃したが、それでも五人の息子がいた。
兄弟たちの仲は良いが、いずれ五人の間で熾烈な後継者爭いが始まるだろう。
そこでミハイルは、五人の息子たちのそれぞれの名前を名字として、五つの家を興した。そしてその五家で話し合って國を運営するように決め、モルヴィア共和國と國の名前を改めた。
ミハイルの志を継いだ兄弟たちは、合議制によってモルヴィア共和國を治めた。
五家は五大老と呼ばれるようになり、順番にモルヴィア共和國の元首を名乗ったのだ。
「そういえば、以前、僕にもロモン家から縁談がきましたね。すぐに元首が変わったので立ち消えになりましたけど」
十年前の疫病によって王國の貴族は數を減らした。
その數を補うように、共和國から多くの縁談の話が持ちこまれたのだという。
だが途中でガレリア帝國との戦いに負けた責任を取って、共和國の元首が武闘派のロモン家から穏健派のアシェル家に変わった。
それによって元首の一族であったロモン家の娘は単なる一貴族の娘になってしまい、共和國とのパイプをんだ家は肩かしを食らった格好になってしまった。
以降は共和國との縁組は減り、殘った貴族間で政略的な婚約を結ぶ家が増えたのだ。
「あの國の婚約の打診など、朝の挨拶と変わらん。まともにけ取るだけ無駄だ。和平だなんだとは言っているが、國のゴタゴタを治めるために我が國の協力を求めているだけだ」
「モルヴィア共和國の國で何か問題があるのですか?」
「王國は知らないのか? 今あそこは、武闘派のロモン家と穏健派のアシェル家でめているぞ」
それを聞いたジュリアンは驚いたが、レナートの隣に立つマリアベルが落ち著いているのを見て、彼もまたそのことを知っているのだと思った。
「どちらが優勢なのですか?」
「ロモン家は十年前にだいぶ勢力を減らしたが、最近また力を取り戻しつつあるらしい。元々好戦的な國だからな」
神聖帝國から共和國に変わっても、その民族までは変わらなかったらしく、モルヴィア共和國はたびたびガレリア帝國に戦爭を仕掛けてくる。
神聖帝國崩壊の際にどさくさに紛れて建國した中央諸國に対しても獨立を認めないとして侵攻しているが、中央諸國はモルヴィア共和國に対し連合を組んでおり、一進一退の攻防を繰り広げている。
ここ十年ほどは平和であったが、モルヴィア共和國では中央諸國の領土を取り戻せ、海への道を切り開け、という聲が高くなっているらしい。
「改めてお聞きしますが、ガレリア帝國皇太子レナート様は、マリアベル・バークレイを正妃として娶るということでよろしいですか?」
「當然だ。マリアベルは皇后たるにふさわしいで、何よりも一番大事な人だからな」
「それを聞いて安心しました。……であれば、父の救出も、なんとかなるかもしれません」
そう言って、ジュリアンは父のジェームズによく似た笑みを浮かべた。
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