《真実のを見つけたと言われて婚約破棄されたので、復縁を迫られても今さらもう遅いです!【書籍化・コミカライズ連載中】》61話 十年前の真相

二人の仲の良さに當てられたセドリックが困ったようにケインに助けを求めると、ケインはわざとらしく大きな咳ばらいをした。

マリアベルはハッと我にかえり顔を真っ赤にさせるが、レナートはまったく気にする様子もない。

「それで、どうやってバークレイ侯爵をお助けするか、策はあるのですか?」

日頃の二人の様子が垣間見えて、セドリックは苦笑するしかなかった。

「囚われているといっても、貴族用の貴賓牢だからそれほど見張りが厳重というわけでもあるまい。その後は大使公邸で匿おう」

なぜ帝國の皇太子であるレナートが、バークレイ侯がどこに囚われているのかまで知っているのだろうとセドリックは思ったが、追及しても仕方のないことだ。

それよりも早急に王宮の他國の諜報員の數を把握しなければと、セドリックはケインに目配せをした。

そしてその二人のやり取りを、レナートは満足そうに見守っている。

「今の王宮でダンゼル公爵に睨まれてまでバークレイ侯を助けようとするものはいませんからね。見張りの人數もそう多くはありません」

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「すっかり外戚気取りらしいな」

「ええ。気の早いことです」

だが分からなくもない。

一度マリアベルとの婚約を破棄した以上、そこまでして婚約を結んだアネットとの婚約を再び破棄することなどできないだろうし、何よりダンゼル公爵が許さないだろう。

ダンゼル公爵の娘を未來の王妃にするためには、アネットを仮の妃としておくのが一番だ。何もかも妃として不十分なアネットであれば、その座から追い払うのも簡単だからだ。

ダンゼル公爵の娘が育つまでの間にアネットとの結婚式が行われるかどうかは、今後のアネットの教育次第だが、どちらにしてもダンゼル公爵が將來國王の外戚となるのは決定している。

「陛下がお元気であれば、こうはならなかったと思うのですが……」

マリアベルは心配そうに壁にかかった肖像畫を見上げる。

そこには若き日の國王と王弟の絵が飾られていた。

二人ともよく似た顔立ちだが、國王のほうが優しい表をしている。

「陛下の病狀について確信が持てなかったのですが、先ほど知らせをけました。……どうやら十年前に流行った疫病に罹ってしまわれたようです」

「疫病が流行っているなんて聞いたことがないけれど……。でもそれならば薬があるはずでしょう?」

十年前に猛威をった疫病は、特効薬によって死に至る病ではなくなった。今では初期に投薬すれば、すぐ治る病気だ。

それに十年前に流行して以降、またあの疫病が流行り出したという話は聞いたことがない。

もしかして、マリアベルが王國を離れている間に、蔓延しはじめたのだろうか。

だがバークレイ領でもハウスタッド領でも、そのような話は聞いたことがない。

「薬が効かないのです。……十年前に父と八公家の當主のほとんどがそうだったように」

「セド、それは、陛下の病は疫病ではないということ?」

「おかしいとは思われませんか? 疫病に罹ったものは、確かに死ぬ確率が高かった。ですが、共和國が発明した特効薬を使えば、回復したはずです。そしてそれを最初に使うのは、王國の中樞にいるものたちでなければならない。実際、王族と八公家にはすぐに薬が投與されました。なのに、八公家のうち、助かったのは國王陛下とダンゼル公爵だけです」

「それは、特効薬が偽だったということかしら」

「いえ。僕も調べてみましたが、特効薬は本でした。実際、母や王妃陛下はそれを飲んで助かっています」

「薬が本であるなら、王弟殿下も助かっていたはず。……では、疫病ではなくて、毒だったということ?」

セドリックはケインに命じて、小さな箱を持ってこさせた。

「十年前、大陸全土で猛威をった疫病の癥狀は、高熱と全にくまなく現れる水皰でした。そして亡くなった父の癥狀は、手足から全に広がる水皰と激痛です。……これは當時の父の部下で、生き殘ったものから聞きました」

そう言って、セドリックは箱を開ける。

中には黒い種のようなものがっていた。

「これは――」

黙って話を聞いていたレナートが、思わず聲を上げて腰を浮かせた。

「そうです、黒死麥です」

その名前はマリアベルも聞いたことがある。

麥が変異してできたもので他よりも固くて黒い麥に育ち、知らずに食べてしまうと中毒を起こし、中に水皰ができて死んでしまうという。

だが既に撲滅された品種で、栽培も止されているはずだ。

もちろん帝國でも止されているが、実は疫病の特効薬はこの黒死麥からできていた。ほんのしの分を出すると薬になるのを発見し、共和國のものよりも安全の高い薬を発明したのが、レナートの元婚約者と結婚した醫者だった。

それゆえレナートは黒死麥の形も効能も、そしてその恐ろしさも、よく知っていた。

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